名ヴィランを生んだ映画『ブラックパンサー』、魅力的なキャラクター達が作り出した名作
2018年に驚異的な興行収入を記録した『ブラックパンサー』(2018)。MCU (マーベル・シネマティック・ユニバース) の10年間の歴史の中にあっても燦然と輝く、魅力的なキャラクター達の姿が描かれた。
父から王位を引き継いだティ・チャラことブラックパンサー、ティ・チャラの幼馴染でありワカンダ王国のスパイでもあるナキア、女性戦士だけで構成されるワカンダの親衛隊ドーラ・ミラージュを率いるオコエ、16歳の天才科学者にしてティ・チャラの妹であるシュリ、フォレスト・ウィテカーが演じた高僧のズリなど、新キャラを中心にした構成でありながらも、ワカンダという国に親近感を湧かせる俳優陣の好演も光った。
物語に深みを与えた名ヴィラン・キルモンガー
特に注目を集めたのは、現代アメリカの抑圧された社会を生き、ワカンダの王家への復讐を誓うキルモンガーというキャラクターだ。歴代のSF作品におけるヴィラン (悪役) の中でも上位にランクされるであろう魅力的なキャラクターに仕上がった。
ただの勧善懲悪ではない「相対的な正義」というコンセプト自体は、イラク戦争以降のSF作品で多く見られるようになったものではある。だが、キルモンガーというキャラクターの持つ魅力が、『ブラックパンサー』をありきたりなアメコミ映画作品に押しとどめておかなかった。
「鎖よりも死を選ぶ」と最後まで抑圧へ抵抗する姿勢を貫いたキルモンガーの姿が、ティ・チャラの「賢者は橋をかけ、愚者は壁を作る」という名言を生んだのだ。このセリフは、現実のアメリカ社会でヘイトと人種対立を煽るトランプ大統領へのディスでもある。映画『ブラックパンサー』は、現代アメリカが孕む矛盾と故郷ワカンダへの執念という複雑な要素を併せ持つ、キルモンガーというヴィランあっての重厚な物語となったのだった。
今までにないキルモンガーを演じたのはマイケル・B・ジョーダン
キルモンガーには、ハリウッドの歴史上でも (おそらく) 初めて、ヴィランのテーマソングにヒップホップのトラップビートが使用された。セリフに合わせてBGMにビートがドロップされ、ラップを想起させる語り口を披露するなど、型破りでありながらも現代的なヴィランとして完成した姿を見せた。
そんな “ニューヒーロー”を演じたのは俳優のマイケル・B・ジョーダン。ブラックパンサーを演じた41歳のチャドウィック・ボーズマンに対して、ジョーダンは31歳。『ブラックパンサー』で指揮をとったライアン・クーグラー監督と同い年だ。俳優としては、クーグラー監督の『フルートベール駅で』(2013) 『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)で好演を見せ、確固たるポジションを築いてきた。
近年はSF映画で活躍
SF作品では、AKIRAに影響を受けたとされるジョシュ・トランク監督の『クロニクル』(2012)、同監督が手がけたリブート版『ファンタスティック・フォー』(2015) への出演歴があるジョーダン。いずれもスーパーパワーを手に入れる役どころだ。
5月には、HBOのテレビ映画『Fahrenheit 451』(2018) に主演。この作品は1953年に発表されたレイ・ブラッドベリのディストピア小説『華氏451度』の実写映画化作品だ。本などの紙媒体に対する焚書が進められ、動画や音声以外のメディアを禁じられた近未来の社会を描いている。ジョーダンは、焚書活動を行う「ファイアマン」でありながら、その施策に疑問を抱き始める主役のガイ・モンターグを演じた。
『ブラック・パンサー』への出演も経てすっかりSF作品が板についてきたジョーダン。新たなスターの活躍に、今後の期待が高まる。
“We must be made equal by the fire.”@michaelb4jordan and Michael Shannon star in #Fahrenheit451, this May on #HBO. pic.twitter.com/eGnTwxSkE6
— HBO (@HBO) 2018年2月26日
「ナルトとブリーチまだ?」「悟空とナルトはリアルだ」アニメと漫画を愛するジョーダン
そんなジョーダンもスタジオを出れば、実はアニメの大ファンという一面を持つ。DUJOUR誌のインタビューでは、休みの日は日本のアニメを観て過ごすと語っている。自身のツイッターでも、「ジョーダンは5.9フィートの大の大人でアニメオタク、両親のもとで暮らしてる」というツイートに対して、以下のようにリプライして話題を呼んだ。
一つ言っておきたいんだけど、私は6フィート (約180センチ) あるし、「両親が」私のもとで一緒に暮らしてるんです。そこが大事なポイントだよ (笑) あと、悟空とナルトはリアルだ (笑)
by マイケル・B・ジョーダン
First of All I’m 6ft and they live with ME, put some respeck on my name. LOL…aaaand goku & naruto are real ones 🙌🏾 lol https://t.co/QspyHD2zwH
— Michael B. Jordan (@michaelb4jordan) 2018年2月23日
自身の見かけによらず、ナード (オタク) であることを堂々と表明したジョーダン。さらに両親を自身の家に住ませている事も明らかにした。ジョーダンのミドルネームである「B」は、“Bakari”を意味しており、スワヒリ語で「of noble promose (気高い約束の) 」。父親から譲り受けたミドルネームだ。両親思いジョーダンらしい心温まるツイートにも見えるが、このツイートに噛みついたのは、意外にもアニメファンだった。
えっ、そういうタイプのアニメを観てるんですね……有名どころじゃないですか
by ファン
oh you’re into that kinda of anime…. the mainstream ones pic.twitter.com/K9980X7yS1
— 𝓲𝓶𝓪𝓷𝓲 ♥ (@imaniromney) February 23, 2018
ナルトやドラゴンボールといった有名どころのアニメを挙げた、いわゆるセレブの「オタク気取り」を警戒するツイート。これには、ジョーダンも思わず再反論。
いやいや、アニメの教養がない人にも分かりやすいように言っただけです
Nah that was a softball for the anime uneducated 🤓
— Michael B. Jordan (@michaelb4jordan) February 23, 2018
uneducated=教養がない、教育されていない、という単語を用いており、アニメファンへの反論でありながらも、アニメに詳しくない人たちを一蹴している。キルモンガーさながらの切れ味鋭いツイートだ。
また、2011年に違法漫画サイト (海外では「無料で読める」という利点よりも、タイムラグなく英語で読めることから漫画ファンに重宝されている) のツイッターアカウントに「ナルトとブリーチまだ?」とリプライを飛ばしている様子や、「行ってみたい場所」を問われて「決まってますよ、Tokyo, Japan。アニメ、最高ですよ」と答える動画も話題になった。
スター街道を駆け上がりながらも、本当の自分の姿を隠そうとしないマイケル・B・ジョーダン。MCUでニック・フューリー役を演じるサミュエル・L・ジャクソンもまた、大のアニメ好きを公言し、アニメ『アフロサムライ』(2007) では声優として主演を務めた。ジョーダンもまた、自身の愛するフィールドでの活躍を見せてくれるだろうか。しばらくは『ブラックパンサー』での好演を楽しみながら見守ろう。
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