SFと核——『メタルギアソリッド ピースウォーカー』と『博士の異常な愛情』が描いた人間と核

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原爆投下から74年

今から74年前の1945年8月6日、広島に原子爆弾が投下された。同年8月9日には長崎にも原爆が投下され、多くの人々が犠牲となった。人類の歴史上で最初にして唯一核兵器が使用されたのだ。2019年も広島では平和記念式典が開催され、広島の松井一実市長は平和宣言の中で、「核なき世界」の実現へ向け主導的な役割を果たすよう、日本政府に呼びかけた。

SFが描いた核

原爆投下という人類史上に永久に残る悲劇を二度と繰り返さぬよう、SF作品は「再び人類に核が投下されたら」という“if”の世界を描き続けてきた。核を抱える現実社会を題材に思考実験を繰り返し、核の恐怖と、それを使おうとする人間の恐ろしさについて、警鐘を鳴らしてきたのだ。
今回は、SF作品の中から、核と人間の関係について描いた映画とゲーム作品を読み解いてみよう。そこには、テクノロジーが発展を遂げた現代だからこそ向き合うべき課題が示されている。

博士の異常な愛情』が描いた核

鬼才スタンリー・キューブリック監督が1963年に発表した『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(以下、『博士の異常な愛情』) は、『2001年宇宙の旅』(1968)『時計仕掛けのオレンジ』(1971) に先駆けて発表された同監督の代表作の一つだ。

自動報復を可能にする“皆殺し装置”

『博士の異常な愛情』では、アメリカ空軍の准将がクーデターを起こしソ連への核攻撃を実行する。准将は「敵の奇襲攻撃で命令系統が混乱した際には、下級司令官が独断で核報復を行う」という“R作戦”を利用しており、米国政府の側も防ぐ手立てがない。ペンタゴンでは事態を静観する提案も出るが、ソ連が核攻撃を受けた際に自動的に地球上の全生物を絶滅させる“皆殺し装置”を設置していたことが明らかになる。核攻撃が実施されれば、ソ連が滅びたとしても、自動的に核による報復攻撃がなされるのだ。

核兵器と人間の愚かさ

『博士の異常な愛情』という作品のキモは、米軍の将校は緊急事態条項を利用して独断で核による先制攻撃を行い、ソ連側は自動的に報復ができる装置を秘密裏に設置していたという設定だ。いくら各国首脳が表面上は冷静な判断を下せたとしても、核兵器が存在している時点で、人間の愚かさが顔を出した途端に世界は脆くも崩れ落ちてしまうのだ。

『メタルギアソリッド ピースウォーカー』が描いた核

スタンリー・キューブリック監督が『博士の異常な愛情』でシニカルに描いたテーマを発展させ、独自のメッセージを発信したのが小島秀夫監督のゲーム『メタルギアソリッド ピースウォーカー』(2010) だ。核と戦争をテーマに掲げ続けてきた「メタルギア」シリーズとしては第7作目にあたり、同作ではシリーズ中最も明確な形で反戦・反核のメッセージが提示された。

AIによる核の制御

『メタルギアソリッド ピースウォーカー』に登場するCIA中米支局長のホット・コールドマンは、人間による“核報復の不確実性”を信奉していた。「いざとなれば人間は核による報復を決断できない」と考え、AIの制御によって確実に核による報復を実行させることで、完全な相互確証破壊 (一方の核保有国が核攻撃を行った際にもう一方の核保有国が報復攻撃を行うことで、確実に互いの国が破壊される状況) と新たな冷戦の時代を世界にもたらすことを企んだ。

人間は“報復しない”を選べるか

『メタルギアソリッド ピースウォーカー』では、『博士の異常な愛情』と対をなすシーンが登場する。核攻撃の偽装データを送られたアメリカ政府は、自国への核攻撃が迫っていると信じ、敵国へ核による報復を行うかどうかの判断を迫られる。『博士の異常な愛情』ではシステムによる自動報復を人間がどう食い止めるか、『ピースウォーカー』では人間がAIと対比され、自らの手で報復を“行わない”ことを選べるか、という点が描かれた。

過去を振り返り、未来を思考する

『博士の異常な愛情』と『メタルギアソリッド ピースウォーカー』両作品の結末は、それぞれの作品を鑑賞・プレーして確認していただきたい。また、小松左京のSF小説『復活の日』(1964) といった作品も、核の自動報復システムを描いており、数多くのSF作品が核をテーマに物語を描き出している。人類の罪に目を背けることなく、過去を振り返り、現在と未来を思考する営みは、現代社会に生きる私たちが掴みとった進歩の証である。

危ぶまれる表現の自由

日本では先日、「平和の少女像」などの展示を巡って『あいちトリエンナーレ2019』の企画展「表現の不自由展・その後」の展示中止が発表されたばかり。名古屋市の河村たかし市長からの圧力や市民からの脅迫によって、展示が中止に追い込まれた。今回取り上げた作品も、制作された国も時代も異なるが、それぞれ表現の自由が保障されていたからこそ生まれた名作だ。

人類が罪と向き合い、未来を描き出す営みが行政によって規制されるのだとすれば、あらゆるクリエイティブ活動が危機的な状況に置かれていると言える。表現の自由が封殺されることなく、『博士の異常な愛情』や『メタルギアソリッド ピースウォーカー』に続く作品が今後も生み出されることを切に願う。

齋藤 隼飛

齋藤 隼飛

VG+編集長。1991年生まれ。
社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。
編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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