映画化するまでコミックは売れない? 『ミズ・マーベル』が示す“マイノリティSF”の現在地

ライター

『ミズ・マーベル』の現在地

今、最も注目を集めるニューヒーロー

マーベル史上初のムスリムの女子高生ヒーロー、『ミズ・マーベル』が注目を集めている。2014年からパキスタン系アメリカ人のカマラ・カーンが四代目ミズ・マーベルを襲名して以降、人気はうなぎ上り。全9巻まで発売されているカマラ・カーン版のペーパーバックは、これまでに累計50万部を売り上げている。2014年に刊行された第1巻は、11月にニューヨークタイムス紙でペーパーバック・グラフィックノベル部門のベストセラー第二位を獲得。同巻は、2015年のヒューゴー賞最優秀グラフィック・ストーリー部門を受賞している。2018年6月には、マーベル・スタジオ社長のケヴィン・ファイギが『ミズ・マーベル』の映画化を示唆するなど、(商業的な意味でも)今最も期待されているヒーローの一人だ。

アメリカでは、『ミズ・マーベル』最新シリーズの『The Magnificent Ms. Marvel』が2019年3月に発売予定。 ©2018 MARVEL

マーベルの新たな顔に?

そんな中、米時間12日、アラブアメリカン・ニュースは、「ムスリムのティーンヒーロー、ミズ・マーベルはマーベルの新たな顔になるか」と題した特集を公開した。アラブアメリカン・ニュースは、ミシガン州に拠点を置くアラブ系アメリカ人コミュニティ向けの新聞だ。アラブ社会の政治、経済、コミュニティを扱う同紙で、コミックが話題に上るのはとても稀なことである。アラブコミュニティにおける『ミズ・マーベル』の注目度の高さがうかがえる。

マイアミ州のあるコミュニティの例

“ムスリムの街”では売上好調

同紙はこの記事の中で、地域の店舗を対象とした取材を実施している。ミシガン州の南東に位置するディアボーンでは、『ミズ・マーベル』はムスリムの象徴として広く受け入れられており、コミックの売り上げも好調だという。ディアボーンは、全米でも有数のムスリム居住地帯として知られており、北米最大のモスクや国立アラブ・アメリカン博物館が建ち並ぶ。ニューヨークに次ぐムスリム人口を抱えるこの街では、マーベルで唯一のムスリム・ヒーローは暖かく迎え入れられているようだ。

「みんな映画化されるまで待ってる」

だが、ディアボーンから北に13マイルの距離に位置するバークレーのタイム・トラベラーズ・コミックスでは、コミックよりもフィギュアの売れ行きが好調だという。同店の販売員は、「新刊はあまり売れないんだ。みんな映画化されるまで待ってるんだよ」と説明する。フィギュアが売れている理由の一つは、ミズ・マーベルの玩具自体、十分な品揃えがないことにもあるという。一方で、彼が「考えもの」と話すのは、ミズ・マーベルのフィギュアは売れているにもかかわらず、人々が作品そのものには手を伸ばしていないという点だ。大手書店チェーンのバーンズ・アンド・ノーブルでは、『ミズ・マーベル』の売上は好調だが、『スーパーマン』や『バットマン』といったシリーズのレベルには達していないという。一般的には、ビジュアルや話題優先で消費されているのが現状のようだ。

“マイノリティSF”の現在地

“マイノリティSF”全盛期

これはあくまでもミシガン州のコミュニティにおける例だ。だが、同時に見えてくるものもある。映画『ブラックパンサー』(2018)の大ヒットや、黒人女性作家のN・K・ジェミシンが3年連続のヒューゴー賞を受賞したことに象徴されるように、今は“マイノリティSF”の全盛期だ。社会的少数派に属する作家が描き出すSFの物語に、マイノリティの人々は帰属と希望を見出し、次々と良質なSF作品が生まれている。

『ミズ・マーベル』の商業的動向が示すもの

そうした作品は、映画化などによってメジャーなフィールドに汲み上げられたものから順に、ポップカルチャーとして大衆にも受け入れられていく。“マイノリティSF”が“マイノリティSF”を越えていく瞬間だ。言い換えれば、例え“マイノリティSF”であっても、良質な作品は特定のコミュニティの中で消費されるだけではなく、多くの人々の心に届き得るということだ。ミシガンでの『ミズ・マーベル』の商業的動向は、そうした段階を踏んで世に作品を送り込んでいる“マイノリティSF”の現在地を指し示しているとも言える。今後、『ミズ・マーベル』はどのようにして大衆に受け入れられてゆくのか、今後もその動向に注目しよう。

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– Source –
The Arab American News

齋藤 隼飛

齋藤 隼飛

VG+編集長。社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。
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