『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の衝撃
映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が日本でも2022年1月7日(金) より公開された。本作はMCU27作目にあたり、MCU「スパイダーマン」としては三部作の最終作にあたる。今後も新三部作の製作が計画されているというが、それでもトム・ホランド版スパイダーマンが節目を迎えることは確かだ。
そんな重要な作品のラストについて、脚本家のクリス・マッケナとエリック・ソマーズが遂に口を開いている。様々な意見があるあの結末を私たちはどのように受け止めるべきなのだろうか。
以下の内容は『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の結末に関する重大なネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の内容に関するネタバレを含みます。
『ノー・ウェイ・ホーム』結末の意図が明らかに
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の結末は、トム・ホランド演じるピーター・パーカーが全ての人の記憶から存在が消え、新しいスパイダーマンとしての人生をスタートするというものだった。記憶が消えてもまた会いにいくと約束したMJとネッドに、ピーターは話をする直前になって正体を明かすことをやめてしまうのだった。
米マーベル公式は、ピーターが幸せそうな二人を見て「この方がいいのかもしれない」と考えたと解説しているということは、こちらの記事で紹介した。同時にMJを演じたゼンデイヤは「二人は望んでいない」とコメント。辛い心情を吐露していた。
このラストについて、脚本家のクリス・マッケナとエリック・ソマーズは米The Hollywood Repoterと米Deadlineのインタビューでいくつかのポイントを語っている。それは、心情的な要素も理論的な要素も含むもので、非常に興味深い内容になっている。
最初から決まっていた?
まず、気になるのは『ノー・ウェイ・ホーム』のあの結末が最初から決まっていたものなのか、ということだ。全てを失ったスパイダーマンことピーター・パーカーだが、別の見方をすれば、MCU「スパイダーマン」最初の三部作が新たなスパイダーマンの“オリジン”だったと考えることもできる。
高校生の“ヒーローの卵”ではなく、誰も知らない過去を背負った青年ヒーローのスパイダーマンがMCUに加わることになるが、これは既定路線だったのだろうか。この件について、エリック・ソマーズは米The Hollywood Reporterで「あの結末に行き着くということは分かっていました」とした上で、以下のように話している。
私たちにできることは、その物語をベストなバージョンだと思うやり方でお届けすることでした。あの終わり方は、一つのスパイダーマンの完成と見ることもできるし、間違いなく物語は続いていくと捉えることもできます。それを同時にやって——繰り返しになりますが、それぞれの(MCUスパイダーマン)作品は、その前の作品の中に反応すべき大きな出来事がありました。物語のエンジンになるようなね。
続編がある場合、最後に大きな変化が起こり、それが次の作品のストーリーの大きなエンジンになるんです。満足感の大きい結末である場合もあれば、次の作品のために楽しくて刺激的な出来事で締める場合もあります。(スパイダーマンは)もっと作って欲しいですけどね。どうなるかは分かりません。
詳しく紹介することは別の機会に譲るが、二人はコロナ禍での制作の遅れもあり、物語の展開自体には変更があったことをこのインタビューで明かしている。ヴェノムが自由の女神像での最終戦に参戦することについても議論されていたことは、こちらの記事でも紹介した。
しかし、ピーターが人々に忘れられて新たな人生をスタートするという結末については、元から決まっていたことが明かされている。また、クリス・マッケナはこう続けている。
このような終わり方をしなければならないのであれば、これが相応しい方法だったと思います。私たちには(続編があるかどうかは)知りようがないですから。「トム(・ホランド)はまだやるの?私たちも参加できるの?」という感じで。ある時から、私たちは目の前の作品に集中するようになりました。「次回作を期待させるようなクリフハンガーではなく、納得のいく物語になっているか?」と。
11月にMCU「スパイダーマン」に新三部作構想があると発言したのは、ソニー・ピクチャーズの元共同会長であり、サム・ライミ版以降全ての「スパイダーマン」映画に携わってきたプロデューサーのエイミー・パスカル。『ノー・ウェイ・ホーム』の脚本家の二人は次があるかどうかが分からない状態で、本作のラストにベストを尽くす思いで脚本を手掛けたことが明かされている。
ピーターの「選択」の意味
人々が正体を知らない新スパイダーマンの誕生でMCU「スパイダーマン」三部作が締めくくられる必要があったことはよく分かった。では、MJとネッドについてはどうだろうか。再会を約束し、ピーターが再び会いに行くところまでは描きながら、結局名乗らないことを決めるあのエンディングは、どのような意図で設定されたのだろうか。
クリス・マッケナは以下のように話す。
私は、このエンディングではピーターは犠牲を払っていると感じています。マーベルのスパイダーマン映画には、ヒーローであること/スパイダーマンであること、ピーター・パーカーであること、その両方のバランスを取ること、全てをうまくやろうとする彼の姿があります。前作(『ファー・フロム・ホーム』)では彼は最後に全てを手に入れますが、直後に全てを奪われます。「やばい、次はどうするんだろう?」って。
本作では、(ピーターは)成熟しているように感じます。ドクター・ストレンジは「君は全てをうまくやろうとしている。そうはいかない。選択しないといけないんだ」と言い、一方でグリーン・ゴブリンは「お前は神だ。全部うまくやれる! 選択なんてするな」と言ってるんです。
しかし、正しい答えは、彼は愛する人たちを危険にさらすことはできないということです。彼はMJとネッドを心から愛しているので、彼女らの人生の一部になることはできないし、彼もそれを理解しているんです。今のところはね。
(トム・ホランドのピーターが)アンドリュー・ガーフィールド(のピーター)のような人生を歩むことになるでしょうか? いいえ、私はそうは思いません。アンドリュー・ガーフィールドは(『アメイジング・スパイダーマン2』の後に)苦悩と暗闇のなかに入っていきました。本作にはそうした要素が見られません。彼は希望に満ち溢れています。彼はこの人生を選んだからです。
ピーターは秘密を漏らしてMJとネッドを取り戻し、皆を納得させ、ドクター・ストレンジのサンクタム・サンクトラムに行って望みを叶えることもできたでしょう。そうすることもできたけれど、彼には選択肢があり、彼はそうすることを選ばなかった。なぜならもし彼がメイの教え通りに生きるならば、必ず犠牲を払わなければならないと知っているからです。
それが、今、彼が背負っている責任なのです。様々な意味で、他の二人のスパイダーマンが先に辿り着いていたであろう場所に連れて行く手助けをしていたんです。メイの死はピーターにとって人生のターニングポイントであり、ピーター・パーカーとスパイダーマンであることの意味を、全く違うものにしてしまうのです。
重要なのは、ピーター・パーカーが「選択をする」ことだったと、脚本家のクリス・マッケナは説明している。愛する人達を危険にさらしながらでも共に歩む道を選ぶのか、孤独でも愛する人達を危険に巻き込まない道を選ぶのか…… 愛する人達を守りながら共に暮らすという道は選べないことを悟ったピーターは、後者を選んだのだ。
MJ役のゼンデイヤがマーベル公式に「(MCU世界で生きている限り)無事ではありません!」と主張したように、ピーターの選択に納得がいかないという人も少なくないだろう。しかし、クリス・マッケナの「彼は希望に満ち溢れています。彼はこの人生を選んだからです」という言葉も刺さるものがある。何がピーターにとっての幸せなのかということは、(今のところは)誰にも分からない。
「忘れる」ってどういうこと?
こうした感情面での議論が活発になされるのが『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の面白いところでもある。そして、もう一つ気になるのが、あの結末に関する理論的な解釈だ。
今までピーター・パーカーを知っていた人々がピーターのことを忘れると言っても、MJがラストシーンでピーターからもらったネックレスをつけていたように、ピーターが存在したという物理的な証拠が残っているのではないかという疑問は抱かざるを得ない。
この点については、エリック・ソマーズの方が米Varietyで解説している。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいに彼が写真から消えて行く様子が見えるようにする?という話し合いはありました。(しかし、)運転免許証やパスポートをまだ持ってるかな?と、また別の疑問が出てくるばかりでした。
そこで私たちは決めたんです。もっとも納得のいく方法を選んで、あとは感情面にだけ集中しようと。そこで皆さんがディテールに疑問を持ち、その答えが示されていなかったとすれば、この先の別の映画で答えたいと思っています。
確かに、今回の『ノー・ウェイ・ホーム』のストーリー展開に全て説明をつけるなら、あまりにも多くのディテールを用意する必要がある。例えば、こちらの記事では、グリーン・ゴブリン達は元のユニバースに戻っても歴史は変えられず変異体になるだけということを解説した。
こうしたディテールは後から深く考える分には楽しいが、ジェットコースターのような『ノー・ウェイ・ホーム』の物語が幕を閉じた直後には、その感傷的な余韻に浸るのがベストな楽しみ方だと言える。エリック・ソマーズとクリス・マッケナは、まずは観客が余計なことを考えずに物語の感情的な側面に集中できるように脚本を組んでいたのだ。
クリス・マッケナはこう付け加えている。
言うまでもなく魔法の作用ですからね。全てを観終えて、多くの人が頭の中で魔法の謎解きをすることにはなって欲しくありませんでした。
プロデューサーのエイミー・パスカルは映画『天国は待ってくれる』(1978) を観るよう二人に勧めたといい、クリス・マッケナは「人々は経験は覚えているが、関わった人の存在だけ忘れるんです。しかし、起きたことの影響は受けている」と、今回のストーリーの着地点を説明している。
明らかにいたはずの存在に気づいた時にどのような作用が起きるのか、といったディテールについては、今後必要になった時に明かされるだろう。まずは無事に「スパイダーマン」シリーズの次なるシリーズが製作されることを願おう。
なお、映画『エターナルズ』(2021) の結末については、マーベル・スタジオ社長のケヴィン・ファイギの案だったことが明らかになっている。詳しくはこちらから。
アンドリュー・ガーフィールドが『アメイジング・スパイダーマン』続編への意欲を見せたコメントはこちらの記事で。
映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は2022年1月7日(金) より、日本全国の劇場で公開中。
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のサウンドトラックはAmazonで配信中。
Source
The Hollywood Reporter / Variety
『ノー・ウェイ・ホーム』エンディングからミッドクレジット、ポストクレジットの解説はこちらの記事で。
『ノー・ウェイ・ホーム』の終わり方を受けたスパイダーマン達とその他のキャラクターの今後については、こちらの記事で考察している。
脚本家が語ったヴェノム登場の意味はこちらの記事で。
『ノー・ウェイ・ホーム』に登場したあの弁護士についての解説はこちらから。
ピーターがドクター・ストレンジの魔法を超越できた理由、ピーターを噛んだクモについての考察はこちらの記事で。
トム・ホランドとゼンデイヤが語ったトビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドとの共演エピソードはこちらから。
トビー・マグワイア演じるスパイダーマンの呼称について公式が示した見解はこちらから。
ネッドのこれまでの活躍と原作コミックでの設定はこちらの記事にまとめている。