作者の性別でジャンルが変わる? SFファンタジー作品を巡る奇妙な慣習に異議 | VG+ (バゴプラ)

作者の性別でジャンルが変わる? SFファンタジー作品を巡る奇妙な慣習に異議

作者の性別でジャンルが変わる?

J・K・ローリングのペンネームの由来

皆さんは、「ハリー・ポッター」シリーズの著者として知られるJ・K・ローリングが、なぜペンネームに“J・K”というイニシャルを用いているのか、ご存知だろうか。これは、少年向けの作品である「ハリー・ポッター」の作者が女性だと読者に悟られないように、出版社がペンネームにイニシャルを用いるようローリングに依頼したことが理由である。また、ローリング自身は、”ロバート・ガルブレイス”という男性の名義で探偵小説を執筆していたことも明らかになっている。

性別とジャンルを巡る問題が議論に

このようにかねてから存在していた筆者の性別と作品のジャンルを巡る問題について、SF作家達の発言が活発になっている。きっかけになったのは、BOOK RIOTに掲載された「ファンタジーには、議論すべき奇妙な性差別問題が存在する」と題された記事だ。

「出版社の過ち」と「コミュニティの過ち」

露骨な性描写…でも”ヤングアダルト”に?

記者のマイア・ナナリーは、「出版社の過ち」として、女性作家サラ・J・マースの『A Court of Thorns and Roses』(2015) には露骨な性描写が登場するにも拘わらず、出版社によって”ヤングアダルト”に分類されていると指摘する。男性作家が作品内で露骨な性描写を描けば、出版社がそれを”ヤングアダルト”に分類することはないだろう、というのだ。

作者が望まないジャンル分け

更にナナリー記者は、「コミュニティの過ち」として、著者や出版社が作品を”ヤングアダルト”に分類していないにも拘わらず、読者側が女性作家の作品を同ジャンルに分類してしまっていると指摘する。「Welcome to Your Authentic Indian Experience」(2017)で2018年のヒューゴー賞短編小説部門を受賞したレベッカ・ローンホースは、著書『Trail of Lightning』(2018)が読者によって”ヤングアダルト”に分類されていることについて、「『Trail of Lightning』は、大人向けのSFファンタジー作品です」と念を押している。

「女性が書くSFFは、自動的にヤングアダルトに分類される」

『Gods of Jade and Shadow』(2019)の著者シルビア・モレノ=ガルシアは、「彼女の作品をヤングアダルトに分類するのをやめよう」という読者からの呼びかけに謝意を表明。その上で、「女性が書くSFファンタジーは、自動的にヤングアダルトに分類される。この間違いはそこから来ている」と指摘した。

誤ってカテゴライズされる作品の共通点

ナナリー記者は、他にも誤ってヤングアダルトに分類されている作家数名とその作品を挙げ、共通点として、女性作家によって書かれたSF/ファンタジー作品であることを指摘している。業界の体質は改善されてきているものの、このまま女性作家の小説が誤ったカテゴリーに分類され続ければ、「成人向けファンタジーやSFは男性のものである」というメッセージになりかねない、と警鐘を鳴らした。

SF作家達の反応は?

ヒューゴー賞三連覇N・K・ジェミシンもコメント

「The Broken Earth」トリロジーで前人未到のヒューゴー賞三連覇を果たしたN・K・ジェミシンは、Twitterでこの記事に反応。ジェミシンも記事中に名前を挙げられている為、「その通り。私が女性だからって、私の作品をヤングアダルトだと決めつけて、子どもにトラウマを植え付けることはやめてください」と、自身の作品は子ども向けではないことをアピールした。

ンネディ・オコラファーも異議

著書『ビンティ (原題: Binti)』(2015)でヒューゴー賞とネビュラ賞の二冠を達成したンネディ・オコラファーは、数年にわたり、自身の著書『Who Fears Death』(2010)をヤングアダルトに分類しないよう求めてきたという。

オコラファーは、「”子どもも楽しめる”からといって、その作品がヤングアダルトだとは限らない」と強調している。続けて、「女性だって、成人向け、ヤングアダルト向け、子ども向けの作品を書ける」と、性別による偏見を取り除くよう求めている。

今回の問題提起が持つ意味

英語圏では人気ジャンルの”ヤングアダルト”

“ヤングアダルト”は、英語圏では一般的なジャンルで、10代中盤から20代前半の読者をターゲットにした”子ども向け”と”大人向け”の間に属するジャンルだ。近年では「メイズ・ランナー」シリーズや「トワイライト」シリーズといったヤングアダルト小説が映画化され、成功を収めている。

論点はどこに…?

注意しておきたいのは、マイア・ナナリー記者や作家達は、ヤングアダルトというジャンル自体を否定しているわけではないという点だ。今回問題になったのは、10代の読者にはふさわしくない描写が登場する作品がヤングアダルトに分類されていることや、作者が意図しない形でジャンル分けがなされていること、その現象の多くが女性作家のSFファンタジー作品において見られるということだ。

問題解決の糸口は…?

近年、SF最高賞のヒューゴー賞とネビュラ賞の小説部門の受賞者は、ほとんどが女性作家で占められるようになった。長年の慣行に対し、こうして活発な議論が交わされるようになったということ自体、前進ではあるのだろう。ナナリー記者は、出版社と読者の行動によってこの状況は改善できるとして、この記事を締めくくった。同時に、私たちメディアにもその責任の一端はあるだろう。今回議論が起きたことで、各々が自らの行動を振り返る良い機会になったのではないだろうか。

Source
BOOK RIOT

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