堀部未知「49」、不破有紀「ふわふわ」 | VG+ (バゴプラ)

堀部未知「49」、不破有紀「ふわふわ」

カバーデザイン 浅野春美

先行公開日:2021.7.17 一般公開日:2021.8.28

堀部未知「49」
200字

敵の上陸から49日。

母は洞窟ガマの中で死んだばかりの私の髪を螺髪らほつに編みながら、何が怖いのかもう解らないと言った。

自ら足を切断して焼いた骨をザラメに綿あめを作ってくれた母。綿あめは雨雲のように甘露の雨を降らせてシュガーローフと彼らが呼ぶ安里の丘を濡らした。

仏さまになるのよ。

血抜きした私をブッダだと背負い、岬を目指す母を銃弾が貫き梵鐘を鳴らす。

玉砕の丘を下肢の列が進み、音もなく降りしきる魚卵、海に還る朝。

 

 

 

 

不破有紀さんには、堀部未知「49」で使われている一単語を使用して執筆するという縛りのもと、200文字怪談をご執筆いただきました。不破さんが選んだ一単語は「綿あめ」です。

 

不破有紀「ふわふわ」
216字

俺は綿あめの中に飛び込んだ。最新式の綿あめはべたつくことはない。常にふわふわして、ユーザーの不安を吸い取ってくれる。その素敵な寝心地はなぜか子宮を連想させた。今日も夢の中で羊がメェとなく。メェメェメェ。鳴き声の大合唱の中で誰かがぽつりとつぶやいた。「そろそろ起きた方がいいよ。手遅れになるよ」でも俺は聞こえないふりをして牧草を食む。現実の俺はまだ人間だろうか。そろそろ羊になった頃だろうか。電気羊となった俺は、今日も牧場の夢を見る。

 

 

 

 

 

堀部未知

プロフィール

400文字以下のショートショートを投稿できる小説投稿サイト「ショートショートガーデン(SSG)」にて活動している。「犬の果て」が「BOOK SHORTS」で2018年度3月期優秀作品に選出される。2020年にはベリーショートショートマガジン「ベリショーズ」vol.5と「ベリショーズ Light」に短編を寄稿。『ただ白くてほそ長い鳥』が小鳥書房の主催する第1回小鳥書房文学賞を受賞。太田靖久の企画編集するインディペンデント文芸ZINEODD ZINE』のvol.6に「入所から出所後、入社から退社方向で」を寄稿するなど、活動の幅を広げている。

不破有紀

プロフィール

2020年、長編小説『はじめてのゾンビ生活』が第1回令和小説大賞の最終候補に選出され、『Eat me』が第1回かぐやSFコンテストにて最終候補作品に選出された。2021年には、「So Eagerly Awaiting」(翻訳Kamei Toshiya)がNew World Writingに掲載されたのを皮切りに、Insignia Storiesの「Mythical Creatures of Asia」など英語圏の媒体にも作品を掲載している。またジャンルを横断した文芸コンテスト、第1回SHIBUYA的文芸コンテストにてSF小説『REC』が優秀賞を受賞。掌編から長編まで多彩に活動している書き手だ。

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堀部未知

400文字以下のショートショートを投稿できる小説投稿サイト「ショートショートガーデン(SSG)」にて活動している。「犬の果て」が「BOOK SHORTS」で2018年度3月期優秀作品に選出される。2020年にはベリーショートショートマガジン「ベリショーズ」vol.5と「ベリショーズ Light」に短編を寄稿。『ただ白くてほそ長い鳥』が小鳥書房の主催する第1回小鳥書房文学賞を受賞。太田靖久の企画編集するインディペンデント文芸ZINE『ODD ZINE』のvol.6に「入所から出所後、入社から退社方向で」を寄稿するなど、活動の幅を広げている。

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