【質問禁止】『ペナルティループ』山下リオ、荒木伸二監督が語る砂原唯というキャラクター | VG+ (バゴプラ)

【質問禁止】『ペナルティループ』山下リオ、荒木伸二監督が語る砂原唯というキャラクター

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ペナルティループのきっかけとなる「砂原唯」を荒木伸二監督と山下リオさんが語る

CMプランナーから50歳で長編映画監督にデビューしたという異色の経歴を持つ荒木伸二監督と、『ペナルティループ』でキーパーソンとなる砂原唯を演じた山下リオさんにインタビューさせていただきました。砂原唯は『ペナルティループ』でループのきっかけになった殺人事件の被害者で、ミステリアスな雰囲気を持つ人物です。

『ペナルティループ』は恋人の砂原唯を殺された若葉竜也さん演じる岩森淳が、伊勢谷友介さん演じる溝口登に復讐を果たそうとする物語です。これがただの復讐劇と異なるのは、復讐を遂げても深夜十二時になると復讐を決行した朝に戻ってしまうという点です。そして、復讐を果たそうとする岩森と、殺されないように抵抗する溝口の間には奇妙な関係が生まれていきます。

そのループのはじまりでもあり、被害者であり、そして謎めいた人物という3つの顔を持つ砂原唯。そのようなキャラクターを荒木伸二監督と山下リオさんはどのように創り上げていったのでしょうか。演出する監督と演じる俳優という2つの視点からお話をうかがいました。

なお、本記事は映画『ペナルティループ』のネタバレを含みます。本編視聴後に読んでいただけると幸いです。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ペナルティループ』の内容に関するネタバレを含みます。

『ペナルティループ』荒木伸二監督、山下リオインタビュー

特殊な人間のような気がしていましたけど、案外ただの人間だなって思うようになったんです

――山下さん演じる砂原唯というキャラクターは復讐のループのきっかけであり、数少ないループの外にいるキャラクターという印象を受けました。その上、恋人の岩森淳も知らされていない秘密を抱えています。脚本も担当した荒木伸二監督と演じている山下リオさんはどのように砂原唯の人物像を創り上げていったのでしょうか。

荒木伸二監督(以下、荒木):1本目『人数の町』で思ったんですが、主人公、準主人公、相手役……と出番が少なくなっていけばいくほど、観客はそっちのキャラクターに興味がいくんですよね。情報が少ないから「どういう人なんだろう。もっと情報をくれ」となるのです。で、ついつい膨らませたくなるのですが、全てを晒す必要があるのは主人公だけ。2番手以降はやはり少し情報が不足している方が映画として締まるのです。なので、唯については敢えてどんどん情報を削りました。そんな唯を山下さんがどう役作りしたは山下さんだけが知っています(笑)。

――砂原唯は岩森淳と初めて出会った際、黒塗りの書類を燃やしているなど謎の多い人物でした。その上、溝口登は砂原唯の暗殺を依頼されており、砂原唯はそれに対して静かに「殺して」と返すなど、死ぬことを望むなど秘密の多いスパイを想起させるようなキャラクターです。山下さんは、どのように砂原唯というキャラクターをつくっていったのでしょうか。

山下リオさん(以下、山下):最初は、砂原唯は特殊な人間のような気がしていました。でも、何度も脚本を読んでいく内に、普通というか、案外ただの人間だなって思うようになったんですよ。特殊なのは職業だけで、シンプルに自分の抱えた問題と戦っている人だなって。その中で、強さと弱さ、相反するものを持っている人だなと。それがずっと揺れ動く中で、強い方を選んできたからこそ、その先に「解放」という意味での、死があったんだと思います。最後まで多くの謎を残して去った唯ですが、私だけは演じる上で、常に本音と真実を持って存在しなければいけない、と思いました。

――ループを繰り返す中で、岩森淳、秘密の書類を処分する砂原唯、そんな砂原唯を殺害するような命令を受けている溝口登と各キャラクターが抱える事情が明らかになっていく『ペナルティループ』ですが、荒木伸二監督はキャラクターの背景設定などはどこまで構築したのでしょうか。また、山下さんは砂原唯という謎の多いキャラクターを演じる上でどこまで砂原唯の背景設定を意識したのでしょうか。

荒木:キャラクターごとにレポート用紙1枚ぐらいの設定表を全員分作りました。僕は半分ぐらい書いて、残りは助監督たちが頑張って書いてくれました。誰かがジン・デヨンさんの役について幼い頃、お母さんがトッポギ屋さんで働いていたとか書いてくれたのでそれを採用したら、ジン・デヨンさんが「僕のお母さんも本当にトッポギ屋さんで働いてました! 感動しました!」って(笑) いや、だからどうって話じゃないんですが、ああいう小さな設定とかって役に立つんですかね?

山下:私は結構くだらないことでも考えている方が好きです。別にそれをお芝居にどう組み込もうかとかは無いんですけど、でも自分の中でそういう情景がパッと出てくるかもしれないので、あるものは全部欲しいです。

荒木:若葉さんの演じるキャラクターのプロフィールも書きましたし、伊勢谷さんの演じるキャラクターのプロフィールも書いたと思います。

――若葉竜也さんや伊勢谷友介さんも演じるキャラクターのプロフィールは読まれたんですかね。

荒木:知りません。別にクイズにして出したりするわけではないので(笑)。ただ、制作の過程としては、「プロフィールはこうなっているからここはこうしようか」と美術や衣装、小道具なんかのアイデアが出たりするんですよ。

――砂原唯はミステリアスで、焼却処分していた書類に関してなどに対しては「質問禁止」と語るなど、全体を通して秘密が軸にあったと思いますが、砂原唯を演じるにあたって、この設定は他の俳優の方に伝えない方が良いなと思った部分などはありましたでしょうか。

山下:そもそも唯のプロフィールは、全体に共有されてたので、軽くは話してますが、元々、若葉竜也さんとは知り合いだったこともあり、現場では基本的にしょうもない話しかしてないと思います(笑)
かといってべらべら話すわけでもなく、気を遣わずにいられたのは有り難かったです。

2人がファミレスで一夜を過ごすシーンがあるんですけど、撮影時間も映画と同じ時間軸で、徹夜で撮ってたときなんか特に、私と若葉さんの絶妙な距離感が、そのまま映像に出ていると思います。

――『ペナルティループ』本編を観た感想では砂原唯が海辺で燃やしていた黒塗り書類は何だったのだろうと気になったのですが、書類関係の設定も決められていたのでしょうか。

荒木:大切そうな書類に、しかも黒塗りされている書類ということは誰かにとって滅茶苦茶不都合な書類であることは確かで、「何でわざわざ海に来てまで燃やしているんだろう」ということと、「燃やせという命令があって燃やしているんだろう」ということまで連想がいくかなと思っています。それと観た人の中で絡めたい情報が色々あると思うんです。森友問題と絡めたい人は絡めても良いと思いますし、若葉竜也さんとは週刊誌の記者とかもあのようなことがあるのではないかという話題も出ました。マスコミ関係者で真実に触っている人はそれを消さないといけない状況があるでしょうし、砂原唯はそういった最先端で戦っている女性だというようなことを考えていました。

――最後に、山下リオさんが徳島県出身と言うことで、SFレーベルKaguya Booksから刊行している なかむらあゆみ編『巣 徳島SFアンソロジー』(Kaguya Books/あゆみ書房)をお二人にプレゼントさせていただきました。

山下:いただけるんですか? 嬉しいです、興味あります!

荒木:徳島舞台のSFですか? 徳島県には行きたいけど行ったことないんですよ。これはいただけたってことは僕が勝手に映画にしても良いってことですか? 徳島でゆっくりロケできるのは魅力的ですね。徳島県が地元の山下さんは家から来てもらってもいいですか(笑)。

 

(聞き手・構成:鯨ヶ岬勇士)

『ペナルティループ』は2024年3月22日(金)より新宿武蔵野館、池袋シネマ・ロサほか全国公開。

『ペナルティループ』公式サイト

 

『ペナルティループ』の予告編はこちらの記事で。

『ペナルティループ』の演出論に関するインタビューはこちらから。

 

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鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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