『小松左京アニメ劇場』が初のネット配信
小松左京原作の初のアニメ作品であり、Netflix『日本沈没 2020』の登場までは小松左京の唯一のアニメ作品であった 『小松左京アニメ劇場』(1989)が、誕生から30 年を経て初のネット配信が実現する。
『小松左京アニメ劇場』は、今から30年以上前の1989年に、ビデオ化を前提としたテレビアニメ作品として製作されたもので、全国放送されることはなく、大阪の毎日放送の深夜枠におい て関西エリア限定で放送されていた。 『小松左京アニメ劇場』には、ミニアニメ27話が収録されているが、原作のショートショートは様々な書籍にバラバラに収録されており、文庫でも電子書籍でも読むことが困難となっている作品も存在する。
小松左京は、1962年にSF作家としてデビューを果たすが、それより前には学生漫画家として活動していた時期があった。 このため、SF作家になってからも、ビジュアルをイメージしやすい作品が多く、『日本沈没』『復活の日』といった劇場映画だけでなく、ドラマやコミック、ゲームなど様々な形で作品がビジュアル化されてきた。
しかし、なぜか最も相性がよいと思われるアニメだけは縁が薄く、アニメと実写の合成の『宇宙人ピピ』や、作品紹介などのダイジェスト的なアニメを除き、これまで小松左京のアニメ作品は、唯一『小松左京アニメ劇場』だけであった。
『小松左京アニメ劇場』とは
そんな貴重な作品が遂にネット配信でよみがえる。『小松左京アニメ劇場』は、バンダイ (現バンダイナムコアーツ) が企画した、小松左京のSFショートショートを原作とした全27話のアニメ作品だ。
1989年10月から翌年3月にかけて、毎日放送の深夜枠で放送され、その後ビデオ化もされた。制作はガイナックス、脚本は山賀博之。キャラクターデザインは、いしかわじゅんが担当した。声優は、名古屋章と富田靖子が、ナレーションや一般的な登場人物だけでなく、アンドロイドや宇宙人、さらに神様まで、全て二人だけで演じている。
『小松左京アニメ劇場』はDVD未発売作品であるため、今回の配信が本作を鑑賞する貴重な機会となる。
『小松左京アニメ劇場』はNetflixとdアニメストアで2020年6月26日(金)より配信開始。
SFショートショート週『小松左京アニメ劇場 原作集』も発売
また、前述の通り、『小松左京アニメ劇場』に収録される作品の原作ショートショートは様々な書籍にバラバラに収録されており、入手が困難なものも存在する。そのため、今回『小松左京アニメ劇場』の初配信に合わせ、電子書籍による原作集がリリースされることになっている。小松左京ライブラリは、「アニメと原作、どちらも手軽に楽しんでいただこうという趣向です」と説明している。
電子書籍『小松左京アニメ劇場 原作集』は、2020年6月1日(月)に角川文庫で発売。
「小松左京アニメ劇場」トピック (小松左京ライブラリより)
「小松左京アニメ劇場」の原作は、純粋なSF、ホラー、ナンセンスと、バラエティーに富んだ内容で、全部で二七作もありますが、原作ショートショートの多くはサンケイスポーツに掲載されていたため、肩の凝らない軽いタッチで、その上、SFマインド溢れる突拍子もないお話が多くなっ ています。 自動販売機から無尽蔵にオレンジジュースがあふれ世界がオレンジの海に沈むという「故障」 (1964年初出)は、中でも突拍子さが際立つ作品ですが、この物語を書いた二年後に、小松左京は、まるで物語をトレースするかのようなアクシデントに巻き込まれることになります。
七十年万博を成功させようと立ち上がった知的ボランティア団体の「万国博を考える会」創設メ ンバーの一人である加藤秀俊先生が、2018年に出版された小松左京の万博回顧録を収めた新潮 文庫『やぶれかぶれ青春記・大阪万博奮闘記』に書かれた解説で確認できます。
万国博とは、実際にどのようなものか理解することを目的に、1966年、当時開催準備中だったモントリオール万博の会場を視察するため渡航した際の愉快なエピソードです。
ニューヨーク・ヒルトンに泊まったときのこと。予算の関係で二部屋しかとれず、3 日に 1 度 1 人部屋でと言われたが、結局 3 人で夜な夜な酒盛りをして、床にごろ寝という仕儀になった。ウィスキーの水割りばかり飲んでいたが、バスルームのところに製氷機があって、なかなか便利だった。ところが小松さんがその製氷機をいじって壊してしまって、氷が止まらなくなってしまった。 どんどん出てくるから、梅棹さんと 2 人でバスタブにお湯をためて、必死で氷を運んだ。 だいたい、いつも何かをしでかすのは小松さんで、帰りに寄ったハワイでも、ムスタングを借りてわたしが運転したら、小松さんが何やらいじって、幌が走行中に上がってしまったり……。忙中におとずれた、なんとも愉快な珍道中であった。
新潮文庫『やぶれかぶれ青春記・大阪万博奮闘記』解説(加藤秀俊)より
梅棹忠夫先生、加藤秀俊先生という日本を代表する知性のお二人が、日本を遙か離れたアメリカ で、製氷機からエンドレスで吐き出される氷をバスタブのお湯で溶かし続けるという、ショートショート「故障」と同じような突拍子もないシチュエーションに巻き込まれてしまったわけですから、小松左京も本当に驚いたことでしょう。
- 原作初出一覧
SF番組 (1964年9月 サンケイスポーツ)
お仲間入り (1964 年 7 月 サンケイスポーツ)
新型貯金箱 (1965年1月 サンケイスポーツ)
かえってきた男 (1964年9月 サンケイスポーツ)
故障 (1964年11月 サンケイスポーツ)
工事 (1965年9月 サンケイスポーツ)
失われた宇宙船 (1965年6月 サンケイスポーツ)
胎内めぐり (1964年8月 サンケイスポーツ)
伝説 (1963 年 5 月 宇宙塵 67 号)
観月譜 (1964年9月 サンケイスポーツ)
倒産前日 (1964年12月 サンケイスポーツ)
初夢 (1965年1月 サンケイスポーツ)
夏の行事 (1965年7月 サンケイスポーツ)
星野球 (1964年8月 サンケイスポーツ)
怪獣撃滅 (1967 年 6 月 別冊宝石)
地下道 (1965年3月 サンケイスポーツ)
昔の義理 (1965年8月 サンケイスポーツ)
釈迦の掌 (1963年5月 別冊サンデー毎日)
辺境の寝床 (1967 年 1 月 別冊宝石)
さんぷる一号 (1962 年 7 月 宇宙塵 57 号)
四次元ラッキョウ (1966年7月 漫画読本)
空中住宅 (1965年1月 サンケイスポーツ)
運命劇場 (1968年1月 別冊小説新潮 冬季号)
手おくれ (1967 年 4 月 話の特集)
おちてきた男 (1967 年 6 月 話の特集)
忘れられた土地 (1965年3月 漫画読本)
コップ一杯の戦争 (1962 年 11 月 NULL8 号)
小松左京の幻のアニメ企画
*テレビアニメや劇場版アニメとして検討されながらも実現にいたらなかった企画。
【1965年・SF人形アニメ】
眉村卓先生、堀晃先生と共に、海外輸出を前提としたSF人形アニメの準備を進めるが、 パイロット版絵コンテ完成に終わる。
【1967年・立体アニメ「さよならジュピター」】
小松左京が東京ムービー新社の要請に応える形で立案したSF立体アニメ企画 。 アニメ化は実現せず、一九八四年に三浦友和さん主演の実写の特撮映画として公開。
【1985年・幻のSFジュブナイルアニメ「宇宙船ギャロップ」】
カナメプロダクションが企画した小松左京のジュブナイルSF『宇宙漂流』を原作としたテレビア ニメ。
【2000年・劇場アニメ『果しなき流れの果に』】
角川春樹さんが企画した富野由悠季監督による劇場版アニメ。
情報提供
小松左京ライブラリ
『日本沈没』もNetflixでアニメ化
なお、小松左京の代表作の一つでもある『日本沈没』(1973)を初めてアニメ化した『日本沈没 2020』は2020年7月9日(木)よりNetflixで配信を開始する。詳細は以下の記事からご覧いただける。