ポストクレジット ネタバレ解説『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』エンディングの意味は? 徹底考察 | VG+ (バゴプラ)

ポストクレジット ネタバレ解説『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』エンディングの意味は? 徹底考察

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『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』ラストに注目

ついにMCU映画最新作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が2022年1月7日(金)より日本でも公開された。米国から3週間遅れでのリリースとなった本作には、前評判通りの驚きの展開が待っていた。今回は、MCU「スパイダーマン」最初の三部作のラストを飾るにふさわしい名作となった『ノー・ウェイ・ホーム』のエンディングとミッドクレジットシーン、そしてポストクレジットシーンについて解説しよう。

以下の内容は『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の結末に関するネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。最高の映画体験が待っていることを保証する。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の結末に関するネタバレを含みます。

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』衝撃の展開

映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』では、前作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019)でミステリオがスパイダーマンは人殺しであるとフェイクニュースを流し、更にスパイダーマンがピーター・パーカーであることを暴露したせいで、友人であるMJとネッドがMIT(マサチューセッツ工科大学)の入学を拒否されてしまう。

自分のせいで自分の大切な人たちが傷ついていくことにショックを受けたピーターはドクター・ストレンジを頼り、「スパイダーマンがピーター・パーカーであることを人々が忘れる呪文」を唱えてもらう。しかし、ピーターが何度も呪文をやり直しさせたせいでドクター・ストレンジは魔法を発動させることに失敗し、別のユニバースから「スパイダーマンがピーター・パーカーであることを知っている人々」を呼び寄せてしまう。

それはソニーが過去に独自に映画化した「スパイダーマン」シリーズのヴィランであり、サム・ライミ監督版『スパイダーマン』(2002) のグリーン・ゴブリン、『スパイダーマン2』(2004) のドクター・オクトパス、『スパイダーマン3』(2007) のサンドマン、マーク・ウェブ監督版『アメイジング・スパイダーマン』(2012) のリザード、『アメイジング・スパイダーマン2』(2014) のエレクトロがMCU世界に呼び込まれてしまう。

ピーターはメイの言葉に従い、このヴィランたちを元の世界に返して死なせるのではなく、更生させることを選ぶ。その選択によってメイの死という結果を招くが、ネッドが唱えた呪文によってトビー・マグワイア演じるサム・ライミ監督版のスパイダーマンと、アンドリュー・ガーフィールド演じるマーク・ウェブ監督版のスパイダーマンが召喚される。

その二人のピーター・パーカーは共にベンおじさんを失っており、「大いなる力には大いなる責任が伴う」という言葉をベンから授かっていた。この台詞は直前にメイがトム・ホランドのピーターに言った言葉であり、ピーターはメイの意思を継いで5人のヴィランを助けることを決意したのだった。

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』ラストの意味は?

ピーター・パーカーたちは悪党になったヴィランたちから、その命ではなく“力”を奪うという方法で改心させる。当時より歳を重ねたように見える別のユニバースから来た二人のピーターも、敵を殺しても良い結果にはならなかったと、その行動を後悔していたのだ。

トムホ版ピーターはメイを殺した仇であるグリーン・ゴブリン追い詰めると、キャプテン・アメリカの盾を模したオブジェの上でグリーン・ゴブリンのグライダーの刃をグリーン・ゴブリンに突き刺そうとする。このシーンは『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016) で初代キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースがアイアンマンことトニー・スタークに盾を突き立ててリアクターを破壊したシーンと同じポーズになっている。

しかし、それを止めたのはトビー・マグワイア演じるピーター・パーカーだった。元の世界ではグリーン・ゴブリンを自分が殺してしまい、それによって親友のハリーまでもを殺す結果を招いてしまっていた。その直前にはアンドリュー・ガーフィールドのピーター・パーカーが落下するMJを助けており、元の世界でグウェン・ステイシーを救えなかったピーターにも“セカンドチャンス”が与えられた。

トビー・マグワイアのピーター・パーカーは、背中を刺されながらも、後悔をしないように身を呈してグリーン・ゴブリンを守ったのだ。ピーター達はグリーン・ゴブリンの人格を消してノーマン・オズボーンも助けると、いよいよドクター・ストレンジは全員を元のユニバースに戻すための呪文を唱えようとする。ヴィランは全員改心したため、ピーター・パーカーと共に元のユニバースに戻ってもスパイダーマンと戦うことはなく、誰も命を落とすことはない。

しかし、ここでドクター・ストレンジは異変に気付く。別のユニバースから「スパイダーマンがピーター・パーカーであることを知っている人々」が大量に押し寄せようとしていたのだ。おそらくこの中には二人のハリー・オズボーンも含まれていることだろう。

トムホ版ピーター・パーカーは当初ドクター・ストレンジがやろうとしていた通り、「全ての人がピーター・パーカーの存在を忘れる呪文」を上書きさせることでこの状況を食い止めることを決意。二人のピーターとネッド、そしてMJに別れを告げ、また会うことを約束して呪文を発動してもらうのだった。

なお、“アメイジング”なスパイダーマンを演じたアンドリュー・ガーフィールドは本作への出演を心から喜んでおり、『アメイジング・スパイダーマン3』での再演にも前向きな姿勢を見せている。詳しくはこちらの記事で。

皆はピーターを忘れた?

そして、多くの人が息を飲んで見守ったであろうエンディングシーン。ピーターは約束どおりMJがアルバイトをしているカフェを訪れ、MJとネッドがMITに合格したことを知る。二人は何の不自由もなく暮らしており、MJの首には『ファー・フロム・ホーム』でピーターがプレゼントしたネックレスが見えている。

ピーターは、先の戦いでMJが目の上に負った傷を見ると、かつての関係を告げるのをやめ、コーヒー代を払って二人の前から立ち去るのだった。この時ピーターは、幸せそうに過ごしているMJやネッドを再び危険に晒し、傷つけることを恐れたのだろうか。あるいは今でなくてもいいと思ったのかもしれない。二人はピーターが求めていた「普通の暮らし」を楽しんでいたし、MJの首元には確かにピーターと時間を過ごした証が残っていたからだ。

この場面について、マーベル公式は解説を公開しており、トム・ホランドとゼンデイヤはそれぞれ異なる見解を示している。詳細はこちらの記事にまとめている。

次にピーターはメイの墓参りに訪れる。そこに現れたハッピー・ホーガンもまたピーターのことを覚えていない。ハッピーはトニー・スタークを失い、メイを失うというただただ辛い状況に置かれている。トニーもメイもピーターという存在に遺志を託したが、この世界ではそのピーターがいないことになっている。ピーターは、「(メイが)支えた人が遺志を引き継ぐ」とハッピーを励まし、またも正体を明かすことなくその場を離れるのだった。

つまり、本作のサブタイトル「ノー・ウェイ・ホーム」には、ピーター自身が帰る場所をなくすという意味が込められていたのである。

ピーターの新しい人生

メイは亡くなり、世界中の人々もピーターを忘れた。世界一の有名人は一転して誰にも知られていない人間に。しかしそれは、ピーターにとっては新しい人生を生きるチャンスでもあった。ピーターは高卒認定試験の対策本を持って新しいアパートで一人暮らしを始める。なお、アメリカの高卒認定とは「一般教育修了検定(GED: General Educational Development)」のことで、高校を中退した人が大学進学のために受ける認定資格だ。ピーターならすぐに合格できるだろう。

完全に“Nobody”になったピーターだが、ニューヨーク州では2019年から滞在資格が与えられていない移民であっても運転免許証を取得できるようになった。また、不法移民であることが分かっても免許を発行する車両管理局(DMV)は移民局に通報を行わないことになっている。何のステータスもないピーターでも、大変ではあるが、サバイブしていくことは可能だろう。

ピーターは新居に『ホームカミング』でネッドが持っていたレゴのパルパティーンも持ってきている。ネッドのMCU初登場は、レゴのパルパティーン人形を操りながら「父子2人でレゴ デス・スターを作るのだ」とピーターに語りかけるシーンだった。レゴ デス・スターはネッドがピーター=スパイダーマンという事実を知るきっかけにもなった。

『ホームカミング』では、ピーターがトニー・スタークにスーツを没収されて普通の高校生活に戻った後、二人でレゴ デス・スターを組み立てる場面もあった。その時、ネッドは最後のピースであるパルパティーン人形をデス・スターに設置する役目をピーターに譲っている。このパルパティーンは二人にとって思い出の品なのだ。

ネッドのこれまでの描写と原作コミックでの設定はこちらの記事に詳しい。

そしてピーターは、警察の情報網を傍受する。これはトビー・マグワイア版ピーターもアンドリュー・ガーフィールド版ピーターも無線傍受という形でやっていた。助けを必要としている人がいると分かると、ピーターは手作りした明るい色の新しいコスチュームを着てクリスマスの街に繰り出す。

スパイダーマンがスイングする場所はニューヨークのロックフェラーセンターに立つ巨大クリスマスツリーの前。この場所はドラマ『ホークアイ』(2021)でも登場した場所であり、MCUファンにとっては小さなサプライズになっている。『ノー・ウェイ・ホーム』は2024年が舞台だが、『ホークアイ』は2024年の12月が舞台になっており、同じニューヨークを舞台にした『ホークアイ』ではすでにピーターの存在は人々に忘れられていたことになる。道理でクリントがピーターの名前を出さないわけだ(ストレンジの名前も出していないが)。

ここでMCU版「スパイダーマン」のお話は一旦終了。ゼンデイヤ演じるMJとジェイコブ・バタロン演じるネッドは、ここでMCUから離脱しても不自然ではない形で物語は締め括られた。MCU「スパイダーマン」は『ノー・ウェイ・ホーム』で「ホーム」をサブタイトルに冠した三部作が終了するため、何名かの俳優陣との契約もこれで終了になると見られる。

主演のトム・ホランドもまた契約は終了するが、MCU版「スパイダーマン」シリーズ全作でプロデューサーを務めてきたエイミー・パスカルは、「トム・ホランドとマーベルと次のスパイダーマン映画を作る準備をしている」「次の三つの映画に進む」話しており、トム・ホランドと共に新三部作が作られる可能性があることが判明している。発言の詳細はこちらの記事で紹介している。

エイミー・パスカルは元ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの共同会長で、独立した今もソニーとは緊密な関係にある。トム・ホランドのカムバックはほぼ確実だと言えるが、MJやネッド、そしてフラッシュ・トンプソンといったMCU「スパイダーマン」のキャラクターのカムバックにも期待したい。

なお、このエンディングについて脚本家が解説した内容はこちらの記事で紹介している。

次に、ミッドクレジットシーンとポストクレジットシーンの解説に入る。ここからは、別作品のネタバレも含むため、すでに日本で公開されているいかなる作品のネタバレも覚悟して読んでいただきたい。

ネタバレ注意

ミッドクレジットシーンの意味は?

そして待ちに待ったミッドクレジットシーンだ。画面に映し出されたのはソニーの「ヴェノム」シリーズで主演を務めるトム・ハーディ。そう、ヴェノムと一体になったエディ・ブロックが登場したのだ。

米で2021年10月に、日本で12月に最新作『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』が公開された「ヴェノム」シリーズは、ディズニー/マーベルが権利を持つMCUではなく、ソニー・ピクチャーズが権利を持つ“ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース=SSU”の作品。MCU「スパイダーマン」シリーズはソニーとマーベルが共同で制作する特殊な作品だ。

かつてマーベルが経営難に陥った際に、自社キャラクターの映画化の権利を各社に売り払ったことが全ての始まり。「X-MEN」や「ファンタスティック・フォー」の映像化の権利を保有していた20世紀フォックスはディズニーが会社ごと買収したため、かつて権利が売却された多くのキャラクターもMCUへの参戦が可能になった。一方で、今でも「スパイダーマン」関連キャラクターの900人以上の映像化の権利を保有しているのがソニーなのだ。

話を『ノー・ウェイ・ホーム』のミッドクレジットシーンに戻そう。エディ・ブロックはバーでビールを飲んで酔っ払いながら、このMCUユニバースで何が起きたのかをバーテンダーから聞いている。熱心にメモをしているが、ヴェノムにちょっかいを出される仲睦まじい姿も見せている。

アイアンマンを「ブリキのスーツを着た社長」と言い、ハルクやサノスの話を聞くエディ。宇宙からサノスが襲来し、インフィニティ・ストーンを集めて指パッチンで人々を消したことをコミカルに言い換えていく。確かに言葉だけで聞くと「紫の宇宙人が石ころを集めに来た」という話ではあるのだが……。

そして、エディがスパイダーマンが会いに行こうとしたところで、ヴェノムとエディは、他のヴィランたちと同じエフェクトで元のユニバースに戻っていく。ドクター・ストレンジが最後に呪文を唱えたタイミングだったのだろう。しかし、バーのテーブルにはシンビオートの一部が残されていた。

このミッドクレジットシーンは、映画『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』のポストクレジットシーンの続きである。同作のラストで起きたことは、こちらの記事に詳しい。

つまり『レット・ゼア・ビー・カーネイジ』のラストでいきなりワープしたように見えたヴェノムとエディは、『ノー・ウェイ・ホーム』序盤のドクター・ストレンジの呪文によって、他のヴィランたちと共にMCU世界に呼び出されていたのだ。

ピーターのことを知っていたのは…

だが、気になるのは、ドクター・ストレンジの呪文で呼び出されたのは「スパイダーマンがピーター・パーカーであることを知っている人々」だということだ。エディはバーテンダーの話から熱心に勉強している通り、ピーター・パーカーのことを知らない。とすれば、ピーターの正体を知っていたのはヴェノムだということになる。

『レット・ゼア・ビー・カーネイジ』のポストクレジットシーンでは、ヴェノムがテレビに映るピーターを指して「こいつだ」と言う。ヴェノムはピーターのことを知っていたのだ。このシーンの直前、ヴェノムはシンビオートには800億光年に及ぶ集合意識による知識があると語っている。つまりシンビオートはその個体が経験していないことでも、集合意識(クラウドのようなもの)という形で知識が蓄積されているということだろう。

そこで思い出されるのが映画『スパイダーマン3』だ。同作ではシンビオートが登場し、トファー・グレイス演じるエディ・ブロックJr.がヴェノムになる。その前にはシンビオートはトビー・マグワイア演じるピーター・パーカーに取り付いており、黒いスパイダーマンを誕生させた。

この時、シンビオートはスパイダーマンがピーター・パーカーであることを知ったはずであり、このシンビオートとSSUのヴェノムが集合意識という形で繋がっているのならば、「スパイダーマンがピーター・パーカーであることを知っている人々」の一人としてドクター・ストレンジに召喚されてもおかしくはない。

『レット・ゼア・ビー・カーネイジ』のポストクレジットシーンでヴェノムがピーターを見て「こいつだ」と画面上の顔を舐めたのは、『スパイダーマン3』でピーターと共生できた記憶が蘇ったからかもしれない。ヴェノムにとっては、エディ以外に身体が適応する存在が目の前に現れたことになる。

追記:『ノー・ウェイ・ホーム』の脚本家は、ヴェノム登場について語り、やはりシンビオートが共通の記憶を持っていることを明かした。最終戦へのヴェノム の参加案もあったという裏話はこちらの記事で。

他のヴィランとは違い、ヴェノムがその一部をMCU世界に残せたことは、やはりシンビオートが特別な存在ということなのだろう。この『ノー・ウェイ・ホーム』のミッドクレジットシーンによって、MCU世界にヴェノムが登場する可能性が限りなく高くなった。MCUは計画もなくミッドクレジットシーンを作ることはしないはずだ。

一方で、ヴェノム本体とエディ・ブロックが元の世界に戻ってしまったのは残念でもある。MCUとSSUは完全に合流するのではなく、マルチバースにおける別々のユニバースとして進んでいくようだ。一方で、2022年公開予定のSSU第3作目『モービウス』には『スパイダーマン:ホームカミング』のヴィランだったマイケル・キートン演じるヴァルチャーも登場する。マルチバースの中でどのような物語が描かれるのか、公開を楽しみに待とう。

ちなみにヴェノムの英語版の声優はエディ役のトム・ハーディが一人二役で演じている。トム・ハーディが声優としてでもMCUに継続して出演する可能性も生まれている。日本語吹き替え版のヴェノムの声優はエレクトロを演じた中村獅童である。

ポストクレジットシーンの意味は?

そして、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のポストクレジットシーンである。用意されていたのは、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』の予告編だった。これは日本時間の2021年12月25日(土)に公開されていた映像で、米国では『ノー・ウェイ・ホーム』公開の1週間後に公開されたものである。

この予告は日本語版も公開されていたが、『ノー・ウェイ・ホーム』のポストクレジットシーンであることはもちろん伏せられていた。『ノー・ウェイ・ホーム』までこの映像を観るのを我慢した人にはとっておきのギフトになったはずだ。

また、事前に映像を見ていた人も、『ノー・ウェイ・ホーム』を見た後では見え方が少し違うはずだ。『ノー・ウェイ・ホーム』では、ドクター・ストレンジが消えていた間にウォンが至高の魔術師=ソーサラー・スプリームになっていたことが明かされた。今ではウォンの方が位の高い魔術師なのだ。

『ノー・ウェイ・ホーム』で時空を歪ませてしまったドクター・ストレンジは「現実を冒涜したな」「報いを受けるぞ」と非難の言葉を受ける。この声は前作『ドクター・ストレンジ』(2016)のポストクレジットシーンでドクター・ストレンジを助けたパングボーンを殺し、「魔術師が多すぎる」との言葉を残して悪に堕ちたモルドのものだ。

ドクター・ストレンジが外に出るとニューヨークの街並みは徐々に崩壊しており、MCUアニメ『ホワット・イフ…?』(2021-)第4話で描かれた“宇宙の崩壊”と似た形で世界が溶け出していく。「まさかこんな事態になるとは」と、ドクター・ストレンジがとんでもない状況が進んでいることを示唆した後に、魔法を使おうとするワンダと思われる人物の手、前作『ドクター・ストレンジ』で登場したストレンジの元恋人クリスティーン・パーマーがウェディングドレスを着ている姿が映し出される。ストレンジは新郎ではなく招待客のようだ。

クリスティーンといえば、アニメ『ホワット・イフ…?』第4話では、クリスティーンがスティーヴンと学会の講演に行くと決めたことで時間軸の分岐が生まれた。結果的に二人は一緒に交通事故に遭い、クリスティーンは命を落としてしまう。この時間軸のドクター・ストレンジは、自分の手を治すためではなく、クリスティーンの死をなかったことにするために強大な魔力を得ようとする。

だが、この時間軸のドクター・ストレンジはクリスティーンの死なくしては魔術師になることはなかったため、クリスティーンの死がなかったことになると、ストレンジは魔法が使えずクリスティーンを救えないというパラドックスが生まれてしまう。

これは、タイムトラベル理論で有名な“親殺しのパラドックス”というやつで、ドラマ『ロキ』第2話でも小ネタとして触れられている。映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)においても、タイムトラベルをして赤ん坊のサノスを殺すことはできないとされていた。通常はタイムラインが分岐するはずだが、『ホワット・イフ…?』では、ドクター・ストレンジは魔法の力で無理矢理、現実の時間の流れを変えることなく現実改変を行おうとしたがために宇宙の崩壊が発生したと考えられる。

『ホワット・イフ…?』ではパラドックスが起きたことにより、宇宙の崩壊が始まり、変異体ドクター・ストレンジの宇宙は崩壊。変異体ドクター・ストレンジは一人小さな宇宙の中に取り残されることになった。

『ノー・ウェイ・ホーム』でも、ドクター・ストレンジは世界中の人々がピーター・パーカーの存在を忘れるという現実改変を行った。ピーター=スパイダーマンという事実を誰も知らないのだとすれば、ネッドの協力もなかっただろうし、『シビル・ウォー』へのスパイダーマン参戦もなかったかもしれない。確かに大いなるパラドックスを生むことになりそうだ。『マルチバース・オブ・マッドネス』で宇宙が崩壊しつつある(ように見える)ことは、『ノー・ウェイ・ホーム』の事件の影響なのだろうか。

二人のキーパーソン

そして、ポストクレジットシーン/『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』の予告で映る背中に星のマークがついたジャケットを着ている人物にも注目だ。俳優のソーチー・ゴメスが演じるこの人物は、原作コミックでもヒーローとして活躍するアメリカ・チャベスだ。

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コミック版ではユートピア・パラレルという別のユニバースから来たという設定になっており、ドクター・ストレンジがMCUでマルチバースの扉を開いたこととアメリカ・チャベスの登場は、もちろん地続きのことなのだろう。なお、アメリカ・チャベスの能力はキャプテン・マーベルのように圧倒的なパワーが特徴だ。

本作で登場するアメリカ・チャベスを演じるソーチー・ゴメスがエリザベス・オルセンから受けた助言はこちらから。

そして次に映し出されたのはドクター・ストレンジがワンダのもとを訪れる場面だ。ドラマ『ワンダヴィジョン』(2021) で描かれた“ワンダ事変”にはドクター・ストレンジは登場しなかった。故にワンダは「いつか現れると思ってた」と語り、「私が間違っていた」と、魔法で人々を洗脳状態に置いた自分の非を認めている。

しかし、ドクター・ストレンジは「その話できたのではない」と返答しているが、英語では「I am not here to talk about Westview(ウエストビューのことを話しに来たんじゃない)」と言っている。ウエストビューは、『ワンダヴィジョン』でワンダが結界を張った町の名前である。

『ワンダヴィジョン』最終話のポストクレジットシーンでは、ワンダは結界の消失とともに消えた自身の双子の子どもであるビリーとトミーを取り戻そうと、山小屋にこもっている姿が映し出された。小屋でゆっくり過ごすワンダともう一人、アガサが持っていた禁断の書“ダークホールド”を読むワンダ=スカーレット・ウィッチの姿があり、ワンダがマルチバースの扉を開こうとしていることが示唆されていた。

なお、このシーンでは助けを求めるビリーとトミーの声と共にドクター・ストレンジのテーマ曲が流れている。また、『ワンダヴィジョン』には元々ドクター・ストレンジがカメオ出演する予定だったが、そのプランは取りやめになっている。一方で、劇中のコマーシャルではマルチバースを移動できる存在を意味する「ネクサス」という薬品について、「ドクター」からの適切な助言が必要と紹介されており、その存在の重要性は示唆されてきた

『ノー・ウェイ・ホーム』のポストクレジットシーン/『マルチバース・オブ・マッドネス』の予告では、ワンダはまた別の場所で木の世話をしながらのんびりと暮らしている。そんなワンダに、ドクター・ストレンジは助けを借りようとして「マルチバースに詳しいか?」と尋ねる。ワンダは意外な質問をされたという表情を見せており、何か心当たりがあるようにも見える。ワンダはすでにマルチバースの扉を開く実験を済ませた後なのだろうか。

次のシーンでは別次元への扉を開くドクター・ストレンジの背後にアメリカ・チャベスとワンダの姿が見える。『マルチバース・オブ・マッドネス』はこの三人組がリードすることになりそうだ。続いて前述のモルドが再登場し、「悪いな」とストレンジに告げる。前作の時よりもヒゲも髪も伸びているだけでなく、コスチュームも緑色から金色に変わっている。

そして、無数のロウソクの中心で座禅を組んで宙に浮かぶスカーレット・ウィッチの姿が映し出される。これは『ワンダヴィジョン』でワンダとアガサが戦った際にアガサの力を吸収したワンダが見せた姿と同じだ。ワンダはやはりビリーとトミーを連れ戻すためにカオス・マジックを使ってマルチバースに手を出したのかもしれない。

あの人の正体は?

更に、ニューヨークの街中でバスを投げるモンスターも登場。このキャラクターは原作コミックやゲーム作品に登場するシュマゴラスに似ている。モルドとドクター・ストレンジの戦いも描かれる中、背後では「この宇宙への最大の脅威はお前だ」と話す声が。

そして姿を表すのは、もう一人のドクター・ストレンジだ。これは前述のMCUアニメ『ホワット・イフ…?』における闇堕ちしたドクター・ストレンジなのだろうか。『ホワット・イフ…?』の闇堕ちドクター・ストレンジはソーサラー・スプリームらしい豪勢なコスチュームを身にまとっており、このポストクレジットシーン/予告編のもう一人のストレンジの質素な服装とは大きく異なる。だが「まったく手に負えないな」と話すその口振りは、自身にも心当たりがありそうな雰囲気もある。

『ホワット・イフ…?』最終話では、インフィニティ・ストーンを手に入れてコズミック・ビーイングとなったウルトロンを倒すべく、第4話で孤立したドクター・ストレンジも招集された。インフィニティ・ストーンを起点に力を拮抗させるウルトロンとキルモンガーを封印した後、ウォッチャーはその封印の結晶を見張る役割をドクター・ストレンジに託している。

このドクター・ストレンジの正式名称はドクター・ストレンジ・スプリームで、何世紀もの間、魔物を体内に取り込み続けたことで、絶大な力を手に入れている。『マルチバース・オブ・マッドネス』に登場するもう一人のドクター・ストレンジが仮に『ホワット・イフ…?』の闇堕ちドクター・ストレンジだったとすれば、味方である可能性は高い。自身が過去にしでかしたことを念頭に「この宇宙への最大の脅威はお前だ」と忠告しているのかもしれない。

多くの謎を残したまま、『ノー・ウェイ・ホーム』のポストクレジットシーンは「ドクター・ストレンジは帰ってくる」という文字を残して幕を閉じる。予告編では、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』は日本で2022年5月に公開されることが告知されている。

2022年2月14日に公開された『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』の新たな予告編の解説はこちらの記事で。

以上が、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のエンディング、ミッドクレジットシーン、そして『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』の予告編を兼ねたポストクレジットシーンの解説だ。まだまだ語るべきことはたくさん残されている。

『ノー・ウェイ・ホーム』の終わり方を受けたスパイダーマン達とその他のキャラクターの今後については、こちらの記事で考察している。

デアデビルことマット・マードック弁護士の登場についてはこちらの記事で解説している。

今はとにかく、大仕事をやってのけた『ノー・ウェイ・ホーム』の余韻に浸ろう。

映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は2022年1月7日(金) より、日本全国の劇場で公開。

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』公式サイト

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『アメイジング・スパイダーマン3』の可能性も? アンドリュー・ガーフィールドが本作への出演について語った内容はこちらから。

全作品におけるピーターの学年とMCU「スパイダーマン」&フェーズ4の時系列解説はこちらから。

トム・ホランドとゼンデイヤが語ったトビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドとの共演エピソードはこちらから。

ピーターがドクター・ストレンジの魔法を超越できた理由、ピーターを噛んだクモについての考察はこちらの記事で。

ネッドのこれまでの活躍と原作コミックでの設定はこちらの記事にまとめている。

映画『ブラック・ウィドウ』のポストクレジットシーンの解説はこちらから。

映画『エターナルズ』のポストクレジットシーンの解説はこちらから。

映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のポストクレジットシーンの解説はこちらから。

『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』のポストクレジットシーンの解説はこちらから。

 

ドラマ『ホークアイ』最終話のネタバレ解説はこちらから。

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アニメ『ホワット・イフ…?』最終話のネタバレ解説はこちらから。

 

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齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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