天才漫画家、鮫島アビ子の実像
2024年11月28日(木)にAmazonプライムビデオで実写ドラマ版の配信が開始され、2024年12月20日(金)にはその続編である実写映画版が劇場で公開される【推しの子】。そのアニメ版である【推しの子】第2期第3話/第14話「リライティング」が2024年7月17日(水)に放送された。そこでは天才や奇人と言われた鮫島アビ子の実像が描かれ、漫画と舞台の媒体の違いによる演出の差が解説される。
本記事では、アニメ【推しの子】第2期3話/14話「リライティング」のアニメオリジナル演出などについて解説と考察、感想を述べていこう。なお、以下の内容はアニメ【推しの子】第2期3話/14話「リライティング」のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただきたい。
以下の内容は、アニメ『推しの子』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
【推しの子】第2期3話/14話ネタバレ解説
ステージアラウンド
第2期3話/14話「リライティング」は原作漫画【推しの子】の第41話「顔合わせ」からはじまる。これまでは星野アクアの視点から描かれてきたアニメ【推しの子】だが、第2期3話/14話「リライティング」は星野ルビーの視点から描かれ始める。B小町としての活動が順調に進み、ようやく芸能クラスに通うクラスメイトと肩を並べられるようになったと思っていたが、まだまだ先は長いようだ。
B小町としての活動をもっとしたいと望む星野ルビーだが、メンバーの有馬かなが『東京ブレイド』の2.5次元ミュージカルに出演している都合上、一時停止を余儀なくされる。その2.5次元ミュージカル『東京ブレイド』も鮫島アビ子の鶴の一声で稽古中止の状態だ。
星野ルビーは、星野アクアは何をしているのか尋ねる。その頃、星野アクアは黒川あかねの誘いで現在の舞台演劇の実態を知るべく、ステージアラウンドの舞台を観賞しに行っていた。舞台演劇に苦手意識を抱いていた星野アクアは、ステージアラウンドの劇場でしか体験できない舞台演劇に感動していた。ステージアラウンドが3Dで解説されることで、舞台演劇が体験型コンテンツであることが視聴者にもわかりやすく伝わってくる。
ディスコミュニケーション
星野アクアと黒川あかねが話しているところに、雷田澄彰が割って入る。そこで舞台演劇の脚本家としてGOAが優秀であることを知る星野アクアだが、そのGOAも鮫島アビ子の強い要望で降ろされてしまった。ここで星野アクアは鮫島アビ子の才能を認めつつ、媒体の違いからステージアラウンドの舞台を活かせる脚本を鮫島アビ子が書けないことを指摘する。
ここで、星野アクアが危惧しているのが現在のGOAと鮫島アビ子のディスコミュニケーションの状態だ。ディスコミュニケーションとは、コミュニケーションを取るべき状態にもかかわらず、上手く行かずにコミュニケーションが成立していない状態を指す言葉だ。その原因は情報伝達の不調、意思疎通のずれなどがあるとされている。
似た言葉でミスコミュニケーションというものがあるが、こちらは似ているようでまったく違う状態だ。ミスコミュニケーションは、コミュニケーションそのものは行なわれているものの、発信者と受け取り手の間で認識の相違が起きている状態を指す言葉だ。前回の伝言ゲームでも解説されていたが、『東京ブレイド』の場合は原作者と脚本家の間で意見を伝えるときに角を取ることに注力しすぎてコミュニケーションが成立していないと考察できる。
師匠・吉祥寺頼子
星野アクアはディスコミュニケーションに陥った2.5次元ミュージカル『東京ブレイド』を解消するため、鮫島アビ子がかつてアシスタントを務めていた『今日は甘口で』の原作者である吉祥寺頼子のもとを訪ねる。鮫島アビ子は自分こそ一番実力があると思っている状態であり、説得できるのは同業者かつ師匠のみと星野アクアは考えていた。
原作漫画【推しの子】では漫画家にとって漫画はロールシャッハ・テストのようなものだと解説されている。ロールシャッハ・テストとはスイスの精神科医ヘルマン・ロールシャッハによって1921年に考案された性格診断であり、インクの染みが何に見えるかで性格を推し量るものだ。
吉祥寺頼子曰く、鮫島アビ子の漫画は「他者と解り合いたい」けどそれが出来ずに苦しんでいる子の漫画だという。原作漫画【推しの子】では、ここで吉祥寺頼子は鮫島アビ子が挫折を知らずに自分の意見が絶対だと思っていることに関して、暗く何かを思っている顔をしているがアニメ【推しの子】ではその顔は映されていない。そのため、その後の2人の意見の衝突まで、吉祥寺頼子が鮫島アビ子にどのような思いを持っているかが濁されている。
愛を持ってキャラに触れてほしい
また、ここで回想が入って原作漫画【推しの子】第47話「職場訪問」の冒頭が描かれる。そこでは吉祥寺頼子の『今日は甘口で』の失敗に関して、吉祥寺頼子が現場の意見を汲み過ぎたことが原因ではないかという痛いところを鮫島アビ子が指摘する場面だ。この鮫島アビ子の思想は周りがイエスマンばかりになってしまったがために、他の創作者を否定してしまう状況になっていることが描かれている。
鮫島アビ子が自分の才覚しか信じられない状況になる前のアシスタント時代の回想がそこに入ることで、吉祥寺頼子にとって鮫島アビ子がどのような存在かが考察できる構成になっていると考えられる。自分の可愛い弟子でありながら、自分を一瞬で追い抜いて行った嫉妬の対象。それが吉祥寺頼子にとっての鮫島アビ子であり、吉祥寺頼子は自分の才覚しか信じられなくなった鮫島アビ子の味方になってあげられるのは自分だけと考えていた。
「愛を持ってキャラに触れてほしい」という吉祥寺頼子と鮫島アビ子、そしてすべての創作者が自分の作品に抱く感情。それがディスコミュニケーションで最悪の形で発露してしまったのが現在の状況だと言えるだろう。その状況を打破するため、星野アクアは吉祥寺頼子に鮫島アビ子へ向けた脚本家のGOAが脚本を務めた舞台のチケットを託す。
修羅場
脚本家のGOAが脚本を務めた舞台のチケットを手に鮫島アビ子の家を訪ねる吉祥寺頼子だったが、鮫島アビ子の生活は既に破綻し始めていた。締め切りを守れず、セルフネグレクト状態の家、更にはアシスタントをすべて解雇している状況を吉祥寺頼子は鬱病リタイアコースと評する。
原作漫画【推しの子】第48話「修羅場」では顔を映していた2人の会話だったが、アニメ【推しの子】ではゴミだらけの部屋に焦点が当てられ、こちらまで胃がキリキリと痛みそうな会話が続く。そして、顔が映されるようになると2人は漫画を描きながら本音をぶつけ合うのだった。
周りがイエスマンばかりになったため、言い返されるとは思っていなかった鮫島アビ子の反応がコメディに描かれることで視聴者も何か肩の荷が下りて解放されたような気分になる。また、吉祥寺頼子のアシスタント時代の鮫島アビ子の回想が挟まれることで、売れっ子漫画家の鮫島アビ子も吉祥寺頼子の前では人付き合いの苦手な弟子に戻る演出になっていると考察できる。
『今日は甘口で』の実写化について鮫島アビ子が文句を言う場面では、鮫島アビ子の棚に『今日は甘口で』の原作漫画が置かれているのが映され、鮫島アビ子が一読者として吉祥寺頼子の実写化作品を楽しんでいたことが考察できる。そして、吉祥寺頼子が天才漫画家の鮫島アビ子とはいえ完ぺきではないと指摘する場面では「ボツネーム」と書かれた箱が映る。これにより、鮫島アビ子もGOAと同じように何度もリライトすることで面白い作品を生んでいることが視聴者にも伝わってくる。
ゴミだらけの部屋は鮫島アビ子の心を反映していると考察できる。本音をぶちまけた鮫島アビ子は涙を流す。夜が明け、差し込む朝日が2人を包み込む。それによって鮫島アビ子の心の澱が昇華されたことが伝わってくる。
【推しの子】第2期3話/14話ネタバレ感想&考察
新しい舞台演劇の世界
2.5次元ミュージカル『東京ブレイド』を公演するにあたって、舞台演劇を苦手としていた星野アクアの視点から最先端の舞台演劇が解説される。3DCGなどを活かした舞台装置の解説によって、視聴者も星野アクアと同じように舞台演劇の今を理解することが出来る。そして、舞台演劇の魅力が詳しく解説されることで、脚本家と漫画家の媒体による演出の違いも理解できるのだ。
脚本家のGOAが体験型コンテンツであるステージアラウンドの舞台演劇をどのように演出しているかも解説され、それによっていくら天才漫画家の鮫島アビ子でも舞台演劇は無理なのではないかと伝わってくる。それがその後の鮫島アビ子の生活が破綻していたことに繋がってくると考察できる。
鮫島アビ子を救う物語
第2期3話/14話「リライティング」はそのタイトルの通り、鮫島アビ子がクオリティを重視するあまりリライティングを繰り返している状況を表現している。これまで奇人や天才として描かれていた鮫島アビ子だったが、その重圧によって生活が破綻していることが描かれた。
セルフネグレクトにアシスタントの全員解雇など、鮫島アビ子が「全部直してください」という爆弾発言をするまで、鬱病寸前になるまで追いつめられていることが解説される。前回はリライティングによってGOAが追い詰められていくことが細かく描かれていたが、第2期3話/14話「リライティング」ではGOAを追い詰めてしまった鮫島アビ子もまた追い詰められていたことがわかる。そうすると前回の見方が変わってくる。
次回は重圧から解放された鮫島アビ子が、正しい形で2.5次元ミュージカル『東京ブレイド』に介入する様子が描かれると考察できる。原作者はどこまで実写化に介入すべきであり、脚本家はそれにどのようなアンサーを出すのが両者とも納得する正しい形なのだろうか。アニメ【推しの子】の今後の展開を要チェックだ。
アニメ【推しの子】第2期は毎週水曜23時より全国35局にて放送中。配信先は公式サイトで。
2.5次元ミュージカル『東京ブレイド』編が収録された【推しの子】第5巻は発売中。
アニメ【推しの子】第2期第1話/12話「東京ブレイド」のネタバレ感想はこちらから。
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