ワカンダとサムを繋ぐもの『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』第5話が呼び起こした『ブラックパンサー』の記憶 | VG+ (バゴプラ)

ワカンダとサムを繋ぐもの『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』第5話が呼び起こした『ブラックパンサー』の記憶

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『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』が紡ぐ歴史

2021年3月よりDisney+で配信されているMCUドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は、映画並みの高いクオリティを維持しながら、全6話というボリュームで次々とサプライズを投下。過去にMCUに登場したキャラクターの復活や新キャラの登場で、ファンを大いに楽しませてくれている。

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』第5話の内容に関するネタバレを含みます。

その中でも、注目したいのは映画『ブラックパンサー』(2018) との繋がりだ。第3話ラストにはワカンダ王国の親衛隊ドーラ・ミラージュのアヨが登場。第4話ではアヨ以外のドーラ・ミラージュの面々も登場し、見事なアクションシーンを繰り広げた。第5話ではバッキーがドーラ・ミラージュにジモを引き渡すなど、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』という作品において、ワカンダの人々が重要な役割を担っている。

YouTubeのマーベル公式チャンネルも、第5話公開の前に「Wakandans Featurette」と題したワカンダにフィーチャーした予告編を公開。

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』にここまでワカンダが絡んでくる理由は、他でもなくバッキーが“ホワイトウルフ”と呼ばれ、ワカンダに匿われていたことに起因している。第4話では、アヨがバッキーの洗脳を解く手助けをしていたという設定も明らかになった。

継承されたキルモンガーの物語

一方で、見逃してはいけないのはワカンダとサムの繋がりだ。第5話では、ジモを引き渡したバッキーがアヨに何かを依頼し、その後、サムにワカンダ製のアイテムを渡している。第5話のラストはこのワカンダ製のアイテムが入ったケースを開いたところで幕を閉じるのだが、最終話でサムが“何者か”になるための重要なギアまたはコスチュームが入っていることは明らかだ。

もちろん、ワカンダが自国製のアイテムをヒーローに提供するのはこれが初めてではない。喧嘩別れしたアイアンマンことトニー・スタークに盾を引き渡した初代キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースには、両手につけるタイプの”盾”を提供。バッキーにはヴィブラニウム製の義手を提供している。

だが、直接的な繋がりのないサムに対して、ワカンダから自国製のアイテムが贈られることには、より重要な意味がある。なぜなら、『ブラックパンサー』が描いたのは、“アメリカ黒人”であるキルモンガーの物語だったからだ。鎖国したワカンダが豊富な資源 (ヴィブラニウム) によって繁栄を謳歌する一方で、アメリカに取り残されたエリックは傷だらけの人生を歩み、“キルモンガー”というヴィランとなった。ワカンダの新たな王となったティ・チャラは国を閉ざしてきた自国の罪を認め、ワカンダという国を世界へ開いていくことを約束したのだった。

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で脚本と原案を担当したマルコム・スペルマンもアフリカ系アメリカ人であり、本作では黒人がキャプテン・アメリカを引き継ぐことに焦点が当てられている。先祖はアフリカから奴隷としてアメリカに連れてこられ、21世紀になった今でも差別と格差、暴力に苛まれるアメリカ黒人の姿を『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』はまざまざと描き出す。第5話ではイザイアがアメリカ政府から受けた不当な仕打ちと、現実の歴史でその活躍が闇に葬られかけた黒人部隊レッド・テイルズの存在をオーバーラップさせる形で、アメリカ社会で黒人がヒーロー (英雄) になることの困難さを示した。

ワカンダの新たな姿

そして、『ファルコン&ウィンタ・ソルジャー』では、ワカンダの新たな姿が描かれている。ワカンダはスティーブとバッキーを秘密裏に支援してきたが、今回は新たにキャプテン・アメリカになるであろうサムを援助。ワカンダはこれで直接的にアメリカ黒人のヒーローを援助したことになる。これはエリック・キルモンガーに対してワカンダが果たせなかった役割である。

キルモンガーが主張したように、ワカンダはアメリカ黒人に対する貢献ができなかった。その歴史に終止符を打ち、世界に扉を開いたのがティ・チャラだ。今回は故チャドウィック・ボーズマン演じるティ・チャラの名前は登場しないが、それは、サムに対する支援がティ・チャラ個人の意思ではなく、ワカンダ全体の意思であることを示しているとも言える。

これにより、サムは、“Blue eyes, blonde hair (青い目に金髪)” ではない新たなキャプテン・アメリカとして、自身のルーツであるアフリカの武器/防具を身にまとうことになる。アメリカという国に人生を愚弄され、心に深い傷を負ったイザイアを裏切らない形でアメリカのヒーローになることができるのだ。

バッキーがサムをワカンダに繋いだことで、2022年公開を予定している『ブラックパンサー2』のストーリーにも、新たな道筋が見えるかもしれない。サムが手に入れた新たな力が明らかになる『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』最終話を、確と見届けよう。

ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』はDisney+で独占配信中。

Disney+

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』最終話を踏まえた、同作と『ブラックパンサー』の繋がりについての解説はこちらの記事で。

『ブラックパンサー』から消されたアヨの物語についてはこちらの記事で。

第5話に登場した“ヴァル”についての解説はこちらの記事から。

第5話のネタバレ解説はこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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