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原爆投下から73年—SFは核とどう向き合うか

広島への原爆投下から73年

慰霊式典に85カ国の代表が出席

8月6日、広島への原爆投下から73年を迎えた。73年前の今日、午前8時15分、世界で初めて核兵器が実戦投下され、多くの犠牲者を出した。本日広島の平和祈念公園で開かれた「原爆死没者慰霊式・平和記念式」には、広島市の松井一実市長が登壇し、改めて核兵器廃絶へ向けた取り組みの継続を訴えた。式典には核保有国を含む85カ国とEUの代表が出席している。

引き継がれていく記憶

厚生労働省の発表によると、被爆者健康手帳の所持者は15万4,859人で、過去最少の数となった。一方で、広島県立福山工業高校の計算技術研究部が、VRで原爆投下前の広島の街並みを再現した。原爆投下の痛ましい記憶は、新たに登場した科学技術を用いて、次の世代に受け継がれていくようだ。

SFと核

小説が現実に

そんな中で、SF (サイエンス・フィクション)は、未来について思考するための「実験装置」を提供してくれる。日本を代表するSF作家・小松左京は、戦時中であった少年期に、原爆が登場するスパイ小説を読んだという。超現実的なお話だと考えていたところ、その二年後、広島に原爆が投下された。小松左京は、この時に受けた衝撃や、敗戦体験を機にSF小説家としての道を歩み始める。1962年の「コップ一杯の戦争」、1964年の『復活の日』といった、核戦争を題材としたSF作品を発表している。

SFは核をどのように描いているのか

このように、SFにおいては様々な蓄積があり、ここで全てを振り返ることはできない(「ゴジラ」シリーズだけでも長期連載を組む必要があるだろう)。多くのファンに愛されている『攻殻機動隊』や『ブレードランナー』も、核戦争後の近未来を描いた作品だ。では、広島への原爆投下から70年以上が経過した今、近年のSF作品では、核兵器はどのように描かれているのだろうか。

歴史と世界を変える原爆投下

ドラマ版『高い城の男』の核描写

フィリップ・K・ディック原作の『高い城の男』(1962)は、Amazonスタジオによって実写ドラマ化され、2015年から配信を開始した。ドラマ版は、第二次世界大戦において、ナチスドイツが原爆を開発し、ワシントンDCに投下したことで枢軸国が勝利したという設定だ。今度はナチスドイツが大日本帝国への核兵器使用を試みる中で、歴史と政治に翻弄される市民として、個々の登場人物が下す決断にスポットライトを当てている。

『USJ』では日本が原爆を保有

『高い城の男』を題材にして執筆されたピーター・トライアスの『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(2016)は、日本軍が先に原爆を開発し、カリフォルニア州サンノゼに投下、枢軸国が戦争に勝利したという設定だ。『高い城の男』同様、一つの原爆投下が歴史を、そして世界を全く別のものにしてしまったというプロットを根底に置きながら、個人のアイデンティティを巡る物語に帰結させた。
両作とも原爆や核そのものをテーマにしているわけではないが、「if」を問う歴史改変ものの物語は、原爆投下は被害者が誰であっても悲劇を生むという当然の事実を思い起こさせてくれる。

批判を受けた軽率な描写

名作誕生の影で

一方で、いまだに続く核兵器の軽率な描かれ方も見逃してはいけない。『ダークナイト ライジング』(2012)では、中性子爆弾(核兵器の一種)の描写を巡って議論が起きた。作品の根底には、「自らが作り出した罪が災厄をもたらす」というメッセージが込められていることは確かだ。だが、作中でのあまりにも雑な核兵器の扱いに、国内外から無神経だとの批判も上がった。同様の議論は、ギャレス・エドワーズ監督の『GODZILLA ゴジラ』(2014)でも見られた。作品自体は高い評価を得たが、核兵器を洋上で爆発させるアイデアは、『ダークナイト ライジング』に対するものと同様の批判を招いた。

核と向き合う日本のSF

生まれ変わった日本のゴジラ

日本のゴジラはどうだろうか。ゴジラシリーズ初のアニメ映画『GODZILLA 怪獣惑星』(2017)は、ゴジラに対する「無差別核攻撃」が繰り返された後の世界を描いた。結果として人類は地球を放棄せざるを得ず、地球はゴジラを頂点とした「怪獣惑星」へと変貌する。アニメならではの世界観だ。同アニメシリーズは11月に公開される第3章『GODZILLA 星を喰う者』で完結を迎える。
2016年に公開された『シン・ゴジラ』は、真正面から「核」と、そして核を扱う「人間」と向き合った作品であった。日本列島への三度目の核兵器投下を巡る緊迫した政治的駆け引きは、各方面から高く評価された。更に、3.11以降を想起させる日本政府の在り方は、単に「反核」を掲げるだけでは解決しないであろう日本社会が抱える諸矛盾の深層を抉り出した。

戦争・核と向き合い続けたMGSシリーズ

もちろん、核と向き合ったSF作品としては、小島秀夫監督の「メタルギア ソリッド」シリーズも忘れてはならないだろう。兼ねてから「反戦・反核」というメッセージを発信し続けてきた同シリーズ。『メタルギア ソリッド ピースウォーカー』(2010)や『メタルギア ソリッドV ファントムペイン』(2015)では、冷戦時代を描くことで、ユーザーの手に「核」を委ねた。『メタルギア ソリッドV ファントムペイン』では、今年に入り、全ユーザーのゲーム内での核兵器保有数が「0」になった時に発生するイベントが誤発動。プレイヤー達は予期せずして「核なき世界」を目の当たりにすることになった。

未来を思考できるか

このように、2010年以降だけを見てみても、SFが持つ思考実験の機能は、原爆投下・核兵器というテーマにおいても発揮されている。若い世代には、知らず知らずのうちに、漫画やゲーム、映画を通してそうしたテーマに触れてきたという人間も多いはずだ。原爆の記憶は忘却されることなく、次の世代もまた、SFで描かれた未来やパラレルワールドの姿を通して、これから自分たちが歩んでいくべき道を思い描いていくだろう。

現実においては、2017年に、国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン (ICAN)」がノーベル平和賞を受賞した。一方で、日本政府は昨年、50カ国が批准(現在は60カ国が署名)した「核兵器禁止条約」に参加しない道を選んだ。今年の慰霊式典でも、安倍晋三首相が同条約に触れることはなかった。

過去から学び、未来を思考する—私たちには、まだまだSFの力が必要なのかもしれない。

VG+編集部

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