『アイアン・スカイ』ティモ・ヴオレンソラ監督が語る「SFと政治」|VG+インタビュー

『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』が日本公開

「恐竜ヒトラー」が話題に

2019年7月12日(金)、ティモ・ヴオレンソラ監督最新作『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』がいよいよ日本で公開された。前作『アイアン・スカイ』(2012) 以来7年ぶりの新作、「ナチスが月の裏で生き延びていた」という前作の設定から更に進化した、「ヒトラーが恐竜に乗って攻めてきた」というキャッチーなコピーは日本でも大きな話題になっている。

 

一方で、『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』の魅力は、映画界のメインストリームに対する挑戦的な態度と、その映画哲学の下で練り上げられた世界観だ。例えば、本作の英題は『Iron Sky: The Coming Race』だが、サブタイトルに採用された「The Coming Race」は1871年に著されたエドワード・ブルワー=リットンの名作小説『来たるべき種族』の原題から採用されている。約150年前に発表され、世間に衝撃を与えたファンタジー作品から取り入れられた要素が、『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』では重要な役割を担うことになる。

タブーを恐れない作風

『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』はSFコメディ映画だ。ヒトラーやローマ法王、マーガレット・サッチャーに毛沢東ら、そうそうたる顔ぶれが揃い、タブーなしの冒険活劇が繰り広げられる。ドナルド・トランプ米大統領のそっくりさんが登場するプロモーション動画も話題となった。政治的なコンテンツを臆することなく投入し、歴史や現代社会の負の側面を笑い飛ばしながらも、最後には未来に進むための教訓を提示する――それがティモ・ヴオレンソラ監督の作風だ。

今回は、影響を受けたSF作品、タブーに挑むということ、政治や歴史との向き合い方について、来日したティモ・ヴオレンソラ監督に話を伺った。日本のSFファンへのメッセージ、そして次回作についての話題も飛び出すなど、盛りだくさんの内容のインタビューとなった。

ティモ・ヴオレンソラ監督インタビュー

――「アイアン・スカイ」という既存のシリーズに、『来るべき種族』という名作小説のタイトルを合体させるという発想には驚きました。

地球空洞説のリサーチをしていた時に、この1800年代に書かれた物語に素晴らしいコンセプトがたくさん詰め込まれていることを知りました。ブリルが地球の中心に住んでいて、彼らのエネルギー源がブレリアであるというような要素ですね。『The Coming Race』という名前は、サブタイトルとしても強い響きがあり、絶対に面白そうと感じさせてくれる名前だと思いました。

ワクワクするものがあったので『来るべき種族』からタイトルを含めていくつかの要素をお借りしました。もちろん、本作のプロットやストーリーはオリジナルのものです。

――その他に、『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』の制作にあたっては、どのような作品からインスピレーションを得たのでしょうか。

『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』は、「インディ・ジョーンズ」や『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』(1984)『ジュラシックパーク』(1993)『キングコング』(1976) といった、SF作品の中でも地に足のついた作品に影響を受けています。本作では、自分が子どもの頃好きだったアドベンチャー映画の要素をふんだんに取り入れています。

(C)2019 Iron Sky Universe, 27 Fiims Production, Potemkino. All rights reserved.

――前回来日された際には、『ガンダム』の富野監督と対談されました。『ガンダム』以外にもお気に入りの日本のSF作品はありますか。

たくさんありますよ。宮崎駿監督の作品、『風の谷のナウシカ』は何千回も観ました(笑)ロボット系の作品にも影響を受けましたし、今パッと浮かぶのは塚本晋也監督の「鉄男」です。特に二作目の『鉄男II BODY HAMMER』(1993) は何度も観ました。日本にはイカれた内容の作品がたくさんあって、例えば松本人志監督の『大日本人』(2007) はクレイジーで好きですね。

日本のことが好きな理由は、いつもSFで先に行っているという点なんです。アニメでは『AKIRA』『攻殻機動隊』といった作品が、ようやく海外で本当の意味で高い評価を得るようになってきましたが、すでに20年以上の時を経ていますよね。日本のSF作品は常に先を行っていますよ。もちろん「ゴジラ」も好きですし、挙げるとキリがありません(笑)私の子ども時代の半分は日本の作品に費やしました。

――日本のコメディは、あまり政治的な要素を持ち込まない風習があります。『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』のような政治的なコメディ作品をどのように楽しむことができるのか、アドバイスはありますか。

コメディ作品の政治的な側面というのは、とりわけ良質なSF作品にとっては、とても重要な要素です。昔のテレビシリーズの『スタートレック』など、SF作品の歴史を振り返ると、常に今私たちが生きる社会に対する建設的な批判や、人々が考えるところを描いていました。だから観客の皆さんにも、政治的なコメディを見る時にはそうした部分を見つけてほしいと思います。

政治的な作品というのは、今の世界について考えさせられたり、今の世界がこのまま続けばどんなことになってしまうのかという警鐘であったりするものです。特にSFは、政府や体制が作ったレールに対して、その方向性で良いのかということを考えさせる力を持っていると思います。

――『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』では多くの歴史上の人物が登場していますが、日本人を入れるプランはありましたか?

登場人物のリストを作っていた時、様々な可能性を模索しましたが、日本のキャラクターで成立させられるような良いギャグが思いつきませんでした。今回は第二次世界大戦関係のキャラクターが多すぎるという理由もあり、日本人のキャラクターは登場しませんでしたが、将来的にはあるかもしれません。

私の映画、ストーリーテリングの方法、扱っているトピック自体に、昔から見てきた日本の作品との繋がり、影響はあると思います。大切なのは、良質なストーリーとは何か、どのようにトピックにアプローチできるかということですね。

――日本が絡んでいないということで、日本の観客は比較的客観的に『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』を楽しむことができると思います。他方で、日本の観客は本作を通して、どのように歴史と向き合うことができるでしょうか。

 日本の歴史については、今の世代が自国の歴史を学び、理解することがとても大切なことだと思います。同時に、今の世代が新しい世代として新しい道を歩んでいるということも、とても素晴らしいことです。それはドイツも同じことでした。ヨーロッパ全体が1930年代、1940年代に起きたことと向き合う必要がありました。

今の時代に生きる私たちは、当時の時代の人々とは異なる人々なわけで、より良い人間であるための手段を知っているはずです。私はそこまで深く日本の状況と歴史を理解しているわけではありませんが、自国の過去に向き合い、そしてなるべく多くを知ろうとし、そこに過ちや恥ずべきことがあったのだとすれば、それは過去のこととして、場合によってはこの映画のようにユーモアを持って向き合うこともできるでしょう。

(C)2019 Iron Sky Universe, 27 Fiims Production, Potemkino. All rights reserved.

恐れれば恐れるほど、前に進むことは難しくなります。恐れないための最善の方法は、歴史を直視した上で、私たちはもう変わったのだと、それを笑いに変えるくらいの気持ちを持つことだと思います。

ドイツの方とも『アイアン・スカイ』について、ナチス絡みでこのような話になるのですが、多くの方がコメディにしてくれる映画監督がいてくれて良かったと仰ってくれています。何世代にも渡ってタブー視されてきた、「何もしちゃいけない」という空気が強かったので、私たちの世代から『アイアン・スカイ』やその他のナチスを扱ったコメディ作品が出てきて、「タブー視しないということは良いことだ」と言ってくれたんです。(監督の出身である) フィンランドはフィランドで嫌な歴史があるし、ドイツだってそうです。世界中に傷跡を残した戦争でしたからね。

――日本のSFファンにメッセージをお願いします。

『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』が皆さんにとって、今の社会について物申すようなSF作品を楽しむ、またはそうした作品の創作に取り掛かるきっかけになってくれればと思います。今、SF映画は大作ばかりになってしまっていて、とにかく人の気を悪くしてはいけない、アメリカのマーケットも中国のマーケットもハッピーにさせなきゃいけない、という状況です。これでは何もできません。

私たちが作るような小さな規模のSF作品は、意味のあるものを作っていきたいと思っていますし、日本にはそうした歴史があるので、これからも続けていってほしい。フィンランドをはじめとするヨーロッパの国々でもこうした作品が作られ始めていますから。ストーリーもMCUのようなスーパーヒーローの大作映画の他に、より小規模な作品だけれどしっかりメッセージを持った作品が皆さんに届くことは、大切なことだと思います。

――これは質問ではないのですが、ブログでロシア文学の『イワン・デニーソヴィチの一日』(1962) を読んでいると書かれていましたね。

実は次回作『アイアン・スカイ3 (アイアン・スカイ: ジ・アーク, 邦題未定)』のリサーチなんです。『イワン・デニーソヴィチの一日』という作品は、とても気に入っています。筆致が素晴らしいし、読んでいるだけで寒さ、飢え、不快感を感じるんですよね。英語で読んでいるのですが、ロシア語で読めたらと思うんです。聞くところによると、ロシア語版はよりグッとくるらしいんです。そうじゃなくても素晴らしい作品ですけどね。

次回作について今お話しできるのは、フィンランドと中国の共同製作作品であるということ、SF映画であるということ、ゆるく「アイアン・スカイ」の正史と繋がっているが全く異なる内容の物語になっているということです。制作は編集段階に入っているのですが、いつ公開できるかについてはまだお話できません。アンディ・ガルシア、ドアン・イーホンら、素晴らしいキャストに出演して頂いていますよ。

「タブーを恐れない」ヴオレンソラ監督の最新作

インタビュアーの目をまっすぐ見つめ、「タブーを恐れてはいけない」と力強く語ったティモ・ヴオレンソラ監督。その陽気で親しみやすい人柄とは裏腹に、その瞳の奥には確固たる信念が宿っていた。タブーを恐れないティモ・ヴオレンソラ監督が『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』で一体どのような物語を作り上げたのか、SFファンならずとも、ぜひ劇場でご覧いただきたい。

『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』 は、2019年7月12日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国で公開。

『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』
7月12日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
監督:ティモ・ヴオレンソラ
脚本:ダラン・マッソン、ティモ・ヴオレンソラ
出演:ララ・ロッシ、ウラジミル・ブラコフ、キット・デイル、トム・グリーン、ユリア・ディーツェ、ウド・キアほか
配給:ツイン
宣伝:スキップ
フィンランド・ドイツ・ベルギー/英語・ドイツ語/原題:Iron Sky : The Coming Race/カラー/デジタル/93分

齋藤 隼飛

齋藤 隼飛

VG+編集長。1991年生まれ。
社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。
編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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