今井哲也インタビュー:『ぼくらのよあけ』遂に映画化。11年を経て変わったもの、変わらないもの | VG+ (バゴプラ)

今井哲也インタビュー:『ぼくらのよあけ』遂に映画化。11年を経て変わったもの、変わらないもの

©今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

記事公開日:2022年10月10日

2022年10月21日(金)、劇場版アニメ『ぼくらのよあけ』が公開される。2011年に全2巻で完結した今井哲也のSF漫画を原作とした作品だ。

『ぼくらのよあけ』は、ロボット技術が発達した近未来の日本が舞台となっている。東京の団地に住む小学生たちが、地球に不時着して団地棟に擬装していた未知の存在「二月の黎明号」を宇宙へ返そうとする、ひと夏のミッションを描いた作品だ。ARやロボットが一般に普及した近未来を描く一方、昭和の建築を色濃く残す団地を舞台にすることで、憧れと懐かしさが同居した世界観を丁寧に描いている。

今回は、公開を間近に控える『ぼくらのよあけ』について、原作者の今井哲也さんに見どころを語っていただいた。

『ぼくらのよあけ』原作者 今井哲也インタビュー

――まずは、映画化について率直な感想をお聞かせください。

今井哲也(以下、今井):びっくりしたというのが正直な感想でした。漫画の連載が終わってからもう10年以上が経っていて、本屋さんにも在庫がない状態だったので。ずいぶん前に完結した漫画を映画にしていただける機会は多くないと思いますので、驚きました。もちろんうれしかったです。

――原作者として映画に意見を求められたのは、どの部分でしたか

今井:一番はシナリオですね。シナリオの打ち合わせは最初から完成するまで、ずっと関わっていました。映画の尺に原作2冊分すべては入りきらないため、エピソードをどのようにカットしていくか、ストーリー構成をどのように修正するか決める必要がありました。できるだけ原作をカットしたり雰囲気を大きく変えたりしたくないとおっしゃっていただいていたので、雰囲気を変えずに短くするにはどうすればよいか、監督の黒川(智之)さんや脚本の佐藤(大)さんと意見を出しあいました。

――原作者の立場から「このシーンは残したい」という要望などはあったのでしょうか?

今井:むしろ逆でしたね。どちらかというと、僕のほうが「このシーンはこんな風に変えたらいいのでは」と言って、お二人に止められることがありました。僕は「絶対にこうしてほしい」という気持ちはなかったですね。映画として良い作品にするための方法を、意見を出し合って考えていけたと思っています。お二人がどう思われているかは分からないので、もしかしたらとてもうるさい原作者だったと思われているかもしれないのですが(笑)。

――映画の予告編を見ると、物語の舞台となる阿佐ヶ谷住宅が解体されつつあるような状況に見えますね。このあたりは原作と変わった部分でしょうか。

今井:映画では団地の取り壊しが決まっていて、建物によっては解体が始まっているという設定になっています。阿佐ヶ谷住宅は、漫画の連載中はまだ建物自体はあったのですが、今では新しいマンションに建て替わりました。『ぼくらのよあけ』は、阿佐ヶ谷住宅という建物の良さも作品の一要素ですが、未来の物語で今はもうない建物をモデルにしています。未来の話なのに、阿佐ヶ谷住宅が今はもうないことに触れないのは変じゃないかな、というのが設定を変更した一つの理由だったと思います。

――現実の変化に合わせて設定を変えたということですね。

今井:そうですね。それから映画では、取り壊しの日時自体が物語のタイムリミットにもなっています。これも原作にはない要素で、盛り上げる要素を一つ足した形ですね。これは確か佐藤さんのアイデアだったかな。なので、映画では沢渡家が引っ越しの準備をしていて、家の中に段ボールがあって部屋が狭くなっているんですよ。この部屋が狭くなっている感じがすごく良くて、いいアイデアだったなあと思います。

©今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

――今はなき阿佐ヶ谷住宅が映画でよみがえることに、何か想いなどはありますか。

今井:取り壊しになる前の阿佐ヶ谷住宅を実際に見たことがありますので、阿佐ヶ谷住宅が再現されていた美術を見て、「ああ、これだ」という懐かしい気持ちになりました。

――今回、キャラクターデザインなども一新されていますが、デザインはいかがでしたか。

今井:映画の制作にあたって、キャラクターデザインは原作と変えてやりたいというご提案をいただきました。僕以外の人に僕の作品を作ってもらえるのなら、その方がやりたいことをやってもらうほうが面白くなると僕は思っているので、「ぜひやってください」という気持ちでした。人間のキャラクターもナナコも面白いビジュアルがあがってきたので、すごく楽しみですね。

――特に好きなキャラクターなどはいましたか。

今井:もちろんメインキャラクターもみんな良いのですが、原作ではそこまで描きこんでいない、岸わこのクラスメイトの女の子たちがすごくいい顔をしているんですよ。原作では手癖で描いていたんですが、一人一人個性があるキャラクターになっていた上に声優さんの演技も素晴らしくて、個人的には一番グッときましたね(笑)。

――キャストに関しては、特に要望を出されてはいなかったんですよね。

今井:そうですね、全てお任せしていました。声優さんが決まったら教えてくださいという感じで。実際に決まったら、とても豪華で驚きました。

――アフレコなども見学されたと思いますが、このキャラクターの演技が良かったなということがあれば、教えていただけますか。

今井:メインキャストの方々に限らず、皆さんとても素晴らしい演技で、収録を見学しているあいだ、ずっと驚きっぱなしでした。個人的には、岸わこ役の戸松(遥)さんと弟の岸真悟役の藤原(夏海)さんのお二人の演技がすごかったです。この二人のキャラクターは作品の中でも特に感情の振れ幅が大きいので、難しいシーンが多いはずなのですが。

――漫画も、映画にあわせて再販するのでしょうか。

今井:紙の本は映画化にあわせて増刷が決まりましたので、この記事が掲載されているころには書店に並んでいると思います。ちなみに、今の講談社の漫画って裏表紙にバーコードが印刷されていないんですよね。今はビニールがかかっていて、バーコードのシールが貼られています。『ぼくらのよあけ』は昔の漫画なので、当時の単行本にはバーコードがあったのですが、ついにバーコードの無いバージョンが出ることになります。なんだか感慨深いですね。

――それでは、SFファンに向けてぜひ見どころなどをお聞きできればと思います。

今井:僕はあまりSFに詳しくはないので恐縮なのですが……。「虹の根」という星の風景を、イラストレーターのみっちぇさんが新しく描いてくださいました。早川書房から出ている『荒潮』(作・陳楸帆、訳・中原尚哉)の表紙を描かれた方ですね。僕はみっちぇさんの絵がとても好きなので、スタッフの方から「みっちぇさんにお願いしようと思っています」と連絡をいただいたときは、とても驚きました。あとは、作中でちらっと映るメカのデザインもかっこよかったです。工事現場の重機とか、バスや電車のデザインにもぜひ注目してください。

――『ぼくらのよあけ』はジュブナイルSFとしても注目されていますが、そちらの方面での見どころもぜひお聞きできればと思います。

今井:ジュブナイルSFといえば映画作品を思い浮かべる方が多いと思います。漫画にはもちろん音楽や声はありませんが、映画になって音楽と声がついたことで、皆さんが思い浮かべるジュブナイルSFになった気がしています。沢渡悠真を演じる杉咲花さんの、ワクワクしている少年の声や感情がぶつかり合うときの演技などのおかげで、とても良い作品になったと思います。映画のクライマックスと、その後のエンディングテーマまで素晴らしいですね。

©今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

 

劇場アニメ『ぼくらのよあけ』は2022年10月21日(金) 全国公開。

『ぼくらのよあけ』公式サイト

映画あらすじ
「頼みがある。私が宇宙に帰るのを手伝ってもらえないだろうか?」 西暦2049年、夏。阿佐ヶ谷団地に住んでいる小学4年生の沢渡悠真は、間もなく地球に大接近するという“SHⅢ・アールヴィル彗星”に夢中になっていた。 そんな時、沢渡家の人工知能搭載型家庭用オートボット・ナナコが未知の存在にハッキングされた。 「二月の黎明号」と名乗る宇宙から来たその存在は、2022年に地球に降下した際、大気圏突入時のトラブルで故障、悠真たちが住む団地の1棟に擬態して休眠していたという。 その夏、子どもたちの極秘ミッションが始まった―

□ スタッフ
原作:今井哲也「ぼくらのよあけ」(講談社「月刊アフタヌーン」刊)
監督:黒川智之
脚本:佐藤大
□ キャスト
杉咲 花(沢渡悠真役)、悠木 碧(ナナコ役)、藤原夏海(岸真悟役)、岡本信彦(田所銀之介役)、水瀬いのり(河合花香役)、戸松 遥(岸わこ役)、花澤香菜(沢渡はるか役)、細谷佳正(沢渡遼役)、津田健次郎(河合義達役)、朴璐美(二月の黎明号役)、横澤夏子(岸みふゆ)

(c)今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

 

今井哲也の原作漫画『ぼくらのよあけ』は講談社より全2巻が発売中。

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【!ネタバレ注意!】映画『ぼくらのよあけ』ラストと漫画版との違いについての考察はこちらから。

おーえす

大学に入るまではミステリばかり読んでいましたが、大学時代に友人に借りた小松左京でSFデビューしました。SF大会に行ったり、同人誌を作ったりしています。アイコンは将来の夢。
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