ネタバレ解説『ホワット・イフ…?』第1話 原作映画との違い、ラストの意味は? あらすじ・考察・音楽 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説『ホワット・イフ…?』第1話 原作映画との違い、ラストの意味は? あらすじ・考察・音楽

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『ホワット・イフ…?』シーズン1第1話が配信開始

MCU初のアニメシリーズ『ホワット・イフ…?』が2021年8月11日(水)より配信を開始した。MCUのフェーズ3までの作品を対象に、1話ずつ「もしも」の物語を提示する『ホワット・イフ…?』。シーズン1の第1話として公開されたのは「もしも…キャプテン・カーターがファースト・アベンジャーだったら?」だ。

歴史に分岐が生じた物語は、どこがどう変わり、どこが変わらなかったのか。映画版との違いと変わらなかった点を含めて、それぞれの描写を解説および考察していく。

第1話「もしも…キャプテン・カーターがファースト・アベンジャーだったら?」のネタバレあらすじ&解説

ペギーが部屋に残ったら…

番組の冒頭で案内人として登場するのは、ジェフリー・ライトが声優を担当する新キャラクターのウォッチャー。Twitterでも「#ホワットイフ」にはこのウォッチャーの絵文字が表示される。事前の情報では全宇宙の事象を把握している「全知全能の存在」とされていた。アニメ『ホワット・イフ…?』はこのウォッチャーの案内によって進行していくことになる。

ウォッチャーは個人名ではなく、知的生命体の種族の名前で、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017) でも見た目の違うウォッチャーが少しだけ登場している。今後のMCUにどのように関わっていくことになるのだろうか。ウォッチャーは「多元的で可能性は無限大」「問いかけよ」と視聴者を導き、いよいよMCU初のアニメシリーズが幕を開ける。

第1話「もしも…キャプテン・カーターがファースト・アベンジャーだったら?」のスタートは1943年6月。映画『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011) の冒頭は1942年3月から始まり、スティーブ・ロジャースが超人血清を打つのは1943年の6月22日。『ホワット・イフ…?』第1話においても、『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』の中盤までと同じ物語が進行しているということになる。

ウォッチャーのナレーションでスティーブ・ロジャースがキャプテン・アメリカになり世界を救う正史が語られた後、ペギー・カーターのある“選択”が描かれる。映画『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』では、超人血清投与を目前にしてアースキン博士から「エージェント・カーター、ブースの方が快適ですよ?」と促されたペギーは「そうだね、ごめんなさい」と言って部屋を離れてしまう。根底にミソジニーを含む女性への“配慮”によって、ペギーはその場を離れるのだ。映画版では、ペギーはスティーブの苦しむ声を聞いて投与を止めるために部屋へ戻るが、スティーブが続行を希望してスティーブはスーパーソルジャーへと姿を変える。

だが、『ホワット・イフ…?』のペギーはここで引き下がらなかった。ペギーは部屋に留まることを選び、ここでタイムラインの分岐が生まれた。ドラマ『ロキ』(2021) の設定に則れば、ここからのペギーは“ペギー変異体”ということになる。他のメンバーもペギーと共に部屋に残ることになり、紛れ込んでいたヒドラのスパイはテロを実行。スティーブは血清投与前に撃たれてしまう。

燃え盛る研究所の中で、今血清を投与しなければ実験は中止……という場面でペギーが実験台に飛び込むと、トニー・スタークの父ハワードは迷わずレバーを引き、ペギー・カーターはスーパーソルジャーへと変身する。

続くミソジニー

しかし、ペギーは、この結果を成功と認めないホモソーシャルな態度にさらされる。「6,000万ドルと世界の希望が消えた」「小娘 (girl)」という言葉をぶつけられるが、スティーブとペギーの違いは性別だけだ。男性上官フリンのセリフは、字幕では「いずれ君の血で超人兵士を作れるかもな」となっているが、英語では「超人兵士」の箇所を「real Super Soldier」と言っており、ペギーを本物のスーパーソルジャーと認めない、女性が英雄になることを許さないという強い態度が示されている。

「女は兵士じゃない」という女性蔑視、性差別を前にして、ペギーは不満を募らせる。ペギーはサンドバックを殴り飛ばすシーンは映画『アベンジャーズ』(2012) からのオマージュだ。キャプテン・カーターがキャプテン・アメリカと同等の力を持っていることも同時に示している。

スティーブは慰問ツアーに行かされないだけマシと、文字通り“見てきたようなこと”を言う。別ユニバースでスティーブが味わっている苦行である。そしてスティーブは107連隊に配属された友人のバッキーが消息を経ったことを話す。正史でもバッキーは107連隊に配属され行方不明になっている。歴史が変わったとしても多くの人の行く道は変わらないと言うことだろう。正史ではバッキーが行方不明になった結果、慰問にばかり行かされていたスティーブは、ペギーとハワードに空輸してもらい、単独の救出任務に出向くのだ。

『ホワット・イフ…?』のスティーブは、テロの際に撃たれたことでリハビリ生活を過ごしているようだ。後遺症の強がりとして「(元々)ダンスは苦手だ」と話すスティーブは、この世界線においてもペギーとダンスを踊ることは少し先の話になりそうだ。

敵も味方もミソジニー

トンスベルグでは、原作通りにレッドスカルことヨハン・シュミットがコズミックキューブ(四次元キューブ)を奪う。一方でインフィニティストーンを内部に宿すキューブの力を軽視するフリン大佐。レッドスカルを食い止めることを狙うハワードは、ペギーに慰問用の衣装を改良したコスチュームと、イギリス国旗の模様が入ったシールドをプレゼントする。キャプテン・カーターの誕生である。なお、原作映画ではスティーブがバッキーを含む捕虜を助けた後にハワードがコスチュームと盾をプレゼントしていた。

コズミックキューブを輸送するヒドラの一団を次々なぎ倒していくキャプテン・カーター。映画『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』では、スティーブが超人血清を投与された直後にテロが起きたため、すぐに逃げようとするスパイとの戦闘が始まったが、『ホワット・イフ…?』では対ヒドラの一団がキャプテン・カーターの初陣になっている。

盾を使いこなすペギーは、盾に「早く会いたかった (Where have you been all my life? =どこにいたの?)」と語りかける。MCUが長らく描くことができなかった“女性の英雄”への言葉と捉えることができる。

ヒドラの士官もまたペギーを「か弱い女」と呼ぶ。連合国にもナチスにも、敵にも味方にも、ミソジニーは根付いている。武器なしでこの士官をボコったペギーは、ナチスのゾラ博士からコズミックキューブを奪還する。これにより“エージェント・カーター”から“キャプテン・カーター”へと昇進したペギーは、バッキーが所属する107連隊の奪還へと乗り出す。原作とは順番が前後しているのだ。

「ヒドラを倒すには皆の力が必要」とバッキーたちの救出を決意するペギーに対し、スティーブは「借りだ」と話す。スティーブは超人になっていなくても真面目な人物なのだ。ペギーはダンスも貸しであることを告げ、戦地へと乗り出す。

バイクでヒドラ基地へと乗り込んだキャプテン・カーターはアニメならではのアクションを見せ、囚われた107連隊のもとに到着。バッキーは「英国女王陛下?」とやはりペギーを馬鹿にするが、腕力でこれを黙らせたペギーは、連隊連れて基地を脱出する。このシーンも原作映画のオマージュになっている。

ペギーが援軍を要請すると、これに応えたのはスティーブ・ロジャース。ヒドラ・ストンパー(Hydra Stumper)に乗り込んだスティーブが戦場に舞い降り、ペギーと“ダンス”を踊る。ペギーが戦場に出向くことがなかったMCUでは実現しなかった共闘だ。女性のペギーと、後遺症により身体障がいを抱えたスティーブは、MCUに新たな歴史を刻み込む。

キャプテン・カーターが快進撃を見せるシーンで流れている曲はベニー・グッドマンの「ビューグル・コール・ラグ」(1922) だ。フリン大佐はキャプテン・カーターもヒドラ・ストンパーも自分の手柄にしようとしているが、それを尻目に二人は爽快なアクションの数々と共に活躍を見せる。一方、レッドスカルは窮地に立たされているようだが、それでも不敵な自信を見せていた。

そしてペギーはスティーブに本心を打ち明けていた。力を手に入れたことで、「大声を上げなくても注目される」と話す場面は英語で「I’m no longer screaming to be heard, to be seen, to be in the room.(意見を聞いてもらい、注目してもらい、部屋に残るために大声を上げなくていい)」と話している。ペギーを含む多くの女性は、女性であるというだけで、ただ意見を言い、その部屋に留まるために大声を出し続けなければならなかった、その現実の裏返しのセリフとなっている。超人血清を打てなかったスティーブは自尊心を失っていたが、二人は互いが互いのヒーローであることを認め合う。

「部屋にいる」ということ

そして遂に、原作映画でも大きな分岐点になった列車襲撃へ。映画ばんではゾラ博士が乗った列車を襲撃していたが、『ホワット・イフ…?』ではレッドスカルが乗った列車ということになっている。映画版ではバッキーが谷底に落ち、ヒドラの洗脳を受けてウィンター・ソルジャーへと変貌する“苦悩の始まり”のシーン。

『ホワット・イフ…?』でもバッキーは突入時に落下しそうになるが、ペギーに助けられる。この時、ペギーに引っ張られた左腕を抑えてバッキーは「腕がもげるかと」と発言しているが、正史において左腕に義手を装着することを念頭に置いての発言だろう。スティーブは列車に突入するが、列車はヒドラの罠だった。爆弾が満載された列車は爆発し、バッキーではなくヒドラ・ストンパーに乗ったスティーブが谷底へと落ちてしまう。

怒りに震えるペギーだったが、冷静にゾラ博士から情報をとり、レッドスカルが潜むクラーケン城へと向かう作戦を打ち出す。「ストンパーがなければ近づけない」と口を挟むフリン大佐に対し、ペギーは「You’re lucky to even be in the room.(部屋にいられるだけでも幸運に思いなさい)」と突っぱねる。

『ホワット・イフ…?』シーズン1第1話の「もしも…キャプテン・カーターがファースト・アベンジャーだったら?」は、現場から追いやられがちな女性が部屋に居続けることを選んだところから分岐が生まれた。力を手にしたことで「部屋に居続けるために大声を出さなくてすむようになった」というペギー・カーターは、無能な男性上官に「部屋にいられるだけも幸運に思いなさい」と言い返す。女性が物語に加わるということを意味する「部屋にいる」という比喩がメッセージとして貫かれているエピソードなのだ。

「次の土曜に」

そしてクラーケン城へと突入するキャプテン・カーターと仲間たち。ヒドラはコズミックキューブが搭載されたヒドラ・ストンパーを奪取し、コズミックキューブを取り出して巨大なタコの化物を召喚していた。一方、バッキーたちは捉えられたスティーブを助け出し、もう一度ストンパーへと乗せて充電する。「普通じゃない」との声に、バッキーは「それがスティーブ・ロジャースだ」と答える。キャプテンになっていなくても、バッキーのスティーブへの信頼は変わらないのだ。

タコの化け物はレッドスカルを握り潰し、巨大化していく。剣をとって応戦するキャプテン・カーター。装置のドイツ語が読めないハワードは「へディ・ラマーにドイツ語を習いそびれた」と漏らすが、へディ・ラマーとは現実の歴史で科学者としても俳優としても活躍した人物だ。キャプテン・カーターの危機に現れたのはヒドラ・ストンパー。バッキーたちを逃すが、ここで充電が切れてしまう。

ペギーはタコのモンスターを単独に“地獄”に送り返すことを決意する。「ダンスの約束は?」と聞くスティーブに、ペギーは「次の土曜に」と答えるのだった。このセリフは映画『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』で、飛行船のワルキューレを自分ごと沈めようとするスティーブに対してペギーが通信で答えた言葉と同じである。スティーブはここから70年の間氷漬けになるが、『ホワット・イフ…?』でも同じ会話が交わされたことで、ペギーのその後を暗示する。

ペギーが自分ごとタコのモンスターを押し返すと、異世界への扉が閉じられ、そこに残ったのはコズミックキューブだけだった。悲嘆に暮れるスティーブ。正史でペギーが味わった人生と同じ道を歩むのだろうか。

そして、エンディングではタコの足の破片と共にキャプテン・カーターが飛び出す。原作映画でキャプテン・アメリカが解凍されたのと同じように、ペギーもまた70年後にニック・フューリーによって呼び戻されたのだった。フューリーの隣にはホークアイことクリント・バートンの姿も。

ニック・フューリーはペギーに70年前に戦争が終わったことを告げる。映画版ではスティーブが「デートの約束があった」と話して幕を閉じる。一方で、『ホワット・イフ…?』のペギーの反応は、スティーブの心配をしつつも「戦争に勝ったんだ」というものだった。

そして、『ホワット・イフ…?』では最後にもう一度、案内役のウォッチャーが登場。彼女の選択が多元宇宙(マルチバース)」に新たなヒーローをもたらしたこと、ウォッチャーは宇宙の事象に干渉できないことを断り、第1話の幕が閉じる。原作コミックではウォッチャーの種族はかつて知識と技術を悪用されたことから他種族の文明に干渉することを禁じている。MCU版でもこのあたりの事情が語られるかどうかにも注目したい。

なお、第1話公開と同時にマーベル公式は製作陣がキャプテン・カーターとウォッチャーのつながりについて言及している。『ホワット・イフ…?』のMCUにおける立ち位置についても語ったこちらの記事は要チェックだ。

『ホワット・イフ…?』シーズン1第1話まとめ

『ホワット・イフ…?』第1話「もしも…キャプテン・カーターがファースト・アベンジャーだったら?」では、“部屋に残った”ペギー・カーターの変異体、キャプテン・カーターの活躍が描かれた。特定の人物の行動によって歴史に分岐が生まれるというドラマ『ロキ』の設定を採用した内容ではあったが、マルチバースがMCU正史に合流するかどうかについての判断は保留ということになりそうだ。

それでも、『ホワット・イフ…?』の監督と脚本家はキャプテン・カーターの実写化を望んでいる。詳細はこちらの記事に詳しいが、キャプテン・カーターの物語を第1話に持ってきていることからも、MCUにおいても重要なキャラクターになっていくことは想像に難くない。

2019年に『キャプテン・マーベル』が公開されるまで、10年間、20作品にわたって女性単独主人公の作品を作ることができなかったMCUに「もしも」の物語を提示した『ホワット・イフ…?』。これから、MCU本編をも塗り替えていくことに期待したい。

そして現時点でゾンビものにフォーカスした『ホワット・イフ…?』のポスターが公開されているが、第2話ではどのような物語が描かれるのか、配信開始を楽しみに待とう。

第2話に登場するキャラクターについての情報はこちらの記事で。

アニメ『ホワット・イフ…?』はDisney+で独占配信中。

『ホワット・イフ…?』(Disney+)

なお、製作陣がキャプテン・カーターとウォッチャーのつながり、『ホワット・イフ…?』のMCUにおける立ち位置についても語った内容はこちらから。

第1話の小ネタはこちらにまとめている。

第2話のネタバレ解説はこちらから。

 

『ホワット・イフ…?』の吹き替え声優キャストの紹介はこちらから。

ウォッチャーのポスターと設定についてはこちらの記事で。

ドラマ『ロキ』最終話のネタバレ解説はこちらから。

映画『ブラック・ウィドウ』のポストクレジットの解説はこちらから。

ドラマ『ワンダヴィジョン』で残された12の疑問はこちらから。

ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』のネタバレ解説はこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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