尾崎英二郎 スペシャルインタビュー「私とSF」 | VG+ (バゴプラ)

尾崎英二郎 スペシャルインタビュー「私とSF」

「私とSF」と題したスペシャルインタビューをお届けする。各フィールドで活躍する4名のクリエイター・表現者の方々に、人生において影響を受けた作品や、ご自身のSF観について話を伺った。ドラマ『高い城の男』などに出演し、ハリウッドで活躍する俳優の尾崎英二郎は、どのようなSFに触れて育ち、またSFをどのように捉えているのだろうか。クリエイティブの世界を志す若い人々へ向けたメッセージも必見だ。

尾崎英二郎
俳優。1997年にNHK連続テレビ小説『あぐり』でテレビドラマデビュー。『ラストサムライ』『硫黄島からの手紙』などへの出演を経て、2007年より拠点を米国に移す。『ヒーローズ』『フラッシュフォワード』『タッチ』、マーベル『エージェント・オブ・シールド』、DC『レジェンド・オブ・トゥモロー』、『The OA』など、数々の地上波テレビや配信ドラマ作品に出演。最新作『高い城の男』のファイナル・シーズンが、2019年秋より世界で配信予定。

――まずは自己紹介をお願いします。

米国に渡り、ハリウッドの映画テレビ産業に挑んで12年目になります。中学から高校の途中まで落ちこぼれで、一番苦手だった英語を一念発起して基礎からやり直した後、大学生の時に米国のド真ん中に位置するネブラスカ州で1年間の交換留学を経験。その頃から、将来は国境を越えて仕事してみたいと、真剣に思い描き始めました。

日本での活動時代に日米の素晴らしい演技コーチに出会い、舞台、テレビドラマ、Vシネマ、映画の現場で経験を積みました。海外作品のキャリアを積み始めたのは、最初は香港やブラジルの映画。その後にようやくトム・クルーズ主演作品やクリント・イーストウッド監督作品へと辿り着き、日本に居ながら国際的なクレジットを少しずつ積み上げ、米国のアーティストビザや永住権取得への扉をこじ開けました。

自分が渡米の決断した年と、そこからの数年間に、いわゆる海外ドラマブームの火付け役の1つにもなった『ヒーローズ』(2006-2010) や、スーパーヒーロー映画の歴史を変えたマーベル・シネマティック・ユニバースのスピンオフのテレビドラマなどに出演が叶ったのは、時代を巡るタイミングと築いたご縁が交差してくれたおかげです。

今は、映画もテレビドラマもストリーミング配信の作品も格段に速く世界市場に届くようになっているので、とにかく1本、また1本と、日本の観客や視聴者の皆さんに届けられるよう、日々挑んでいます。

――尾崎さんは、これまでに様々な作品に出演されてきましたが、近年はアメリカで人気のSFドラマ作品に次々出演されています。子どもの頃から好きだったSF作品や、演技の道に進むにあたって影響を受けた作品はありますか。

僕は、少年時代からSFに特に魅了されていたわけではなかったんです。“SF”というジャンルをまだ意識しないまま、テレビでは『ウルトラマン』(1966-1967)や映画では「ゴジラ」シリーズを観ていました。モスラやキングギドラやヘドラなんかがお気に入りの怪獣で、よく絵を描いたりしていましたね。でも多くはテレビ放送時に観ていたはずです。ヒーローものでは『仮面ライダー』(1971-1973)が最も好きで、ロボットものでは『マジンガーZ』(1972-1974)、宇宙ものでは70年代の『宇宙戦艦ヤマト』(1974-1975)、80年代の『機動戦士ガンダム』(1979-1980)は観るだけでなくプラモデル作りと塗装にもハマった世代です。でも『ルパン三世』(1971-1985)、『あしたのジョー』(1970-1971)、『巨人の星』(1968-1971)、『オバケのQ太郎』(1965-1967)、『天才バカボン』(1968)などSF要素が全く無い作品も夢中で観ていましたから、あらゆるジャンルからの影響を受けた、平凡なテレビっ子の1人だったと思います。

映画館のスクリーンで子供の頃にリアルタイムで最も強く影響を受けたものは、今も尊敬しているスティーヴン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』(1975)、高倉健さん主演の『八甲田山』(1977)と『野生の証明』(1978)、市川崑監督の『犬神家の一族』(1976)、黒澤明監督の『影武者』(1980)などでしたから、SF作品よりは等身大の人間ドラマを無意識に好むようになっていたと思います。ジョージ・ルーカス監督が世に送り出した「スター・ウォーズ」は最初の3部作はリアルタイムで観ています。でもその魅力に気づくのは大人になってから(当時の活劇ジャンルではジャッキー・チェンに夢中でしたので)。スピルバーグ監督の『未知との遭遇』(1977)を公開時にスクリーンで体験しなかったことは、今も悔やんでいます(笑)。果たして8歳の僕にその素晴らしさが理解できたかどうか……。でも、解らなくたっていいから、あの映像と音に遭遇してみるべきでしたねぇ。

おそらく邦画では、初めて劇場で出会ったSF作品と言えば、1979年公開の『戦国自衛隊』です。“タイムスリップ(時空を超える)”という概念と面白さを知った1本は、間違いなくこの作品。でもこの映画も、一番魅了されたのは長尾景虎役の夏八木勲さん(当時:夏木勲)や伊庭義明陸尉役の千葉真一さんらが圧倒的な魅力を放つ演技の部分でした。「今、SF映画を楽しんでいる!」というよりは「(現代人が)戦国時代に迷い込んでいる!」という不思議な高揚感や元の時代に戻れない恐怖感の方が強かった気がします。この映画の鎌田敏夫さんの脚本は、文庫版を米国に持ってきて本棚に置いているくらいですから、当時10歳の自分に印象付けた何かがずっと遺っているんでしょうね。

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自分の人生の中で、確かな記憶として「SF映画って、こんなことができるの!?なんでも描けるんだな!」と感じ、このジャンルをちゃんと見つめるきっかけになった作品は、大学1年時に観た『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985, スピルバーグ製作、ロバート・ゼメキス監督)です。それまでの僕は「SF=大抵は宇宙冒険。現実世界からかけ離れた描写が多い」という偏見に近い認識を持っていました。それを覆してくれたのがこの映画です。舞台は1980年代と50年代の日常、主人公たちは平凡な高校生、なのにとんでもなく格好良いデザインのタイムマシンが本当に存在するように感じさせてくれる。僕にとっては革命的、衝撃的な出会いでした。この作品を境に《伏線が巧みに張られた緻密な脚本》に惹かれ始め、と同時に米国の作劇法や画作り、産業そのものにも興味を抱いていきました。この映画を観たのは、大学の語学学習のラボの一室でした。初体験が劇場スクリーンでなかったことがこれもまた悔やまれますが、たった1人ヘッドホンで聴き入った迫力の効果音、アラン・シルヴェストリの壮大な音楽スコア、構築された英語セリフの楽しさ、に誰にも邪魔されずに浸った経験は今では財産だと思っています。

舞台劇で、いちファンとしても、キャストとしても、僕の原点になった大切な作品は、90年代後半に出演チャンスを掴んだ『ザ・ウインズ・オブ・ゴッド』(1988)(”神風” という意味のタイトル。故今井雅之さんが手がけた脚本の物語で、僕は海軍の若き特攻隊員たちの1人を演じた)ですが、これも平成の漫才師2人が第二次世界大戦末期にタイムスリップするお話でした。時代を超えて張られた伏線のジョークが沢山の笑いを生み、終盤には涙が溢れる、人間ドラマでもありながらSF的でもある、珠玉の脚本でした。

学徒(大学で心理学を専攻)だった特攻隊員が、魂だけが平成から戦時中に迷い込んでしまった漫才師たちに「彼らの身にタイムスリップが起きた可能性」を説いていくという設定で、論理的で明瞭な語り口も求められる役柄でした。これを日本とNYの公演で、日・英、両方の言語で演じたことが大きな礎になっています。

学業半ばの19歳で出撃を命じられる飛行兵の切ない青春を体現する試みは、演技的・感情的にとても重要な経験で、僕にとって”教科書”のような作品でした。

――こうした経験は、後々の尾崎さんの俳優人生にどのような影響を与えたのでしょうか。

こういう「時代を超越する世界観」を受け入れられる土台があったから、のちに俳優の道を目指した道のりで、90年代に入ってからリドリー・スコット監督の『ブレードランナー』(1982) ディレクターズ・カットを観たりした際にも大胆な「未来世界」の描写に魅了されるようになりましたし、現在に至っては、似た味わいの漂うSFハードボイルド原作の『オルタード・カーボン』(2018-)のようなドラマに自分自身が数百年も未来のヤクザとして登場するという意表を突くような設定にもワクワクしながら臨める感覚が、培われてきたという気がします。

SF作品では、“実際に存在しない者・事物・時代&舞台設定”を観る側に信じさせなければいけないケースが多い。ハードルは高いです。存在そのものや、繰り出すセリフに説得力がより求められる。それって、俳優としてはやはり面白いんですよね!

戦争映画『硫黄島からの手紙』(2006)と、SFドラマ『エクスタント』(2014-2015)の出演作2本は製作にスピルバーグ氏が名を連ねています。そして今年撮影を終えたばかりの歴史改変SFドラマ『高い城の男』(2015-2019)の製作総指揮はリドリー・スコット氏ですが、ここでは僕は帝国海軍の提督を演じています。2014年に出演した『エージェント・オブ・シールド』(2013-)は、マーベル映画『アベンジャーズ』(2012)のスピンオフとして製作にゴーサインが出たドラマですが、ドラマ出演から遡ること2年前に劇場で同映画を鑑賞していた時には、テーマ音楽をあのアラン・シルヴェストリが書いていることを知り、「どうりで、壮大な響きの曲だと思った!!」と興奮したものです。この世界に関わってみたい……と、客席で胸を熱くしました。『エージェント・オブ・シールド』のキャスティング・ディレクター(『アイアンマン』(2008)から『アベンジャーズ』までMCUの一連の作品を手がけてきた方)から、初めてのオーディションの連絡が舞い込んだのはその翌年でした。

観て下さっている観客や視聴者の皆さんの目には、これらの出演クレジットはたまたま折り重なっているだけのように映るかもしれませんが、僕の中では”偶然”などなく、すべての点や理由が「繋がって」います。影響を受けたり、憧れを抱いたりしてきた対象のクリエイターやスタッフが名を連ねている作品は、オーディションに挑む時の気迫や集中力のボルテージを上昇させてくれます。それが心の中で起きているから、放つ何かが変わる。その何かが”製作陣の領域”に触れる。「自分の心の力と熱量」が伝わる、心理的でありながら、実に科学的な結果なんだと思います。

偶然はない。《好きなものの影響》って、それくらいの力を生み出してくれるのかもしれませんね。

――素晴らしいお言葉です。好きなものから得られる力は大きいですよね。演技やクリエイティブの世界に関心がある若い方々に向けて、メッセージを頂けますか。

「信じる」ということが、とても大切なことだと思います。シンプルな言葉に聞こえますが、なかなか容易ではないんです。俳優は、白い紙に印刷された、活字から得る直感を信じて自分なりに解釈することから始めなければいけません。まったく何も無いところから。人生も同じです。最初は、実績も信用もゼロ。でも「きっとできる!」と、自分の可能性を信じられるかどうか、その一点にかかっています。自分自身が「私にはできない。そんな才能があるわけない。無理なんだよ。」と言ってしまったら、一体誰があなたを信じてくれるでしょう?

僕たちは将来のことを正確には予測はできません。でも、「好きなこと」を見つけて狙いを定めることはできるはずです。「やりたいと思うこと=興味がある仕事や趣味」を心で感じて思い描くことは、誰にだって可能なんです。その熱を失わずに、FICTION(作り話、空想)をFACT(事実)に変える行動を起こし続けていく。たとえ失敗しても書き直す。やり直す。挑む。その行動が、やがて未来の扉を開けるカギを形作ってくれるんだと僕は思っています。

――尾崎さんが出演される直近の作品、または過去に出演された作品でチェックしておくべき作品がありましたら、ご案内頂けますか。

幼少期に『ゴジラ』のシリーズを観ていたというお話をしましたが、物心がついた時にはゴジラはすでにヒーロー怪獣になっていました。でも俳優の道に進んでから、初めて観た1954年版の初代『ゴジラ』の衝撃は凄まじいものでした。自然への畏怖、人間の愚かさ、破壊兵器を生み出すことへの警鐘…、そういう要素が特撮の怪獣映画に込められていました。ゴジラの顔、体がなぜあんなに真っ黒で、むくむくと膨らんだような姿なのか、映画作家たちの真剣な創作の志がフィルムに全て刻まれています。今ではこのモノクロの最初の『ゴジラ』がシリーズの中でも一番好きです。

昨年出演した、DCコミックス原作の『レジェンド・オブ・トゥモロー』(2016-)(シーズン4第5話)に「Tagumo Attacks!!!」という怪獣タグモが東京を襲来する回があります。ゴジラをこの世に生んだ日本映画へのオマージュのエピソードで、本多猪四郎監督について細かくリサーチされたことが垣間見られる脚本が用意されていました。僕はその劇中で、本多監督ご本人を演じさせていただいたんです。スーパーヒーローもののドラマで、奇抜な設定ではありましたが僕は役柄に起きたことを「信じて」、特撮ファンの思いを裏切りたくないというプレッシャーもひしひしと感じつつ、誠意をもって全力で演じました。日本人俳優が、米国地上波ドラマのゲスト主役を務めた稀な回でもあるので、是非多くの方々に観ていただきたいです。

僕は、演じる際にメッセージ性のある、意義深い物語や役柄が好きです。取り組むのが難しい題材ほど、充実感を得られる気がします。この秋に最終シーズンを迎えると発表された『高い城の男』(原作は『ブレードランナー』と同じくフィリップ・K・ディックの傑作SF小説)も、「もし、第二次世界大戦で日本とドイツが勝利し、1960年代まで全米本土を占領していたら…」という設定で、戦争や差別の無益さ、人間の権利や自由の尊さ、といった現代にも通ずるテーマを非常にリアルなタッチで伝えています。僕が演じるイノクチ提督(海軍大将)には、僕がこれまで重ねて来た役作りの記憶や戦争観が滲み出ていると思っています。演技は、その俳優自身の「解釈」に演出が加わり、その上で役を生きること。ファイナルのシーズン4では役割が増し、背負うものが大きくなっているので、期待して配信の日を待っていただけたらと思います。

——ありがとうございました。今後の出演作品も楽しみにしています。

VG+編集部

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