【キャプテン・アメリカ編】『アベンジャーズ/エンドゲーム』は“ビッグ3”をどう描いたか Part.1【ネタバレ】 | VG+ (バゴプラ)

【キャプテン・アメリカ編】『アベンジャーズ/エンドゲーム』は“ビッグ3”をどう描いたか Part.1【ネタバレ】

via: © 2019 MARVEL

数々の記録の裏に……

『アベンジャーズ/エンドゲーム』が2019年4月26日(金)に全世界で公開された。当然のごとく大ヒットを記録し、全世界興行収入で『タイタニック』(1997)を超え、歴代2位に躍り出た。第1位の『アバター』(2000)も既に射程に入っており、日本でも公開から11日間で約280万人を動員している。だが、『アベンジャーズ/エンドゲーム』という作品は、これらの記録以上に、多くの映画ファンとMCUファンの心に刻まれる名作であったということに注目するべきだろう。今回は特に、キャプテン・アメリカ、アイアンマン、ソーの“ビッグ3”に焦点を合わせて、その描かれ方を振り返りたい。
本記事は『アベンジャーズ/エンドゲーム』の内容に関する重大なネタバレを含むため、未見の方はご注意いただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』の内容に関するネタバレを含みます。

ビッグ3の“ジェネレーションギャップ”

囁かれていたビッグ3の引退

MCU第1作目の『アイアンマン』(2008) から、23作目の『スパイダーマン: ファー・フロム・ホーム』(6月28日日本公開予定) に至るまでの「インフィニティ・サーガ」において、アベンジャーズで中心的な役割を果たしてきたのはキャプテン・アメリカ、アイアンマン、ソーの三人だった。“ビッグ3”と呼ばれるこの三人は、出演料の問題もあり、かねてから『アベンジャーズ/エンドゲーム』での“卒業”が囁かれていた。今後展開されてるMCUのフェーズ4では、ブラックパンサーをはじめとする他のキャラクターを中心におかれた物語が展開される。『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、他でもないビッグ3の物語を“閉じる”作品だったのだ。

多様性の時代へ

『アイアンマン』以降の11年間、ディズニーによるマーベル買収や、#MeTooムーブメントに代表される、業界で不当な扱いを受けてきた人々による様々なムーブメント、それに伴うポリコレに対する意識の高まりなど、ハリウッドは様々な変化を経験した。その中で、MCUとアメコミ界、そして映画界は、多様性を重視し尊重する作品づくりへと舵を切った。その結果が『ブラックパンサー』(2018)や『キャプテン・マーベル』(2019)の映画化とそれらの作品の大ヒットである。コミック版ではソーが女性に、キャプテン・アメリカが黒人に、アイアンマンが黒人少女になるなど、より多様な属性の主人公が描かれるようになった。

ビッグ3の矛盾

ビッグ3は、MCUが作品の数を重ねるごとに、アメコミというコンテンツが抱える矛盾に直面するようになっていた。それは、“マッチョな白人男性”というステレオタイプな主人公像を持った彼らが物語の中心にいるという設定、それ自体だ。それも、“戦争の英雄”であるキャプテン・アメリカ、“軍需企業の経営者”であるトニー・スターク、“神様”であるソーと、いずれも権力の側に立つ属性を持ったキャラクターばかりであった。個々がいかに魅力に溢れたキャラクターであっても、数十年前に創造され、戦争と経済成長の時代を反映したビッグ3と、多様性の時代を生きるニューヒーロー達と観客の間には“ジェネレーションギャップ”が生まれつつあった。

キャプテン・アメリカの物語

公に捧げた人生

そうして公開を迎えた「インフィニティー・サーガ」のクライマックス『アベンジャーズ/エンドゲーム』。新時代の幕開けに備え、ビッグ3がそれぞれの物語を閉じる時がきたのだ。
キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースは、その名の通り、アメリカ合衆国に忠を尽くしたヒーローだ。第二次世界大戦の中で誕生し、戦意高揚のためのプロパガンダの役割も引き受けた。それでも、“国家”のために盲目に働くのではなく、あくまで自分が信じる “公=Public” のために働き続けた。自分の人生を捧げてまで。

『エイジ・オブ・ウルトロン』のトニーの言葉

『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015) では、戦いを終えたアイアンマンことトニー・スタークに、スティーブ・ロジャースは「のんびりするのか」と問いかける。スタークは「君もそうしろ」とロジャースに呼びかけるが、彼は「家族とか安定とか、そういうものを求めてた男は氷に埋もれたよ」と答え、再び任務に戻っていく。民間企業の経営者であるスタークに対して、ロジャースは公務に服する軍人、という対比が描かれている。

『エンドゲーム』が描いたキャプテン・アメリカ

「トニーが教えてくれた人生を」

『アベンジャーズ/エンドゲーム』でのトニー・スタークの死後、キャプテン・アメリカが選んだ道は、スタークがかつて勧めてくれたように自分の人生を生きることだった。過去に戻り、氷漬けになっていた期間を“生き直した”のだ。キャプテン・アメリカは、その理由を、ファルコンことサムに「トニーが教えてくれた人生を生きてみても良いなと思った」と告げる。日本語字幕では単に「自分の人生」となっていたが、英語の台詞では『エイジ・オブ・ウルトロン』のトニー・スタークの言葉に言及しているのだ。

ようやく迎えた終戦

ペギーとダンスを踊るシーンで流れる音楽はハリー・ジェイムス&キティ・カレンの「イッツ・ビーン・ア・ロング・ロング・タイム」(1945)。終戦時に米国で大ヒットした楽曲であり、氷漬けで終戦を見届けることができなかったキャプテン・アメリカは、ようやくこの曲を聴き“終戦”を迎えることができたのだ。そして、キャプテン・アメリカは、ファルコンからペギーとの人生を聞かれるが、彼はそれを語らない。人生を公=Publicに捧げてきたキャプテン・アメリカが、初めて私=Privateな存在となり、戦争から始まった戦いの人生の物語を閉じたのだ。

「自己犠牲」ではない生き方

年老い、マッチョな身体を失ったキャプテン・アメリカは、コミックと同じく、黒人のサム・ウィルソンに自らのシールドを託す。キャプテン・アメリカは、スティーブ・ロジャーズに戻り、“アメリカの顔役”から降りた。自己犠牲の最大の形を提示したトニー・スタークがかつて残した言葉を生きることで、「そうではない生き方」をも同時に提示し、その役割を終えたのだ。

閉じるための物語

これが『アベンジャーズ/エンドゲーム』におけるキャプテン・アメリカ=スティーブ・ロジャーズの物語の閉じ方だ。建国以来、各世代が各々の時代の戦争を経験しているアメリカという国で、“戦争と国家”というテーマを背負ったキャプテン・アメリカは、友人の死をきっかけに自らの“戦う力”を失うことで終戦の時を迎えた。『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、次の世代にビッグ3の物語を「繋ぐ」のではなく、彼らが「役割を終える」「物語を閉じる」ということにフォーカスした作品であった。

本シリーズでは次回以降、ビッグ3の残りの二人、アイアンマンとソー、それぞれの物語の閉じ方も見ていく。
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齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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