ネタバレ解説 ネイモアの過去とタロカンの歴史『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が描いたもの | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説 ネイモアの過去とタロカンの歴史『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が描いたもの

© 2022 Marvel

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』ネイモアに注目

映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が2022年11月11日(金) より公開。2020年8月に大腸癌で亡くなったティ・チャラ役のチャドウィック・ボーズマンを追悼する作品であり、作品の内容もティ・チャラ亡き後のワカンダを舞台にしたものになる。シュリをはじめとする“残された人々”に焦点を当てたテーマが見どころの一つだ。

同時に、『ワカンダ・フォーエバー』ではMCUに新たな重要人物を紹介している。本作のメインヴィランとされているネイモアだ。メキシコ出身のテノッチ・ウエルタ・メヒアが演じたネイモアは、原作コミックの海底王国アトランティスの種族という設定から、タロカンの王という設定に変更されている。アトランティスは古代ギリシャに由来する名前であり、タロカンはアステカの神の楽園“トラロカン”を元ネタにしていると思われる。

MCUでは、ネイモアの設定はアステカやマヤといった南アメリカのメソアメリカ文明をベースに置いたものに変更されたが、『ワカンダ・フォーエバー』ではネイモアの過去とタロカンの歴史はどのように描かれたのだろうか。

以下の内容は『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の内容に関するネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の内容に関するネタバレを含みます。

ネイモアの過去とタロカンの歴史

ネイモアのオリジン

アステカやマヤの蛇の神と同じ名前である“ククルカン”という名前で呼ばれるネイモアは、450年以上もの間生き続けており、タロカンの人々にとっては神のような存在となっている。そのオリジンは、ワカンダと同じくヴィブラニウムの隕石墜落まで遡る。

映画『ブラックパンサー』(2018) では、ヴィブラニウムの隕石が墜落したのは250年前とされている。アフリカに墜ちたヴィブラニウムの隕石は、周囲の植物に神秘の力を与え、それがブラックパンサーの力を与えるハート型のハーブを生み出した。しかし、実際にはヴィブラニウムの隕石はもう一つ地球に墜ちており、メキシコ海岸近くの太平洋に墜ちたことで海草に特別な力を与えていた。

1571年、スペイン人の植民地支配下に置かれ、迫害を受けていたタロカンの先祖は、一人のシャーマンの導きによってヴィブラニウムの影響を受けて育った海草を摂取することになった。ネイモアの母フェンは妊娠しており、お腹の中の子どもに影響が出ることを恐れて当初はこれを拒んでいた。しかし、シャーマンが生まれてきた子どもをタロカンの王とすることを約束し、フェンは遂に海草を摂取した。

タロカン人たちはエラ呼吸となったため地上では息ができなくなり海へと潜った。ワカンダ人とタロカン人の違いは、ワカンダではブラックパンサーとなる王だけがハーブを摂取していたのに対し、タロカンでは全ての先祖が摂取していたということだ。一方、母の体内で海草の影響を受けたネイモアは、海中でも地上で活動でき、足には羽が生えているミュータントとして誕生した。更に老化も遅く、長年の間タロカンの王/神として君臨することになる。

ネイモアの名の由来

タロカン人を故郷から海中へと追いやったのはスペイン人、ヨーロッパの白人であり入植者たちだ。更にネイモアに個人的な復讐の動機を与えたのは母の死だった。地上の故郷で母を埋葬し弔おうとしたネイモアは、スペイン人が建設したスペイン文化の建築物を目にする。

実際の歴史でもスペインは入植後に次々とキリスト教会を含む自分達の文化の建造物をメソアメリカの土地に建て、“歴史”を侵略していった。これに怒ったネイモアとタロカンの戦士たちはスペイン人たちを殲滅し、幼いネイモアはスペイン語で「El niño sin amor(エル・ニーニョ・シン・アモレ/愛のない子ども)」と呼ばれた。後半部分の発音は「(シ)ナイモア」に近いものとなり、これが由来となり、“ネイモア”という呼び名が生まれた。“ネイモア”は、入植者から見たククルカンに対する恐怖と憎悪が生んだ名前だったのだ。

そうしてネイモアは地上の国々へ総攻撃を加えることを決めた。長年に渡り戦争の準備を進め、同じくヴィブラニウムを保持していることで欧米から狙われるワカンダと共に攻撃を開始することを望んでいた。現実においてヨーロッパの国々によって植民地支配され、人々が奴隷にされたアフリカとメソアメリカの歴史を重ね合わせているのだ。

メソアメリカの歴史

ネイモアは、海岸で母ラモンダに「全てを燃やしてしまいたい」と漏らしたシュリに共感していた。それほどまでに執念を燃やすネイモアの背景に共感できるかどうかは、メソアメリカの歴史を知っているかどうかで大きく変わる。

筆者はカリフォルニア州のコミュニティカレッジに在籍していたことがある。その大学では多くの学生が履修する初級の世界史の授業で少なくない時間を費やしてマヤ、インカ、アステカの歴史について学んだ。ヨーロッパ中心史観の“大航海時代”の流れの中ではなく、メソアメリカの歴史の流れを学ぶのだ。

カリフォルニア州には、中南米から移住してきたり移民の先祖を持つ多くのラテン系の人々が住んでいる。自分達の歴史、自分の隣人たちの歴史を学ぶことは自然なことである。

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の監督であるライアン・クーグラーと脚本のジョー・ロバート・コールもカリフォルニア州で生まれ育っており、メソアメリカの歴史は一般教養として頭に入っていたのではないだろうか。また、ネイモアを演じたメキシコ人のテノッチ・ウエルタ・メヒアは先住民族であるナワ族とプレペチャ族にルーツがあるという。

『ワカンダ・フォーエバー』では、ネイモアがスペインからの入植者たちについて話すとき、「天然痘」「異教」「言語」を持ち込んだと告発する。タロカンの人々が故郷を追われた1571年は、スペインのコルテスがアステカ王国を侵略し征服してから半世紀後にあたる。コルテスは1519年に中南米に天然痘を持ち込み、アステカ帝国でパンデミックを引き起こして先住民たちに多大な犠牲をもたらした。

更にスペイン人は、アステカ神話に代表されるような先住民たちの宗教をキリスト教に改宗させ、言葉もスペイン語に塗り替えてしまった。現在においても中南米でキリスト教が信仰され、スペイン語が話される背景には、スペイン人の侵略によってパンデミックがもたらされ、先住民が殺され、生きたものは奴隷にされた歴史がある。ネイモアが代弁したのはこの史実なのだ。

SFで描き直した歴史

『ワカンダ・フォーエバー』では、タロカンの人々はネイモアをメソアメリカの神の名前で呼び、ユカテコ語を使用している。いずれもスペインの征服によって失われたものだ。タロカン人たちはそこで豊かな国を築いており、これはメソアメリカの人々にとってあり得た歴史を描いていると言える。

植民地支配された人々が失われた歴史をSFの想像力で描き直し、取り戻す作業は長らくSF作品の中で行われてきた。むしろ、それを積極的に行なってきたのは、先祖がアフリカからアメリカ大陸へと拉致されたアフリカ系アメリカ人の作家たちだった。

2018年に発表されたSF最高賞の一つであるヒューゴー賞では、Best Dramatic Presentationの部門にヒップホップグループのクリッピングによる「The Deep」という曲がノミネートされた。この曲は奴隷船から海に捨てられた黒人妊婦の子ども達が、海中の環境に適応して生き延び、海底に独自の文明を築いていたというストーリーになっている。本作は2019年にノベライズもされている。

『ワカンダ・フォーエバー』では、怒りをたぎらせたネイモアはワカンダとの戦争に突入してしまうが、兄と同じ「気高い生き方」を選んだシュリによって説得を受け、降伏を受け入れる。条件は、タロカンが再び欧米諸国に攻撃されることがあれば、ワカンダがそれを守るというものだ。形はどうあれ、これまで孤立してきたタロカンは初めて同盟国を見つけた。

アフリカの豊かな資源が奪われていなかった「if」としてのワカンダと、メソアメリカの豊かな文化を保持した「if」としてのタロカン。これからのMCUにどんな歴史を刻んでいくのだろうか。

講談社
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映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は2022年11月11日(金) より、全国の劇場で公開。

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』公式サイト

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のサントラは配信中。CDは11月18日発売で予約受付中。

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アナログレコード版は2023年2月3日(金)発売予定で予約受付中。

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シュリがブラックパンサーになる原作コミック『ブラックパンサー:黒豹を継ぐ者』は中沢俊介による翻訳が発売中。

 

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』ラストのネタバレ解説はこちらから。

シュリがブラックパンサーになった経緯と製作陣&俳優が語る裏側はこちらの記事で。

ヴァルとサンダーボルツの今後についてのネタバレ考察はこちらから。

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製作陣が語ったネイモアの人物像はこちらから。

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齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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