「男性読者にどれほど配慮しますか?」
メアリ・ロビネット・コワルのツイートが話題に
SFファンタジー作家のメアリ・ロビネット・コワルが、とあるパネルディスカッションでの一幕についてツイートし、話題となっている。
A panel moderator asked, “With a female protagonist, how much do you worry about making the book appeal to male readers?”
About as much as a male writer worries about writing books that appeal to women. pic.twitter.com/mNFzYyTSKC
— Mary Robinette Kowal (@MaryRobinette) 2019年3月4日
司会進行の人に「女性を主人公にする場合、男性読者に対してどれほど配慮しますか?」と聞かれた。
男性作家の女性読者に対する配慮と同じくらいだよ。
コワルは、ヒューゴー賞短編部門を受賞した「For Want of a Nail」の著者として知られる。日本でも『ミス・エルズワースと不機嫌な隣人』(2014)が早川書房から出版されている。
男性読者はニッチなマーケット?
コワルは、以下のように続ける。
私の親友には男性もいる。私は男性と結婚した。でも男性は人口の50%以下で、フィクション市場においては20%程度しかいない。
どうしてそんなニッチなマーケットの欲求を満たす為に時間を割くの?
男性中心の感覚を持ち込んだ発言への痛烈なカウンターだ。コワルが放ったこの“正論”には、多くの賛同のコメントが集まっている。
著名SF作家達も賛同
イギリスのSF作家、チャールズ・ストロスは、「たとえ男性向けのSF作品 (ミリタリーSFなど) でも35-45%は女性が読者だ。それ以外の作品はどうかって? ほとんどの読者は女性だね」とコメント。
Even the most macho, male-dominated sub-genres of SF (like Mil-SF) have a 35-45% female readership. The rest? Mostly women. A huge proportion of males simply do not read for pleasure—ever.
— Charlie Stross (@cstross) 2019年3月5日
『老人と宇宙』(2005)の著者として知られ、『レッドスーツ』(2013) でヒューゴー賞長編小説部門を受賞したSF作家のジョン・スコルジーは、コワルのツイートを「完璧なツイート」と称賛している。
This tweet is perfect. https://t.co/CwnVwra4p3
— John Scalzi (@scalzi) 2019年3月5日
「マイノリティ排除」の批判も
だが、ある男性ユーザーがこのコワルのツイートに反論。「人口が20%以下のマイノリティは排除するのか?」とリプライを送ったのだ。これに対してコワルは、「これは包括性を軽視する出版社についての議論でもあります。彼らをからかってるんですよ」と返答した。
出版業における“包括性”は、近年海外で大きな争点になっている。多様な人々に読まれることを前提とした表現が使われているかどうかを、作者や出版社が注意深く考慮するべきだという考えは、一つの潮流を作り出している。一方で、「マーケットの理論においてはマイノリティに配慮しなくてもよい」という考えは、包括性の確保/多様性への配慮に反対する人々によって使われてきた論理だ。今回のコワルの発言は、包括性への配慮に欠ける出版社への皮肉でもあったようだ。
SFファンタジーだけの話?
更にユーザーの一人は、コワルの元ツイートに対して、「これはSFファンタジーの話? それともフィクション全般に言える話?」と質問。彼女はこう答えている。
フィクション全般ですよ。SFファンタジーだけで言うと、話は複雑になります。なぜなら女性作家が書いた本は、ロマンスかヤングアダルトに分類されてしまうから。
2019年1月には、女性作家によって書かれたSFファンタジー作品の多くがヤングアダルトに分類されている、という指摘が話題になっていた。
出版業界における、性をめぐる議論と課題はまだまだ山積みのようだ。だが、積極的に議論を喚起しようという風潮が、SF・ファンタジー作家の間に存在することも確かだ。活発に議論を交わせる状況が、業界に多様性を生み出す下地となっているのだろう。
Source
Mary Robinette Kowal Twitter