『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』
「ゴジラ」シリーズに「ガメラ」シリーズ、「大魔神」シリーズ、『仮面ライダー』(1971-1973)、『ウルトラマンA』(1972-1973)などの特殊造形を担当してきた特撮界のレジェンドこと、村瀬継蔵さんが総監督を務める『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』が2024年7月26日に公開されます。本記事では村瀬継蔵総監督と『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』(2006)でガッツ星人とナックル星人の造型、『狭霧の國』(2019)では監督を務めた佐藤大介特撮監督にインタビューさせていただきました。
『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』は1970年代に香港の船上で暮らす子供たちを見て、村瀬継蔵総監督がその子供たちに楽しんでほしいというコンセプトで描いたプロット『神の筆』がもとになっています。その『神の筆』が半世紀の時を越え、いつの時代の子供にも楽しんでもらえる『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』となって映画化されました。
映画『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』では、特殊造形作家の時宮恵三の孫娘の朱莉を主人公に、時宮健三が作ろうとした『神の筆』の世界を冒険する物語となっています。半世紀の時を経て映画化された『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』の撮影をする上でどのようなことを意識したのでしょうか。『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』に込めた思いについて村瀬継蔵総監督と佐藤大介特撮監督にお話をうかがいました。
造形作家として、特撮技術を子供たちに教えてあげたい
──映画『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』(以下『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』)ではアナログ特撮技術の継承をイメージさせる描写が印象的でした。本作を通して、後進に伝えたいことがありましたら、ぜひ教えてください。
村瀬継蔵(以下、村瀬):造形作家としては特撮技術を子供たちに教えてあげたいです。作品を観た後、子供たちが「あれだったら私もやってみたい」とか、「ムグムクルスのような可愛いキャラクターが良いな」と思ってほしいです。それでもヤマタノオロチみたいな怪獣には「怖いな」という感想も子供たちから出るかと思います。その「怖いな」という感想のあとに「どうしてあのような怪獣ができたのかな」とか「どうすればあのような怪獣を造って動かせるかな」と思ってもらえると嬉しいです。
おじいさんの私が直接話して伝えるのは難しいかもしれません。でも、おじいさんだけど、子供たちのことを夢見て、みんなが特撮を通じてつながっていってほしいと思っています。一緒に映画を観た大人が「あの映画はこういう仕組みなんだよ」と子供と会話してくれるのが理想ですね。
──本作ではヤマタノオロチが登場しますが、そのアイデアを膨らませていく過程で石見神楽などをご覧になったとうかがいました。本作において、神楽と怪獣映画の間にどのような関係があったのでしょうか。
村瀬:石見神楽は本当に動きが良いのでびっくりしました。大蛇(ルビ:おろち)はあれだけ大きくて動きが良いのに、一頭に対して一人だけしか入っていないんです、それなのに丸くなったり、他の大蛇と絡み合ったりして演技をしているのに驚きました。
大蛇の面の造形も素晴らしいのですが、石見神楽という伝統芸能を若い人たちが集まって続けているのを見て、「このような技術の継承を大勢の人がすれば素晴らしいな」と思わされました。
佐藤大介(以下、佐藤):石見神楽の動きは怪獣ヤマタノオロチを自由自在に動かす上で参考にもなりました。大蛇の面は造形物ですし、怪獣の着ぐるみと同じで人が入ってお芝居をしているので、着ぐるみと神楽はかなり通じるものがあると思います。
絶えず新しいものを試していくという考え
──本作では、様々な特撮作品をオマージュしたものが背景に登場していましたが、これまでやった仕事で思い入れのある特撮作品はありますか。
村瀬:皆さんは私の代表作として『大怪獣バラン』(1958)のバランを挙げてくれるのですが、『モスラ』(1961)のモスラや『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964)のキングギドラも苦労したので注目してほしいです。50代から60代の特撮ファンの方からモスラが飛ぶシーンや、大きいキングギドラの着ぐるみを飛ばしたことを褒めてもらうことはあります。
モスラやキングギドラのような大きい造形物や着ぐるみを飛ばすのは当時、他ではやっていない珍しいことでしたし、『大怪獣バラン』も素材の発想を変えて造形したことが他と比べて珍しかったと思います。これには私の中にある、絶えず新しいものを試していくという考えが影響していると思います。円谷プロダクションとも新しい素材があるから新しい造形ができますと話し合ったことがありますよ。
『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』で巨大なキノコが登場するのですが、それは逆に昔携わった『マタンゴ』(1963)と似たものにならないように気をつけました。『マタンゴ』ではキノコが人間に寄生したり、鬱蒼としたキノコ林をつくったりするのですが、『カミノフデ』では違う明るい印象のものにしました。『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』の巨大なキノコに子供たちがぶつかると、ビヨヨヨ~ンとキノコごとに違う音を出して怪獣を追い払うんです。そのような演出でもより新しいものをと意識していました。
子供たちの反応がどう返ってくるかという方に期待しています
──映画『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』に登場する怪獣たちのモデルなどはありますでしょうか。
佐藤:ヤマタノオロチはもともとの村瀬総監督のプロットには登場しない怪獣で、今回の映像化に合わせて追加された怪獣です。『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』のヤマタノオロチは『日本誕生』(1959)の八岐大蛇、『三大怪獣 地球最大の決戦』のキングギドラ、『ゴジラVSキングギドラ』(1991)のキングギドラへのオマージュが大きく入っています。映画内映画として盛り込まれている村瀬総監督があたためていた原作『神の筆』に登場するゴランザに関しては、デザイナーの高橋章さんが当時描いたものなのでモデルなどは特に伺ってはいません。ムグムクルスはヤマタノオロチと同じく『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』で追加されたキャラクターで、村瀬総監督が携わった『モスラ』のイメージを入れています。
──『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』は作品が持つメッセージテーマを特撮の世界に落とし込むというのが核となっているのかなと思いました。今回、特撮というものを子供たちにどのように観てほしいと思いますか。
村瀬:どうでしょう。こっちがこのように観てほしいと思っても、子供たちが素直に受け止めてくれるかどうかはわかりませんよね(笑)。CGを見慣れた今の子供たちに昔の特撮技術というものを知って、特撮の道を志す子供たちが増えてくれた嬉しいですね。
──村瀬総監督から現代の子供たちに向けてメッセージがあれば教えていただけると幸いです。
村瀬:それを一言で表すのは難しいです。難しいからこそ、自分の中にある思いをどうすれば人に伝えられるだろうかと考えながら作りましたので、是非劇場で観てそれを感じて欲しいです。
(聞き手・構成:鯨ヶ岬勇士)
『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』は2024年7月26日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて順次全国公開。
主題歌のDREAMS COME TRUE「Kaiju」は現在配信中。
2024年9月12日(木)20:30より脚本家の中沢健さんをお招きして『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』のトークショーを開催します。詳しくはこちらから。
『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』の予告編はこちらから。
村瀬継蔵総監督と佐藤大介特撮監督のインタビューが掲載されたKaguya Booksマガジン第2号はこちらから。