【全曲解説】『ブラックパンサー』で流れた音楽まとめ【ネタバレ】 | VG+ (バゴプラ)

【全曲解説】『ブラックパンサー』で流れた音楽まとめ【ネタバレ】

℗ 2018 Marvel Music Inc. © 2018 MARVEL

『ブラックパンサー』で使用された音楽は?

2018年に公開され、高い評価を得た映画『ブラックパンサー』。MCU (マーベル・シネマティック・ユニバース) 第18作目にして初めて黒人ヒーローを主役に据えた作品として公開された。第91回アカデミー賞では複数の部門にノミネートされ、美術賞、衣裳デザイン賞とともに作曲賞を受賞。その音楽は大いに注目を浴びた。

今回は、『ブラックパンサー』で使用された音楽に注目したい。ストーリーに沿って、劇中で使用された全曲を紹介する。選曲に込められた意味を理解することで、『ブラックパンサー』という作品をより楽しむことができるだろう。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ブラックパンサー』の内容に関するネタバレを含みます。

冒頭に流れる「In the Trunk」

 

ワカンダの歴史が語られた後、場面は1992年のカリフォルニア州オークランドに移り変わる。子ども達がバスケットボールで遊んでいるバックで流れている曲は、Too $hort「In the Trunk」だ。Too $hortはオークランドをレペゼンする西海岸のレジェンド。「In the Trunk」は、オークランドに生まれ育ったライアン・クーグラー監督が6歳の頃だった1993年に発表された曲だ。

「In the Trunk」では、「私はジェームズ・ブラウンなしで7枚のアルバムを作った」等々、ヒップホップではおなじみのセルフボースティング (自己顕示) が繰り広げられる。その中で「私のラップは全てこの街に関することだ」など、オークランドの街についても幾度となく触れており、Too $hortとオークランドの切っても切れない繋がりを表現している。

ライアン・クーグラー監督は映画『ブラックパンサー』において、本作のヴィランであり最重要人物でもあるキルモンガーことエリック・スティーヴンスと自分の存在を重ね合わせるようにして物語を描き出している。冒頭からライアン・クーグラー監督のオークランド愛が炸裂した選曲なのだ。

なお、このシーンでシュートを決めた少年が「ティム・ハーダウェイみたいだろ」と言っているが、ティム・ハーダウェイとはオークランドに拠点を置いていたNBAゴールデンステート・ウォリアーズのかつてのスター選手。1992年にNBA史上2番目の早さで5,000得点、2,500アシストを達成したレジェンドだ。

ワカンダに向かうシーンで「Wakanda」

ナキアと合流したティ・チャラとオコエが飛行機に乗ってワカンダに向かうシーンで流れているのは、『ブラックパンサー』の音楽を手がけたルドウィグ・ゴランソンによるオリジナル曲の「Wakanda」。歌はセネガル人歌手のバーバ・マール (Baaba Maal) が担当している。ルドウィグ・ゴランソンは、バーバ・マールのツアーに同行しながらアフリカで『ブラックパンサー』のスコアを制作したという。

「Wakanda」では“王”を象徴する“象”の死について歌われており、この曲は2018年に公開された『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でも使用されている。

なお、ルドウィグ・ゴランソンは『ダークナイト』(2008)で知られるクリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』(2020年9月18日日本公開予定)の音楽を手がけている。

博物館襲撃シーンで「Killmonger」

同じくルドウィグ・ゴランソンが手がけた『ブラックパンサー』を象徴する楽曲がロンドンの博物館襲撃シーンで初めて流れる「Killmonger」だ。この曲はその名の通り、キルモンガーのテーマソングであり、作中繰り返し流れる。2018年時点で流行していたトラップの手法を取り入れた曲であり、キルモンガーは歴史上初めてトラップミュージックがテーマ曲になったスーパーヴィランとなった。

市場の会話シーンで「Bèrèbèrè」

決闘を制し、亡き父との対話を経て、正式にワカンダの王となったティ・チャラ。ワカンダの人々の生活が映し出され、ナキアと共に市場のストリートを歩く姿が映し出される。ここで流れているのは、マリ共和国出身のアリ・ファルカ・トゥーレによる「Bèrèbèrè」(2009)。「Bèrèbèrè」とは、マリで話されているバンバラ語で「互いを助ける」という意味だ。

長い別れの期間を経て再会したティ・チャラとナキア。「互いを助ける」ための話し合いになるかと思いきや、ナキアが訴えるのは鎖国したワカンダが窮状にある他国に対してできることについてだった。『ブラックパンサー』の物語の核心となるテーマが「Bèrèbèrè」という曲を通して示唆されているのだ。

シュリのラボで「Wololo」

ティ・チャラがシュリのラボで話すシーン、このラボで流れている曲はベイブス・ウドゥモ「Wololo feat. Mampintsha」(2016)だ。ベイブス・ウドゥモは南アフリカのダンスミュージックアーティストで、「Wololo」は、MTV アフリカ・ミュージック・アワード 2016でソング・オブ・ザ・イヤーにもノミネートされた楽曲。

研究ラボでダンスミュージックを流しているのはシュリらしいが、ここでも南アフリカの曲をチョイスしているという点もポイントだ。なお、このラボのシーンではシュリがブラックパンサーの“スニーカー”に言及しているが、『ブラックパンサー』の公開当時、複数のスニーカーとバッシュが発売されていた。

釜山で流れる「Hangover」

舞台は変わって韓国は釜山。ここで流れているのは「江南スタイル」(2012)で一斉を風靡したPSYと、ラッパーのスヌープ・ドッグがコラボした「Hangover feat. Snoop Dogg」(2015)だ。典型的なパーティソングで、このシーンではPSYの韓国語ラップの部分が抜き出されている。

なお、劇中には登場しないものの、スヌープ・ドッグのリリックには「これがスーパースターの人生、少年たちが行進するSF」というラインが登場する。

クラブで流れる「Pray For Me」

ワカンダ一行が韓国のカジノに入った時に流れている曲はザ・ウィークエンド with ケンドリック・ラマー「Pray For Me」(2018)。『ブラックパンサー』のサウンドトラックにも収録されているこの曲は、クラブにピッタリな雰囲気の楽曲だ。

だが、この曲では、「誰が私のために歌ってくれるのか?誰がこの痛みを取り去ってくれるのか?」「私はあなたのために死に、あなたのために殺し、あなたのために血を流す」というフックが歌われている。各バースの入り方も「私はいつでも戦争をする準備ができている」「世界と戦い、あなたと戦い、私自身と戦う」と、父の仇を討つために遥々韓国に乗り込んだティ・チャラの心情とリンクしている。「ヒーローが必要なら鏡の中を見て、そこにあなたのヒーローはいる」というラインが印象的だ。

クロウ到着で「Nervous」

ユリシーズ・クロウがクラブに到着するシーンで流れている曲はラッパーWhite Dave「Nervous」(2017)。White Daveはブラックパンサーに参加している他のアーティストと比べれば、ほとんど無名といってもいいラッパーだ。だが、White Daveはライアン・クーグラー監督の生まれ故郷であるオークランドのラッパー。『ブラックパンサー』という作品のキープレイスにもなったオークランドの若手ラッパーをフックアップする粋な起用である。

カーチェイスシーンで「Opps」

銃撃戦を経た一行は、釜山を舞台にしたカーチェイスに移行。ユリシーズ・クロウの「音楽は? 葬式じゃねえ」というセリフを合図にヴィンス・ステープルズ「Opps feat. Yugen Blakrok And Kendrick Lamar」(2018)が流れ出す。『ブラックパンサー』のサントラにも収録されている曲だ。「(私にとって) お前はもう死んでいる」と繰り返し歌われるアップテンポな曲で、釜山の街でのカーチェイスシーンを盛り上げる。

尋問シーンで「What Is Love」

尋問を受けるユリシーズ・クロウが歌い始めるのはドイツのシンガー ハダウェイ「What Is Love」(1992)のフック部分。「愛ってなんだ/これ以上私を傷つけないで」と往年のメガヒット曲を歌い上げる。なお、「What Is Love」はエミネムの「No Love feat. リル・ウェイン」(2010)をはじめ数多くの曲でサンプリングされている名曲だ。

ワカンダでは流れない“外部”の曲

脱出したユリシーズ・クロウを殺したキルモンガーは、その死体を手土産にワカンダへ向かう。ここから物語の舞台は再びワカンダに戻るのだが、注目すべき点は、ワカンダを舞台にしているシーンではアフリカ以外の音楽はかからないということだ。思い返せば映画の前半部分でもマリ共和国の「Bèrèbèrè」や南アフリカの「Wololo」など、ワカンダを舞台にしたシーンではアフリカのアーティストの曲が使用されていた。

王座を乗っ取ったキルモンガーと再びその座に挑むブラックパンサーことティ・チャラの戦いは、アフリカでこの映画のスコアを手がけたルドウィグ・ゴランソンの曲をバックに映し出されていくことになる。

現在のオークランドで「Sleep Walkin」

キルモンガーとの決闘に勝利したティ・チャラ。その姿はオークランドにあった。この映画の冒頭と同じように子ども達がバスケで遊んでいるバックで、Mozzy「Sleep Walkin」(2017)が流れる。Mozzyはオークランドにほど近いサクラメントはオークパーク出身のラッパーだ。

この場面で流れる「Sleep Walkin」では、2バース目の「試練 (裁判) と苦難、保釈と罪状認否手続きを進める/宣誓供述書と供述、待機する戦術だったからただ待ってた」との歌い出しに続き、原曲のNワードが入る部分がカットされ、「児童保護サービスだけが私を悩ませる/殺人事件の遺族だけが私を憎んでいい」と、ゲットーの現実が淡々と描写されている。

ワカンダが世界に背を向けていた間、アメリカでは貧困と差別が生み出したやるせない現実が広がっていたのだ。かつて父が叔父を殺した場所に戻ってきたティ・チャラは、この“原罪の地”にワカンダ初の国際支援センターを建設することを明らかにする。

エンディングで「All The Stars」

最初のエンディングクレジットで流れるのは、『ブラックパンサー』のテーマ曲である「All The Stars」(2018)ケンドリック・ラマー&SZAによる楽曲だ。「愛について話をしよう」「武器を持って死体の山を築いても、真実を語ることはできない」とケンドリック・ラマーがラップすれば、SZAは「私たちに時間は残されていない」「夜空の星たちが近づいてくる」と歌い、ワカンダの今後を示唆する。

最初のクレジットの後、国連の会議に登場したティ・チャラは、世界に蔓延する対立の風潮を止め、互いの共通点を探すよう求める。「賢者は橋をかけ、愚者は壁をつくる」という名演説と共に、世界に対し、他者を受け入れ、慈しみ合うよう呼びかける。

以上が、映画『ブラックパンサー』で使用された楽曲の全容だ。作曲家のルドウィグ・ゴランソンが制作した楽曲を含むアフリカの音楽と共に、アメリカと韓国という舞台を利用してその他の土地で生まれたヒップホップやダンスミュージックをうまく差し込んでいる。曲に込められた意味も物語とリンクするようになっており、一つ一つの楽曲に注目することで、見えてきたものもあったのではないだろうか。

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なお、同じMCU作品である『キャプテン・マーベル』(2019)では90年代のヒットソングが、『スパイダーマン: ファー・フロム・ホーム』(2019)ではヨーロッパの楽曲がフィーチャーされていた。また、『スパイダーマン: スパイダーバース』(2018)では、『ブラックパンサー』と同じく多くのヒップホップ楽曲が使用された。詳しくは以下の記事をご覧いただきたい。

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