先行公開日:2021.7.24 一般公開日:2021.8.28
不破有紀「仮面舞踏会」
205字
今日もまた、夢が現実に一歩近づく。「先生、私、こういう顔になりたいんです」少女が差し出した写真には可憐な美少女がうつっている。どこぞのゲームのアバターだろう。「素敵でしょう? これが私の本当の姿なんです」私はうなずく。もう反論する気力さえ持たない。体は心に準じる。体は心に殉じる。「来月、彼に初めて会うんです」窓の外には美しい顔があふれている。もちろん、窓に映る私の顔だって……。さあ、踊り続けよう。私は笑った。
伊藤螺子「むじな」
220字
坂の途中、女が蹲っているのを見かけた。顔を隠してすすり泣いている。
――大丈夫ですか。
女がすっと顔をあげる。そこには目も鼻も口もない。
――ああ、ひとつ余ってるのでどうぞ。
先程買ったパック型フェイスジェネレータをのっぺらぼうに貼ってやる。義顔情報を読み取ったマスクがじゅくじゅくと変形していく。顔が完成すると、女はにっと笑って去っていった。なぜか生理的な嫌悪感を覚えた。
気づいて私は立ちすくむ。あれはとうに捨てたはずの、私の素顔ではなかったか。
不破有紀
プロフィール
2020年、長編小説『はじめてのゾンビ生活』が第1回令和小説大賞の最終候補に選出され、『Eat me』が第1回かぐやSFコンテストにて最終候補作品に選出された。2021年には、「So Eagerly Awaiting」(翻訳Kamei Toshiya)がNew World Writingに掲載されたのを皮切りに、Insignia Storiesの「Mythical Creatures of Asia」など英語圏の媒体にも作品を掲載している。またジャンルを横断した文芸コンテスト、第1回SHIBUYA的文芸コンテストにてSF小説『REC』が優秀賞を受賞。掌編から長編まで多彩に活動している書き手だ。
伊藤螺子
プロフィール
会社員兼小説家。 2011年に『オクターバー・ガール 螺旋の塔に導くものは』(徳間文庫)でデビュー。2013年には『秘密結社来夢来人 まほうびんぼう』(徳間文庫)を出版。その後同人活動に移り、『ビンダー』(発行:ククラス)や『トラベシア』(発行:鈴木並木)など、複数のリトルプレス・同人誌に寄稿。自身のサークル・ホテルニューオバケから、2019年に短編集『UFOを待っている』、2021年にはツイッターで書いた140字小説を100本まとめた掌編集『エイプリルフールの国』を刊行した。