ネタバレ解説『ドクター・ストレンジ MoM』と『ムーンナイト』の共通点は? テーマと言葉に注目 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説『ドクター・ストレンジ MoM』と『ムーンナイト』の共通点は? テーマと言葉に注目

© 2022 Marvel

MCU2作が同日公開

映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』とドラマ『ムーンナイト』の最終話が2022年5月4日(水・祝) に同日公開された。前者は日本全国の劇場で、後者はDisney+での独占配信となり、両方を同日にチェックした熱心なMCUファンの方もいるだろう。

今回は、両作を鑑賞した方なら気付いたであろう『マルチバース・オブ・マッドネス』と『ムーンナイト』の共通点を見ていきたい。MCUではこれまでも同時期に公開された作品にこっそりと共通する要素を取り入れてきた。今回はどのような要素を仕込んできたのか、一つずつ見ていこう。

以下の内容は映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』とドラマ『ムーンナイト』最終話の第6話の結末、そして映画『スパイダーマン/ノー・ウェイ・ホーム』に関するネタバレも含むので、必ず本編を鑑賞した後に読むようにしていただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』、ドラマ『ムーンナイト』、映画『スパイダーマン/ノー・ウェイ・ホーム』の内容に関するネタバレを含みます。

MCU映画とドラマの共通点

『ノー・ウェイ・ホーム』と『ホークアイ』でも

MCUでは同時期に公開されるドラマと映画で共通する要素を盛り込む演出が続いている。2021年12月に公開されたドラマ『ホークアイ』と映画『スパイダーマン/ノー・ウェイ・ホーム』では、その要素は明確だった。

『ホークアイ』最終話の第6話では、2024年の12月を舞台にロックフェラーセンター前の巨大クリスマスツリーがクライマックスの戦場になった。『ノー・ウェイ・ホーム』のラストでも、“独り立ち”したピーター・パーカーが新たなスパイダーマンのコスチュームを着てスイングするのが、このロックフェラーセンター前のツリーがあるスケートリンクだった。

同時に、物語においても“過去の罪”という共通したテーマも見られた。日本では『ノー・ウェイ・ホーム』の公開が1月にずれ込んだためピンとこない感じはあったが、ドラマ最終話の水曜配信、映画の金曜公開でマーベル・スタジオが何かしらのオマケを仕掛けてきていることは確かだ。

『マルチバース・オブ・マッドネス』と『ムーンナイト』の共通点

自分との出会い

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』と『ムーンナイト』の最大の共通点は、“別の自分と出会うこと”だろう。ドクター・ストレンジはマルチバース展開の中で、スペイン語が話せるディフェンダー・ストレンジ(の死体)、アース838のストレンジ、世界を破滅させたシニスター・ストレンジの存在を知る。

アメリカ・チャベスを犠牲にしようとし、世界を破滅に向かわせるほどの間違いを犯しうる自分との出会いを経て、ドクター・ストレンジは全てを自分でコントロールしようとすることをやめる。これは『マルチバース・オブ・マッドネス』の重要なテーマの一つだった。

一方、『ムーンナイト』ではマルチバース要素とは関係なく、マーク・スペクターがもう一つの人格であるスティーヴン・グラントと向き合うことになり、第4話では物理的な対面を果たす。マークは過去のトラウマからスティーヴンの人格を作り出し、もう一人の自分と向き合うことを避けてきていた。

しかし、最後には互いに手を差し伸べ合うことで、互いの存在を認め、共存する道を選ぶのだった。いないこと、なかったことにするのではなく、その存在を認めることでマークとスティーヴンは新しい人生を歩んでいくことになる。これも『ムーンナイト』という作品全体を通してのテーマだったといえる。

一方で、別の自分と出会い、向き合うことはマルチバース展開の軸になっていることも事実。映画『スパイダーマン/ノー・ウェイ・ホーム』でも三人のピーター・パーカーが出会い、ドラマ『ロキ』(2021) は変異体同士であるロキとシルヴィの出会いが物語の中心にあった。

そんな中にあって、マルチバース要素を使わずに自分と出会う『ムーンナイト』と、「マルチバース」をタイトルに冠した『マルチバース・オブ・マッドネス』が同時期に公開されたことには、マーベル・スタジオ側の意図を感じずにはいられない。

弟と妹の物語

それだけではない。『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』でドクター・ストレンジが闇に堕ちたスプリーム・ストレンジと出会うシーンでハッとした方も多かったのではないだろうか。シニスター・ストレンジは本当にドクター・ストレンジが自分かどうかを疑い、ドクター・ストレンジがそれを証明するために自分の妹について話し出した場面だ。

幼い頃、ドクター・ストレンジは氷が張った湖の上で妹と一緒に過ごしていた時に氷が割れ、湖に落ちた妹を死なせてしまっていた。そしてこの話は誰にも話していないとして、シニスター・ストレンジに自分であることを証明するのだ。

実はこのエピソードは前作『ドクター・ストレンジ』(2016) からカットされたシーンで、実際に撮影も行われていたという。前作のスコット・デリクソン監督は、2016年当時に米Colliderでこのシーンが削除された理由を「作品にマッチしなかった」としている。このシーンでは、妹が溺死し、ストレンジはそれを助けられなかった為に医者の道を目指すことになったという経緯が示されていたという。

『マルチバース・オブ・マッドネス』のサム・ライミ監督は、この設定が本作でも生きていることを認めている。詳しくはこちらの記事で。

ポイントは、ドクター・ストレンジがこれまでその事実を誰にも言わなかったという点だ。ドラマ『ムーンナイト』では、マークが幼い頃に弟のランドールを洞窟に連れ出し、雨が降ってきたが探検を強行したことで洞窟に流れ込んだ雨水で溺死したことが語られた。ストレンジは妹が、マークは弟が幼い頃に溺死したという過去を抱えていたのだ。

マークはそれによって母から虐待を受けるようになり、トラウマを全て封じ込める為にスティーヴンという人格を作り出した。主人公が過去のトラウマに蓋をしてきたということも両作に共通している点だ。そしてその設定は、共に“自分と向き合う”という展開の鍵になっている。

人に頼ること

自分と向き合うことは、自分の限界を知ることであり、これ以上は無理だと思った時に他者を頼ることにも繋がる。『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』ではドクター・ストレンジは全てを自分でコントロールしようとして世界を破滅に追い込んだ別の自分の姿を見て、最後にはアメリカ・チャベスの力を信じる。それがワンダ自身に決断を下させる結果を生んだ。

『ムーンナイト』でも自分の問題を抱え込むマークは、スティーヴンの意識が混在し始めた時に結婚相手のレイラに離婚届を送りつける。その後、カイロで「一緒に解決を」と言うレイラに対し、マークは「流儀じゃない」とこれを拒否している。

それでも、第5話ではレイラを頼ることを決断し、最終話ではレイラに助けてもらう形で事態は決着を迎える。この決断は、マークがレイラと良好な関係を築いていたスティーヴンと和解したことも背景にあるだろう。何よりマークが自分で抱え込むのではなく、スティーヴンに意見を共有するようになったことが大きな進歩だった。

スペイン語の意味

もう一つ触れておくべきポイントは、スペイン語の存在だ。『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』では、冒頭で登場したディフェンダー・ストレンジがアメリカ・チャベスとスペイン語で会話していた。

アメリカ・チャベスは、マーベル・コミックで初めてのラテン系でセクシュアル・マイノリティの主人公。コミック版では中南米系のスペイン語を話す背景もしっかりある。ラテン系の人々はアメリカ合衆国の人口の約20%を占めるが、MCU映画ではラテン系のヒーローが圧倒的に少ない。2021年公開の『エターナルズ』(2021) でようやくエイジャックがラテン系の主人公ヒーローとして登場したばかりだ。

『マルチバース・オブ・マッドネス』では、冒頭からアメリカ・チャベスにスペイン語を喋らせることで、MCUにおける新たなリプレゼンテーションを提示した。英語中心の社会になっているアース616のドクター・ストレンジに「スペイン語喋れないの?」と言い放つオマケ付きだ。

『ムーンナイト』最終話では、ポストクレジットシーンでマーク、スティーヴンに次ぐ第三の人格であるジェイク・ロックリーが登場。シカゴアクセントの英語で話すマーク、イギリス英語で話すスティーヴンに対し、ジェイクは南米系のスペイン語を話す。

このジェイクの設定は『ムーンナイト』で主演を務めたオスカー・アイザック自身のルーツ取り入れたもの。オスカー・アイザックはメキシコの隣国であるグアテマラ生まれで、スペイン語も話すことができる。

一方で、『ムーンナイト』の殺気に満ちたジェイクだけでは、ラテン系が悪役という偏った描き方になりかねない設定ではあった。同時公開の『マルチバース・オブ・マッドネス』でアメリカ・チャベスが新時代のラテン系ヒーローとして登場したことにより、MCUに更なる多様性をもたらしている。

また、2022年配信ハロウィーン・スペシャル作品『ウェアウルフ・バイ・ナイト』では、メキシコの俳優ガエル・ガルシア・ベルナルがウェアウルフ・バイ・ナイト役で主演を務めることになっている。こちらの活躍にも期待しよう。

なお、映画『スパイダーマン/ノー・ウェイ・ホーム』では、劇中でフィリピンの言語であるタガログ語が話された時に歓声が起きた劇場もあったという。詳しくはこちらの記事で。

こうしたドラマと映画の間の様々な共通点は、MCU全作を追いかけているファンにとっては嬉しい要素だ。2022年6月8日(水) からはドラマ『ミズ・マーベル』の配信が始まる。通常通り毎週1話ずつの配信となる場合、7月8日(金) 公開の映画『ソー:ラブ&サンダー』の翌週に『ミズ・マーベル』の最終話が配信される。映画の翌週にドラマ最終話が来るのは新しいパターンだ。両作にはどんな共通点があるのか、配信と公開を楽しみに待とう。

映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』は、2022年5月4日(祝・水)より劇場公開。

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』公式サイト

ドラマ『ムーンナイト』はDisney+で独占配信中。

『ムーンナイト』(Disney+)

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』ラストとミッドクレジットからポストクレジットの解説はこちらの記事で。

マリア・ランボーやミスター・ファンタスティックを含むアース838におけるイルミナティのメンバーの紹介と解説こちらの記事で。

エリザベス・オルセンが語ったワンダの今後、X-MENへの合流についてはこちらの記事で。

パトリック・スチュワートがプロフェッサーXの再演と今後について語った内容はこちらから。

ベネディクト・カンバーバッチが今後について語った内容と次回作についての考察はこちらから。

 

『ムーンナイト』最終話の解説はこちらから。

最終話でスカーレット・スカラベに変身したレイラについて、製作陣とキャストが語った想いはこちらから。

マークとスティーヴンのその後について製作陣が語った内容と、他のMCU作品との合流についての考察はこちらの記事で。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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