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Kaguya Planet、四周年!
VGプラスの運営するSFのウェブマガジンKaguya Planetは、2020年12月に活動を開始し、今月で4周年になります。今年は、毎月のSF短編小説の配信に加えて、Kaguya Planetのサイトのリニューアル、紙と電子のマガジン『Kaguya Planet』No.1〜No.3の刊行、「気候危機」「パレスチナ」「食」「プラネタリウム」と四つの特集の開催など充実した一年でした。
またKaguya Booksでは、糸川乃衣『我らは群れ』、『SF作家はこう考える 創作世界の最前線をたずねて』、『野球SF傑作選 ベストナイン2024』、『トウキョウ下町SFアンソロジー:この中に僕たちは生きている』を刊行しました。
Kaguya Planetに会員登録してくださっている皆様、作品を読んでくださったり感想をSNS等にあげてくださった皆様、拡散にご協力くださった皆様、そして素敵な作品を寄稿してくださった著者の皆様、様々な形でKaguya Planetを支えてくださった皆様に心から御礼申し上げます。
Kaguya Planetは2024年も珠玉の短編小説を掲載していきます。1月からは特集「おじさん」を開催。Kaguya BooksからもSF書籍を刊行予定です。これからもKaguya Planetをよろしくお願いいたします。
この一年間で掲載した全コンテンツと、これまでに掲載した全コンテンツを紹介します。読み逃している作品やインタビューなどがありましたら、これを機にぜひお読みください!
2024年に配信したコンテンツ
特集「プラネタリウム」(現在、先行公開中!)
南木義隆他「星と巡り合う者たち」
西暦2103年、人が食糧のために人を狩る、荒廃しきった世界。少女モミ子は旅の途中で、ひとり野営を続けている、とある老人と出会う。モミ子の旅の目的をきいた老人は、かつてまだ星が見えた時代の、2人の少年の恋物語を話しはじめる。 惑星のようにひととき巡り合う者たちが思い出を手渡してゆく、厳しくも優しい物語。
田畑祐一「マッチングアプリ」
同窓会で天文部時代の友人に教えられた、「探し求めてた人と100パーセントマッチする」という触れ込みのマッチングアプリ「ミルキーウェイ」。中学時代の想い人・吉岡を忘れられず、期待せずに「ミルキーウェイ」に登録した主人公は、「シリウス」「ベガ」「アンタレス」という3人の女性とマッチする。果たしてこの中に、吉岡はいるのか──。
早海獺「袋のなかはビッグバン」
なんの変哲もない公営のプラネタリウム〈ピアネータ山縣〉のグッズショップには少しヘンテコなグッズが置かれている。ハグすると逃げていくパウダン星人のぬいぐるみ、溶けるエイリアン靴下、無重力ピアス……。そして本日届いたのは、入荷を待ち望んでいたスナック菓子!
鬼嶋清美「プラネタリウム小説いろいろ」
日本で初めてのプラネタリウム小説って? 手塚治虫もプラネタリウムを見ていた? SFのなかでプラネタリウムはどんな役割を果たしているの? これからのプラネタリウムはどうなっていく? 日本を代表する天文機器メーカーに勤務し、日本SF作家クラブの会員でもある鬼嶋清美さんが、日本のプラネタリウム史とプラネタリウムが登場する小説をたっぷりご紹介!
特集「食」
エフゲニア・トリアンダフィリウ「ボーンスープ」(訳:紅坂紫)
料理とお菓子作りの名人である祖母の家にはいつも砂糖たっぷりの美味しいギリシャ菓子を求めて子どもたちが集まっていた。しかし実の孫であるディナにだけは、祖母はお菓子を決して食べさせず、かわりに得体の知れない骨を煮込んだスープや羊の脳みそ料理を食べさせるのであった……。
紅坂紫「鬼姫と絵師」
その村には、「女は人前で食べてはならない」という掟があった。村で唯一の絵師である女も掟を守り、一人で部屋に籠り、口を薄く開けて日々の飯を食べ、生活のために絵を描いて暮らしていた──。「食べる」という行為の生々しさ、そして生きるために食べることの美しさを描いた短編。
清水裕貴「美しい腸のための生活」
健康を維持することは、しっかりした大人なら当たり前にやるべきことで、それを怠るのは怠惰? 食と健康と循環と自律と資本主義などをめぐる、スリリングなエッセイです。
特集「パレスチナ」
ズィヤード・ハッダーシュ「ここの外では」(佐藤祐朔訳)
物語の語り手は〈書き手〉に、外の世界について尋ねる。何かが崩れる鋭く荒々しい音や、人々の叫び声はなんなのか。祈りの声は誰のためのものなのか。外で起きていることを語り手は知りたいと思い、〈書き手〉に嗅覚や視覚などの感覚を求める。徐々に明らかになっていく、外の世界でのできごと。その光景は、その音は世界にとってどんな意味を持っているのか。何が起きていて、語り手をどんな運命が待ち受けているのか。短くも切実な物語。
ソニア・スライマーン「ムニーラと月」(岸谷薄荷訳・佐藤まな監訳)
舞台は遠い昔、パレスチナの涸れ川に抱かれた村。村を見下ろす柘榴の木が月明かりに照らされて美しい夜に、ジンニーエ(女性のジン)のムニーラは月を相手に嘆いていた。「地上にも、地下の世界にも、私と恋人になってくれる女性はいないの」。すると、どこからか「私がいるよ」という声が聞こえてきて……。愛を求める心、自分のセクシュアリティを肯定して生きていくことに対して勇気をもらえるロマンタジー。
タスニーム・アブータビーフ「継承の息吹」(岸谷薄荷訳・佐藤まな監訳)
大気汚染が深刻化し、パーソナルIDが付与されたガスマスクである「ライフマスク」が手放せなくなった未来。ガザに暮らす少年アフメドは、とある「復讐」を果たすため、町で工務店を営む男性ユーセフのもとを訪れ、工務店で働きながら機会を伺っている。ある日、終業後のユーセフのあとを尾けたアフメドは、彼の秘密を目にすることとなる……。
特集「気候危機」
エラ・メンズィーズ「雨から離れて」(川崎遥佳 訳)
環境問題が「解決」して8年後のルワンダで暮らすケーザとママ。お使いの帰りにこっそり海に立ち寄ったケーザはウミガメに出会い……。より大きな問題を解決するために捨象されてしまう文化や言葉に丁寧に目を向けた、希望の物語。
化野夕陽「春の魚」
涛也はある日、漁師の伯父からサワラが獲れなくなると聞く。漁業の町に生まれ育った涛也だったが、温暖化によって身近な魚が獲れなくなるという話を聞いたのは初めてだった。高校からの帰り道、夕凪の時間に、涛也は干拓道路で不思議な出会いを果たす──。
津久井五月「われらアルカディアにありき」
全財産の4分の3の〈ヒツジ〉を感染症で失ったケンは、友人のケヴィンの家に招待される。普段はおよそ目にすることのない肉汁の滴る上等な肉とワインによるもてなしに戸惑うケンに、ケヴィンは思わぬことを口にする──。
特集以外のコンテンツ
鈴木林「なく?」
シンプルな見た目が逆に目立つ私の作品は教室で注目を集め、みせてみせてのつらなりだった。だからどや顔の私は、ホウヨウが乱暴にキューブをうばうのを止められなかった──。ホラーゲームをめぐる、夏にぴったりのちょっと怖いお話。
牧野大寧「城南中学校生徒会役員選挙『カレーVSラーメン』」
きっかけは些細なことだった。とある木曜、城南中学校の給食の献立が間違って印刷されており、ラーメンが出てくると思っていた生徒たちの前に配膳された給食がカレーだったのだ──。
【連載】蜂本みさ『遊びの国のモシカたち』
カモノハシのぬいぐるみモシカと、仲良しの女の子ミミの物語。嘘でほんとなごっこ遊びの世界と想像力豊かなミミの物語を、モシカの視点から語ります。ぬいぐるみと暮らしている皆さん、ぜひ。
SF作家対談:天沢時生×水町綜
SF作家の天沢時生、水町綜の対談形式のインタビューを開催。インタビューのテーマは「不良とパンクとSFと」。不良とパンクの出てくるSFという共通点を持つお二人に、不良やパンクの魅力やこれまでの執筆の来歴などをお聞きした。
マガジン『Kaguya Planet』
『Kaguya Planet vol.1 気候危機』
特集:気候危機
気温上昇、海洋汚染、エネルギー問題など、地球環境と人間や生物たちに大きな影響を及ぼしている気候変動。
身近な生活の中でも感じられるほどの変化が顕在化し、早急な改善や解決が叫ばれる一方、さまざまな社会問題と絡み合っている複雑な問題でもあります。フィクションや批評を通して、気候危機が抱える〈交差性〉の一端をのぞき見てみませんか。
⚫︎小説
化野夕陽「春の魚」
津久井五月「われらアルカディアにありき」
エラ・メンズィーズ「雨から離れて」(川崎遥佳訳)
⚫︎ブックレビュー
堀川夢 アンナ・カヴァン『氷』
⚫︎コラム
鯨ヶ岬勇士「バルタン星人と気候危機〈二〇億三〇〇〇万人の移住〉」
齋藤隼飛「気候危機の時代のSF映画」
⚫︎インタビュー
ゲーム『Rise of the Ronin』英語版 高杉晋作役 リック・クマザワが語るレプリゼンテーション
映画『ペナルティループ』監督・荒木伸ニ 俳優・山下リオ
⚫︎PICK UP 『流転の地球 ─太陽系脱出計画─』コラム
サイズ:A5
ページ数:64ページ
一般価格:1650円(税込)
ISBN:978-4-911294-00-0
『Kaguya Planet vol.2 パレスチナ』
特集:パレスチナ
イスラエルによる、70年以上にわたるパレスチナへの迫害と虐殺の歴史。その惨状を招いてしまった責任の一端は、植民地主義や深刻な人権侵害をずっと見て見ぬふりしてきた国際社会にあります。
日本でSFに携わるメディアとして果たすべき責任は何か。そう考えて、これまで日本にあまり届けられてこなかった、パレスチナ人作家、パレスチナにルーツのある作家のSF・ファンタジーを翻訳します。
コンテンツ
⚫︎小説
ズィヤード・ハッダーシュ「ここの外では」(佐藤祐朔訳)
ソニア・スライマーン「ムニーラと月」(岸谷薄荷訳、佐藤まな監訳)
タスニーム・アブータビーフ「継承の息吹」(岸谷薄荷訳、佐藤まな監訳)
牧野大寧「城南中学校生徒会役員選挙『カレーVSラーメン』」
⚫︎コラム
井上彼方「SFとイスラエルとパレスチナ」
堀川夢「英語で読むパレスチナのSF」
齋藤隼飛「プレイヤーへの期待、その裏にあるキュレーターの責任」
鯨ヶ岬勇士「スーパーヒーローはどこにいるのか。それはあなたかもしれない。」
⚫︎PICK UP
『野球SF傑作選 ベストナイン2024』
『SF作家はこう考える 創作世界の最前線をたずねて』
⚫︎インタビュー
映画『カミノフデ 〜怪獣たちのいる島〜』総監督・村瀬継蔵&特撮監督・佐藤大介 インタビュー
SF作家対談 天沢時生×水町綜「不良とバイクとSFと」
⚫︎イベントレポート
IMAGINARC 想像力の音楽
⚫︎VGプラスの活動報告
サイズ:A5
ページ数:108ページ
一般価格:1650円(税込)
ISBN:978-4-911294-01-7
『Kaguya Planet No.3 食』
しあわせな食卓?
食べることは生きることであり、同時に奪うことでもあります。食について掘り下げていくと、当たり前すぎて普段意識することの少ないこの両義性と暴力性から目を逸らすことができないことに気がつきます。そしてこの暴力性は、食をめぐる社会問題とも結びついているように思います。「しあわせな食卓?」をテーマに食の両義性について考えます。
コンテンツ
⚫︎特集に寄せて
紅坂紫「しあわせな食卓?」
⚫︎小説
エフゲニア・トリアンダフィリウ「ボーンスープ」(紅坂紫訳)
紅坂紫「鬼姫と絵師」
鈴木林「なく?」
⚫︎エッセイ
清水裕貴「美しい腸のための生活」
⚫︎ブックレビュー
堀川夢 リチャード・ブローティガン『西瓜糖の日々』
⚫︎コラム
齋藤隼飛「おいしくなったチミチャンガ ヒーロー達の食文化」
鯨ヶ岬勇士「チョコミントベーグルと大豆ミート」
井上彼方「食べることがもたらす情動」
⚫︎PICK UP
『トウキョウ下町SFアンソロジー:この中に僕たちは生きている』
『ヴェノム:ザ・ラストダンス』
⚫︎イベントレポート
グラスゴー・ワールドコン(世界SF大会)レポート
第2回カモガワ奇想短編グランプリ
⚫︎VGプラスの活動報告
サイズ:A5
ページ数:90ページ
一般価格:1650円(税込)
ISBN:978-4-911294-02-4
2023年以前に掲載したコンテンツ
『Kaguya Planet No.0 月』
これまでにKaguya Planetに掲載した月に関連する短編小説を収録し、堀川夢さんによるブックレビュー、鯨ヶ岬勇士さん、齋藤隼飛さんによるコラム、そして池澤春菜さんへのインタビューを掲載しています。無料で読むことができます。
書き下ろしSF短編小説
揚羽はな「また、来てね!」
主人公のエミは幼い娘のナオを地球に残し、長期の宇宙探査の任務に就いていた。エミは15年ぶりの帰還を果たすが、そこで待っていたのは、再会したナオからの意外な言葉だった。
藤井太洋「まるで渡り鳥のように」
2119年、宇宙に居留し春節に大陸へ帰省する華人は「華㝯」と呼ばれるようになっていた。浙江大学自然工学研究所に所属する日比野ツカサは、軌道居留施設で生物の移動に関する研究に取り組んでいる。そのツカサの元に、ある知らせが届く。
正井「宇比川」
間違えたバスにずっと乗り続けている私。親戚の集まりに辿り着きたくない私は、「人魚寺」と呼ばれるお寺を目指していた。人魚伝説が伝わる宇比川町での不思議な物語。
蜂本みさ「冬眠世代」
冬が来れば、貧しい熊は冬眠しなければならない。工場で働く熊のツブテは毎年冬眠を繰り返してきた。冬眠しないで済む裕福な熊との差が寂しい。でもこの冬は、スグリと一緒に夢にもぐれる。
佐伯真洋「月へ帰るまでは」
そこは“植物船”が行き交う世界。船は都市となっていた。巨大な植物船コロニーに乗る梅の船の民・トーリャと柳の船の民・リョウは、ある日、思いがけない出会いを果たす。
坂崎かおる「パラミツ戦記」
栗栖隊長が率いる「風雪隊」は、ビルマのペグーを抜け、シッタン河を目指して行軍を続ける。厳しい行軍に挑むこの小隊は、一体どんな任務を背負っているのか。夜の闇を見つめる栗栖隊長の眼は、いつも何かを捉えていた。
坂崎かおるさんによる「パラミツ戦記」の姉妹編SF短編小説「常夜の国」が『SFG vol.3 アジア特集』に掲載されています。
冬乃くじ「国破れて在りしもの」
新しい市長が掲げた政策は、次々と街の形を変えていった。施設が取り壊され、また建設されていく。それを見守る人々、そして抗う人々。変わりゆく街を待つ運命とは……
オーガニックゆうき「チグハグバナナ」
ある日突然、私の部屋に現れた「バナナ」は、世界を、そして私の生活を壊していく。「バナナ」は、一体何を求めているのか。チグハグな「バナナ」との奇妙な物語。
麦原遼「それはいきなり繋がった」
ある春の日、世界は左右の反転した鏡の世界と繋がった。シンメトリーな二つの世界には、一つ大きな違いがある。鏡の世界との境界となった僕の町は変貌を遂げていく。
大木芙沙子「かわいいハミー」
博士の作った最高傑作のヒューマノイドロボット〈ハミー〉。博士に言われた通り、今日もアタマを働かせて人の役に立つ方法を考える。しかしそんなハミーにはうまく稼働しない機能があった。
赤坂パトリシア「Linguicide,[n.]言語消滅」
ある梅雨明けの火曜日、日本時間19時46分。異変の兆候は、海外の大都市で発見された。日本人の配偶者、友人、同僚が忽然と消えた、という報告が相次いで上がったのだ……。
大竹竜平「祖母に跨る」
ある寒村都市で、故人の仏壇を夜な夜な動かす奇妙な供養が流行っている……。仏壇仏具のベンチャー企業の社員、黒田から亡き祖母の家に呼び出された私は、ある記録動画を見せられる。
宮内悠介「偽の過去、偽の未来」
子どもの頃父がわたしに見せてくれたもの、それは一言であらわすならば、未来だった。大人になったわたしは暗号通貨の研究を始める。成果が認められ、今度は私自身が未来予測を求められるようになるが……。
原里実「ひかる水辺のものたち」
スウが小さな頃から、ユーリはずっといちばん近くにいてくれた。とっておきの昼寝の場所も、ウクワの実の食べ方も、全部ユーリが教えてくれた。でもそんな大好きなユーリのからだが少しずつ変化を遂げていく……。
もといもと「境界の街 〜僕らの極秘計画〜」
こないだの岳彦の計画は、金魚に鼻くそを食わせるというロクでもない実験だった。今度の「極秘計画」は僕らの街の巨大化したダチョウ、ミュオを巡るものだ。ところがこの極秘計画は思わぬ展開を見せて……。
こい瀬伊音「DNAR」
DNARとは、蘇生に成功することがそう多くない中で、患者本人または患者の利益にかかわる代理者の意思決定を受けて心肺蘇生を行わないこと。高齢者医療に悩む医師とDNARをめぐる、ある夜の物語。
宇露倫「チャールズと約束のメカニック」
ヒューマノイドのアリスは、腕の立つ修理工で客からの信頼も厚い。今日も弟子の少年チャールズと一緒に、ヒューマノイドのパーツを修理している。だが街には不穏なニュースが流れていて……。
一階堂洋「腐敗を抑えるために今後もおそらくほぼ何もなされないのはなぜか」
軽トラで配送の仕事をしている最中の私にふかふかの姉が言った。—お父さんを冷やそうと思う。冷却処置による延命治療を希望している父の選択を、周囲の人々はどう受け止めるのか。
一階堂洋「あどけない過去の領土」
『対話処理サービス』の職員ミナイは、父親と二人暮らしをしている引きこもりの少女、碧素に接近する。ローブナーという社会交流基盤に没頭している碧素には、ある特殊なスキルがあった。
相川英輔「愛の証明」
ワームホールの有人探査のためにモルモットとして育てられた亜里沙たちは、学んでいない感情がたくさんある。愛についてもそうだ。健人とこうして手を重ねている時間は、愛の証明なのだろうか……。
SF小説×SF短歌
文月あや「パラサイト・ダーリン」
マッチングアプリで出会ったナオタカは、話術が巧みで顔も私の好みで何だかいい匂いもする。デートを重ね、ホテルに行ったが、その時ナオタカが口にしたのは「ごめん、俺、『きせいちゅう』なんだよね」という意外な言葉だった……。
穂崎円「バースデー」
人間社会に密かに進出している寄生虫。かれらの間では、生きていくのに必要な知恵やルールが書かれたある「資料」が受け継がれている。寄生虫視点で描かれた連作短歌です。
大木芙沙子「二十七番目の月」
妻は足の爪を切っている姿をけっして見せてくれなかった。夫である楽々佐一は妻が爪を切るパチンという音にいつも耳をそばだてながら、それを見せてくれとは頼めずにいる。だが、チャンスは思わぬところから訪れて……
溝渕久美子「ほぐさんとわたし」
アメリカ・ペンシルバニア州にあるピッツバーグ大学に語学留学していたわたしは、近所の書店で一体のぬいぐるみに出会う。クマにもリスにも見えるそのぬいぐるみは、丸い耳や黒い小さな目がなんとも素朴な風貌だった。
東ショア第四区警察署生活安全課員のデジロとその相棒である生体マ・フのヴィオラは、とある老人の聴取に来ていた。その老人は二一世紀のロボット革命における主要な起業家のひとり、プリチャード氏だ。
谷脇栗太「くちなし山の天狗様」
くちなし山にある全寮制の学校くちなし園に住む生徒たちの足には、〈天狗痣〉と呼ばれる縞模様のあざができる。くちなし園で暮らす匠にとってはそれは山の子供である大切な証であり、心の拠り所なのだが……。
王谷晶「東京都稲城市に次元の扉が開いて十年が経った」
東京都稲城市に次元の扉が開いて十年が経った。「未来シアターINAGI」で働く藤沢ヒロシは今日も、味気ない作業着とキャップをかぶって案内係をする。派手なコスチュームよりもこういう格好のほうが、かれらにウケがいいのだと教わった。
冬乃くじ「猫の上で暮らす一族の話」
夜、人間の隣で一ぴきの猫が眠っている。とちゅう、寝返ったり、ゴムのように伸びたりし、それから驚異的なやわらかさで丸くなって一息ついたとき、猫の額に住む小さな者と、猫の腹に住む小さな者が挨拶をする。
蜂本みさ「せんねんまんねん」
2045年、大阪。小学校で親友を怒らせてしまった亀山ちよりは、相談できる相手もおらず、<対話のラッパ>に悩みをぶちまける。すると返事が聞こえてきて……。交差する過去と未来の大阪弁。交差する過去と未来の戦争——。
かかり真魚「夜盗花」
近所の吉崎さんに教わった通りに獲れた茄子を酢の物にすると、夫は気に入ったらしかった。茄子をつまみ、ビールを飲みながらナイターを見る夫と話していると、台所からさやが出てくる——。
伊藤なむあひ「ひとっこどうぶつ」
コピーライターのカッパは今日も自分の名前を冠したお店に出勤し、作業台に向かう。短冊を自分の正面に置いて目を閉じ、これまで学習してきた内容を思い浮かべ、ふさわしいと思えるものに的を絞ると手に持った筆ペンを走らせる——。
なかむらあゆみ「ぼくはラジオリポーター」
ミチは、仕事仲間からの信頼があつく、突っ込んだリポートによって多くのリスナーに愛されたラジオリポーターだった。とある事件をきっかけにラジオリポーターを引退したミチだったが、ラジオリポーターにあこがれる少年ルルの手紙を受け取り、二日間限定の復帰を遂げる——。
吉羽善「影あそび」
先日絵を描く友人から聞いたのだが、実は印刷用のインクには影があるらしい。デザインやイラストをやっている人の間ではそれなりに知られているというその話はとても魅力的で──。
吉羽善「五時の魍魎」
「ノートパソコンの誤字にお悩みでいらっしゃるでしょう」。ある日「僕」の家を訪ねてきた訪問販売業者。パソコンやスマートフォンの誤字を減らすサービスを販売しているという。半信半疑ながらも好奇心から業者の話を聞いていた「僕」だったが──。
翻訳SF短編小説
トシヤ・カメイ「ピーチ・ガール」(訳:勝山海百合)
あなたの両親は、あなたを小さな桃型の宇宙船に乗せて地球へと送り出した。鬼の脅威を前に、“ピーチ・ガール”としてグリッドで戦うことを決意したあなたは、仲間集めに取り掛かる。
D・A・シャオリン・スパイアーズ「虹色恐竜」(訳:勝山海百合)
チャットアプリ「ララ」で出会った上海のシィと河北のポン。クリスマスにはプレゼントを贈り合い、バーチャルデートを重ね、たとえ会えなくても二人の未来は明るいと思っていた。
ユキミ・オガワ「町の果て」(訳・解説:大滝瓶太)
町のはずれにある結婚相談所に訪れる人たちは皆、少し奇妙な要望を伝えてくる。それでもどこか憎めないクライアントのリクエストを私は一つずつ叶えていくが……。
アヴラ・マルガリティ「ミツバチたちの死」(訳:日本橋和徳)
過保護な両親と暮らすサラ。サラのオンライン友だちアナスタシアはミツバチの個体数激減について論文を書いているのだが、サラの家の裏庭には多数の蜂が飛んでいる。疑問を持ったサラは、ある行動を起こす。
ジョイス・チング「まめやかな娘」(訳・解説:紅坂紫)
若いアラーナがどんなに才能豊かで優秀でも、仕事に没頭している多忙な父親は一向に振り向いてくれない。そんな父親を振り向かせるために、アラーナは一つの計画をたてた。
L.D.ルイス「シグナル」(訳:勝山海百合)
巨獣ビーストによって人類の大半が滅ぼされた。残っているコロニーでは、子どもたちがビーストと戦う”捨て駒”として使われている。おんぼろ戦闘メカと一緒に大陸の端に配備された少女兵、シグナルを待ち受ける運命は……。
R.B.レンバーグ「砂漠のガラス細工と雪国の宝石」(訳:岸谷薄荷)
雪国に住む宝石職人のヴァドレイは商人から雫型の小壜を買う。ヴァドレイが、その小壜を作ったガラス細工の職人マルに手紙を送ったことから、遠く離れた二人の交流が始まる。
ジェンダーSF特集
Kaguya PlanetのジェンダーSF特集では、「魔女」「ケア」「おばあちゃん」の三つのトピックにスポットを当てて、社会のシステムや人々の価値観に広く重層的に根を張っているジェンダーについて、SF的な想像力を働かせた作品と論考を掲載しました。
高山羽根子「種の船は遅れてたどり着く」
彼女たちが移住のために『種の船』に乗っていたのは、人類がまだ狩猟と採集による生活をしていた時代の話……。記録されず、いなかったことにされた女性たちの姿を、SF的想像力で浮かび上がらせる短編小説。
近藤銀河「SFの中で踊る魔女 —未来をフェミニストとして生き延びるために—」
SF作品の中で、性差別や社会のシステムに抗い、怒りを抱えてきたものたちはたくさん描かれてきた。そんなSFの中にいる魔女的な人々を語り、社会を動かす魔女のパワーを伝えるエッセイ。
正井「優しい女」
IKEAが発売した単機能AIは、当初は顧客対応を目的としていた。自分と顧客のやり取りを学習させ、近似した会話を可能にする。これを別の用途で使う人々を見つけたのは三ヶ月ほど前だ。彼らはそれに、義理の両親や老いた親とのやり取りをさせていた。
なかむらあゆみ「玉田ニュータウンの奇跡」
フヨさんとハルさんは「ニュータウン熊原」の一角に住んでいる老姉妹だ。客商売を生業にしている二人が何もよりも大切にしているのは、庭でサマーベッドに横たわり日光浴をする、二人だけの「補給」の時間だ。
ジェーン・エスペンソン「ペイン・ガン ある男のノーベル賞授賞式に向けたメモ」(訳:岸谷薄荷)
自分の心の痛みがどれほど大きいか、なんとか他人にわからせたい男は、自分の痛みを人に複製するペイン・ガンを発明する。男のしんどさとそのケアはどこへ向かっていくのだろうか……。
虫太「上と下」
ドイツに働きにきている移民労働者アルマンは、ある日仕事に入っていた工事現場で事故に遭う。後遺症によってねじれてしまった世界から、アルマンに見える景色とは…
…。M.C.エッシャー「上と下」がモチーフになったケアSF。
シェアード・ワールド作品
Kaguya PlanetとSFGのコラボによるシェアード・ワールド企画では、枯木枕さんによる姉妹編のSF短編小説をKaguya PlanetとSFGに掲載。また、世代を経るごとに身体が脆くなっていく世界を舞台にSF短編小説を公募しました。
枯木枕「となりあう呼吸」
子供をうむには適さない土地でも子供はうまれる。その日その街で分娩室にはいった親子は二組だけだった。ひとりは夕暮れの始点にうまれ、もうひとりはぼやけた陽を西の地平がじゅうぶんにまきとり終えたあとにうまれた。
暴力と破滅の運び手「灰は灰へ、塵は塵へ」
人間の塵から硝子を作っている工場で働くヨハンは、同僚たちのラジオ代わりに仕事をしながら歌をうたう。兼業先の歌劇場の仕事はハードだが、ヨハンには一つの楽しみがあった。
野咲タラ「透明な鳥の歌い方」
その鳥は山のふもとに広がる白い霧の中から生まれる。霧ははじめ小さな粒である。となりあう粒がくっつき合い、大きくなった粒の表面から翼が生えてきて鳥になる。そのうち一羽が翼を羽ばたかせ、奥に続く森に向かう。
笑い×SF特集
SF小説の中には、思わずクスリと笑ってしまうような作品がたくさんあります。人間が何かを面白いと思った笑ったりするのは何故なんだろう、そしてそれはどんな作用を持っているんだろうということを、SF的な想像力とSF小説を通して考えました。
苦草堅一「天の岩戸の頻繁な開閉」
弟スサノオの乱暴狼藉に耐えかねたアマテラスは天の岩戸に引きこもり、世界は闇に包まれた。アメノウズメの裸踊りと神々の策略が功を奏し、姿を現したと思いきや……。
九月「冷蔵庫を疑う」
考えれば考えるほどに、冷蔵庫は珍奇だ。中学生のある晩、冷蔵庫の珍奇さについて考察を巡らせた僕は、冷蔵庫を疑い始める。
『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』より
『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』(Kaguya Books)に収録されている2作品を、Kaguya Planetの会員向けに限定公開しています。
正井「朧木果樹園の軌跡」
さかなのふねに乗って、新しい星へと移住していく生き物を描いた物語。 かれらがふねとともに経た年月の軌跡は、歌になって語り継がれていく。ウズミビ、アリソ、アリョウ、オグルス、アルテオ、クルルケ……。
千葉集「擬狐偽故」
生きたまま襟巻きになる狐、エリマキキツネの物語。 日本に帰国したくないわたしは、ホテルのバーで一人の女性に出会う。その女性は巻いているというよりは、巻かれている。それが最初の印象だった……。
果樹園の出てくるSF短編小説
Kaguya Planetでは、『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』(Kaguya Books)の刊行とタイアップして、「果樹園の出てくるSF短編小説」を公募しました。
坂崎かおる「アネクドート」
19世紀のアメリカの科学者サミュエル・ピープルズ、通称サムは、兄の営む果樹園の経営を申し訳程度に手伝いながら、水星軌道の内側にあるとされる未知の惑星バルカンを発見するために毎日望遠鏡を覗き込んでいる。
阿部屠龍「父のある静物」
何かを磨き清めると汚れは別の場所に移るけれど、汚れの総和は変化しない。農業も一緒だ。土の中の養分の偏りが、野菜となる。そんな「偏り」を自覚しながら生きてきた娘は、父に問うてみたいことがあった。
マイクロノベル
Kaguya Planetでは2021年7月に特別企画「二百文字怪談」を開催しました。5名の執筆者の方に、200文字の怪談を1編、他の人の200文字怪談から一単語を選んで執筆した200文字怪談を1編執筆していただきました。緩やかなつながりと広がりを持った10編の怪談です。
北野勇作「立っている」、剣先あやめ「オマイリ」
剣先あやめ「オハライ」、堀部未知「照明係」
堀部未知「49」、不破有紀「ふわふわ」
不破有紀「仮面舞踏会」、伊藤螺子「むじな」
伊藤螺子「警告! 読め!」、北野勇作「トイレの怪談」
犬と街灯主催の島アンソロジー『貝楼諸島へ/より』参加作品
Kauya Planetでは、犬と街灯の主催する「島アンソロジー」とコラボしました。島アンソロジーは架空の諸島・貝楼諸島を舞台に物語、紀行文、伝承、詩歌、観光案内…などを集めたアンソロジーです。
f3hito「archipelago」
灯台をモチーフにした英語の図形詩。f3hitoさんは図形詩を「英語を楽しむきっかけになれば」と思って書かれているそうです。形も詩もお楽しみください。
北野勇作「ひゃくじま」
100文字の島を集めた諸島SF。海に浮かぶ島の間を巡っていくような不思議な感覚の連作マイクロノベル。ループするGIFでお読みください!
佐々木倫「風の鳴る島」
高尾君のテラリウムには雨が降る。私もそんな特別なテラリウムがほしいのに高尾君は取り合ってくれない。怒った私は家を飛び出して見知らぬ路地に迷い込み……。
虫太「わたしが島ならことばは海」
渡ヶ島に住む憲二は、しばらく甥の透の面倒を見ることになった。児相の職員は「手のかからない子」と言っていた透だが、浜辺ではポツポツと物語を聞かせてくれる。
奈良原生織「エスケープ・フロム」
私はティーリガからの最初の留学生としてその国に渡った。身長の高さから一目で偉民とわかる私に向けられたのは、『ガリバー旅行記』の小人の槍ではなくてカメラのレンズだった。
伊藤螺子「浦島さんによると世界は」
おととしの夏に飲み会で出会った浦島さんは、飲み会のすぐあとに辞表を出して会社員から島となった。 そんな浦島さんがわたしに語ってくれた、もうすでにない島々の物語。
星野いのり「ル々の花」
樹海、くらげ、かみなり、虹、鳩、蛇、蛸、猫……くるくるとモチーフが展開するSF俳句連作。架空の諸島、貝楼諸島が舞台となっています。
穂崎円「ぱんげあ」
「わたくしが島だった頃」で始まるSF短歌連作。 いくつもの「わたくしが島だった頃」から続く短歌で浮かび上がってくるのは、島としてのわたしの記憶か、あるいは…?
インタビュー・レポート・アンケート
勝山海百合 vol.1:「海外の読者は実在する」勝山海百合、2020年を振り返る。相次ぐ英訳、感じた変化
勝山海百合 vol.2:勝山海百合が語る、てのひら怪談・かぐやSFコンテスト・期待の作家「豊かでござんすよ。どこにいたの皆」
宮内悠介インタビュー:暗号通貨技術と小説
名倉編インタビュー:哲学×批評×関西弁で編みだす“対話するSF”
宮澤伊織インタビュー:アニメ化を経て、今書いているもの/見ている世界
大森望インタビュー:ゲンロンSF創作講座・アンソロジー・引退
SF作家対談:林譲治×春暮康一「デビュー・二冊目・アンソロジーを語る。〆切とクオリティを守れるか」
池澤春菜インタビュー:SFで誰かの人生を掘り出す
【会員限定記事】バゴプラ 2020年度の概況レポート
【会員限定・第三回かぐやSFコンテスト特集記事】
かぐやSFコンテストの特集記事として、ハワイの子ども達にサッカートレーニングを提供するMIAアカデミーを齋藤隼飛さんが取材。ローカルスポーツのあり方や、スポーツが教育においてどのような意味を持つのか、といった観点からMIAの活動を紹介しています。
特集記事vol.2 では、作家の高山羽根子さんによる「野球と創作」をテーマにしたエッセイを公開します。「未来のスポーツ」というテーマを聞いて「スポーツ」ってちょっと難しいかも……と思った方はぜひお読みください。「スポーツと〇〇」をテーマにしたらいいかも……! と、アイデアが広がっていくようなエッセイになっています。