映画『シャン・チー』公開
映画『シャン・チー テン・リングスの伝説』が2021年9月3日(金)に劇場公開された。『シャン・チー』は悪の組織テン・リングスのリーダーであるマンダリンことウェンウーを父に持つ主人公シャン・チーが、自身のルーツと過去に向き合いながら新たなヒーローとなっていく物語。MCUで初めてアジア系のヒーローを主人公に据え、中国の神話や日本のアニメ作品のテイストを取り込んだ作品になっている。
マーベル・スタジオ社長のケヴィン・ファイギは、『シャン・チー』では主人公シャン・チー以外のキャラクターが魅力的であることを理由に、続編を含む今後の展開があり得ることを明言している。
中でも存在感を発揮したのはシャン・チーの妹のシャーリンだ。シャーリンを演じたのは中国出身の俳優メンガー・チャン。メンガー・チャンはシャン・チーを演じたシム・リウと同じく、ハリウッドでは無名と言ってもよい俳優だったが、『シャン・チー』のオーディションに合格して華々しいハリウッドデビューを果たした。では、メンガー・チャンはどのようにしてシャーリンというキャラクターを作り上げていったのだろうか。
シャーリンが生まれるまで
米SYFY WIREによると、メンガー・チャンがオーディションのことを知ったのは「グループチャット」。LINEグループのようなものだろう。中国語と英語を話せる女性俳優を募集しているという情報を目にして、オーディションテープを送ったという。その作品がマーベル映画だとも知らず、どのような役かも知らずに応募したのだ。結果、MCU作品への出演が決まったメンガー・チャンはスタントや武術を徹底的に練習して撮影に挑むことになった。
メンガー・チャンは、『シャン・チー』でのシャーリンの描き方について、米/FILMにも興味深い話をしている。まず、シャーリンの性格については「複雑」と表現している。
シャーリンは本当に複雑な人物です。見た感じはタフで冷たいのですが、内面は繊細で傷つきやすいところもあり、私は最初から彼女と強い繋がりがあると感じていました。自分の中のどこかにいつも彼女がいるような気がしていて、世界(の人々)も彼女を愛してくれると思っています。彼女は強い女性で、自分の立場を守りながら、自分の声を聞いてそれを採用するんです。
ステレオタイプに気づいた時
シャーリンは原作コミックには登場していないキャラクターで、複数のキャラクターの要素を取り入れてはいるものの、基本的にはMCUオリジナルキャラクターということになる。メンガー・チャンはハリウッドデビュー作で重要なキャラクターを作り上げることになったが、「役作りに自由はあったのですか?」という質問に以下のように答えている。
ええ、ありました。元々このキャラクターは、地毛の黒髪の先に赤いエクステを入れていたんです。その状態で1ヶ月以上撮影を行いました。ある日、(雑誌の)「Teen Vogue」を読んでいたら、ハリウッド映画に登場するアジア系の女性キャラクターは、反抗的でタフに戦うことができるということを示すためにいつも髪に色を入れているということが書かれていました。
これはただのステレオタイプであり、私のキャラクターにはそのような傾向を持たせたくはありませんでした。それで監督のデスティンに電話して、エクステを取り除いてもらえないか頼んだところ、皆が協力してくれました。そして、製作陣全体が同意してくれたので、次の日にはエクステは無くなりました。
アジア系の女性が強さを証明するために髪を染める——そこに潜むステレオタイプに撮影開始一ヶ月後に気づいたメンガー・チャンはすぐに行動に出た。次の日にはスクリーン上で見られる黒髪のシャーリンになっていたというのだから、製作陣の決断の速さも流石である。
なお、ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(2021) では、現実に存在する素材ではどうしてもコスチュームに“たゆみ”が生まれてしまうことから、そのたゆみを後からCGで消す処理が行われている。今回もCG処理によって後から赤髪を黒に染めたようだ。
メンガー・チャンは製作陣が気付けなかった問題を共有し、シャーリンという新たなキャラクターを理想的な形に仕上げていった。そうして生まれたシャーリンが『シャン・チー』でどのような活躍を見せたのかについては、ぜひ劇場で確認して頂きたい。
シャーリンが示したMCUフェーズ4の流れについては、こちらの記事でネタバレありで解説している。
映画『シャン・チー テン・リングスの伝説』は2021年9月3日(金)より全国で公開中。
『シャン・チー テン・リングスの伝説』のオリジナルアルバム『シャン・チー/テン・リングスの伝説:ザ・アルバム』が発売中。
劇伴を収録した『シャン・チー/テン・リングスの伝説 オリジナル・スコア』 も発売中。
MCUにおけるテン・リングスの歴史はこちらにまとめている。
【ネタバレ注意】『シャン・チー』に登場したジブリオマージュについてはこちらの記事で。
【ネタバレ注意】ポストクレジットシーンの解説はこちらから。