【リポート】ゲンロンSF創作講座 大森望、藤井太洋、溝口力丸がSFの現在を語る

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ゲンロンSF創作講座第4期第3回が開催

2019年8月22日(木)、東京のゲンロンカフェで「ゲンロン 大森望 SF創作講座」の第4期第3回が開催された。主任講師の大森望と共に、ゲスト講師として『ハローワールド』で第40回吉川英治文学新人賞を受賞したSF作家の藤井太洋、早川書房の編集者で『なめらかな世界と、その敵』(伴名練) 『ファイト・クラブ〔新版〕』(チャック・パラニューク) の担当編集者である溝口力丸が登壇。集まった「ゲンロン 大森望 SF創作講座」の受講生に向けて、作家の心得や盛り上がりを見せるSF界の状況について話した。

ゲンロンSF創作講座の魅力

ゲンロンSF創作講座では、月に一回、ゲンロンカフェで受講生向けの講座が開催され、主任講師の大森望と作家ゲスト、編集者ゲストがここでしか聞けないトークを繰り広げる。1限目の講座の後は、受講生が提出した課題を基に講評会を実施し、毎回多彩なゲストから助言を受けることができる。一年後に実施されるゲンロンSF新人賞の選考会に向けて、毎月プロの作家・編集者と共に計5時間に及ぶプログラムを受講できる点がゲンロンSF創作講座の魅力だ。また、ゲンロンSF新人賞で最優秀作を提出した受講生は、商業媒体に提出作品を掲載し、プロとして作家デビューする権利を得ることができる。

講座内容の一部をお届け

この日登壇した藤井太洋は、ダブリンで開催された第77回世界SF大会への参加を終え、羽田空港から直接駆けつけた。早川書房編集者の溝口力丸は、編集を担当した伴名練『なめらかな世界と、その敵』がヒットし、大きな話題になる中での登壇。日本SFと世界の動向、SF作家を目指す人々への助言など、SF作家・SFファン必聴のディスカッションが繰り広げられた。今回VG+では、その一部をお届けする。

 

大森望、藤井太洋、溝口力丸がSFの現在を語る

『三体』に続き『なめらかな世界と、その敵』がヒット

大森 マニアックなSFで売れるためにはどうすればいいのか、という意味では『なめらかな世界と、その敵』の売れ方は大変参考になる。過去のSF作品で描かれたような様々なネタを組み合わせながらも、そのネタを知らない若い層の胸に刺さるという“伴名メソッド”を編み出したのでしょうか。

溝口 元ネタが一切分からなくても面白く読めるように作っていますね。

藤井 伴名さんの文章は読みやすいですよね。

大森 それは本当にそうですね。

藤井 逆に『三体』は正統派の教養を正面からぶつけてくる。読者を信頼しているというか。

溝口 ここ2ヶ月くらいで『三体』や『なめらかな世界と、その敵』を買ってくださっている方々は、それほどコアなSFファンの方ではなく、なんなら単行本でSFを買うのはこれが初めてというくらいの方達で、それでも楽しんでくれているようです。

大森 『三体』は明らかにSFファンじゃない方にも売れて、広がっていますよね。

藤井 『なめらかな世界と、その敵』もそうじゃないですか?

溝口 そうですね。百合からの流入もありましたし、赤坂アカさんが手がけた表紙も要因としてあるのかもしれません。今は “SF” というだけで皆が注目するようになっているのかもしれないし。

大森 そんなことはないでしょう (笑)

溝口 もしかしたら、ということです (笑)

大森 まぁ確かに、ダイヤモンド・オンラインでは「ビジネス・リーダーよ、SFを読め!」という特集を組んでいましたね。

溝口 「ダイヤモンド」でSFをやるっていうのはちょっと感動です。

藤井 『三体』でSFを買う準備ができているというのはあるかもしれません。

溝口  “三体ロス” みたいな人はいるみたいですよ。二巻を読みたいけどしばらくは出ないので、何か (SFを) 読みたいという。

大森 しかし「ビジネスリーダーはSFを読むのが常識だ」みたいなところまで来るとはね。

ワールドコンの空気感 

溝口 今年の後半にはテッド・チャンも控えています。ピーター・トライアスも含めて、アジア系作家のSF作品が売れているという感じですよね。

大森 そういう意味では、最近売れているのはアジア系ばかり、という言い方ができなくはない。ヒューゴー賞は今年もほとんどの部門を女性作家の方が受賞して、マレーシア出身のゼン・チョーさんなど、広い意味でアジアにルーツを持つ作家や女性作家など、白人男性以外の作家がほぼ主流になっていて、パピーゲート*のバックラッシュが逆に働きましたよね。パピーズへの反発もあって『三体』がヒューゴー賞をとりましたが、そのあとはアフリカ系女性作家のN・K・ジェミシンが三連覇するなど、保守派の思惑とは正反対に向かっている。ここまで逆目にでるのも珍しい。それが時代の趨勢だったのでしょうね。ワールドコンではそういう空気は感じられましたか?参加者の変化はあったのでしょうか。

(* 編注: パピーゲート事件については以下の記事を参照)

藤井 私はここ5年間、『三体』がヒューゴー賞を受賞したスポーケン (ワシントン州) から、カンサスシティ、ヘルシンキ、サンノゼそしてダブリンとワールドコンに参加し続けているのですが、リベラルが徐々に増えている、という感じはしません。ただ、アメリカを離れると女性と若者の比率が増えますね。アメリカだと自分のSF知識を解禁したいオールドファンがたくさんいるので (笑) 去年のワールドコンはいろんなところでトラブルがありました。LGBTQのパネリストを自己申告の「she」ではなく「he」を交えて紹介して炎上したり。人称代名詞は面白いですよ。ワールドコンは、普通に単数系の「they」を使う会話ができます。口語で単数の「they」を使えるのはワールドコンくらいじゃないかな (笑)

世界に羽ばたくSF作家たち

大森 今年はダブリンで世界SF大会が開催されたのですが、ゲンロンSF創作講座の出身者が参加したようですね。世界に羽ばたいた (笑)

藤井 櫻木みわさんと、高橋文樹さんと、麦原遼さんの三人が参加しました。高橋文樹さんが「俺たちはジャパニーズ・クラリオンの卒業生だ」と自己紹介しまして (笑)

大森 クラリオン・ワークショップという、合宿制で六週間ほど泊まり込むアメリカで大変有名なSF創作講座があります。

藤井 本物のクラリオンズ (クラリオン・ワークショップ出身者) に向かって「ジャパニーズクラリオンの卒業生だ」と言うんですが、「俺もだよ。日本にブランチあったの?」みたいに返されても堂々としていました。(笑) 良い心臓だなぁと。

大森 皆さん、卒業生はすぐに世界に羽ばたいていますよ (笑)

溝口 今回は作品の英訳も持っていったのですか?

藤井 高橋文樹さんはアーカンサス大学のKamei Toshiyaさんに翻訳してもらった作品を用意して、そのURLを渡していました。

溝口 そういうのがあると強いですよね。名前を教えた時に「これが自分の作品だ」と見せられるものがあるといいですね。

藤井 日本SF作家クラブは、人工知能学会のお世話になりました。大澤先生が、学会誌に寄稿していたショートストーリーを8つ集めて英訳した小冊子を作って持ち込んでくださったので、それを名刺がわりに配っていました。私は朗読の部屋もいただけたのですが、その小冊子に寄稿していた「祈り」というショートストーリーをきっちり15分で読んできましたよ。そうこうしていると、2日目くらいから「読んだよ、太洋!」「面白かったよ」という声を頂けました。すぐに作品が読める状況があるというのはいいですね。ショートストーリーなら、自腹で訳者にお願いしてもそう大変ではありません。翻訳はなんとかなりますよ。

(中略)

藤井 今回は (収容人数) 80人以下の部屋はなかったんですけど、どこも満員でしたね。大盛況のワールドコンだった、と言っていいと思います。その中で、高橋文樹さん、櫻木みわさん、麦原遼さんの3人は堂々と歩いていきました。

溝口 (ゲンロンSF創作講座の卒業生は) ほぼ全てのSFイベントを制覇されたんじゃないですか。SF大会、SFセミナー、京フェス、ゲンロン関連のイベント。

大森 櫻木みわさんに至っては、島根で毎年開かれる雲魂こと出雲SFコンパにまで行っていますからね。

藤井 麦原遼さんはワールドコンで、パネルにも登壇されました。英訳されていないSF・ファンタジー作品について語り合おうという企画です。モデレーターが遅刻してしまって、私が代わりに15分間モデレーターをやりました。モデレーターは初体験でしたが、楽しかったです。

SF作家を目指す人へのメッセージ

大森 最後に、言っておきたいことはありますか。

溝口 今日は、ゲンロンSF創作講座の先輩として高橋文樹さんや櫻木みわさん、麦原遼さんのお名前が出ていましたが、本当にイベントに出まくっていますよね。櫻木さんと麦原さんには百合SFアンソロジーの『アステリズムに花束を』で共作を書いていただきましたが、お二人がSFコンテストの二次会にいらしていたことがきっかけでした。もちろんそれはきっかけにすぎず、その後もやり取りがあって面白かったから載ることになったのですが、そういう機会があれば活動的に出てみるといいのではないかと思います。皆がやりだすと大変ですが (笑)

藤井 ワールドコンでも感じたことなのですが、見えているところで書きましょう。日本のデビューシステムの新人賞、300-400枚の長編を書いて “ロトくじ” でデビューというのは、よくないです。本当によくないですよ。原稿300枚といえば一年近くかかります。それを、誰にも相談せずに、一人で書き続けるわけですよね。強靭なメンタルがなければ、どこかが壊れてしまう。

大森 でも藤井さんは、そうやってデビューされましたよね (笑)

藤井 私は途中で友達に見せてましたよ!(笑) でも、ほとんどの人は誰にも見せてないんですよ。ひたすら自分だけで書いて、競争相手が何百人もいる新人賞に送るわけじゃないですか。実際には、下読みや編集、審査員の方がものすごく頑張ってくれて良いものが受賞作に選ばれているのですが、その中でデビューできるのはたった一つですから。もし、友達でそういう (一人で長編を書いている) 人がいたら、全力で止めてください。デビューできてもすぐに人間、特に編集不信になってしまいますので。短いもので皆に読んでもらえるほうがいい。「あそこに面白い人がいるね」と思ってもらえるのが大事です。あとはゲンロンSF創作講座のようなスクールで横のつながりを作っていくとか。ワールドコンなんかに行くとすぐに「短編ちょうだいよ」と言われますからね。

溝口 今年のワールドコンは日本人はどれくらい参加したんですか?

藤井 日本からは33人、ということになっています。作家は5、6人かな。ゲンロンSF講座が日本を代表する作家の集団になってしまいかねない (笑)

溝口 そう聞くと、作家としてそこにいるだけで、ものすごいアドバンテージですよね。

藤井 皆さんもデビューされたら、参加してほしいですね。

大森 来年のワールドコンで、“ジャパニーズ・クラリオン”の卒業生としてね (笑)

一同  (笑)


この他にも、ショートストーリーを書く意義や、アイデアの立て方など、ここでしか聞けない話が盛りだくさんの講座だった。1限目のゲスト講義の後、2限目では課題に沿って受講生が執筆した梗概を大森望、藤井太洋、溝口力丸の三名が講評、優秀作が選出された。3限目では前月に選ばれた優秀作を基に受講生が執筆した短編作品に対する講評が行われている。2限目・3限目共に、時間が許す限り、受講生とディスカッションする形式で講師陣からコメントがおくられている。

なお、ゲンロンSF創作講座の受講生が執筆した梗概および短編作品は「超・SF作家育成サイト」で閲覧できる。

超・SF作家育成サイト

ゲンロンSF創作講座から、続々プロの作家に

今回の講座内で名前が挙がった櫻木みわ麦原遼高橋文樹の他にも、「ゲンロン 大森望 SF創作講座」からは「Final Anchors」で第5回日経「星新一賞」グランプリ、「天駆せよ法勝寺」で第9回創元SF短編賞を受賞した八島游舷、「水靴と少年」で第1回宮古島文学賞一席を受賞した神津キリカ、『異セカイ系』で第58回メフィスト賞受賞、講談社タイガからデビューした名倉編、漫画『乙女文藝ハッカソン』で漫画家としてプロデビューを果たした山田しいた、「Meteobacteria」で第6回日経「星新一賞」優秀賞を受賞した揚羽はな、第10回創元SF短編賞受賞、SF短編アンソロジー『NOVA』にも作品が掲載されたアマサワトキオ等、多くの受講生がプロ作家としてデビューを果たしている。

「SF創作講座」第4期 (2019年度) は、2019年6月から2020年5月まで実施される。途中参加は認められていないが、同講座の概要は大森望『SFの書き方 「ゲンロン 大森望 SF創作講座」全記録』でチェックできる。SFファンは、第4期終了後に発表される第4回ゲンロンSF新人賞の結果を楽しみに待とう。

ゲンロン 大森望 SF創作講座の詳細は、公式ウェブサイトでチェックしよう。

ゲンロン 大森望 SF創作講座 公式サイト

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