北野勇作「立っている」、剣先あやめ「オマイリ」 | VG+ (バゴプラ)

北野勇作「立っている」、剣先あやめ「オマイリ」

カバーデザイン 浅野春美

先行公開日:2021.7.3 一般公開日:2021.8.28

北野勇作「立っている」
200字    

 あの劇場に出る、ってのは関係者のあいだではよく知られた話。おれも見たよ、何度も。下手の舞台袖の隅に立ってた。うん、出るところは決まってる。誰の幽霊かは知らない。出る場所からすると役者なのかな。そうそう、いつも同じところに立ってるの。こうして劇場が無くなった今もね。ああ、昔はここに舞台があったんだよなあ、とか、懐かしい。うん、今でも同じところに出るよ。立ち位置はきちんと守るんだね。役者だから、かな

 

 

 

 

剣先あやめさんには、北野勇作「立っている」で使われている一単語を使用して執筆するという縛りのもと、200文字怪談をご執筆いただきました。剣先さんが選んだ一単語は「劇場」です。

 

剣先あやめ「オマイリ」
225字

分厚い雲を抜けると、雨がそぼ降る荒野にぽつんと赤い鳥居が見えた。
「座長。もう今回が最後でいいでしょう」
核戦争で荒れ果てた地球にいくのは
馬鹿野郎と座長の拳が跳んできた。
「四谷怪談をお参りなしでやるなんて罰当たりが」
へい。とつぶやいて宇宙船、いや移動劇場の舵を切る。
人類が太陽系中に散っても観劇は人気娯楽だ。
中でも四谷怪談は当劇団一番の人気演目。
燃料と時間を使って地球に唯一残った「オイワイナリ」に詣でる面倒くささはあるが
年一回は公演を打つ。初日は月だ。

 

 

 

 

 

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北野勇作
プロフィール
1962
年生まれ。小説家、SF作家、役者。1992年に『昔、火星のあった場所』で第4回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。2001年、『かめくん』で第22回日本SF大賞を受賞。近年はマイクロノベルの伝道師として、ほぼ毎日Twitterに【ほぼ百字小説】をあげており、2020年にはそのうち200編を収録した『100文字SF』(早川書房)を出版。毎週水曜日21時より、谷脇クリタ、蜂本みさと共に「犬と街灯とラジオ」(通称:犬街ラジオ)をツイキャスで配信。トークと共に朗読を披露している。
剣先あやめ
プロフィール
ライター。2011年、第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞受賞。2012年、第二回みちのく怪談コンテストにて優秀賞を受賞。2013年、第三回みちのく怪談コンテストにて佳作を受賞。2014年には京都フラワーツーリズム編集の「ガラシャ物語」シリーズ中の一編として、「ガラシャ物語18 城跡の宴」を発行。共著には、「怪談実話コンテスト傑作選3跫音」(2012年, 文庫ダ・ヴィンチ)、「怪談実話NEXT」(2013年, 文庫ダ・ヴィンチ)、「世にも怖い実話怪談」(2019年, 白夜書房)があり、幅広く怪談の執筆活動を行なっている。

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北野勇作

1962年生まれ。小説家、SF作家、役者。1992年に『昔、火星のあった場所』で第4回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。2001年、『かめくん』で第22回日本SF大賞を受賞。近年はマイクロノベルの伝道師として、ほぼ毎日Twitterに【ほぼ百字小説】をあげており、2020年にはそのうち200編を収録した『100文字SF』(早川書房)を出版。毎週水曜日21時より、谷脇クリタ、蜂本みさと共に「犬と街灯とラジオ」(通称:犬街ラジオ)をツイキャスで配信。トークと共に朗読を披露している。

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