Contents
第58回ネビュラ賞受賞作発表
米時間の2023年5月14日(日)、SFWA(SFファンタジー作家協会)が主催する第58回ネビュラ賞の受賞作品が発表された。ネビュラ賞はSF・ファンタジー関係者で構成されるSFWAの会員が選ぶSF最高賞の一つで、第58回は2022年に発表された作品が対象になっている。ネビュラ賞では4つの小説部門とゲームライティング部門が選出される。
長編部門はR・F・クァン
第58回ネビュラ賞の長編小説部門を受賞したのはR・F・クァン『Babel, or the Necessity of Violence』。言語と結びついた不思議な性質を持つ銀を物語の中心に置いた1830年代の架空の英国が舞台の作品で、「翻訳」をテーマにしている。R.F.クァンは中国広州生まれのアメリカの作家で、「Poppy Wars」三部作が米TIME誌の「The 100 Best Fantasy Books of All Time」に選出された注目の作家。『Babel』も高い評価を受けており、今回SF・ファンタジー長編の頂点に選ばれた。
中長編小説部門に選ばれたのはC・L・ポーク『Even Though I Knew the End』。C・L・ポークはカナダ生まれの作家で、世界幻想文学大賞を受賞した『Witchmark』(2018) などでもネビュラ賞にノミネートされていたが、今回が初めての受賞になる。
中編小説部門に選ばれたのは、ジョン・チュー「If You Find Yourself Speaking to God, Address God with the Informal You」。ジョン・チューは台湾生まれのアメリカの作家で、「The Water That Falls on You from Nowhere」(2013) ではヒューゴー賞短編小説部門を受賞している。邦訳では「死と踊る」が『創られた心 AIロボットSF傑作選』に収録されている。
短編小説部門に選ばれたのはサマンサ・ミルズ「Rabbit Test」。サマンサ・ミルズは南カリフォルニア在住の作家で、様々なオンライン媒体で作品を発表してきた。「Rabbit Test」はUncanny Magazineで読むことができる。
ゲーム部門は『エルデンリング』
ゲーム・ライティング部門に選ばれたのは宮崎英高とジョージ・R・R・マーティンがシナリオを手がけたフロム・ソフトウェアの『エルデンリング:ELDEN RING』。前年はTRPGの『サースティ・ソード・レズビアンズ』が選ばれており、2021年の『HADES』以来となるビデオゲーム作品の受賞となった。歴代では、設立5年でインタラクティブドラマ=1、TRPG=1、ビデオゲーム3という受賞数になっている。
ネビュラ賞と同時に発表される映像作品を対象したレイ・ブラッドベリ賞には、第95回アカデミー賞で7部門を受賞した映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が選ばれた。ドラマ『キャシアン・アンドー』シーズン1第10話「道はひとつ」や映画『NOPE/ノープ』を破っての受賞となっている。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は現在、U-NEXTで配信されている。
ミドル・グレード向けの作品とヤングアダルト作品におくられるアンドレ・ノートン賞には、K・テンペスト・ブラッドフォードの『Ruby Finley vs. the Interstellar Invasion』が選ばれた。K・テンペスト・ブラッドフォードは多くのSF・ファンタジー作家を輩出しているクラリオン・ワークショップ出身で、同作はミドル・グレード向けの作品のデビュー作だった。
また、SFWAによって新設されたインフィニティ賞はオクティヴィア・E・バトラーにおくられた。インフィニティ賞は、功労賞のデーモン・ナイト記念グランドマスター賞を受賞する機会がなかった作家を対象にした賞。受賞者は4月に発表されていたが、ネビュラ賞の授賞式で表彰される運びとなった。
オクティヴィア・E・バトラーは2006年に逝去したが、日本でも河出書房新社から『キンドレッド』(2021) や『血を分けた子ども』(2022) と刊行が相次いでいる。
第58回ネビュラ賞各部門の受賞作品は以下の通り。
受賞作品一覧
長編小説部門
R・F・クァン『Babel, or the Necessity of Violence』
中長編小説部門
C・L・ポーク『Even Though I Knew the End』
中編小説部門
ジョン・チュー「If You Find Yourself Speaking to God, Address God with the Informal You」
短編小説部門
サマンサ・ミルズ「Rabbit Test」
ゲームライティング部門
『エルデンリング:ELDEN RING』
レイ・ブラッドベリ賞 (映像作品)
ダニエルズ、A24, AGBO, IAC Films『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
アンドレ・ノートン賞 (ヤングアダルト作品)
K・テンペスト・ブラッドフォード『Ruby Finley vs. the Interstellar Invasion』
インフィニティ賞
オクティヴィア・E・バトラー
Source
SFWA