勝山海百合が語る、てのひら怪談・かぐやSFコンテスト・期待の作家「豊かでござんすよ。どこにいたの皆」【Kaguya Planet インタビュー】 | VG+ (バゴプラ)

勝山海百合が語る、てのひら怪談・かぐやSFコンテスト・期待の作家「豊かでござんすよ。どこにいたの皆」【Kaguya Planet インタビュー】

勝山海百合インタビュー第2弾

2006年に「軍馬の帰還」で第4回ビーケーワン怪談大賞、2011年に『さざなみの国』で第23回日本ファンタジーノベル大賞、2020年に「あれは真珠というものかしら」で第1回かぐやSFコンテスト大賞など、輝かしい経歴を持つ勝山海百合。2020年には10編以上もの作品が翻訳され、海外のメディアに掲載された。Toshiya Kameiの活躍と共に、改めて世界へと踏み出していった2020年を、勝山海百合本人が振り返ったインタビューはこちらでチェックして頂きたい。

単著も複数刊行してきた勝山海百合だが、元々は「長いものが書けなかった」という。掌編や短編小説からスタートし、長編デビューまで辿り着いたその道のりとは、どのようなものだったのだろうか。そして、第一回かぐやSFコンテストでは、デビュー前の書き手達とも一戦を交え、9月にオンライン開催された京都SFフェスティバルではそのライバル達と交流する場面もあった。SF・ファンタジー・ホラーの三賞を制覇した勝山海百合が注目する作家とは。これまでの道のりと今の景色を聞いた。

勝山海百合が語る、てのひら怪談・かぐやSFコンテスト・期待の作家

目次
・“てのひら怪談”を書いたきっかけ
・第一回かぐやSFコンテストと「あれは真珠というものかしら」
・勝山海百合が注目する作家たち

勝山海百合プロフィール

岩手県出身の小説家。短篇集『竜岩石とただならぬ娘』(2008, MF文庫ダ・ヴィンチ) で単著デビュー。近著は『厨師、怪しい鍋と旅をする』(2018, 東京創元社)。2006年に「軍馬の帰還」で第4回ビーケーワン怪談大賞、2007年に「竜岩石」で第2回『幽』怪談文学賞短編部門優秀賞、2011年に『さざなみの国』で第23回日本ファンタジーノベル大賞、2020年に「あれは真珠というものかしら」で第1回かぐやSFコンテスト大賞。2020年は“てのひら怪談”作品を中心に10編以上の作品が翻訳され、海外媒体に掲載にされた。『kaze no tanbun 移動図書館の子供たち』(2020, 柏書房) には「チョコラテ・ベルガ」を寄稿。刊行を控える『万象ふたたび』(惑星と口笛, 電子書籍のみ) にも寄稿しており、惑星と口笛ブックスから『さざなみの国』の電書での復刊も予定している。

“てのひら怪談”を書いたきっかけ

――2020年は勝山さんの“てのひら怪談”がたくさん翻訳されました。まずは“てのひら怪談”を最初に書いたきっかけは何だったのでしょう。

たまたまネットでビーケーワン怪談大賞というコンテストをやっているということを知りました。その時すでに三回目で、「えっ、面白そう」という軽い気持ちで第四回から参加したんですね。我妻俊樹さんという歌人で、新潮新人賞の最終選考にも残ったことがある、今は毎年「竹書房怪談文庫」を出している方が、「歌舞伎」というすごく怖い不思議なお話を書いていて、第三回の大賞だったんです。「これを超えるのは難しいな」と思ったんですが、「じゃあ違う方向でアプローチしてみようかな」と思って色々考えていました。その時ちょうど夏だったので、夏といえば帰ってくる幽霊、人が帰ってくるお話はよく聞くけれど、犬とかが帰ってきたらどうかな? と思いついたんです。

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うちの田舎に“勝山号”という軍馬が帰ってきた――幽霊ではなく、本物の馬が歩いて帰ってきた――という実話がありまして、「でも勝山号は帰ってきたけれど他の軍馬は帰ってこれなかったんだな」と思ったら、これは書かなきゃという気持ちになりました。それで「軍馬の帰還」という一部実話で、ほとんどフィクションの作品で応募してみたら大賞を頂いて、「えっ、私って怪談得意?」みたいな気持ちになりました(笑) その後、ビーケーワン怪談大賞の傑作選などをポプラ社が出してくれることになったので、それから“てのひら怪談”の公募があれば応募するし、書いてくださいと言われれば書くようになりました。

――元々短い作品が得意だったのですか。

というか、長いものが書けなかったので(笑) 小説家になりたいと思ってもSFに限らず小説の新人賞は大体、原稿用紙100枚とか300枚、400枚ということになるのですが、そんなに書けなかったので、どうにかして短編でデビューできないかなと探ってはいたんですよ。そんな時に“てのひら怪談”に出会ったんです。でもこれでデビューできるとは思ってなくて、とりあえず楽しいから書いていた、というところでした。

その翌年に『幽』文学賞の短編部門に「竜岩石」という短い不思議なお話を集めて一つにした作品を投稿してみたら、2位にあたる優秀賞を頂いて、短編集の文庫『竜岩石とただならぬ娘』(2008, MF文庫ダ・ヴィンチ) でデビューさせてもらうことになりました。でもその後は苦労しましたね。メディアファクトリーからデビューということになったのですが、他所から依頼があるということもなくて……。そうこうしている内に早川書房から書き下ろしで、というお話を頂いて、『玉工乙女』(2010, 早川書房) が出ました。「やったー! 早川書房!」と思っていたのですが、その後は続かず、しょんぼりしていました。

早川書房から本を出す時に初めて一冊の長編を書いて、自分は長編も書けるんだ、と思ったんですね。私はずっと早川書房で書くつもりだったので、次の長編のプロットもあったんです。でもそれが出版できそうになかったので、その作品(『さざなみの国』)を第23回日本ファンタジーノベル大賞に出したら大賞をいただきました。でもその後は、あっちでちょちょっと、こっちでちょちょっと、とりあえず作家として死なない程度に生き残っていたところに、かぐやSFコンテストがやってきたんですよ。「あ! SF、SF! え、10枚だったら書けるんじゃない?」と思って応募しました。すみません(笑)

第一回かぐやSFコンテストと「あれは真珠というものかしら」

――いえいえ(笑) 第一回かぐやSFコンテストに応募されたきっかけや思い出を聞かせていただけますか。

楽しかったですよ。書くのも楽しかったし。応募のきっかけは、賞品が「英語と中国語に翻訳」だったからです。受賞後、思いがけずスペイン語にも翻訳されたのは嬉しかったです。実際に応募する段階になって迷いましたね。友達に読んでもらって、「これSFかな?」って聞いたら、「まあまあよく書けてるんじゃない? 応募してみたら?」って言われて、「あ、そうすか?」みたいな(笑)

「あれは真珠というものかしら」については、最初、九年母ちゃんは人間の女の子だったんですよ。同級生が海馬(ウミウマ)っていうだけの設定で、もうほとんど原稿はできてたんですが、どうしてもチンパンジーにしたくなって、したい、しなきゃいけない、という気持ちになっていったんです。未来だから、海馬でもチンパンジーでも海で暮らしている子どもでも、誰でもウェルカムな潰れそうな学校を書きました。あまり明るい未来を想像できなくて、日本の人口はずいぶん減っていて、人間の子どもは減っているけれど、人間並みの知性を持った動物が多くなってるかも……と。でもその知性化動物も役割を終えて、滅びてゆくというか、去っていくところでもあったり。割と切ない感じになりました。

――最後の「同級会」のラインも見事でした。

たぶん火星に行ったら戻ってこれないんだよね、95%くらいは。(小惑星探査機の)「はやぶさ1」のように、不可能なミッションに挑むんですよ、私の中の設定では。九年母は、もう戻ってこれなくてもいいと思って行くんだけれど、修理亮や碩堰が地球で待っててくれるんだったら、戻ってきたいなって思うんです。すみません、自分で説明してしまって。

――「あれは真珠というものかしら」は、どれくらいの期間で書き上げたのですか。

一週間くらいですかね。考えて、書き始めてからは二日くらいで形にできました。大体六枚書いて、更に次の日にちょちょっと書いて、何回か読み直して推敲して……とやっている頃にKameiさんから「今度Antipodian SFに勝山さんの掌編が載りますよ」って言われて、「えっ、じゃあもう私、この副賞欲しさに応募しなくていいじゃん?」って気持ちにちょっとなったんですけど(笑) いや、足りない、弾は多い方がいいし、中国語にもなるということだったので、海外に投げていく弾を増やそうと思いまして……(笑)

次回のかぐやSFコンテストは、もう第一回どころじゃないでしょうね。第一回もたくさん応募が来た中で、選外佳作の作品を選んで、ファイナリストにならなかったけれど、これはここがいい、あれがいい、とコメントをしていたのは、投稿した人にとってものすごい励みになったと思いますよ。カメイさんも、かぐやSFから翻訳した作品を色んな雑誌に投稿されていて――投稿まではできるかもしれないけど、実際に掲載まで持っていっているのは凄いことです――応募が更に増えるんじゃないでしょうか。

勝山海百合が注目する作家たち

――かぐやSFコンテストを通して若手作家との交流もあったと思いますが、期待している作家はいますか。

若手というか、第一回かぐやSFコンテストのファイナリストに残った人は、もちろん全員敵(ライバル)です。危ないところでした。ファイナリストは全員仕留めないと(笑)

後はケイシ・カジフネ(梶舟景司)、刺客を送って吹き矢で……。他にも選外佳作のリンクを「どんなんだろうね~」って、たまたまクリックして読んでみたら「ハッ、しまった。面白いぞ……」っていう方もいますし。本当にファイナリストになったっていうだけでも相当レベルが高いんですよ。選外佳作の作品は、バランスは悪くてもパワーがあったりするから、選外佳作だからって侮れないです。一か所に集めて、一網打尽に……

――全員倒そうとしないでください(笑)

それは冗談(笑) 佐伯真洋さんもだし、千葉集さんの「次の教室まで何マイル?」も面白かったし、正井さんの「よーほるの」の不思議な感じ、(佐々木倫さんの)「Moon Face」も……あ、最終候補全部挙げちゃうじゃないですか(笑)

勝山海百合さんの第一回かぐやSFコンテスト最終候補へのコメント

 

不破有紀「Eat Me」
自身を学校というシステムに捧げた私の独白。個を失い、大きなシステムの一部になることを選ぶまでの来し方を思うと微かな苦みを覚える。語られているのは仏教の四十九日のような状態だろうか。システム本体の無情さとのコントラストが鮮やか。

 

三方行成「未来の自動車学校」
会話だけで始終するが、少しずつ変化を付けて最後まで弛まず、巧み。可笑しくて皮肉で楽しい。朗読でも映えると思うし、落語として口演したものも聞きたい。

 

佐々木倫「Moon Face」
登場人物に悪人はおらず状況だけが悪い。悔悟と羞恥が乱反射してきて、読み終わって小説でよかったと安心した。容赦なく書ききる胆力がすごい。

 

武藤八葉「子守唄が終わったら」
生活をサポートする人工知能だけが知己。AIがパートナーのSFは多いが、『ブレードランナー2049』のKのパートナー、ジョイ(アナ・デ・アルマス。Kを普通の人であるかのように遇するので、ブレードランナーも心穏やかなひとときがもてた)を思わせる。

 

大竹竜平「祖父に乗り込む」
改造祖父に乗り込んで学校に行く。一人で学んでいるのに比べると、学校の授業はノイズまみれで勉学に向いてないと感じるほど知的だが、その学校で勉強させたかった祖父の気持ちがわかるにはまだ幼く。水たまりの油膜が虹色に見えるわけと、抹茶アイスクリームの午後のことはきっと(読者も)忘れない。

 

葦沢かもめ「壊れた用務員はシリコン野郎が爆発する夢を見る」
未来で地球外の学校に奉職する用務員アンドロイドは、学級運営になくてはならない存在だが、壊れるのも道理な過酷な環境にある。悲しみの地球外プロレタリア文学。

 

千葉集「次の教室まで何マイル?」
単位を求めてさすらうクラスメイトたちの旅は険しいが、文章は軽快にして洒脱。名称だけ登場するポスドクが思いがけず凶悪だった。

 

坂崎かおる「リモート」
遠隔操作のロボットで授業を受けるサトルにまつわるある事件。回想と呼びかけの手紙は、大海に放たれ、我々はそれを拾って読んでいる誰かで、否応なく物語の中に巻き込まれていた。二十一世紀の「接続された女」。

 

正井「よーほるの」
抒情と奇想が織りなす学校の一日。同級生の小さいにゆちゃんとの、なにげないやり取りもかーいらしい。うたかたの学校なのに、よく知っている学校でもある。

 

佐伯真洋「いつかあの夏へ」
学びに積極的な一篇。さまざまな背景をもつ生徒たちが、協力し合って絶滅したトウキョウボタルの謎を追う。ポスト・アポカリプスだが、生き残った人類は助け合い、進歩し、知と個人を重んじる生き方まで到達していて希望がある。

皆それぞれ「未来の学校」っていうテーマの中で集中しつつ、自動車学校を選んだり、残像記憶みたいな学校を設定したり、テーマに片足だけ置いて後は自由に書いていましたよね。

あと、蜂本みささん。『kaze no tanbun 夕暮れの草の冠』(2021年3月22日刊行, 柏書房) にも大抜擢。ブンゲイファイトクラブでは横綱相撲でしたね。蓄積があるから締め切りが迫っていても、短い時間でも書ける。蓄積の中から捻り出せるというか、掴み出せるものがあるということなので、相当な人物だと思います。

正井さん、蜂本さんは普通に(期待の書き手に)入ってきますよね。後はマヒロ・サエキ(佐伯真洋)、坂崎かおるさん……かぐやSFからは離れますが、ブンゲイファイトクラブ2の本選参加者は、どなたもそれぞれに鋭いのですが、由々平秕さんが気になりますし、ジャッジの竹中朖さんは信頼できる書き手だと感じました。

――坂崎かおるさんは、Kameiさんによる「リモート」の英訳がDaily Science Fictionに掲載されることが決まりましたね。

DSF、あそこに掲載は凄いです。ええところに決まりましたね。

――豊穣ですね。

豊かでござんすよ。どこにいたの皆、みたいな。カクヨムとか、なろうとか、noteとかあるじゃないですか。でも新人に興味があったり、こういうカップリングのものが読みたいっていう理由があったりして、そういうサイトまで探しに行く人じゃないとデビュー前の良い書き手を見つけられなかった。これからは、Twitterでバゴプラをフォローしている人が新しいものを読めて、回ってきたものをリツイートしたり、誰かが「凄い面白かった」って好意的なコメントをしたりすれば、一般の読者にも届きやすくなりますね。

 

 


勝山海百合が「チョコラテ・ベルガ」を寄稿した『kaze no tanbun 移動図書館の子供たち』は柏書房から発売中。

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勝山海百合プロフィール
岩手県出身の小説家。2006年に「軍馬の帰還」で第4回ビーケーワン怪談大賞、2007年に「竜岩石」で第2回『幽』怪談文学賞短編部門優秀賞、2011年に『さざなみの国』で第23回日本ファンタジーノベル大賞、2020年に「あれは真珠というものかしら」で第1回かぐやSFコンテスト大賞。短篇集『竜岩石とただならぬ娘』(2008, MF文庫ダ・ヴィンチ) で単著デビュー。近著は『厨師、怪しい鍋と旅をする』(2018, 東京創元社)。2020年は“てのひら怪談”作品を中心に10編以上の作品が翻訳され、海外媒体に掲載にされた。『kaze no tanbun 移動図書館の子供たち』(2020, 柏書房) には「チョコラテ・ベルガ」を寄稿。刊行を控える『万象ふたたび』(惑星と口笛, 電子書籍のみ) にも寄稿しており、惑星と口笛ブックスから『さざなみの国』の電書での復刊も予定している。

 

★前回のKaguya Planetインタビューでは、「勝山海百合、2020年を振り返る。相次ぐ英訳、SFコミュニティの変化」を公開! 多数の作品が翻訳された2020年を振り返って頂き、過去に参加したワールドコン=世界SF大会を回想して頂きながら、近年感じた変化についても語って頂きました。まだ読まれていない方は、こちらからお読みください。

勝山海百合さん第一回かぐやSFコンテストで大賞を受賞した「あれは真珠というものかしら」はこちらから無料で読むことができます。

Kaguya Planetでは、第一回かぐやSFコンテスト読者賞受賞者の佐伯真洋さんによる新作「月へ帰るまでは」を先行公開中。

Kaguya Planetで公開された蜂本みささんの「冬眠世代」と正井さんの「宇比川」はこちらのリンクから。

★3月20日(土)には、陳楸帆さんのインタビューを公開します! お楽しみに!

3月以降のバゴプラのスケジュール
3/20 (土) 陳楸帆インタビュー【SFG×VG+】一般公開
3/27 (土) オーガニックゆうき SF短編小説 先行公開 (かぐプラ)
3/27 (土) トシヤ・カメイ「ピーチ・ガール」(勝山海百合 訳) 先行公開 (かぐプラ)
4/3 (土)  冬乃くじ「国破れて在りしもの」一般公開
4月〜下旬 麦原遼 SF短編小説 先行公開 (かぐプラ)

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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