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『ホワット・イフ…?』シーズン1第4話であの人が登場
MCU初のアニメシリーズ『ホワット・イフ…?』は2021年8月から配信をスタート。シーズン1は全9話で構成され、MCUフェーズ3までの作品を対象にした「もしも」の物語が描かれる。第1話では『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011)、第2話では『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)、第3話では『アベンジャーズ』(2012) を中心とした4作品が描き直された。
シーズン2ではフェーズ4の映画も対象になることが明らかになり、ますます目が離せない『ホワット・イフ…?』。シーズン1第4話では、今話題のあの人が登場した。今回もネタバレ有りで第4話の解説をお届けする。
以下の内容は、アニメ『ホワット・イフ…?』第4話の内容に関するネタバレを含みます。
第4話「もしも…ドクター・ストレンジが手の代わりに恋人を失ったら?」のネタバレあらすじ&解説
『ドクター・ストレンジ』の「もしも」
『ホワット・イフ…?』第4話のタイトルは「もしも…ドクター・ストレンジが手の代わりに恋人を失ったら?」。そう、今回の原作映画は『ドクター・ストレンジ』(2016) だ。
ドクター・ストレンジといえば、2021年12月17日(金) 全米公開を予定している『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の予告編に登場し、マルチバースを繋ぐ重要な役割を担うことが明かされたばかり。『ノー・ウェイ・ホーム』の予告編については、こちらで解説している。
「ドクター・ストレンジ」シリーズは、2022年3月25日(金) に第2作目『ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス』の全米公開も予定されている。こちらはDisney+視聴者にはおなじみのドラマ『ワンダヴィジョン』からワンダが登場する予定となっている。ドクター・ストレンジは映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018) でも1,400万605通りの未来を見ていたが、それだけの数の“分岐イベント”のその先を見たということだろう。マルチバース化するMCUの中で、ドクター・ストレンジは最重要人物と言っていいだろう。
ドクター・ストレンジのかつての姿は、天才外科医のスティーヴン・ストレンジ。神経学会の晩餐会で講演をする予定で車を走らせていた最中に交通事故に遭い、両手の神経が麻痺してしまう。運転中にまでカルテを見ていたこと、患者を選り好みしていたことなどが重なり、自ら招いた事故であった。
原作映画との違いと共通点は?
『ホワット・イフ…?』第4話では、ドクター・ストレンジはレイチェル・マクアダムスが演じていたドクター・パーマーことクリスティーン・パーマーを迎えに行っている。ウォッチャーは「善意の迷走が奇妙(ストレンジ)な結果を招くとしたら?」と語っているが、「ストレンジ」という言葉には「奇妙な」という意味がある。
『ホワット・イフ…?』ではクリスティーンを迎えに行ったスティーヴンだが、原作映画ではクリスティーンに学会の講演への誘いを断られている。一人で神経学会に向かって運転していたため車中でも電話をしながら仕事をしており、それが事故につながったのだ。『ホワット・イフ…?』第4話では、クリスティーンがスティーヴンの誘いにOKを出したのだろう。二人は一緒に学会へ向かっている。
クリスティーンの一声で一度は事故の危機を脱した二人だったが、結局は後ろの車両に追突されてドクター・ストレンジのランボルギーニ・ウラカンは崖から転げ落ちてしまう。このシーンの車の動き、落下地点は原作映画と全く同じになっており、スティーヴンに取ってこの事故は避けられないものであったことが示唆されている。
原作映画では、名医だったドクター・ストレンジが両手をうまく使えなくなり、ヒゲも剃れない、字もまともに書けない状態となった結果、スティーヴンは元恋人のクリスティーンとも喧嘩別れしてしまう。スティーヴンは自分の両手を取り戻すために魔術の世界へと入っていくのだが、『ホワット・イフ…?』では両手の代わりにクリスティーンを失うという展開に。
だが、大切なものを失ったスティーヴンが辿った道は同じだった。ドクター・ストレンジは魔術の世界に入り、インフィニティ・ストーンの一つであるタイムストーンを宿すアガモットの目を操ろうとする。リンゴを食べかけの状態にして元に戻すシーンなど、原作映画の場面が再現されている。
映画ではそこから先の儀式を試そうとしたところでモルドに「時間を操れば分岐が生じる」と止められるが、『ホワット・イフ…?』ではウォンが「時間を弄れば宇宙の構造が揺らぐ」と話している。分岐は既に生じてしまっているからだろう。また、『ホワット・イフ…?』ではウォンと共にドクター・ストレンジを導くモルドの役割をエンシェント・ワンが担っている。
だがそのエンシェント・ワンも原作通りカエシリウスによって倒され、ドクター・ストレンジはドルマムゥを退けた後に“至高の魔術師=ソーサラー・スプリーム”になる。「ドルマムゥ、取引に来た」は、MCUでも名シーンとして知られる台詞である。このシーンの詳細はこちらの記事に詳しい。
ドクター・ストレンジのプライオリティ
その後のMCUにおけるドクター・ストレンジといえば、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017) でソーとロキの兄弟を助けたり、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018) でハルクが墜落したことから対サノスにおいてリーダーシップを発揮したり、何かとサポートの立場に回ってきた。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』においても、ピーター・パーカーに頼りにされており、『ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス』でもタイムストーンの研究をしているドクター・ストレンジのもとをワンダが訪ねてくるというのだから、頼られているというか、便利屋というか……。
だが、『ホワット・イフ…?』第4話のドクター・ストレンジはそうではない。世界を守り、アベンジャーズを助けるよりも、クリスティーンを失った深い傷がドクター・ストレンジの心を支配している。なお、スティーヴンは「2年経った」と話していることから、今回の物語は『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』付近の出来事であることが分かる。
ドクター・ストレンジは(やはり)ウォンの助言を無視して、アガモットの目=タイムストーンを使い、クリスティーンを迎えに行った過去に戻る。以前よりも優しく、クリスティーンに話を合わせるドクター・ストレンジだったが、結局後方車両から追突されて事故に遭ってしまう。ここからは予想どおりの展開に。クリスティーンを救うためのタイムループが始まる。
違う道を選んでも、予定を変えても、迎えに行かなくてもクリスティーンはあの手この手で殺されてしまう。スティーヴンはその身を捧げてクリスティーンを守ろうと、彼女に運転をさせて自身が死ぬ道を試みるが、これも失敗してしまう。映画ではモルドに「異次元の扉が開きタイムループが起きる」と警告され、ドルマムゥをタイムループに閉じ込めてみせたドクター・ストレンジだが、今回は自身がタイムループに陥ってしまったようだ。
動かせない“絶対点”
そこに現れたのはエンシェント・ワンだった。クリスティーンの死を「時間軸の“絶対点”」、つまり変えられない事実だと説明する。クリスティーンの死なしには魔術師にはなり得なかったということだが、そんなことはないと『ドクター・ストレンジ』を観た私たちは知っているが……。どの事象がどの時点で“絶対点”となるのか、という点は気になるポイントである。
クリスティーンは救えない、このまま進めば闇に墜ちると話すエンシェント・ワンに対し、ドクター・ストレンジは引き下がらない。アガモットの目を使ってどこかへ飛ぶと、カリオストロの書庫を目指す。カリオストロとは、『ドクター・ストレンジ』のヴィランであるカエシリウスが盗み出した書物「カリオストロの書」の筆者で、時間を操る儀式の方法を残した。映画版でドクター・ストレンジがモルドとウォンに怒られたのは、この書物を使って呪文の練習をしていたからだ。
そのドクター・ストレンジの前に現れたのはオー・ベン。原作コミックにも登場するキャラクターで、コミック版ではオー・ベンはカリオストロの別名でもある。“カリオストロの書庫の番人”だというオー・ベンはドクター・ストレンジの名前を「アルマーニ」だと勘違いするが、「ストレンジだ」というツッコミを「確かに奇妙(ストレンジ)だ」重ねて勘違いしている。
膨大な数の書物が並ぶカリオストロの書庫で、ドクター・ストレンジは絶対点を覆すための方法を探し始める。変成術や念動力、念力移動(テレポーテーション)の書物も登場しているが、ロキがこれらを極めていることから、やはりロキも相当な魔術使いであることが分かる。
ドクター・ストレンジは他の生命体の力を吸収するべく第1話で登場した異次元の魔物をはじめ、次々と魔物を召喚しては自身の体内に取り入れていく。その姿は時にマーベルコミック屈指のヴィランであるメフィストのようになることも。オー・ベンも警告し、ウォッチャーも「誤った道だ」と話すが、ドクター・ストレンジは信じた道を突き進む。
ウォッチャーがナレーションを入れるシーンでは、これまでの『ホワット・イフ…?』にはなかった場面が描かれる。それは、ドクター・ストレンジがウォッチャーの気配を感じ取ってその方向に話しかけるという展開だ。ウォッチャーもMCU世界に存在している生命体であり、至高の魔術師であるドクター・ストレンジは他のキャラクターと違ってその存在を感じとることができたのだろう。
ドクター・ストレンジvs闇堕ちストレンジ
数々の魔物を取り込んだドクター・ストレンジは既に何世紀もの時間を生きていた。これは先代の“至高の魔術師=ソーサラー・スプリーム”であるエンシェント・ワンと同じ展開だ。ドクター・ストレンジもまた、目的を達成するために闇の魔術を使ったのだろう。
老衰したオー・ベンの死を受け入れられないドクター・ストレンジに対し、オー・ベンは「別のストレンジなら受け入れる」「君は半分の人生を生きている」と意味深な言葉を残す。もう一人のドクター・ストレンジは、エンシェント・ワンによって生み出されていた。闇堕ちするドクター・ストレンジを止めるために、時間軸とドクター・ストレンジを分岐させたのだという。こちらの世界では宇宙の崩壊が始まっていた。
ドラマ『ロキ』(2021) を踏まえて言うと、エンシェント・ワンは意図的に分岐イベントを発生させたのだ。一方で、「同じ宇宙で二つの時間軸を進行させた」とまたよく分からないことを言っている。そして、絶対点を覆すと、タイムパラドックスが起きて宇宙が崩壊するという。つまり、クリスティーンを救えばスティーヴンは魔術師になれず、スティーヴンが魔術師になれなければクリスティーンは救えないと言う矛盾が生じるということだが、それによって「宇宙が崩壊」という話にまでなってしまうとは……。
なお、MCU世界におけるタイムパラドックスについては、ドラマ『ロキ』で小ネタとして紹介されている。詳細はこちらから。
ドクター・ストレンジを倒せるのはドクター・ストレンジだけ……そのエンシェント・ワンの言葉を受け、ドクター・ストレンジは闇堕ちストレンジと対峙する。ディズニーヴィランのような見た目になった闇堕ちストレンジは、クリスティーンのために何世紀も犠牲にしたと語り、二人で力を合わせてクリスティーンを取り戻そうとする。
「なんでも直せると思うのが傲慢」「彼女は死んだんだ、救えない」と抵抗するドクター・ストレンジだったが、様々な魔物の力を操る闇堕ちストレンジの力は凄まじい。ドクター・ストレンジはクリスティーンの幻影にも負けず闇堕ちストレンジに対抗するが、最後にはドクターは闇堕ちに取り込まれてしまう。
そうして闇堕ちストレンジは遂にクリスティーンを蘇らせることに成功するが、エンシェント・ワンの話していた通り、パラドックスが生じたことで宇宙は崩壊しかけていた。肝心のクリスティーンも消えようとする中、闇堕ちストレンジが頼ったのはまさかの相手だった。
ウォッチャーが干渉しない理由
闇堕ちストレンジが頼ったのは、これまでの経緯を全て見ていたウォッチャー。「あんたならできるだろう」と語りかけているが、闇堕ちストレンジは書物を読んでその力の強大さを知っていたようだ。そしてウォッチャーは遂に『ホワット・イフ…?』の登場人物と会話を始める。「警告されたはず」と責めるウォッチャーに、闇堕ちストレンジは「私が間違っていた」「世界が代償を払うべきじゃない」と反省を見せる。
だが、ウォッチャーは「私は神ではない」とした上で、「時間に干渉すればさらなる崩壊につながる」と、この要求を拒否。おそらく能力的には時間に干渉することはできるということだろう。更なる悲劇を招かないためにも、どこかで手を引くというのは、多くの人にとっては困難なことだ。それはドクター・ストレンジにとっても。
闇堕ちストレンジの宇宙は崩壊し、クリスティーンも消え去ってしまう。宇宙に取り残された闇堕ちストレンジは、一人自分の行いを謝り続けるのだった。ウォッチャーの「一つの命、一つの選択、一つの瞬間が世界を崩壊させることもある」という言葉が寂しく残り、『ホワット・イフ…?』第4話は幕を閉じる。
『ホワット・イフ…?』シーズン1第4話まとめ
どうなる『ノー・ウェイ・ホーム』
衝撃的なラストであった。凄腕だが尊大で自己中心的だったスティーヴン・ストレンジは、愛する人を失った世界線では宇宙を崩壊させる道を歩んでしまったのだ。第4話のエンディングは、どのような分岐イベントが発生しようと、それなりに宇宙が続いていくのだろうというMCUへの楽観論を拭い去る結果となった。本当にヤバい道を突き進めば、宇宙の崩壊にまで到るのだ。
また、こうした訓話的なバッドエンドは、1話完結の『ホワット・イフ…?』ならではの展開ともいえる。傲慢にも時間に干渉し、過去の出来事をなかったことにしようなどと考えてはならないというメッセージが第4話には込められている。
第4話で見えたMCUのタイムトラベルに関する新たなルールについてはこちらの記事にまとめている。
そうであれば、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でドクター・ストレンジとピーター・パーカーがやろうとしていることは、とんでもないことなのではないだろうか。もちろん、現在進行中のMCUにおけるドクター・ストレンジは、時間への干渉が宇宙の崩壊を招くということも、それも実際に別の時間軸で自らが宇宙の崩壊を引き起こしたということも知らないだろう。MCU映画版のドクター・ストレンジが『ホワット・イフ…?』第4話と同じ展開を招かないかどうか、心配が募る。
第4話では同時に「ウォンの言うことは聞け」という教訓もあったわけだが、『ノー・ウェイ・ホーム』の予告編では明らかにウォンの忠告は無視されている……。『インフィニティ・ウォー』で未来を見ることができたドクター・ストレンジが、闇堕ちストレンジの姿も見られることを祈るばかりだ。
なお、一部ファンの間では、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のドクター・ストレンジは偽物であるという予想も立っている。結果的にトニー・スタークに死を選択させたスティーヴンによるピーターへの罪滅ぼしとしてピーターを助けている可能性もあるが、スティーヴンが個人のために時間に干渉するという危険を積極的に冒すことが考えにくいからである。
『ホワット・イフ…?』第4話は特殊な形で分裂していたが、“もう一人のドクター・ストレンジ”というコンセプトは今後も登場するかもしれない。特に、今回は闇堕ちストレンジがメフィストのような姿を見せており、閉じ込められたストレンジがヴィランとして復活……というパターンも考えられるだろう。
何より、『ホワット・イフ…?』の予告編で見られた、闇堕ちストレンジとキャプテン・カーターが会話するシーンが第4話では登場しなかった。シーズン1の今後の物語でこのシーンが登場すると見られるが、(闇堕ちストレンジの言葉どおり)「いつのストレンジか?」という点が問題になる。また、キャプテン・カーターも同様に、ニック・フューリーによって召喚された後の姿なのか、魔物と戦っている最中に別の次元を彷徨っているのか、という点にも注目だ。
『ドクター・ストレンジ』からのメッセージ
最後に、映画『ドクター・ストレンジ』からのメッセージも紹介しておきたい。『ドクター・ストレンジ』では、傲慢なスティーヴンに別れを告げるクリスティーンが「(両手の)手術じゃなく心の問題」「別の人生もある」「別の何かが生きる意味を与えてくれる」と声をかけている。クリスティーンが生き延びていた世界線では、スティーヴンは凄腕の医者であり続けることが全てではなく、別の目的を見つけても良いのだと助言を受けていたのだ。
結果、魔術師として世界を守るという目的に身を投じたスティーヴンだが、『ホワット・イフ…?』第4話においても、クリスティーンのこの言葉は強い意味を持つ。映画版スティーヴンは事故後に前に進めない理由を手術の技術の問題と考えていたが、闇堕ちストレンジはクリスティーンの死後に前に進めない理由を魔力の問題と考えた。
「別の何かが生きる意味を与えてくれる」という言葉をクリスティーンからもらわなかった闇堕ちストレンジは、世界を守り、仲間であるアベンジャーズを助けることに意味を見出せなかった。最後までクリスティーンを取り戻すことにこだわり、悲劇的な最後を迎えたのだった。
つまり、「もしも…ドクター・ストレンジが手の代わりに恋人を失ったら?」の答えは、「その人物から助言を受けることなく、世界を崩壊させる」ということになる。両手がどうあるかは関係なく、根源的な心の問題に向き合うことなく突き進んでしまう余地が、ドクター・ストレンジにはあったのだ。
第4話のドクター・ストレンジ回は、ウォッチャーの声優を務めたジェフリー・ライトが「心を打たれました」と語っていた。
そのウォッチャーが初めて登場人物と対話するなど、新たな展開を見せた第4話。折り返しとなる第5話ではどのような「もしも」が描かれるのか、まだまだ目が離せない。
アニメ『ホワット・イフ…?』はDisney+で独占配信中。
『ホワット・イフ…?』第4話までと、今後のドクター・ストレンジとマルチバースの関わりについてはこちらの記事に詳しい。
第3話で『インクレディブル・ハルク』にスポットライトが当たったことで見えてきた可能性についてはこちらの記事で。
『ホワット・イフ…?』第5話のネタバレ解説はこちらから。
第1話のネタバレ解説はこちらから。
第2話のネタバレ解説はこちらから。
第3話のネタバレ解説はこちらから。
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