『Rise of the Ronin』高杉晋作を演じたリック・クマザワが語るレプリゼンテーション | VG+ (バゴプラ)

『Rise of the Ronin』高杉晋作を演じたリック・クマザワが語るレプリゼンテーション

ゲーム『Rise of the Ronin』の裏側に迫る

『NINJA GAIDEN』(2004)や『仁王』(2017)の開発チームとして知られるTeam NINJAの最新作、PS5用ゲーム『Rise of the Ronin』が2024年3月22日(金)に発売された。『Rise of the Ronin』は激動の時代である幕末を舞台にしたオープンワールドアクションRPG。滑空装置のようなSF的なガジェットや、ド派手な“武技”などで演出される爽快なアクションや幕末の横浜・江戸・京都の町並みの他、坂本龍馬ら歴史上の偉人たちとの交流も楽しめる。

『Rise of the Ronin』では、坂本龍馬らの倒幕派、井伊直弼らの佐幕派、そしてマシュー・ペリーらの西洋の三つの勢力が登場。これらの登場人物と親交を深めるか、刃を交えるか、プレイヤーの選択次第で物語は変化していく。

2024年の最注目ゲームの一つである『Rise of the Ronin』だが、注目ポイントは英語版の制作過程にもあった。プロデューサーを務めたコーエーテクモゲームスの早矢仕洋介と、開発プロデューサー兼ディレクターを務めたTeam NINJAの安田文彦が手がけた『Rise of the Ronin』では、英語版にも日系の声優たちを起用し、日本語の固有名詞のアクセントなどにも気が配られたという。

バゴプラ編集部では、ゲーム『Rise of the Ronin』の英語版で高杉晋作役の声優を務めたリック・クマザワに話を聞く機会を得た。リック・クマザワは日本人の両親を持つ米国生まれの俳優で、『S.W.A.T.』(2017-)や『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』(2005-)といった作品に出演してきた。今回は、日系の俳優が英語で歴史上の人物を演じた収録の背景と、当事者の公正な表象を意味する「レプリゼンテーション」について話を聞いた。

『Rise of the Ronin』英語版 高杉晋作役リック・クマザワ インタビュー


リック・クマザワ

『Rise of the Ronin』英語版の舞台裏

――『Rise of the Ronin』では高杉晋作役を演じられましたが、歴史上の人物を演じるにあたってどのように準備をされたのでしょうか。

リック・クマザワ(以下、クマザワ):演じるのが偉人であっても、作品において命を吹き込むのは自分の声なので、クリエイティブに自分のフレーバーを入れて、興味深いゲームのキャラクターとなるように意識しました。

高杉晋作も有名ですが、より有名な坂本龍馬や黒船のペリー提督などがどのように描かれるのかは日本人として、そしてゲーマーとして気になりましたね。子どもの頃に歴史の授業で習った偉人がゲームでどのように登場するのか気になりました。

声の収録ではレコーディングした順番で音が入っていくのですが、僕はレコーディングしたのが早かったこともあり、ほぼ他のキャラクターの声は入っていない状態でした。会話のシーンもZoomで音響監督が坂本龍馬など他のキャラクターのセリフを読み、それに演技をして返すような形で進められています。他のゲームでは自分以外のキャラクターの声に合わせて演技をすることが出来たのですが、『Rise of the Ronin』は秘密裏に進められていた部分もあったので、僕が収録に入ったときは情報量が少なかったんですよね。

――日本でも『Rise of the Ronin』は解禁されている情報が少ないことも話題になっていましたね。高杉晋作を演じるにあたり、監督からどのようなディレクションがあったのでしょうか。

クマザワ:ゲーム上でどうなっているかはまだ分かりませんが、収録段階ではプレイヤーの頼れる兄貴のようなキャラクターだと言われていました。収録段階では映像も未完成のものしか観れなかったんです。大半は映像は無しで脚本を辿っていく録り方でした。僕も完成したゲームが非常に気になっています(笑)。

『Rise of the Ronin』の音響監督は、俳優の直感を重視してくれる方だったので、演じる際に頭の中でゲームをイメージして高杉晋作を創り上げていきました。流石にやり過ぎると指摘は入りますが、セリフはほぼガイダンスだったので自由度は高かったです。

たとえば歴史上の人物が五十年前の人物で、どんな風に話すのか想像できる人物ならば、もちろん僕も下準備をして皆さんが期待するようなキャラクターを演じようと収録に挑むと思います。しかし、高杉晋作がどのような話し方をするのかというイメージが世間的に共有されているわけではないので、自分の想像力で高杉晋作の話し方を組み立てて演じましたね。

――高杉晋作が日本語でどのように話していたのかも定かではない中で、それを英語で演じるのは特殊な状況ですよね。

クマザワ:収録自体は英語で行ったのですが、セリフは日本語のアクセントをつけて収録しました。僕は英語もネイティブに話せるので、英語の台詞に日本語アクセントを加えて演技をするのは面白いですし、キャラクターに深みが増したと思います。『Rise of the Ronin』のように日本人のキャラクターは日本人が演じ、日本語アクセントの英語は日本語アクセントを発音できる当事者が演じるレプリゼンテーションが普通になっていってほしいですね。

――『Rise of the Ronin』では史実では登場しないアイテムも登場するようです。初めて映像を観たときにどのように思われましたか?

クマザワ:僕も映像を初めて観たのが皆さんと同じタイミングだったので、収録時に感じたものを超えるSF的なゲームなのだと感じましたね。トレイラーが公開されたときに「こんなに面白そうなゲームなんだ」って(笑)。

日系俳優が語る「レプリゼンテーション」

――『Rise of the Ronin』には、多くの日系の方が声優として参加しているとお聞きしました。俳優/声優としてのキャリアにおいてレプリゼンテーションが重要だと感じることはありますか?

クマザワ:『Rise of the Ronin』は舞台が幕末なので、その時代の歴史的背景や知識を持った声優の方が収録もスムーズに進みますよね。また、制作陣には、歴史的に重要な人名や地名などの発音も正しい発音で収録したいという想いがあり、それが反映されていたと思います。日本人のキャラクターが「江戸(Edo)」を「エド」ではなく「イード」と呼んじゃダメですよね(笑)。日本の言葉を正確なアクセントで読むことが出来る日系人や日本人の声優を起用した方がゲームとしてのクオリティも上がりますし、収録もスムーズに進むと思います。

実写作品でのレプリゼンテーションは違う理由で必要だと思っています。これはアジア系の俳優として戦うべきことなのですが、アジア系のキャラクターは作家や制作陣の持つステレオタイプが反映された形で描かれることが多いんです。

現実世界に忠実な世界を物語の中でも描く上で、レプリゼンテーションは必要ですし、それを進めていくことができれば、幸せな映像業界になると思います。作品にアジア系をねじ込むということではなく、ロサンゼルスが舞台の作品なら、ロサンゼルスはアジア系が非常に多いのでその現実をちゃんと作品にも反映させるべきだということです。

――レプリゼンテーションを実現するために監督に意見することはありますか?

クマザワ:監督に意見することはありますし、意見すべきだと思います。ステレオタイプで描いてしまうのは悪意からではなく、知識不足が原因であることが多いので、伝えてあげる方が親切だと思います。最近は実写作品に出た際に、プロダクション側からキャラクターの姓を日本のものに変えることを提案してくれることが増えてきました。このようにキャストに合わせた変更ができるのはフィクションならではですよね。

『Rise of the Ronin』では、収録時に日本文化から引用されているものに関して監督から質問を受けました。本作は日本の方も関わった作品だったので、日本文化を再現し、正しいレプリゼンテーションがなされていたと思います。

――近年はレプリゼンテーションが重視されるようになってきましたが、日系アメリカ人のレプリゼンテーションはクマザワさんのような俳優に引っ張っていってほしいです。

クマザワ:僕自身は、子どもの頃に観た作品で日本人やアジア系の人物がポジティブな描き方をされておらず、なかなか自信を持つことができませんでした。だからこそ、メディアでの日本人やアジア系の描き方をポジティブなものにしようと俳優を志しました。ポジティブな描かれ方を見せることで、次世代の子ども達に夢を与えたいと思っています。

これから特に日系の人々を体現できるようになりたいですね。マーベル作品で言えば、ウルヴァリンの息子のダケンなど、日系のキャラクターを演じてみたいです。もともとサッカーをやっていたので、サッカーの実写化作品にも携わりたいです。日本って『タッチ』に『ハイキュー‼』、『キャプテン翼』に『スラムダンク』とほぼすべてのスポーツが漫画化されていると思うので、そういった作品のハリウッド実写化に携わってみたいですね。これは他のところでも言っているのですが、僕が演じるということでなくてもいいんです。目指すところは日系の人々のポジティブなレプリゼンテーションだからです。ただ、僕だったらそれができますよということは言っておきます(笑)。

みんなかつては子どもだったじゃないですか。その時にポジティブな影響を与えてくれた人物ってその人のその後の人生を左右すると思うので、自分もまだ未熟ですが、一人でも僕がやったことを見て何かを思ってくれれば幸せですね。僕の顔を見たり、声を聴いたりして、子ども達が「こういう人になれるんだ」とポジティブに思ってくれるようになることが僕の夢です。

――日本の作品でも『ONE PIECE』のあるキャラクターの覆面が取れたときに黒人だと分かり、アメリカの黒人コミュニティがすごく盛り上がったということがありました。

クマザワ:作ったときはそう思っていないかもしれないけれど、結果として人間が幸せを得られるってすごいことだと思うし、レプリゼンテーションってそういうことですよね。夢を与えるというか。イメージできなかったら夢にならないわけだから、ロールモデルをビジュアルで見られるというのは大きいことだと思います。「これだ!」ってね。

――最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

クマザワ:『Rise of the Ronin』はレプリゼンテーションを重視して作られたゲームで、日本の皆さんにも楽しんでいただければと思っています。僕が高杉晋作を演じている英語版も合わせて楽しんでもらえると幸いです。Enjoy!!

 

(聞き手:齋藤隼飛、鯨ヶ岬勇士 構成:齋藤隼飛)


★今回のリック・クマザワさんのインタビューでは、米国における声優業と俳優業の関係、組合やエージェントの仕組み、印税事情などについても語っていただきました。それらの内容を収録した本インタビューの完全版は、2024年4月刊行予定の Kaguya Booksマガジン第1号に収録します! 刊行をお楽しみに!


 

プレイステーション5用ソフト『Rise of the Ronin』は好評発売中。

 

ソニー・インタラクティブエンタテインメント
¥7,236 (2024/04/28 04:59:13時点 Amazon調べ-詳細)

 

映画『ペナルティループ』の荒木伸二監督と山下リオさんに演出論を聞いたインタビューはこちらから。

日本SF作家クラブの運営について聞いた池澤春菜さんへのインタビューはこちらから。

映画『ぼくらのよあけ』原作者・今井哲也さんに映画化について聞いたインタビューはこちらから。

VG+編集部

映画から漫画、ゲームに至るまで、最新SF情報と特集をお届け。 お問い合わせ

関連記事

  1. 勝山海百合が語る、てのひら怪談・かぐやSFコンテスト・期待の作家「豊かでござんすよ。どこにいたの皆」【Kaguya Planet インタビュー】

  2. 立原透耶インタビュー:『時のきざはし』編者が語る中国SFの今と翻訳のこれから【SFG×VG+】

  3. ピーター・トライアス スペシャルインタビュー「私とSF」

  4. 【質問禁止】『ペナルティループ』山下リオ、荒木伸二監督が語る砂原唯というキャラクター