MCU第25作目となる映画『シャン・チー テン・リングスの伝説』は、MCU史上初めてアジア系のキャラクターを主人公に据えた作品。日系アメリカ人のデスティン・ダニエル・クレットン監督が指揮をとり、中国系カナダ人のシム・リウが主演を務めた。
映画『シャン・チー』は、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019) 後の世界を舞台に、国際的な犯罪組織テン・リングスのリーダーであるマンダリンことシュー・ウェンウーを父に持つ主人公シャン・チーが、その意思に反して戦いに巻き込まれていく物語。名優トニー・レオンが演じたウェンウー、オークワフィナ演じる友人のケイティ、メンガー・チャン演じる妹のシャーリンら魅力的な登場人物たちが、シャン・チーと共に思いがけない冒険の扉を開いていく。
そしてMCU作品といえば、お楽しみはエンドロール前のミッドクレジットシーンと、エンドロール後のポストクレジットシーンだ。『シャン・チー』で描かれたあのシーンにはどのような意味があったのだろうか、ここから先はネタバレありで解説と考察をしていく。
以下の内容は、映画『シャン・チー テン・リングスの伝説』の内容および結末のネタバレを含みます。
必ず作品本編を鑑賞の上、お読みください。
Contents
ミッドクレジットシーンを解説
お馴染みの三人が登場
『シャン・チー』本編のエンディングでは、「ドクター・ストレンジ」シリーズでお馴染みのウォンが登場。魔術師たちの修行場であるカーマ・タージで書庫の番人をしているウォンは、シャン・チーがテン・リングス(腕輪)を操った時にシグナルを受け取ったという。スリング・リングを使ってゲートを開いたウォンは、シャン・チーとケイティの二人を書庫へ案内する。
そして、ミッドクレジットシーンで登場するのはハルクことブルース・バナーとキャプテン・マーベルことキャロル・ダンバースだ。二人ともホログラムとして登場している。キャプテン・マーベルはまた髪型を変えているが、ブルースの方は少し白髪が増えただろうか、以前よりもベテラン感が増している。
ブルースは、今では残り少ないアベンジャーズのオリジナルメンバーだ。トニー・スターク亡き今、学者であるブルースはアベンジャーズの頭脳の役割を一人で担っているようだ。キャプテン・マーベルはというと、やっぱり忙しそう。これまで通り、地球だけでなくヒーローのいない惑星の人々を助けている様子がうかがえる。スティーブ・ロジャース亡き今、頼れるキャプテンはキャロルだけである。
テン・リングスの正体は?
5人が議論しているのは、シャン・チーが父ウェンウーから持ち帰った10本の腕輪=テン・リングスについてだ。ウォンは魔術を使ってテン・リングスを分析している。その素材はワカンダで採掘されるヴィブラニウムでも、ロキやサノスが引き率れたチタウリのものでもない。ウェンウーがテン・リングスを手に入れたのは1,000年も前のこと。映画『シャン・チー』の冒頭では、火山で発見したとも墓から盗み出したとも言われており、その出所は定かではない。
原作コミックでは、テン・リングスは腕輪ではなく指輪であり、マンダリンはマクル四号星から来た宇宙船の中でこの指輪を発見している。テン・リングスは膨大なエネルギーを宿しており、「電気エネルギーを放つ指輪」「冷気を放つ指輪」など、それぞれに異なる特徴を持っている。
テン・リングスはビーコンのようにシグナルを放っており、その信号をウォンがカーマ・タージで受け取ったということがポイントの一つだろう。また、ウェンウーではなくシャン・チーがリングを使った時にウォンが反応したということは、持ち主によってその能力や目的に変化が生じるのだろうか。ウェンウーが使用していた時のテン・リングスは異なるユニバースから魔物を呼び出そうとしていたが、それは力を無限に力を欲していたウェンウーが使用していたからかもしれない。
テン・リングス考察
既に出ているMCUの情報とテン・リングスに繋がりがあるとすれば、11月5日(金)公開の映画『エターナルズ』だろうか。予告編では宇宙最上位の存在であるセレスティアルズの存在や、『エンドゲーム』における全宇宙の半分に及ぶ人口復活で巨大なエネルギーが生じたことに触れられている。
膨大なエネルギーを宿すテン・リングスとの関係はあるのだろうか。まだヒントは少ないが、「宇宙とエネルギー」がMCUフェーズ4のキーになることは間違い無いだろう。
ウォンとの繋がりで言えば、2021年12月17日全米公開の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』と2022年3月25日全米公開の『ドクター・ストレンジ・イン・マルチバース・オブ・マッドネス(原題)』では、マルチバースがメインの要素になることが予想される。『シャン・チー』の舞台になったター・ローは異なるユニバースを繋ぐ場所(ネクサス)であり、テン・リングスは別次元からの魔物の召喚を望んでいた。
アニメ『ホワット・イフ…?』第4話ではドクター・ストレンジが異次元から魔物を召喚する姿が描かれた。「魔術師と魔物」という組み合わせが、テン・リングスの要求を叶える鍵になるのかもしれない。
アベンジャーズ加入?
キャプテン・マーベルが「連絡先はブルースに聞いて」と言って去った後、ブルースは「連絡先は知らないけど」と愚痴をこぼす。思い返せばニック・フューリーにも「緊急時だけ連絡して」と念押しして連絡用のポケベルを渡していた。キャプテン・マーベルは連絡には厳しいのだ。
しかし、ブルースが連絡先を知らないとすれば、キャプテン・マーベルはどうやって今回の会議に参加したのだろうか。ニック・フューリーから連絡を受けたと考えるのが妥当だろう。だが、今回もニック・フューリーは登場せず。宇宙にいるのはキャプテン・マーベルも同じ。滅多に顔を出さない大物になってしまったのか、それとも別の重要な任務に就いているのだろうか。
ブルースはシャン・チーとケイティに「サーカスへようこそ」と、非公式にではあるがアベンジャーズ加入に歓迎の意を表明する。そもそも『エンドゲーム』でトニーとスティーブが去った後は、正式な組織としてのアベンジャーズが存在していない状態だと考えられる。新たなアベンジャーズがどのように結成されていくのか、今後が楽しみである。
ミッドクレジットシーンは、シャン・チーとケイティ、ウォンの3人がイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」(1977) を歌うシーンで幕を閉じる。
この『シャン・チー』のミッドクレジットシーンの人選や展開の意図については、プロデューサーと監督ら製作陣がマーベル公式に語っている。詳細はこちらの記事で。
ポストクレジットシーンの意味は?
シャーリンがまさかの…
そして同じく重要だったのがエンドロール後のポストクレジットシーンである。『シャン・チー』のポストクレジットシーンでは、シャン・チーの妹であるシャーリンが登場。幼少期を過ごした実家の自室で貼られたポスターを懐かしむ微笑ましいシーンで幕を開ける。ミッドクレジットシーンでは、リーダーのウェンウーを失った組織としてのテン・リングスをシャーリンが解体するとシャン・チーが語っていた。
しかし、シャーリンの方が一枚上手だった。シャーリンはテン・リングスを解体するどころか、自身が16歳の時から築き上げてきた地下闘技場の“事業”と合併させ、新たな帝国を築こうとしていた。
父ウェンウーが座っていた玉座に腰をおろして不敵な笑みを浮かべるシャーリン。両サイドにはウェンウーに仕えていたレーザー・フィストと、これまでもシャーリンの右腕として働いてきたジャン・ジャンの姿が。メンバーの働きぶりを見るに、シャーリンはテン・リングスをただの暴力団としてではなく、“事業”として運営しようとしているようだ。
シャーリンの“アンサー”
カメラがズームアウトしていくと、そこには訓練を受ける女性たちの姿が。これは、家父長制が敷かれていたテン・リングスにおいて、シャーリンだけが性別によって訓練から排除されたことへのアンサーだ。母を殺した者への復讐のために訓練を受けられたのは兄シャン・チーだけだった。それに、テン・リングスを受け継ぐ者としては、ウェンウーの眼中からはシャーリンは排除されていた。
それによってシャン・チーが背負った苦しみもあるが、母の死によって背負った悲しみはシャーリンにとっても同じ。見様見真似で訓練を積み、独自の戦闘技術を身につけるしかなかったシャーリンは、家父長的なテン・リングスをただ解体するのではなく、乗っ取って自分が理想とする帝国を築くことを選んだのだ。皆が平等に訓練を受けるという“機会の平等”を、母の故郷であるター・ローの村から取り入れたと考えることもできるだろう。
中国の伝統的な様式美を重視していたウェンウーの館は、壁一面がストリートカルチャーのグラフィティアートで塗り固められている。シャーリンは自分一人で地下闘技場を築き上げたように、そのクレバーな立ち回りによって、更に大きな自分の城を手に入れたのだ。
“テン・リングス”の今後
そして、ポストクレジットシーンの最後にはテン・リングスの紋章が映し出され、「テン・リングスは帰ってくる」という言葉が現れる。「〇〇は帰ってくる」と表示されるラストシーンは、MCUではお馴染みの演出だが、「〇〇」にヴィランの名前が入るのは『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018) における「サノスは帰ってくる」以来のことである。しかも悪の“組織”としては初のことだ。
おそらくシャーリンはこのまま現代版にアップデートされたテン・リングスを率いることになるだろう。次にシャン・チーやアベンジャーズの前に現れる時には敵として対峙することになるのだろうか……。
組織としてのテン・リングスのこれまでの歴史、MCU各作品での暗躍はこちらの記事にまとめているので、改めてチェックしていただきたい。
MCUフェーズ4では魔物や宇宙の上位存在、マルチバースといった飛び道具的なコンセプトが中心になりつつある。その中で、テン・リングスのような地に足のついたヴィラン組織の存在は妙な安心感を与えてくれる。それを率いるのがシャーリンなら尚更だ。
シャーリンがフェーズ4に呼び込んだ新たな流れについては、こちらで詳しく考察している。
この『シャン・チー』のエンディングは、映画『ブラック・ウィドウ』(2021) のポストクレジットシーンに通じるところもある。新ヒーローと新ヴィランをMCUに送り込んだフェーズ4の今後に期待しよう。
『ブラック・ウィドウ』のポストクレジットシーンの解説はこちらから。
映画『シャン・チー テン・リングスの伝説』は2021年9月3日(金)より全国で公開中。
『シャン・チー テン・リングスの伝説』のオリジナルアルバム『シャン・チー/テン・リングスの伝説:ザ・アルバム』が発売中。
劇伴を収録した『シャン・チー/テン・リングスの伝説 オリジナル・スコア』 も発売中。
『シャン・チー』のネタバレレビューはこちらから。
ウェンウーと『ワンダヴィジョン』でのワンダの繋がりについての考察はこちらから。
シャーリンを演じたメンガー・チャンが語るシャーリンの撮影秘話はこちらから。
『シャン・チー』の続編についてはこちらの記事で。
『シャン・チー』に登場したジブリオマージュについてはこちらの記事で。
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『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の予告編解説とマルチバース合流までの経緯はこちらに詳しい。