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史上初のヒューゴー賞長編小説部門3連覇! 黒人女性SF作家 N・K・ジェミシンとは誰か

黒人女性SF作家 N・K・ジェミシンの実像に迫る

前人未到の3連覇!

日本時間の8月20日(米国時間の8月19日)、カリフォルニア州サンノゼで開催された第76回世界SF大会 (ワールドコン) にて、今年のヒューゴー賞受賞者が発表された。プロアーティスト部門とグラフィックストーリー部門では日本出身のタケダ サナが二冠を達成、新人作家のレベッカ・ローンホースが短編小説部門賞を受賞する等、会場は大いに盛り上がりを見せた。そして、大トリの長編小説部門を受賞したのは、黒人女性SF作家N・K・ジェミシンの『The Stone Sky』。

前人未到の、そして誰もが期待したヒューゴー賞長編小説部門三連覇に、会場の盛り上がりは最高潮に達する。登壇したジェミシンは、スマホを片手に「ちょっと待って、友達からメールが来すぎてスピーチのメモが…」とおどけて見せ、会場を笑わせた。そんなお茶目な彼女だが、ここまでどのような道のりを経て、現代を代表するSF作家にのし上がったのだろうか。今回は、N・K・ジェミシンの実像に迫ろう。

大学時代の意外な専攻

N・K・ジェミシンは、1972年生まれのアフリカ系アメリカ人。アイオワ州で生まれ、ニューヨークとアラバマで育った。テュレーン大学では心理学を専攻しており、デビュー後も執筆業に勤しむ傍、キャリアカウンセラーとしての仕事をこなしている。なお、テュレーン大学は「隠れた名門大学」として知られており、オバマ大統領時代の米国公衆衛生局長官であったレジーナ・ベンジャミンや、第12代米国環境保護庁長官のリサ・P・ジャクソンなどの、黒人女性の著名人を輩出している。そんな名門大学で心理学を学んだジェミシンは、果たしてどのようにして小説家となったのだろうか。

小説家になるまでの道のり

小説家としての船出

テュレーン大学で学士号を取得したN・K・ジェミシンは、メリーランド大学カレッジパーク校の大学院へ進学する。こちらは言わずと知れた名門大学で、これまでに5名のノーベル賞受賞者を輩出している。フィクションではあるが、『X-ファイル』に登場するFBI捜査官のダナ・スカリーは、同大学の出身という設定である。ジェミシンはここでカウンセリングを学ぶ傍ら、独学で小説を書き始める。だが、出版社に作品を送るもボツとなり、再度書き直した小説も再びボツに。『ダークナイト 』(2008)、『ダンケルク』(2017)で知られるクリストファー・ノーラン監督も、デビュー前は映画会社から一向に実力を認められなかったという。後にヒューゴー賞三連覇を達成する稀代のSF小説家も、作家としての船出は順風満帆ではなかったということだ。

失意からのスタート

この結果を受け、失意に沈んだジェミシンだが、ここで諦める事なく、“ビアブル・パラダイス”というライティングのワークショップに参加する。それまで独学で小説を書いていたジェミシンだったが、この一週間のワークショップで初めて体系的に小説を書くことを学び、短編小説を書き始めたのだ。他の作家の短編作品を読み、自らも短編小説を書くことで、小説を書く技術が磨かれていくことに気づいたジェミシンは、2004年頃から次々と短編作品を世に送り出していく。この時ジェミシンは30代前半。努力と鍛錬の結果、小説家としての第一歩を踏み出すことに成功したのだ。

作家としての成功を掴む

着実にステップアップ

2010年には、短編作品の「可能性はゼロじゃない」が、ヒューゴー賞とネビュラ賞でのダブルノミネートを果たす。2011年、長編の『空の都の神々は』が、ローカス賞第一長編部門を受賞。ローカス賞は一般投票で決定されるSF/ファンタジー賞である。『空の都の神々は』は、神々の争いを描いた異世界ファンタジーだが、ローカス賞と同時にセンス・オブ・ジェンダー賞を受賞している。センス・オブ・ジェンダー賞は、日本のジェンダーSF研究会が主宰する賞であり、ジェンダーに関するテーマを扱った優秀な作品に贈られる。ジェミシンは、自身のウェブサイトのプロフィールで、「フェミニスト」「反人種主義者」を自認しており、小説においても、人権問題や多様性に関するテーマを扱ってきた。
長編作品をボツにされ、一から学び直し、短編作品から取り組み直した結果、徐々に文壇から認められ始め、扱ってきたテーマも評価される——小説を書き始めた時には、一切ジャンルコミュニティに所属していなかったというジェミシンは、ゼロからスタートし、一歩ずつその階段を上がっていったのだ。

ジェミシンの成功から学ぶべきこと

このように、ジェミシンは、何も彗星の如く現れて、前人未到のヒューゴー賞三連覇を達成したわけではない。着実にステップを踏み、満を持して達成されたSF最高賞三連覇だった。これは、N・K・ジェミシンの前の最後の長編小説部門受賞者であるリュウ・ジキンのキャリアにも通じるものがある。「アジア人初のSF最高賞」と持て囃された彼も、受賞時の年齢は52歳。中国の発電所に勤めながら、コツコツと執筆活動に励んだ結果の受賞であった。

歴史が変わる時、派手な言葉達が主人公を飾り立てる。だが、丁寧にそのルーツを紐解いていくと、大きな変革も、それぞれの登場人物が下した“選択”の結果に過ぎないことに気がつく。諦めず、一歩ずつ階段を昇っていくこと——そんな当たり前で、けれども困難な、その生き方の大切さこそ、ジェミシンの三連覇が教えてくれたものなのかもしれない。

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via: © 2018 N.K. Jemisin., © Laura Hanifin
– Source –
LOCUS Magazine

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