ラップ楽曲が原作の『The Deep』
ヒューゴー賞ノミネート楽曲が小説化
ロサンゼルスのヒップホップグループ、クリッピング (clipping) の楽曲「The Deep」がノベライズされ、2019年6月4日に発売された。「The Deep」は、2018年のヒューゴー賞映像部門賞 (Best Dramatic Presentation) にノミネートされたシングル曲。黒人女性作家のリバース・ソロモンがノベライズを手がける。
書影も公開されており、海中から外の世界を見上げる人魚のような姿の人物が確認できる。表紙には作者のリバース・ソロモンの名前と共に、クリッピングのラッパー、ダヴィード・ディグスと、プロデューサーのウィリアム・ハットソン、ジョナサン・スニペスの名前も掲載されている。米Amazonでは予約を開始しており、Kindle版もリリースされる予定だ。
楽曲「The Deep」で描かれた物語
小説の原作となった楽曲「The Deep」は、主人公の先祖についての説明から始まる。彼らの先祖は、奴隷貿易が行われていた時代に奴隷船から大西洋に投げ捨てられた、妊娠していた黒人女性達だ。クリッピングが描いたのは、胎内で息をしていたのと同じように海の環境に適応し、生き残った彼女らの子孫の物語。海底に独自の文明を築き、平和に暮らしていたようだ。だが、地上に住む人間達は、海底都市の地下に眠る石油を求めて、海底にまで侵攻を始めようとしていた……。
アフロ・フューチャリズム作品として高い評価
原曲は、今や種族は違えどかつて同じ先祖を持っていたはずの人類の悲哀も描かれ、アフロ・フューチャリズム作品としても高い評価を得た。アフロ・フューチャリズムは近年、アフリカ民族の”奪われた歴史”に”if”の物語を繋ぎ合わせることで、様々なメッセージを発信することに成功している。クリッピングはThe Vergeに、以下のコメントを残している。
SFは、あらゆる時代の難しい政治的トピックを扱うことに長けています。そして (ノベライズを担当した) リバースは、私達の想像力を正しい方向に引き出すことができる一握りの若手作家の一人です。
表現手段の垣根を超えて、拡大し続けるSFというジャンル。今後も目が離せそうにない。
Source
Saga Press