『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』公開
いよいよ日本でも2022年1月7日(金)より『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の劇場公開が始まった。本作は米国で2021年12月17日(金)より公開を開始したMCU映画最新作。『ブラック・ウィドウ』(2021)から始まったMCUフェーズ4の第4弾にあたる映画だ。
米国をはじめとする海外では、MCUドラマ『ホークアイ』(2021)の配信時期と重なり、『ノー・ウェイ・ホーム』公開の翌週に『ホークアイ』の最終話配信が配信を開始した。2021年の年末はまさにMCUウィークに。大きな盛り上がりを見せた。
そして、日本でもようやく『ノー・ウェイ・ホーム』が公開された今、あのカメオについて語らないわけにはいかない。以下の内容は『ノー・ウェイ・ホーム』と『ホークアイ』の内容に関するネタバレを含むので、必ず両作を見てから読むようにしていただきたい。
以下の内容は、映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の内容に関するネタバレを含みます。
デアデビル登場
驚きのカメオ
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』に待っていた驚きカメオとは、チャーリー・コックス演じる“腕利きの弁護士”、マット・マードックである。Netflixシリーズ『Marvel デアデビル』(2015-2018) の主人公デアデビルが、マーベル・スタジオの製作するMCU映画に参戦したのだ。
デアデビルことマット・マードックが登場したのは『ノー・ウェイ・ホーム』の序盤。ピーター・パーカーにミステリオ殺しの嫌疑がかけられ、メイ、MJ、ネッドまでもが事情聴取を受けることに。ペラペラと喋ってしまうネッドをよそに、メイとMJは弁護士を介することを要求。メイはピーターの保護者であり、子どもを危険に晒したと虐待の嫌疑までかけられている。
トニーなき後のスターク・インダストリーズにも捜査の手は及ぶが、一同が頼ったのはマット・マードック弁護士だった。マット・マードックは、あっという間にピーター達の無実を証明するが、スターク・インダストリーズには引き続き捜査が入るため「腕利きの弁護士(a really good lawyer)」が必要だとハッピーに助言する(ちなみにハッピー役のジョン・ファヴローは2003年に20世紀フォックスが映画化した『デアデビル』にフォギー・ネルソン役で出演している)。
さらにピーターに「まだ世論の裁きが待っている」と伝えた瞬間、屋外の暴徒からレンガが投げ込まれるが、マット・マードックは後ろ向きでこれをキャッチ。驚いたピーターは「どうやったんですか?」と尋ねるが、マードックは「腕利きの弁護士なんだ(I’m a really good lawyer)」と思わせぶりな返事をしている。
デアデビルことマット・マードックは幼少期の事故によって目が見えなくなったが、聴覚や嗅覚が超人的に発達しており、音の反射で人や物の位置を把握できる“レーダーセンス”を身につけている。昼は弁護士として活動し、夜はデアデビルとして法が捌けない悪人を懲らしめる。マードックはスラム育ちであり、労働者階級のヒーローであるスパイダーマンとの距離は近い。
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でマット・マードックが見せた反射能力は、明らかにデアデビルとして活動していることを示すものだ。ピーター・パーカー=スパイダーマンという事実を知っているマードック弁護士の立場からすれば、犯罪と戦うスパイダーマンに好意的な感情を抱いているのだろう。今回はピーター達をしっかり弁護し、自身もクライムファイターであることを“匂わせ”ている(実はレンガが投げ入れられたことを察知したピーターも手を出しており、マードック弁護士が止めなくてもピーターはレンガを止めることができただろう)。
ピーター・パーカーを演じたトム・ホランドは、このシーンについて米Piknvillaのインタビューで「チャーリーとの撮影はとても楽しかったです。スーパーヒーロー同士のシーンでスーパーヒーローらしい要素がないのって本当に面白いですよね。レンガをキャッチするシーンは別ですけど。最高でしたよ」と振り返っている。
夢のコラボ
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でのマット・マードックの登場はこのわずか2分にも満たないほどのシーンだけだった。それでも、スパイダーマンとデアデビルが共演したことの意義は大きい。
マット・マードックはニューヨークのマンハッタンに位置するヘルズ・キッチンを拠点にしており、『Marvel デアデビル』の舞台もニューヨークだ。原作コミックではニューヨークのヒーロー同士であるスパイダーマンとデアデビルは共闘もしている。昔からマーベル・コミックの本社はニューヨークにあり(マーベル・スタジオは西海岸のカリフォルニア州バーバンク)、コミックアーティスト達もニューヨーク在住者が多かったこともあって、ニューヨークを拠点にしているヒーローが多いのだ。
一方で、「スパイダーマン」はソニーに、「デアデビル」はNetflixに製作と配給の権利が渡ったため、二人の共演はおろか、MCU映画への参戦もかつては夢のような話だった。とりわけ、マーベルとソニーの提携によるスパイダーマンのMCU参戦が発表されたのが2015年で、Netflix『Marvel デアデビル』の配信が始まったのも同じ2015年と、“入れ違い”になっており、スパイダーマンとデアデビルの共演実現までにどれだけのハードルがあったのかは想像にかたくない。
なお、『Marvel デアデビル』はMCUの設定を取り入れた作品ではあるが、Disney+誕生後の2019年にマーベル・スタジオに統合されて消滅したマーベル・テレビジョンの作品であり、マーベル・スタジオ社長のケヴィン・ファイギの管轄になかった作品だ。故にDisney+のMCUドラマとは違い、マーベル・テレビジョンのドラマがMCU映画に影響を与えることはなかった。
マーベル・テレビジョンとマーベル・スタジオの関係およびこれまでの経緯はこちらの記事に詳しい。
『ホークアイ』との繋がり
そして『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』に登場したマット・マードックは、『Marvel デアデビル』のデアデビルで間違いない。MCUファンの方はご存知の通り、ドラマ『ホークアイ』には『Marvel デアデビル』からヴィンセント・ドノフリオ演じるキングピンことウィルソン・フィスクが登場している。
海外のファンは、『ホークアイ』第5話でヴィンセント・ドノフリオ演じるキングピンの登場を目の当たりにした後、その週末に『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』におけるチャーリー・コックス演じるデアデビルの登場を目の当たりにしたのだ。しかも『ノー・ウェイ・ホーム』の最後のシーンと『ホークアイ』最終話の舞台は、共にロックフェラーセンターの巨大ツリーの前になっている。海外では同じ時期に配信/公開された両作はしっかりリンクしていたということだ。
キングピンは、原作コミックではスパイダーマンのヴィランとして1967年に初登場を果たしている。アニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)でヴィランに採用されたことも記憶に新しい。一方で、ドラマ『Marvel デアデビル』でもニューヨークの大物ヴィランとしてマット・マードックを苦しめた。そしてヴィンセント・ドノフリオのキングピンは完全なハマり役で、復活を待ち望む声もあった。
ソニーの「スパイダーマン」キャラの場合、「スパイダーマン」関連作品を5.75年以内に一作品でも作り続ければ、ソニーが永続的に映像化の権利を保持できる契約になっていると言われている。一方、Netflixのマーベルキャラについては、打ち切りから2年で他作品に登場できる契約になっている。2021年2月には全てのNetflixドラマのマーベルキャラクターがマーベル・スタジオの作品に参戦できるようになっており、今回のデアデビルとキングピンの合流が実現した形だ。
二人は電話で話していた
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』と『ホークアイ』で仕掛けられたこのコラボ。実はデアデビルを演じたチャーリー・コックスと、キングピンを演じたヴィンセント・ドノフリオは、今回の件について電話で話をしたという。チャーリー・コックスのMCU映画参戦が報じられたのは、『ノー・ウェイ・ホーム』の米公開前のこと。ケヴィン・ファイギがインタビューでデアデビルがMCU正史に登場するなら演じるのはチャーリー・コックスだと話したのだ。
この時にチャーリー・コックスから電話を受けたと、米The Hollywood Reporterのインタビューでヴィンセント・ドノフリオが明かしている。
チャーリーと私は友達なんです。一緒にマーベルの話をすることはあまりありませんが。でも、ケヴィンがチャーリーの参戦を明かした時、チャーリーはすぐに私に電話をくれて、長時間話しましたよ。『ホークアイ』のことには触れずにね。
しかし、『ホークアイ』第5話でキングピンに写真がスマホに表示された時、私はすぐにチャーリーに電話をして、また2時間話したんです(笑)私たちは友達ですし、そういう話もするんですが、とても気をつけながら適切な方法でやってるんですよ。
チャーリー・コックスとヴィンセント・ドノフリオは慎重に情報公開を待ちながら、会話を進めていたのだという。とりわけドラマ『ホークアイ』では、原作コミックの設定からしてキングピンの登場は確実視されており、第2話からキングピンの登場を匂わせる演出が繰り返されていた。それでもチャーリー・コックスは詮索することはせず、ヴィンセント・ドノフリオも『ホークアイ』への出演を黙っていたのだ。実にプロフェッショナルである。
デアデビルとキングピンの関係は?
気になるのは、デアデビルとキングピンの現在の関係だ。そのヒントは、二人が登場した『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』と『ホークアイ』の舞台になった時期にある。『ノー・ウェイ・ホーム』は、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)の一年後にあたる2024年の夏から冬にかけての時期が舞台。ドラマ『ホークアイ』は2024年12月が舞台になっている。
こちらの記事では、ヴィンセント・ドノフリオは、キングピンが指パッチンによって一部の権力を失い、故に『ホークアイ』では自分の街を取り戻そうとしていると語ったことを紹介した。『ノー・ウェイ・ホーム』に登場したマット・マードックが現役でデアデビルとしての活動を続けているようだが、ニューヨークを舞台にしたドラマ『ホークアイ』には、デアデビルが登場することはなかった(新しいスタートを切ったスパイダーマンもだが)。
そもそも、ドラマ『Marvel デアデビル』で描かれたデアデビルとキングピンの因縁はMCU正史にも持ち込まれるのだろうか。『ホークアイ』第3話から第5話の監督を務めたバート&バーティのバートは、「私たちは、彼女ら/彼らが来たユニバースについて扱うのではなく、キャラクターの物語を扱います。キャラクターたちが私たちの世界に入ってくるんです」と語っている。
これは、マーベル・テレビジョン作品の世界設定を採用するのではなく、キャラクターだけをMCUに連れてくるという意味だ。バーティは「『デアデビル』と『ホークアイ』を融合させるような要求や必要性は全くなかった」とも語っており、マーベル・スタジオのMCUが優先されることは明らかなようだ。
デアデビルとキングピンの過去をなかったことにするか、MCU正史に引き継ぐかはマーベル・スタジオの判断次第というところだろう。なお、マット・マードックは今後、MCUの複数のドラマ作品に登場するという噂もある。有能弁護士という便利な役回りということもあり、『ノー・ウェイ・ホーム』のようにヒーロー達を助ける弁護人としての登場になるのだろうか。「デアデビル」の単独シリーズにも期待したいところだ。
カットされた意外なカメオも
なお、カメオと言えば、『アベンジャーズ/エンドゲーム』にも登場したアイアンマンことトニー・スタークの娘モーガン・スタークもカメオ出演の予定があったようだ。モーガンはトニーの「3,000回愛してる」のお相手である。モーガンを演じたレクシー・ラーベは、『ノー・ウェイ・ホーム』のワールドプレミアに出席した際の様子を、コメントと共にInstagramに投稿している。
これまでで最高の夜! 私のパートはカットされてしまったけど気にしていません。マーベルファンの皆さんが恋しいです。この映画は最高ですよ。またすぐに撮影ができますように!
膨大な素材を撮影するマーベル映画にカットは付き物。映画『エターナルズ』(2021) では多くのシーンがカットされたが、それでも上映時間は156分に。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でも上映時間は148分になっている。それでも、モーガンを演じたレクシー・ラーベがレッドカーペットにも登場し、MCUに参加し続ける様子を見せていることは朗報だ。
『ノー・ウェイ・ホーム』ではスターク・インダストリーズは強制捜査を受けており、トニー・スタークの一人娘だったモーガン・スタークが登場する場面は、なかなかシビアなシーンだったのかもしれない。ハッピーが“腕利きの弁護士”を雇ってくれていればいいのだが……。
ピーターは存在を忘れられ、二人のスパイダーマンは元のユニバースに帰ってしまったが、デアデビルことマット・マードックの参戦はMCUの未来に希望をもたらしてくれる。今後の活躍に期待しよう。
このカメオについて脚本家が語った裏側はこちらから。
なお、『ホークアイ』の後の物語を描くドラマ『エコー(原題)』には、『Marvel デアデビル』と『Marvel パニッシャー』(2017-2019) の脚本家が参加することが報じられた。詳細はこちらの記事で。
映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は2022年1月7日(金) より、日本全国の劇場で公開。
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のサウンドトラックはAmazonで配信中。
Source
Piknvilla / The Hollywood Reporter
エンディングからミッドクレジット、ポストクレジットの解説はこちらの記事で。
『ノー・ウェイ・ホーム』の終わり方を受けたスパイダーマン達とその他のキャラクターの今後については、こちらの記事で考察している。
もう一つのカメオであるヴェノム 登場について脚本家が語った真相はこちらの記事で。
脚本家が解説した『ノー・ウェイ・ホーム』ラストの意図はこちらの記事で。
MJとピーターの最後の会話に関するマーベル公式の解説と、トム・ホランドとゼンデイヤの見解はこちらの記事で。
二人が語ったトビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドとの共演エピソードはこちらから。
魔法の力を得た? ピーターを噛んだクモについての考察はこちらの記事で。
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『アメイジング・スパイダーマン3』の可能性も? アンドリュー・ガーフィールドが本作への出演について語った内容はこちらから。
ネッドのこれまでの活躍と原作コミックでの設定はこちらの記事にまとめている。
映画『ブラック・ウィドウ』のポストクレジットシーンの解説はこちらから。
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映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のポストクレジットシーンの解説はこちらから。
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