解説:キルモンガーからカーリへ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』最終話で繋がったMCUの系譜 | VG+ (バゴプラ)

解説:キルモンガーからカーリへ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』最終話で繋がったMCUの系譜

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『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』が繋いだ系譜

Disney+で配信されたドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は、『ワンダヴィジョン』(2021) に続くMCU正史に加わるオリジナルドラマ作品として大きな注目を集めた。アメリカ社会のおける人種差別、そして世界が抱える難民についての問題を正面から扱った同作を通して、過去のMCU作品を思い出したファンも多いはずだ。

特に結びつきが強く感じられたのは、2018年に公開されたチャドウィック・ボーズマン主演の映画『ブラックパンサー』だろう。実際に『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の物語ではワカンダ王国が重要な役割を果たすことになった。今回は、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』最終話のメッセージから、MCUフェーズ3からフェーズ4へと繋がれたテーマを解説しよう。

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』および映画『ブラックパンサー』の内容に関するネタバレを含みます。

ティ・チャラとサムのスピーチ

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』最終話では、強硬手段に走るカーリ・モーゲンソウに対し、新たにキャプテン・アメリカとなったサムがそれを阻止するために奔走する。サムはカーリの前に現れるが、決してカーリに手を出さず「戦わない」という選択肢を選んだ。最終的にはパワーブローカー=シャロンがカーリを射殺してしまうが、サムは最後までカーリとの対話を諦めなかった。

そしてサムは、カーリの亡骸を抱えて地上に出ると、カメラの前で政府の人間に向かって語りかける。この姿は、映画『ブラックパンサー』でティ・チャラが見せた国連での演説を想起させる。サムはスピーチで、カーリやフラッグ・スマッシャーズの主張を取り入れ、カーリが命を賭してまで政府を止めようとした理由や、なぜ多くの人々がそれを支持したのかを考えるよう説く。

ティ・チャラも同様にヴィランであるキルモンガーの主張を否定するのではなく、自国の歴史を反省し、傍観者を決め込むのをやめて世界へ知識と資源を共有することを約束した。「違いよりも共通点の方が多い」「一つの民族のように (as if we were one, single tribe.)」というティ・チャラの言葉は、「世界はひとつ、人はひとつ」というフラッグ・スマッシャーズの標語を想起させる。

キルモンガーの死を受けてワカンダが国を開いたように、サムはカーリの死を受けて各国政府に変わるよう説いたのだ。それが、国王ではないサムにできる精一杯の行動であり、黒人としてキャプテン・アメリカを名乗ることが、政府に声を届ける最も有効な手段だと考えたのかもしれない。

しかも、サムが装着した新キャプテン・アメリカのスーツは、ワカンダ製のものという点が象徴的だ。サムは自身のルーツであるアフリカのスーツで戦っていたのだ。ワカンダとサムの繋がりについては、こちらの記事に詳しい。

アメリカ黒人から難民へ

最後に、現実社会の問題に目を向けてみよう。映画『ブラックパンサー』では、マイケル・B・ジョーダンが演じたエリック・キルモンガーがアメリカ黒人が受けてきた抑圧を告発し、ワカンダが援助に乗り出すことになった。前述の通り、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』でワカンダがサムを支援することになった理由の一つには、キルモンガーの存在があったはずだ。

一方、カーリが率いるフラッグ・スマッシャーズは難民たちだ。各国政府が集まったGRCが難民キャンプを排除しようとする動きを見せた為、これを阻止するために強硬策に打って出た。キルモンガーもカーリも、苦境に立たされた末に解決策として“暴力”を選んだのだ。

『ブラックパンサー』ではアフリカの人々がアメリカの人々の抱える問題に向き合い、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』ではアメリカの人々がヨーロッパの難民の抱える問題に向き合った。「世界はひとつ」「一つの民族のように」——ティ・チャラとサムは共に、(自分たちの痛みだけでなく)他者が抱える痛みに向き合い、行動を起こすことを選んだ。

トランプ政権下で、アメリカは排外主義の急先鋒として世界に影響を与えた。そんな中で“キャプテン・アメリカ”が難民に対する共感と理解を示し、政府に対して改善と進歩を求めたことには大きな意味がある。世界の人々がサムを見ていたのと同じように、今、世界の人々はMCUを見ている。強大な影響力を持つポップカルチャーの巨人が、追い詰められた人々を「テロリスト」と呼ばせない態度を見せたのだ。

そして、2020年8月28日に43歳の若さで大腸癌で逝去したチャドウィック・ボーズマンが演じたティ・チャラの意思は、確かにサムへと引き継がれた。キルモンガーとカーリが命を賭して届けたメッセージは、新たなキャプテン・アメリカと共に生き続けていくだろう。

ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』と映画『ブラックパンサー』はDisney+で配信中。

Disney+

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』最終話におけるサムのスピーチから読み取るコロナ禍の教訓はこちらの記事で。

最終話 第6話のあらすじ&ネタバレ解説はこちらの記事から。

ポスト・エンドクレジットの解説はこちらから。

シーズン2についての考察はこちらで。

パワー・ブローカーについての疑問と、出演者のコメントはこちらの記事で。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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