先行公開日:2022.11.26 一般公開日:2022.12.30
穂崎円「バースデー」
穂崎円「バースデー」
言語選択:日本語
これは、あなたの生態について説明するための資料です。
濡れた記憶は背の内側をつたいくる 電車ゆっくり動きはじめる
マスク、ピアス、ワイヤレス・イヤフォン支え萎れはじめる夜の耳たち
あなたは、あなたの身体(人間)を宿主とする寄生虫です。
窓越しの雨滴のとつぜんの蛇行 今日会う人の顔を知らない
液晶にふと現れるwi-fiのずらりと並ぶまるで娼館
わたし達は人間の脳に卵を産みつけます。
もうずっと誰かが触れているようで曇って見える皮膚も手すりも
ひやひやと消毒液を噴きつけて自傷のように広げて擦る
わたし達は雌雄同体ですが、人間社会では雌雄異体としてふるまうことが求められます。
……宿主の記憶がそのように要請しがちだ、ということかもしれませんが。
両耳がたとえば花であったなら金の花粉のこぼれるばかり
覗きこむメニューの異国語から匂う知らない花やほのかな魚醬
卵管には棘があり、一度侵入すれば外すことは殆ど不可能です。
産みつけられた卵は脳内で孵化し、成長する過程で宿主の記憶を得ます。
眠るたびあなたの中に降る雨にまぎれ続ける足音がある
卵を産み付ける対象の性別は問いません。
にせものの炎は涙に似たかたち そういう開示が好まれること
わたし達はわたし達自身のことを■■■■■■■■と呼んでいますが、
この名称をインターネット等で検索しても何も出てこないでしょう。
マッチング写真ふり分けつづければ火花を上げる夜のシナプス
滲みだす灯の輪郭の輪郭が記憶のようでこんなに綺麗
……恋矢(love dart、別名gypsobelum)とは生殖器内部で生成される石灰質またはキチン質の槍状構造物。交尾中もしくはそれと関連した行動中、交尾の相手に突き刺す。
刺された個体は寿命が短くなることが明らかになっている。
(wikipediaより、一部抜粋)
海よりも遠い記憶を懐かしみひとは左右に耳たぶひらく
おりない限り決して終わらぬポーカーの(pronounの)野蛮よ
自分を人間だと思い込んだまま生きている仲間もいるようです。その逆も、また。
いずれにせよ、人間の中からわたし達を見つけることは非常に困難です。
Ashes to ashes, dust to dust そのように人からひとが、言葉からことばが
脳とは夢の墓守なのだからどんなあなたもまた蘇る
もし出会ったら(そして必要があるなら)このファイルを見せてあげてください。
でもすぐに忘れるだろう座るときまだ残ってた温度みたいに
人の寝顔は穴ばっかりで怖いよね遠くに消えた空調の音
水族館にタカアシガニを見てゐしはいつか誰かの子を生む器 坂井修一
町中が水族館であかるくてかあいそうだた惚れたってこと?
わたし自身はもうずっと「わたし」だったような気がしています。
最初から。
……生まれたときから。
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……寄生虫が生存するためには、宿主生物の間に正常な食物連鎖が保たれている必要があります。たとえば、トキのように絶滅危惧種を保護するために完全人工飼育にしてしまうと、たとえ宿主生物は保護できたとしても、その寄生虫は生活環を断たれて絶滅してしまいます……
(「寄生虫から見た生態系」国立研究開発法人土木研究所・自然共生研究センターwebサイトより)
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(わたしたちは 紛れつづける)
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誕生おめでとう。
この資料があなたの役に立つことを、心から願っています。
雨上がり これまで生きたわたしとかいるんだろうか 水たまり踏む