『X-MEN‘97』第3話 ネタバレ解説 ジーン・グレイを通して描かれるアイデンティティ問題 感想&考察 | VG+ (バゴプラ)

『X-MEN‘97』第3話 ネタバレ解説 ジーン・グレイを通して描かれるアイデンティティ問題 感想&考察

©2024 Marvel

『X-MEN‘97』で描かれるアイデンティティ問題

1992年から1997年にかけて放送され、マイノリティのアイデンティティ問題などにも鋭く切り込んだアニメ版『X-MEN』。その正統続編である『X-MEN‘97』の第3話「炎で作られし肉体」の配信が2024年3月29日(水)より開始された。そこでは2人目のジーン・グレイの登場という衝撃的なクリフハンガーから、彼女を通してアイデンティティ問題が描かれることになる。

本記事では『X-MEN‘97』第3話「炎に作られし肉体」の考察と解説、感想を述べていこう。なお、本記事は『X-MEN‘97』第3話「炎に作られし肉体」のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。

ネタバレ注意
以下の内容は、アニメ『X-MEN‘97』の内容に関するネタバレを含みます。

アイデンティティ問題と家族の問題

本物のジーン・グレイ

2人目のジーン・グレイにはこれまでのX-MENとしての戦いや結婚式、ダーク・フェニックスなど本人しか知り得ない記憶があるが、それもすべて断片的で曖昧だ。2人目のジーン・グレイの最近の記憶は薄汚い研究所のようなところで目を覚まし、そこから逃亡したというものであった。記憶の最後に入ってくる笑い声はアニメ版『X-MEN』を見ていた視聴者ならば、聞き覚えのあるものであろう。

その声の持ち主はサイクロップスとジーン・グレイの遺伝子を最高のミュータントの遺伝子だと執着し、村1つ滅ぼしても何も思わないマッドサイエンティストのミスター・シニスターである。完璧なミュータントを生み出すために、サイクロップスとジーン・グレイを長年追ってきたミスター・シニスターはモーフの邪悪な人格を利用するなど、ミュータントでありながらミュータント最大の敵とも言える存在だ。

ビーストは2人目のジーン・グレイの遺伝子と1人目のジーン・グレイの遺伝子はまったく同じだった上、炭素年代測定では2人目のジーン・グレイの年齢が正しく、1人目だと思われていたジーン・グレイの方が若かったことを明かす。そこでマグニートーが恐ろしくも誰もが考えた考察を立てる。それはこれまで共に過ごしてきたジーン・グレイはクローンだったというものだ。

アイデンティティ問題

1人目のジーン・グレイは当然受け入れられない。最愛の夫であるサイクロップスも絶句したまま何も話さない。拒絶されたと感じた1人目のジーン・グレイは打ちひしがれる。マグニートーはそのような状況でもリーダーとして、ビーストに検査を続けるように命令し、問題の早期解決を頼むのだった。モーフは賛成してスパイラルに変身し、挙手する。遺伝子解析をも拒絶する1人目のジーン・グレイはストームだったら自分を信じたと言い、息子のネイサンを連れて自室にこもってしまった。

コミックではジーン・グレイのクローンは度々登場する存在だ。それによってジーン・グレイの死が隠蔽されたこともあった。しかし、『X-MEN‘97』では、それをストームのミュータント能力喪失によるアイデンティティの揺らぎと組み合わせ、アイデンティティ問題として描いていると考察できる。それはジーン・グレイ1人のものではなく、夫婦関係、そしてチーム全体を揺るがしかねないものだ。

混乱する1人目のジーン・グレイに何者かが呼びかける。その頃、研究室ではビショップがタイムラインへの影響を確認し、ビーストがジーン・グレイの遺伝子解析を続け、2人目のジーン・グレイの看病をサイクロップスが行なっていた。そこでビーストは恐ろしい事実に気が付く。それは遺伝子に残されたミスター・シニスターの痕跡だった。

ゴブリン・クイーンの誕生

1人目のジーン・グレイの自室に現れたミスター・シニスターは、1人目のジーン・グレイに自分を父親と呼んでもよいと笑いながら語り掛ける。ミスター・シニスターの目的は完璧なミュータントの遺伝子であるサイクロップスとジーン・グレイの子供を生み出すことであり、そのために1人目のジーン・グレイというクローンを生み出したのだった。その事実は1人目のジーン・グレイのアイデンティティを打ち砕く。

ミスター・シニスターはジーン・グレイのクローンの反抗も予測しており、自分の体の一部を予め移植し、コントロールできるようにしていた。一度はミスター・シニスターのテレパシーをはねのけるジーン・グレイのクローンだったが、すべての記憶が偽りだったと知ると態度が豹変し、ジーン・グレイからゴブリン・クイーンというヴィランになってしまった。ゴブリン・クイーンとなった彼女はすべてのX-MENに地獄を見せると語る。

ウルヴァリン、ガンビット、モーフは戦いの訓練室〈デンジャールーム〉でトレーニングを重ねていた。モーフは戦いの訓練室〈デンジャールーム〉の予約がマグニートーとローグで埋まっていることでガンビットをからかう。マグニートーとローグが共に抱える謎が原因で、ガンビットはマグニートーを疑い、ローグを信じきれなくなっていた。

浮き彫りになる恐怖

ローグを探すといってその場を後にするガンビットと、ジーン・グレイの様子を見てくると言うウルヴァリン。一人残されたモーフは寂しくシャワー室に向った。そこにゴブリン・クイーンの魔の手が迫る。ゴブリン・クイーンはX-MENのメンバーたちが持つトラウマや恐怖を、形を持った幻覚として見せつけるのだった。

ガンビットにはローグとマグニートーが愛し合っている姿を、ロベルトには母親から拒絶される姿を見せつける。そして、かつてミスター・シニスターの部下となっていたローグのもとにはミスター・シニスターの幻覚を送り込む。サイクロップスにはプロフェッサーXから見捨てられる様子を、ビショップには幻覚で妹のシャードから荒廃した未来を見捨てたと責めさせる。

ゴブリン・クイーンによって恵まれし子らの学園そのものが地獄絵図と化していく。X-MENたちは各々のミュータント能力で対応していき、最後はサイクロップスがビショップにオプティックブラストを集中させることで怪物たちを一掃した。しかし、悪夢はまだ終わらなかった。ミュータントたちにとって最大の恐怖、偏見と差別の象徴であるセンチネルが姿を現したのだ。

本物とクローン

巨大なセンチネルを消し去り、すべてを修復したのは本物のジーン・グレイだった。ミュータント能力を使ったことで消耗し、倒れる本物のジーン・グレイをゴブリン・クイーンが哀れだと蔑む。サイクロップスは彼女の説得を試みるが、名前を尋ねられ何も言えなくなってしまう。

そしてクローンのジーン・グレイは、自分はジーン・グレイもX-MENも超越した存在であり、ゴブリン・クイーンだと名乗るのだった。ゴブリン・クイーンは自分を追えばただでは済まないと言い、息子のネイサンを連れて恵まれし子らの学園を後にするのだった。

騒動の後、パトロールに出ていたマグニートーとローグが帰還する。モーフはミスター・シニスターに操られていたトラウマに襲われ、長年監禁されていたジーン・グレイはミュータント能力を制御できずに苦しんでいた。サイクロップスは自分自身を責めている。マグニートーはミュータント最大の敵であるミスター・シニスターへの攻撃を決意し、モーフはアジトへの案内役を買って出る。

ミスター・シニスターの館

その頃、ミスター・シニスターはようやく手に入れた完璧なミュータントであるネイサンを利用して実験を行なっていた。ネイサンを不死身の怪物へと変えるつもりのミスター・シニスター。そのアジトに辿り着いたX-MENたちにゴブリン・クイーンが立ちはだかる。

彼女は『ニュー・ミュータント』(2020)で登場したコロッサスの妹であるマジックに変身したモーフを操り、手駒へと変えてしまった。ゴブリン・クイーンのテレキネシスはマグニートーの磁力操作を越える力を持ち、かつてX-MENが束になっても敵わなかったマグニートーを倒す。そして最愛の夫だったサイクロップスにも手をかけた。

ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
¥1,200 (2024/04/27 00:14:48時点 Amazon調べ-詳細)

時を同じくして恵まれし子らの学園では本物のジーン・グレイが目を覚ます。ミュータント能力がコントロールできずに苦しむジーン・グレイだったが、彼女を想うウルヴァリンの気持ちを読み取り、能力を制御し始める。彼女の頭にゴブリン・クイーンがサイクロップスを手にかけようとしている瞬間が流れ込み、ジーン・グレイはテレパシーでゴブリン・クイーンの所業を止めようとする。

2人を繋ぐ思い出

ジーン・グレイだと思って過ごしてきた人生を奪われたと語るゴブリン・クイーンは、本物のジーン・グレイのテレパシーに抵抗する。そして、かつて自分はフェニックス・フォースに選ばれたダーク・フェニックスであったと語るが、ジーン・グレイはそれ以上に大事な記憶を呼び起こした。

それは最初にプロフェッサーXと出会った日の記憶であり、親友の死でミュータント能力に目覚めたこと、そしてこれまでの戦いの日々だった。痛みを共有し、彼女を救いたいというジーン・グレイを拒絶するゴブリン・クイーンだったが、何物にも代えがたい記憶を思い出させられることになる。それはネイサンが生まれた日の記憶だった。

これまで、X-MENのメンバーたちはミュータント能力とアイデンティティを同一視する傾向が強かった。それに対し、ジーン・グレイが見せたのは人生を形作る記憶であり、そしてゴブリン・クイーンのみが持つ母親というミュータント能力以外のアイデンティティと息子への愛だった。ジーン・グレイはミュータント能力を持つから特別なのではなく、誰しもが特別であるということを伝えたかったと考察できる。

ケーブルの誕生

ゴブリン・クイーンとサイクロップスの協力でネイサンを救出することに成功したが、ミスター・シニスターはその行為により、ネイサンは死ぬと語り、姿を消す。その言葉通り、ネイサンはテクノ・オーガニック・ウィルスに体を蝕まれていた。現代に治療法はなく、未来に行けるタイムバンドもビショップとネイサンの分のエネルギーしか残されていない片道切符だ。

サイクロップスは自分の父親のように息子を捨てるわけにはいかないと、その場を立ち去ってしまう。ジーン・グレイとサイクロップスの遺伝学上の息子がテクノ・オーガニック・ウィルスに蝕まれるというのは未来から来たミュータントであるケーブルと同じ設定だ。

『デッドプール2』(2018)でも登場したケーブルは高いミュータント能力を持っているが、そのほとんどをテクノ・オーガニック・ウィルスの進行を食い止めるのに使っている。その代わりとして未来の武器を使って戦うミュータントだ。

¥407 (2024/04/15 08:45:16時点 Amazon調べ-詳細)

アニメ版『X-MEN』でも西暦3999年の未来から来たミュータントとして登場しており、育つ時間は違うがミスター・シニスターの策略で生まれたネイサン・サマーズというミュータントが誕生したことになる。これによってケーブルが誕生する時間軸が生まれたと考察できる。ゴブリン・クイーンはネイサンにテレパシーでメッセージを残すと、ネイサンをビショップに託して未来へと送った。

マデリン・プライヤーの旅

2人のジーン・グレイはどこから入れ替わっていたかわからないと語り、過去も現在も不安定だが未来だけは確かだと続けた。そしてクローンのジーン・グレイは新たな人生を歩むために恵まれし子らの学園を去ることを決意する。そして、名前をマデリン・プライヤーと変えるのだった。

マデリン・プライヤーはコミックにおけるゴブリン・クイーンの本名で、ケーブルの母親の名前である。こうして『X-MEN‘97』はコミックに近いタイムラインに変化していったのであった。しかし、ジーン・グレイのアイデンティティ問題は周囲を巻き込み、本当の自分がわからないという事実はサイクロップスに混乱を与えた。

ストーム復活?

ミュータント能力を失い、放浪の旅を続けるストームにとある人物が接触してくる。それは未来世界で様々なガジェットを開発していたミュータントのフォージだった。プロフェッサーXの古い友人と話すフォージは、自分ならばストームの能力を元に戻せると語る。

第3話の感想と第4話で描かれるストームの復活

『X-MEN‘97』第3話「炎に作られし肉体」はジーン・グレイを通し、X-MENのメンバーのアイデンティティを掘り下げるものであった。ミュータント能力とアイデンティティを同一視する傾向の強かったX-MENに対して、ジーン・グレイはそのような考えに一石を投じた。その一方で、家族を捨てた父親に似ることを恐れるサイクロップスや母親に否定されたことをトラウマとしているロベルトなど、家族の問題にも触れていった。

そのような『X-MEN‘97』第3話「炎に作られし肉体」だったが、第4話ではストームの復活が描かれると考察できる。ストームはミュータント能力をアイデンティティとし、その喪失によってX-MENを去ったキャラクターだ。ストームのミュータント能力の復活には、彼女が自分自身のアイデンティティと向き合う必要性があるだろう。第4話で描かれるストームのアイデンティティ問題に期待が高まる。

『X-MEN‘97』第3話「炎に作られし肉体」は2024年3月27日(水)よりDisney+にて配信開始。

『X-MEN’97』配信ページ

『X-MEN’97』の情報解禁はこちらから。

『X-MEN’97』で登場するX-MENのメンバーはこちらから。

『X-MEN’97』第1話「来たれ、我がX-MEN」のネタバレ感想と考察はこちらから。

『X-MEN‘97』第4話「モテンドー/生と死(前編)」のネタバレ感想と考察はこちらから。

『ファンタスティック・フォー』に関する発表はこちらの記事で。

『デッドプール&ウルヴァリン』と旧「X-MEN」シリーズの繋がりについての考察はこちらから。

MCU最新タイムラインの解説&考察はこちらの記事で。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
お問い合わせ

関連記事

  1. マーベルアニメ『ホワット・イフ…?』8月11日配信開始! 予告編とポスターが解禁【What If…?】

  2. 『ホワット・イフ…?』シーズン2ではMCUフェーズ4の映画をベースに ケヴィン・ファイギが語る

  3. フランス版『メガロボクス』 声優にムスリムラッパー起用で話題に

  4. 『メガロボクス』はなぜ、国境を越えて愛されたのか【海外で愛された理由】