【全曲解説】映画『ジョーカー』で流れた曲まとめ【音楽】 | VG+ (バゴプラ)

【全曲解説】映画『ジョーカー』で流れた曲まとめ【音楽】

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映画『ジョーカー』で流れた音楽は?

「バットマン」シリーズの悪役として知られるジョーカーを主演に据えた映画『ジョーカー』がついに日米で公開された。公開前、トッド・フィリップス監督やホアキン・フェニックスら出演者はその内容について多くを語らかなかったが、公開されると大ヒットを記録。SNS上でも大いに盛り上がりを見せている。

『ジョーカー』は1981年のゴッサムシティを舞台にした作品。道化師のアーサー・フレックが主人公で、ロバート・デ・ニーロ主演のコメディ映画『キング・オブ・コメディ』(1982) からのオマージュがふんだんに取り入れられた。

そして、往年の名曲たちもまた『ジョーカー』という映画を彩った。今回は、映画『ジョーカー』で使用された音楽を紹介しよう。使用されたのは往年の名曲ばかりで、アメリカ以外のファンには分かりづらい小ネタも散りばめられている。劇中で流れた曲とその場面を合わせてご紹介するため、映画を未見の方はネタバレに注意していただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ジョーカー』の内容に関するネタバレを含みます。

冒頭に流れる「Temptation Rag」

『ジョーカー』の冒頭、アーサーが楽器屋の看板を持って踊るシーンで流れているのはフランスのジャズピアニスト、クロード・ボリング (Claude Bolling) の「Temptation Rag」(1966)。直訳すると「魅惑のラグ (タイム)」というタイトルの同曲は、アメリカで生まれたラグタイムと呼ばれるジャンルを代表する曲の一つである。なお、ラグタイムはジャズのルーツの一つとして知られている。

テレビから「Here Comes The King」

アーサーが帰宅した際にテレビから流れている曲は、アメリカの著名作曲家スティーブ・カルメン (Steve Karmen) の「Here Comes The King」(1971) 。アメリカではバドワイザービールのCM曲として広く知られており、1981年を舞台にした『ジョーカー』のこの場面でも、バドワイザーのCMがTVで流れていると予測できる。「Here Comes The King」の歌詞自体は“バドワイザー賛歌”でしかないのだが、曲のタイトルからは“キング”の登場を予感せずにいられない。『ジョーカー』にも多大な影響を与えた『キング・オブ・コメディ』でコメディアンを演じたロバート・デ・ニーロは、この直後に登場する。

ロッカールームで「Everybody Plays the Fool」

アーサーが初めて銃を受け取るシーンで、ロッカールームで流れているのはザ・メイン・イングレディエント (The Main Ingredient) の「Everybody Plays the Fool」(1972)。そのタイトル通り、「誰だってバカなことをする」という内容の曲で、「例外はない。失恋してもくよくよするな」とポジティブなリリックが続く。だが、『ジョーカー』でこの曲が流れれば、その意味は違ってくる。“Fool”には“道化師”という意味もあり、「誰もが道化師を演じている」という意味で捉えることができる (ピエロの派遣会社では皆が道化師を演じていて当たり前なのだが)。

お風呂では「The Moon Is A Silver Dollar」

アーサーが母のペニーをお風呂に入れるシーンでは、ローレンス・ウェルク (Lawrence Welk) の「The Moon Is A Silver Dollar」(1939) が流れている。タイトルは、“月は1ドル銀貨”という意味で、歌詞では「私は億万長者だ。私たちの涙と苦難は小さなこと。全て報われる」という内容の歌が歌われており、窮状にあっても希望を捨てていないアーサー&ペニー親子の心情が描き出されている。

銃の誤射シーンで「Slap the Bass」

このお風呂のシーンの後、アーサーが一人で銃を試すシーンでは、テレビからフレッド・アステア (Fred Astire) の「Slap the Bass」(1937) が流れている。フレッド・アステアはハリウッドにおけるミュジーカル映画界の巨人として知られており、並外れたダンスの技術を持っていた。銃を手にしたアーサーは『タクシードライバー』(1976) のロバート・デ・ニーロを思わせる一人語りを始め、「君は良いダンサーだね」と自分に語りかけている。

「Slap the Bass」の歌詞は、「ベースを弾け」という内容だが、アーサーが銃を誤射して音量を上げる時には「今日はこの世で最も幸せな男が見られるぞ」という歌詞が歌われている。更に「Slap the Bass」は、曲が進行するにつれて「困難も弾き飛ばせ」「ぐちゃぐちゃになった世界で、政治や税金と一緒に」「人々は斧を研いでいる。そこにはもう幸せはない」と、“ベースを弾く理由”が先鋭化されていく点が特徴だ。この作品のベースにある映画『タクシードライバー』と『キング・オブ・コメディ』同様、徐々に物語がエスカレートしていく内容の楽曲なのだ。

病院で歌われた「If You’re Happy And You Know It」

アーサーは、小児病院でチャイム・タンネンバウム (Chaim Tenenbaum) の「If You’re Happy And You Know It」を歌う。日本では「幸せなら手をたたこう」として知られている。余談だが、同曲の日本語の歌詞はメロディに合わせるために省略されており、英語の歌詞を直訳すると「あなたが幸せで、それを自分で分かっていて、そしてそれを示したいと思っているなら手を叩こう」という内容になっている。

地下鉄で男たちが歌っていた「Send In Clowns」

アーサーが地下鉄でウェイン産業のエリート社員3名に襲われるシーン。ここで男達が歌っているのはフランク・シナトラ (Frank Sinatra) の「Send In Clowns」(1973)。原曲はスティーヴン・ソンドハイムによる楽曲で、数多くのアーティストによってカバーされている。ミュジーカル『リトル・ナイト・ミュージック』(1973) の内容と連動した楽曲となっており、結婚してしまった元恋人と復縁できない女性の心情が描かれている。

「二人はお似合いなのにもう一緒にはなれない」というやりきれない状況に「道化師を呼んで=send in clowns」と言い放つのだ。「これって幸せじゃない? 認めてくれないの?」「私が求めていた相手はあなただってやっと気づいたのに」と、やりきれない非対称な関係性を前に、諦め混じりに道化師を呼ぶ。この内容は、誰かを求めるアーサーと誰もアーサーをまともに扱おうとしない『ジョーカー』のストーリーとリンクする。フランク・シナトラが歌う「Send In Clowns」は『ジョーカー』のエンディング曲にも採用されている。この曲の終盤には、「邪魔しないで、道化師たちが到着したから」という歌詞も歌われている。

クビになったシーンで「My Name Is Carnival」

オフィスでクビを言い渡されたアーサー。荷物をまとめてオフィスを立ち去るシーンで、ジャクソン・C・フランク (Jackson C. Frank)の「My Name Is Carnival」(1965) が流れる。“カーニバル”は劇中、アーサーのピエロネームとして登場している。この曲の終盤では、「人生がよそよそしいものになった時、世界はバラバラになり、そこにはたった一つの心も存在していない」と歌われている。実は「My Name Is Carnival」を含む楽曲がヒットした後、ジャクソン・C・フランクは統合失調症と鬱病に悩まされ、貧窮状態に追いやられている。晩年は野宿者となった時期もあり、1999年に56歳の若さで肺炎が原因で死亡している。

劇場で流れた「スマイル」

アーサーがコメディアンとして初めて劇場でパフォーマンスを見せるシーンでは、彼の声が消え、ジミー・デュランテ (Jimmy Durante) 版の「スマイル (Smile)」(1965) が挿入される。ジミー・デュランテは1920年代から60年代にかけて活躍していたアメリカの有名なコメディアンだ。このシーンも『キング・オブ・コメディ』の有名なワンシーンを思わせる場面である。

「スマイル」という曲自体は、1936年にチャールズ・チャップリンが作曲したもので、マイケル・ジャクソンを始め、数多のアーティストによってカバーされている。なおトッド・フィリップス監督は、母が精神疾患で収容され貧困状態にありながらも後にコメディアンとして大成したチャップリンと、アーサーの姿を重ね合わせる発言をしている。『ジョーカー』の劇中には、チャップリンの『モダン・タイムス』(1936) が流れるシーンも登場する。

「スマイル」という曲の歌詞は「心が痛む時も笑って」「壊れてしまいそうな時も笑って」と、恐怖や哀しみを乗り越えて笑顔でいつづけるよう説く内容だ。そう、ここでの「スマイル」は笑っている観客を表現するものではない。人を殺め、職を失い、苦しい状況で生活するアーサーに「それでも笑え」と歌いかけるこのシーンは、残酷ですらある。この曲の最後には、「人生にはまだ価値があると思えるだろう。もし君が笑っていればね」という歌詞が繰り返し歌われる。

部屋で流れる二つの「That’s Life」

家に帰ったアーサーは、母をベッドルームに連れて行く際にテレビから流れるディーン・ケイ & ケリー・ゴードン (Dean Kay and Kelly Gordon) の「That’s Life」(1966) でステップを踏む。この場面では歌詞は流れず、この後フランク・シナトラがカバーした「That’s Life」が使用される伏線となっている。

トーマス・ウェインに拒絶され、虐待を受けていた過去や、隣人ソフィーとの関係も妄想だったことを知ったアーサーは、自らの手で母の息の根を止め、「マレー・フランクリン・ショー」に出演するための準備に取り掛かる。ついにジョーカーに“成る”のだ。ここで流れるのがフランク・シナトラ版の「That’s Life」だ。

歌われる歌詞は「それが人生だ。滑稽に見えるけれど」「この古き良き世界は常に回り続けてるんだ」「私は操り人形で、貧乏人で、海賊で、詩人で、人質で、王様」「うつむいた日も顔を上げ、私はレースに戻っていくんだ」。この曲はジョーカーの逮捕後とエンディングシーンでも使用される。映画『ジョーカー』とアーサーの人生を象徴する一曲なのだ。

“階段で踊る”シーンで「Rock ‘n’ Roll (Part 2)」

元同僚のランドルを殺害したジョーカーは、メイクと服装をバッチリ決めて街に出る。映画史にも残るであろう『ジョーカー』屈指の名シーン、“階段で踊るジョーカー”のBGMはゲイリー・グリッター (Gary Glitter) の「Rock ‘n’ Roll (Part 2)」(1972) 。ゲイリー・グリッターは往年のロックスターだが、児童売春と児童への性的虐待で繰り返し逮捕されている正真正銘の狂人だ。

放送画面が切り替わり「Spanish Flea」

マレー・フランクリンを殺害したジョーカーが「That’s life」と言いかけたところで放送画面が切り替わり、レイ・デイヴィス (Ray Davies)「Spanish Flea」(1966) の軽快なメロディーが流れる。状況の深刻さに全く似合わないこの曲は、ハーブ・アルパートが1965年に発表した原曲をカバーしたものだ。後に歌詞も付けられ、アニメ『ザ・シンプソンズ』(1998-) では、警察の機動隊やヘリコプターも出動する大騒動の中、父のホーマーが車中でスナックを食べながらのんきに「Spanish Flea」を歌い上げるシーンが登場する。

燃える街に「White Room」

ジョーカーがパトカーで連行されるシーンでは、UKロックバンド クリーム (Cream) の「White Room」(1968) が流れている。「黒いカーテンに閉ざされた白い部屋」「黒い屋根で覆われた国、黄金の道などなく、いるのは疲れたムクドリだけ」「私は哀しい時代に足を踏み入れた」と、ジョーカーの凶行が放送されたことで完全に闇に堕ちたゴッサムの状況を表す歌詞が並ぶ。
だが、それは同時に、復讐や死すらも救いにはならないと気付いたアーサーの心情を表しているのかもしれない。この後、スクリーンは病院の“白い部屋=White Room”で笑うジョーカーを映し出す。

エンディングはあの二曲

エンディングでは前述のフランク・シナトラの「That’s Life」に続いて「Send In The Clowns」が使用されている。劇中で流れたのとは逆の順番だ。「That’s Life」で、「それが人生だ。滑稽に見えるけれど」「うつむいた日も顔を上げ、私はレースに戻っていくんだ」と歌われた後、誰かを求めながらも認めてもらえない状況に「道化師を呼んで」と諦めの声を漏らし、最後には「邪魔しないで、道化師たちが着いたから」と告げる——。

このように、映画『ジョーカー』は音楽なしには語ることのできない作品だ。劇中で流れた音楽が持つ意味を理解した上で再度鑑賞すると、また違ったメッセージを発見できるかもしれない。

なお、『ジョーカー』のオリジナルサウンドトラックを作曲したヒドゥル・グドナドッティルが語った作曲秘話は以下の記事からご覧頂ける。

映画『ジョーカー』は2019年10月4日(金)より全国でロードショー。
また、映画『ジョーカー』のオリジナルサウンドトラックは、Watertower Musicより発売中。

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