なぜSFは現実にならないのか——ケン・リュウが語る「テクノロジーの進歩と物語の誤謬」

ケン・リュウが語る「テクノロジーの進歩と物語」

『紙の動物園』などで知られるSF作家のケン・リュウが、2019年5月に開催された世界最大級の仮想通貨イベント “コンセンサス2019” に登壇し、テクノロジーの進歩とSF作家が未来を描くことについてスピーチを行っている。

「フィクションが現実に——サイエンスフィクションと人類の運命」と題されたこのスピーチでは、ケン・リュウ自身は「仮想通貨の価格」ではなく「仮想通貨とブロックチェーンの未来」に関心があると前置きした上で、「私たちは未来をどのように考えるのか、なぜ私たちは未来について物語を描くのか、そして未来を予測することは良いことなのか」について語った。「現実がSFに近づいている」とは近年よく聞かれるフレーズだが、ケン・リュウは一味違ったアプローチでこの議題について一つの結論を導き出している。

人は未来を描きだせるのか

まずケン・リュウが紹介したのは、100年前のアーティストたちが、未来 (現代) をどのように描いたか、という点だ。1899年から1910年にかけてフランスの複数のアーティストによって描かれた「En L’An 2000 (In the Year 2000)」という絵画シリーズでは、メイドが半自動の清掃ロボットを使っている絵や、車同士が戦う絵が描かれている。

そこには、空を飛ぶ装置を利用して火災から人々を救う消防士の姿も描かれている。実現はしなかったが、100年前に火災から人を救うテクノロジーを考えていたのだ。気球艇同士が戦う様子も描かれたが、これも西暦2000年の社会の姿とはかけ離れている。

では、より現代的なSF作品ではどうか。ケン・リュウはSF映画『ターミネーター』や『2001年宇宙の旅』『ブレード・ランナー』を例に挙げ、ここで描かれたような未来は訪れていないと指摘する。なぜ未来を予想することは困難なのだろうか。ケン・リュウは、「未来予想はもっとも難しいアートの形」とした上で、以下のように説明する。

誰も予想できなかった「ガソリンの時代」

例えば、1900年前後には、電気自動車の普及率は車全体の内38%だった。40%が蒸気自動車で、ガソリン自動車のシェアは22%。蒸気は産業革命を牽引しており、まさかガソリンが“自動車の未来”であり、その後100年以上にわたってガソリン車が市場を席巻するとは誰も思わなかったのだ。特に電気自動車は静かで公害も少なく、加熱に時間を要する蒸気自動車、操作が複雑なガソリン車のような欠点がなかった。「この時代に戻ってSF小説を書くとすれば、1976年には全ての自動車が電気によって稼働している未来を描くだろう」と、ケン・リュウは話す。

しかし、誰も予想していなかったことが起きた。テキサスで大量の石油が見つかったのだ。石油ブームが到来すると、ガソリンは最も安価なエネルギーとなり、ガソリンと競りあえる競合はいなくなった。ガソリン車の一人勝ちの時代が始まると、そこに投資が集中し、操作の難しさや騒音といったガソリン車が抱える問題は解決された。蒸気自動車は始動の問題を解決できず、電気自動車は高価すぎる技術になった。状況は一変したのだ。

「人類という種の問題」

このように、SFにとって、そして人類にとって未来を描きだすことは困難な作業にも思える。ケン・リュウは、その原因である「人類という種が抱える問題」として、「物語ではないことを物語として描いてしまう傾向」を指摘する。

(人は) 物事のすべてを因果関係で捉えてしまうのです。プロットとして、アーク (一連のストーリー) として、陰謀として、物語のトリックとして、物事を捉えてしまう。私たちはそうすることでしか、世界を理解することができません。科学的根拠に基づいた事実を人々に説明するのは困難なことです。多くの人々が (人や世界はどこへ向かっているのかという) 目的論にのせた物語の語り方をテクニックとして使っています。進化の過程は完全にランダムで、いかなるプロットも存在しないのですが、原因を見つけ出して説明しようとするのです。

物語の誤謬

ケン・リュウは、「でも実際には」と続ける。

そこに課題があれば、それを解決するためのチームが世界中に数多く存在している。それぞれ異なるアプローチを用いて問題解決に臨んでいるのです。そして、その内の一つのチームが、いくつもの幸運 (テキサスでオイルが見つかるというような予測できない大きなシフトチェンジ) の末に成功にたどり着いた時、たった一つのソリューションが勝者として生き残るのです。なのに、私たちは歴史を振り返る時、「この進歩は必然だった」「これには理由があった」と言い、それによってテクノロジーはより良いものに見え、テクノロジーの進歩は必然に思えてくるのです。

私が言いたいことは、これは生存バイアスの結果であり、物語の誤謬 (narrative fallacy = 後付けで物語を作り上げてしまうこと) の結果だということです。私たち人間には必然性のある物語を構築してしまう傾向があり、そうした物語を未来予想に利用してしまうのです。それは全くもって役に立たないことであり、ナンセンスなことです。それがうまくいくことはありません。

それが偶然訪れたブレイクスルーだったとしても、人はそこに物語を見出してしまう。「人間は物語がなければ生きていけない」とは現代ではすっかり定着した言説だ。様々な事実を捨象し、歴史を構築してしまうのが人類の習性であり、それを元に立てられた未来予測が当たることはない、というのがケン・リュウの主張である。

私たちの過去についての物語は真実ではありません。ただ残った事実を人々が理解できるように、筋が通るように構成して作り上げられた物語でしかありません。そうした物語を真実だと勘違いし、過去の物語を知ることで未来を語ることができると考えることは誤りです。

「自分のストーリーを信じないように」

ケン・リュウは、「SF作家は好きな物語を作り出すことができ、それを実現する義務はない。物語を作り出すだけでお金をもらうことができる」とした上で、会場に集まった起業家・技術者・投資家たちには、自分で作り上げたストーリーを事実だと信じ込まないようにと忠告した。ケン・リュウが登壇したイベント、コンセンサス2019の一般向けチケットは1,600ドル (約16万8,000円)。同イベントに集ったのはブロックチェーンの未来を本気で信じる人々だ。彼女ら/彼らは、SF作家からの忠告をどう捉えたのだろうか。

SFが持つ意味

では、SF作家であることや、物語を綴ることの意味とは何なのだろうか。まずケン・リュウは、ブロックチェーン研究者や起業家に向けてこう話した。

私が言いたいことは、物語を綴ることに意味はないということでしょうか。いいえ、もちろん自分の生業に反するようなことは話しませんよ。未来について物語を綴ることには、前向きな意味があります。サイエンスフィクションは未来を予想するためのものではありません。あなたがコンピュータ技術を理解しているとしても、考えうる応用手段の全てを理解していることにはなりません。1990年代初頭にインターネット技術に精通していたとして、Instagramが多くの人々の生活に大きな影響を及ぼすことになると考えることはできなかったでしょう。時にテクノロジーの細部に関する知識は、そのテクノロジーが持つ突拍子もない可能性や応用の方法を見えなくしまうものです。

詳細を理解していない人々を招き入れ、未来について予想させることは、実は重要なことなのです。彼女ら/彼らはブロックチェーンが技術的にどのように動いているかは分かっていないかもしれません。しかし、彼女ら/彼らは、もしかするとあなたには見つけられない可能性を見つけられるかもしれません。小さな世界で最大値を探して立ち止まるよりも、破壊的な部外者の観点があなたを助けてくれることもあるでしょう。

変化を生き抜くヒントに

最後に、サイエンスフィクションが普遍的に人々の助けとなる理由について、ケン・リュウは以下のように結論づけている。

SFは未来予想としては頼りになるものではありませんが、大きな変化を生き抜くための物語としては、私たちにとって有益で重要なものです。世界の変化のスピードは加速しており、テクノロジーの進歩は今やとどまることを知りません。私たちは生きていくために複数の混乱の中を突き進んでいます。私は弁護士でソフトエンジニアでもありますが、この職業では、5年前の知識は役に立ちません。変化と混乱は定期的にもたらされ、それに順応していかなければならないのです。

SFが素晴らしい点は、人々がどのようにその大きな変化を生き抜くかという物語が綴られているということです。それに、変化に備えるための思考法を教えてくれます。どんな変化が起こるかということを直接教えてくれるわけではありませんが、人生の中で定期的に訪れる大事件への備えを与えてくれます。どのように生きるかを教えてくれるのです。それって、悪くないですよね。

ケン・リュウは、自身も優れたSF作家でありながら、中国SFを世界に紹介する翻訳家としても活躍している。そんな彼だからこそ説得力のある、SFへの冷静で真摯な分析だと言える。SFが現実に——近年流行するそんな言説に、ケン・リュウは全く異なるアプローチで一つの回答を示した。

ケン・リュウ編の中国SFアンソロジー『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』の文庫版は2019年10月3日(木)に発売予定。

ケン・リュウの短編傑作集は、第4弾まで発売されている。

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