酉島伝法 スペシャルインタビュー「私とSF」 | VG+ (バゴプラ)

酉島伝法 スペシャルインタビュー「私とSF」

今回は、VG+ 1周年を記念して、「私とSF」と題したスペシャルインタビュー企画をお届けする。各フィールドで活躍する4名のクリエイター・表現者の方々に、影響を受けて育ったSF作品と、ご自身のSF観についてお話を伺った。SF大賞受賞者で、独特の世界観を持つ作家/イラストレーターの酉島伝法は、どのような作品に触れてその世界観を形作っていったのだろうか。「自分もSF好きかも」と感じている読者へのメッセージも要チェックだ。

酉島伝法
小説家、イラストレーター。2011年、「皆勤の徒」で第2回創元SF短編賞受賞。作品集『皆勤の徒』(2013) で第34回SF大賞受賞、〈本の雑誌が選ぶ21世紀のSFベスト100〉で第1位を獲得。2019年3月、初の長編作品『宿借りの星』(東京創元社) が刊行。

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――まずは簡単な自己紹介をお願いします。

絵も描く小説家です。よく書店では〈な行〉の棚に入っていたりしますが、〈とりしま〉です。人間があまり出てこない小説から、人間がよく出てくる小説までいろんなものを書いています。『SFマガジン』ではイラストストーリー『幻視百景』を連載中です。

――酉島さんは、人間なき後の世界を描くポストヒューマン小説で知られている一方、『次郎長三国志』など、時代劇の影響もよくお話されています。過去にどのような作品から影響を受けてこられたのでしょうか。

初長編の『宿借りの星』は「次郎長三国志」や『素浪人 花山大吉』(1969-1970)あたりが下地のひとつになってますが、特に時代劇だけが、というわけではなく、漫画、小説、アニメ、ドラマ、映画、ゲーム、音楽など、たぶん同世代の多くの人たちとさほど変わらないものを満遍なく読んだり見たりして育ってきたと思います。幾つか上げるとするなら――小学校の頃に通っていた病院に、なぜか『ブラックジャック』(1973-1983)『きりひと讃歌』(1970-1971)『どろろ』(1967-1969)『イアラ』(1970)『おろち』(1969-1970)『猫目小僧』(1967-1968, 1976)など、トラウマになりそうな漫画ばかりが置いてあって、病院にいる不安感も相まって強烈な印象を受けました。

あと、幼い頃に親が買ってくれた「こどもの世界文学」(1971-1973)という児童文学全集の挿絵の素晴らしさに魅了されたことが、挿絵つきの小説という作風に繋がってると思います。中でも、アイボみたいな犬ロボットや人型ロボットの出てくる、ルネ・ギヨの『こいぬの月世界探検』(1973)という本が大好きで(今でも手元に置いてあります)、いま思うと、それが最初に触れたSFの本かもしれません。

SFと銘打たれた本では、親が図書館で借りてきてくれた『宇宙人デカ』(1969)(ハル・クレメントの『二十億の針』(1950)のジュヴナイル版)が最初でした。ゼリー状の宇宙人に寄生された子供が一緒になって異星人の犯罪者を追う話で、夢中になりました。いまの私の小説と共通する要素が多い気もしますね……。作中で、宇宙人デカが少年と会話するのに、体の一部をアルファベット形にして瞳にかざすのが印象的で、練り消しゴムで文字を作って自分の眼の前にぶら下げたりして遊んでました。割と小説などに書かれてることを実践してしまう子供だったんです。江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズの変装の場面を読んで、頰に綿を入れて眼をセロファンテープで釣り眼にして架空の友達のふりをし、自宅のチャイムを鳴らして母親に自分を訪ねたりとか(このエピソードは「環刑錮」という短編に使いました)。

――ユーモラスな子ども時代ですね(笑)小さな頃から多様な作品に触れられてきたのですね。映像作品ではいかがでしょうか。繰り返し見た映画やドラマ、アニメ、“バイブル”となったような作品はありますか。

高校生の終わり頃まで家にビデオがなかったし、放映時間にテレビの前に坐る能力がない、坐っても親にニュース番組などを優先されるので、通して見た番組はあまりなくて、たまたま目にした何話かだけを繰り返し思い出したりしてました。TVアニメだと出崎統・杉野昭夫コンビや宮崎駿、高畑勲、大塚康生あたりの気配を感じると、前のめりになりました。おおすみ正秋演出の『ルパン三世』(1971-1972)もすごく好きですね。サンライズの富野由悠季や高橋良輔のロボットアニメを見てはプラモを作ったり。海外のSFドラマもよく見てました。

小学生の頃で特に忘れられないのは、家にひとりでいたときにテレビでたまたま見た『吸血鬼ゴケミドロ』(1968)です。ネタバレしますが、墜落した飛行機の中で、高英男演じる逃亡中のテロリストの額がパカっと割れて、アメーバ状の寄生宇宙人ゴケミドロが出てくるんですよ(『宇宙人デカ』を怖い側面から見たようでもありますね)。そこから生き残った二人が街に辿りつくと、車の中も建物の中もミイラみたいな死体だらけで、最後、地球の全景が映ったと思うと気味の悪い色に変わって、夥しい数の円盤が宇宙に去っていく……というラストに戦慄して。しばらくの間、目を閉じるたびに車の中のミイラや滅亡した地球が浮かんで怖かったです。

ビデオデッキが家に来たあたりから、やっと繰り返し見ることができるようになります。アニメーションだと、川尻善昭の『妖獣都市』(1987)(硬質な色彩設計や作画の素晴らしさ。特に蜘蛛女の動き……)、押井守の『天使のたまご』(1985)(蒸気機関の陵墓みたいな太陽が空に昇ったり、巨大なシーラカンスの影を銛で打つ場面には魅せられます)、『機動警察パトレイバー the Movie』(1989)(松井刑事が下町や廃墟を黙々と歩きまわって捜査する場面とか、木造住宅の二階部屋で汗を流しながらシミュレーションをする場面とかすごく好きで)、あとは今川泰宏の『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』(1992-1998)とか、士郎正宗が自ら監督した『ブラックマジック M-66』(1987)(ディティール細かな演出がとにかく凄くて、絵コンテも買いました)とか――あとルネ・ラルーの『ファンタスティック・プラネット』(1973)と『ガンダーラ』(1987)の異世界の生態系の描き方には大きな影響を受けました。

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日本の映画だと、塚本晋也の『鉄男』(1989)は衝撃的で、ほとんどビデオドラッグ状態でしたし、北野武『その男、凶暴につき』(1989)には当時の映画の定形を揺さぶる鮮烈さがあって、繰り返し見てました。あとは鈴木清順『ツィゴイネルワイゼン』(1980)、黒沢清映画全般、古い映画だと成瀬巳喜男とか清水宏あたりが好きです。

外国映画だと、デヴィッド・クローネンバーグには笑ってしまうほど影響を受けてますね。『スキャナーズ』(1981)『ビデオドローム』(1982)『裸のランチ』(1991)……2012年の『コズモポリス』ではほとんど映像インスタレーションみたいでしたが素晴らしかったです。

十代の終わりくらいに初めてみたフリッツ・ラングの『メトロポリス』(1972)の存在もかなり大きいです。色んなバージョンで繰り返し見てますが、そこから他のフリッツ・ラング作品や色んなサイレント映画へのきっかけにもなり、絵の作風がすっかり変わりました。それから、やはりアンドレイ・タルコフスキー。『惑星ソラリス』(1972)『ストーカー』(1979)『鏡』(1975)『ノスタルジア』(1983)『サクリファイス』(1986)……ビデオやDVDで繰り返し見たり、リバイバル上映の度に見に行ったり、著作や日記などもよく読んでました。特に『鏡』がすごく好きで、リブロポートから出た『アンドレイ・タルコフスキイ『鏡』の本』(1994)も買いました。シナリオやスチルを収録した、大判の素晴らしい本です。

あとはデヴィッド・リンチ、スタンリー・キューブリック、アレハンドロ・ホドロフスキー、フェデリコ・フェリーニ、テリー・ギリアム、ヤン・シュヴァンクマイエル、セルゲイ・パラジャーノフ、ニコラス・ローグ、カール・ドライヤー――とまあよく挙げられる名前になりますね。

――アート面での影響も大きかったのですね。お話を聞いていると、ドキドキワクワクしながらSF作品に食い入る酉島少年の絵が浮かびます。「この作品に救われた」というような出会いはありましたか。それとも、酉島さんにとってSFとは、もっと身近で楽しいものでしょうか。

救われた、とは特に感じたことはないのですが、それぞれの作品と出会う度に、世界の多様な見方を教えられてきたように思います。例えば『伝説巨神イデオン』(1980-1981)で、地球人にとっては異星人であるバッフ・クランが、自分たちの星を〈地球〉、地球人の方を〈ロゴダウの異星人〉と呼んでいるのを見て、異星人観ががらっと変わったり。考えてみれば当然のことなんですけど、思い込みがあるとなかなか気づけない。子供の頃に目にした作品は、SF的でない方が少ないくらいだったので、ジャンルとして意識しないまま楽しんで血肉になっていますね。

――「自分もSF好きかも」と思われている若い方々へ、メッセージをお願いします。

それと知らずにSFを楽しんでいる方が多いんじゃないでしょうか。でももっとSFを知りたくなった時は、ガイドブック的な本を手に取ってみると面白いかもしれません。きっとその多様性や豊穣さに驚かされると思います。例えば『ハヤカワ文庫SF総解説2000』(2015)『サンリオSF文庫総解説』(2014)(どちらでも数作担当しています)、池澤春菜『乙女の読書道』(2014)、大森望『現代SF観光局』(2016)『21世紀SF1000』(2011)、牧眞司『JUST IN SF』(2016)、山本弘『トンデモ本? 違う、SFだ!』(2004)等々。

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――近著などのご案内がありましたらお願いします。

長編が出たばかりなので次の本までにしばらく時間がかかると思いますが、人間の小説と、中断していた幻想SF長編をはやく形にしたいところです。『SFマガジン』の連載『幻視百景』も続きます。

――ありがとうございました。今後の作品も楽しみにしています。

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VG+編集部

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