ネタバレ考察:映画『ぼくらのよあけ』のラストシーンの意味は?原作漫画との違いを考える | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ考察:映画『ぼくらのよあけ』のラストシーンの意味は?原作漫画との違いを考える

©今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

映画『ぼくらのよあけ』が2022年10月21日(金)より公開された。『ぼくらのよあけ』は2011年に完結した今井哲也の漫画が原作で、原作は星雲賞の候補作に選ばれるなど、SFファンも注目している作品だ。

すでにインタビューで語られているとおり、本作は映画化にあたっていくつかの改変が試みられている。映画はアクションの気持ちよさを前面に押し出しつつ、悠真とナナコの関係性をシンプルに描いたことで、誰が見ても楽しめる作品になっていた。

今回は、もっとも気になるあのシーンの改変について語りつつ、作品を振り返ってみたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、漫画および映画『ぼくらのよあけ』の内容に関するネタバレを含みます。

「死」が強調された物語

原作から変更された箇所としてもっとも大きな部分といえば、ラストシーンだろう。物語の終盤、ナナコは自身の人格がまもなく消えてしまうことを悠真に告げる。そして、二月の黎明号の記憶領域に人格をコピーし、二月の黎明号と共に虹の根へと旅立つ。ここまでは漫画、映画ともに同じだが、その先に続くシーンが異なっている。

映画では、荷造りをしている悠真が映される。そして、からっぽになった部屋に別れを告げて、両親が運転する車で阿佐ヶ谷住宅を後にするシーンで終わる。一方漫画では、2066年、悠真が宇宙飛行士となり、人類初の系外有人探査へと向かう後ろ姿が描かれていた。漫画『ぼくらのよあけ』のラストシーンが踏襲されるものと思い込んでいた原作ファンは驚くのではないだろうか。

過去のインタビューで今井哲也が語った通り、映画では二月の黎明号が擬態した団地棟の取り壊しが物語のタイムリミットになっている。この設定は、作品に通底するテーマを与えた。すなわち、「死」である。このテーマが、ラストシーンを変えたのではないかと考えられる。

人工知能と人の死について

漫画『ぼくらのよあけ』では、ミッションの実行日である打ち上げ時期は、もっとも少ない燃料で飛行できる時期が選ばれていた。このタイミングを逃すと次は46年後になってしまうが、極論を言えば二月の黎明号が機能を停止するわけではない。二月の黎明号は決して死ぬわけではなく、次に出発できる時を待つだけである。

ところが、映画『ぼくらのよあけ』には団地棟の解体という設定が加わった。取り壊しが始まってしまえば、二月の黎明号の宇宙船も、二月の黎明号そのものも失われてしまうだろう。すなわち、このタイミングを逃すと死を待つしかないことが明示されているのだ。

作中では、銀くんが「死とは何か」という疑問を提示した。彼の父親は小学1年生のときに亡くなっており、彼は死について理解したいと考えていた。そんな中でふと出た質問だったのだろう。それに対する二月の黎明号の答えは、「死については分からないもので、自分には死が怖いとはプログラムされていない」というものだ(なお、原作ではこのシーンで、死と生の境界線や仮想現実についても言及されている)。

その後、悠真たちが屋上に登れなくなったことをきっかけに、二月の黎明号は任務を断念することを決める。それは、二月の黎明号がいったんは死を受け入れたということだ。しかし、悠真たちとの会話のなかで二月の黎明号は感情をあらわにし、心の底からの叫びを発することになる。「死を怖い」と認識していない二月の黎明号が見せた感情的な様子。このシーンは、死に対する根源的な恐怖を深く印象づけたと言ってもよいだろう。

ナナコの死と終わり

こうして、映画『ぼくらのよあけ』では「死」というテーマが少しずつ示されていく。そして最後に表現されたのがナナコの死であった。映画の終盤、ナナコの人格が二月の黎明号に食い込んだ結果、二月の黎明号が地球を離れるとナナコは人格を保てなくなることが明かされる。人格が失われることは、すなわち悠真と過ごしたときの記憶も消えるということだ。

これを避けるためには、ナナコの人格を二月の黎明号の記憶領域にコピーするしかない。二月の黎明号はまもなく宇宙に向けて旅立ってしまうのだから、それはすなわち悠真とナナコの別れを意味する。オートボットとして悠真と暮らすナナコは永遠に失われ、悠真とナナコは離れ離れになってしまう。それは本質的には死と同じだと考えられる。

映画のラストシーンで、悠真は動かなくなったナナコを段ボールに詰めていた。緩衝材の紙屑の中にナナコが横たえられ、その上に一枚の紙をかける。故人の顔に布をかける、いわゆる打ち覆いを連想させるシーンだ。死を暗喩するものとして描かれたシーンだと読み取れる。

さて、最初の疑問に戻ろう。この物語はナナコの死によって終わった。だから、ナナコの生が前提となる漫画『ぼくらのよあけ』のラストシーンは描かれなかったと考えられるだろう。

映画『ぼくらのよあけ』では、随所に「終わり」を迎えるものが表現されていた。舞台となる阿佐ヶ谷住宅が解体されることを前提に物語が作られていたし、沢渡家は引っ越しに向けて準備を進めていた。岸みふゆ(岸真悟の母)が沢渡はるかに対して挨拶していたのも、いずれ引っ越して離れてしまうことの表れだろう。あらゆるものに終わりはやってくる。子供たちは別れを繰り返して、いずれ大人になっていく。そんなジュブナイルの本懐が映画で描かれていると読み解けるだろう。

映画『ぼくらのよあけ』は、全国の劇場で公開中。

『ぼくらのよあけ』公式サイト

映画あらすじ
「頼みがある。私が宇宙に帰るのを手伝ってもらえないだろうか?」 西暦2049年、夏。阿佐ヶ谷団地に住んでいる小学4年生の沢渡悠真は、間もなく地球に大接近するという“SHⅢ・アールヴィル彗星”に夢中になっていた。 そんな時、沢渡家の人工知能搭載型家庭用オートボット・ナナコが未知の存在にハッキングされた。 「二月の黎明号」と名乗る宇宙から来たその存在は、2022年に地球に降下した際、大気圏突入時のトラブルで故障、悠真たちが住む団地の1棟に擬態して休眠していたという。 その夏、子どもたちの極秘ミッションが始まった―

□ スタッフ
原作:今井哲也「ぼくらのよあけ」(講談社「月刊アフタヌーン」刊)
監督:黒川智之
脚本:佐藤大
□ キャスト
杉咲 花(沢渡悠真役)、悠木 碧(ナナコ役)、藤原夏海(岸真悟役)、岡本信彦(田所銀之介役)、水瀬いのり(河合花香役)、戸松 遥(岸わこ役)、花澤香菜(沢渡はるか役)、細谷佳正(沢渡遼役)、津田健次郎(河合義達役)、朴璐美(二月の黎明号役)、横澤夏子(岸みふゆ)

(c)今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

 

原作者・今井哲也に映画化の裏側を聞いたインタビューはこちらから。

今井哲也の原作漫画『ぼくらのよあけ』は講談社より全2巻が発売中。

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おーえす

大学に入るまではミステリばかり読んでいましたが、大学時代に友人に借りた小松左京でSFデビューしました。SF大会に行ったり、同人誌を作ったりしています。アイコンは将来の夢。
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