努力するのは“個人”か“政府”か。コロナ禍で配信された『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』サムのスピーチが投げかけた問い | VG+ (バゴプラ)

努力するのは“個人”か“政府”か。コロナ禍で配信された『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』サムのスピーチが投げかけた問い

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話題のドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』が完結

Disney+で配信されているMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)最新作『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』が全6話の配信を終え、シーズン1が完結を迎えた。シーズン2製作の可能性も取り沙汰されており、長期シリーズ化にも期待がかかる。

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は2020年5月の配信を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響を受け、配信が約1年延期された。それでも、同作のエンディングは現代アメリカと国際社会が抱える闇に一つの答えを提示すると共に、コロナ禍に苦しむ現在の私たちにも強いメッセージを届けてくれた。今回は、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』完結を迎え、同作が発したメッセージの核の部分を紐解いてみよう。

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』最終話の内容に関するネタバレを含みます。

政府に対するサムのスピーチ

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』のハイライトと言えば、第6話でサムが米国防長官を含むGRC(世界再定住評議会)のメンバーに対してスピーチを行う場面だ。国防長官は難民たちへの寛大な措置を求めるフラッグ・スマッシャーズに「テロリスト」とレッテルを貼ることで線を引き、引き続き難民排除に向けて動く姿勢を示す。ここでサムは「彼女らを“テロリスト”と呼ぶのをやめてください (You have to stop calling them terrorists.)」と、これを戒め、難民からすれば自分たちを排除しようとする政府の側がテロリストだと指摘する。

「君には事態がどれほど複雑か理解できない」と突き放す政治家に対し、サムは、サノスの指パッチン(デシメーション)後に多くの人々が政府に対して苦境を訴えてきたこと、人類皆が無力感を味わったこと、政府には問題解決に向けて取り組む“力”があることを説く。

アメリカで黒人として生きるサムは、苦悩の末、キャプテン・アメリカの盾という責任を引き受けた。人々からヘイトの目を向けられながらでも、「より良い世界を造れる」と信じて、キャプテン・アメリカになったのだ。この“責任”を背負ったサムは、この国を代表する“キャプテン”として、政府に対等な立場で言葉を並べていく。

そして、サムは政府に対する最大の疑問をぶつける。

問題は決定を誰と行っているか。その力の行使によって影響を受ける人々? それとも自分に近い人々か。

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』では、ヴィランのフラッグ・スマッシャーズがSNSを通して大衆から支持を受け、勢力を拡大していく様子が描かれた。政府や大企業、銀行に対する批判的な態度を示すフラッグ・スマッシャーズに対し、黒人として同じく政府や銀行から抑圧を受けてきたサムは、暴力による解決を否定しながらも、なぜ彼女らが暴力に走らざるを得なかったのかということを政府に考えるよう迫る。

振り返ってみれば、現代におけるアメリカのスーパーヒーローの歴史は、苦悩の歴史だった。それは、自分が無邪気に信じてきた“正義”を相対化するということであり、アメリカがイラクに侵攻したこと、新自由主義と排外主義を輸出したことへの反省でもあった。多くのヒーローは自分がアメリカの代弁者だという自負を捨てなかったが、マイノリティであるサムは、政府の代弁者ではなく、政府に語りかける立場を選んだのだ。

政府が努力を

サムは最後に国防長官に対して「努力が足りないのはあなた方だ。進歩しないといけない」と告げ、政府に「力をどう使うか」を自問するよう諭してスピーチを閉じる。

冒頭で触れた通り、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の配信は約1年間延期され、最終話の配信は、日本で三度目の緊急事態宣言が発令された日と重なった。人類が未曾有の危機を共有したというサムのセリフは、今の私たちにピッタリと当てはまる。

そして、最終話でサムが政府に対して放った「努力が足りないのはあなた方だ。進歩しないといけない」という言葉と、「より良い世界を造れる」と信じたサムの姿は、コロナ禍で疲弊した私たちに少しの希望を見せてくれた。

日本においては政府は十分な補償の伴わない不可解な“コロナ対策”を続ける一方で、“人流”の伴うオリンピック開催を強行しようとしている。感染拡大防止と経済活性化のため、個人の努力を促しはするが、政府や政治家が血を流す覚悟は見られない。市民に自助努力と自己責任を求めてきた日本政府は、誰の立場で何を守ろうとしているのか、問い直さなければならない。自分たちの決定で生活を左右される人々の側に立っていると言えるだろうか。

私たちは映画やドラマから学び、現実を良くしていくことができるはずだ。コロナ禍にあって、私たちは十分に努力を続けてきた。今の政府の姿勢に対し、選挙でジャッジを下すことはもちろん、サムがそうしたように、政府にも“努力”を求め続けよう。

ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』はDisney+で独占配信中。

Disney+

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』最終話の解説はこちらの記事で。

アメリカ黒人から難民へ——『ブラックパンサー』から『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』へと繋がったメッセージについてはこちらの記事で。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。 お問い合わせはコチラから
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