トランスフォーマーの持つ移民・難民問題『トランスフォーマー/ビースト覚醒』ネタバレ解説&考察 | VG+ (バゴプラ)

トランスフォーマーの持つ移民・難民問題『トランスフォーマー/ビースト覚醒』ネタバレ解説&考察

(c)2023 PARAMOUNT PICTURES. HASBRO, TRANSFORMERS AND ALL RELATED CHARACTERS ARE TRADEMARKS OF HASBRO.(c)2023 HASBRO

2024年4月4日(木)よりNetflixにて配信開始!

スティーブン・スピルバーグ製作総指揮、マイケル・ベイ監督作『トランスフォーマー』(2007)から始まったトランスフォーマーの実写映画、通称“ベイバース”。“ベイバース”は5作品目の『トランスフォーマー/最後の騎士王』(2017)で一度幕を下ろしたが、マイケル・ベイ監督が製作側に回り、トラヴィス・ナイト監督によりリブート第1作にしてスピンオフ映画『バンブルビー』が公開された。そして、『バンブルビー』に続くリブート第2作目としてスティーヴン・ケイプル・Jr監督作『トランスフォーマー/ビースト覚醒』が2024年4月4日(木)よりNetflixにて配信開始される。

製作総指揮のスティーブン・スピルバーグ監督といえば、第47回トロント国際映画祭で最高賞にあたる観客賞を受賞した半自伝的映画『フェイブルマンズ』(2022)でユダヤ人としてアメリカで生きる苦悩を赤裸々に描いている。また、スティーヴン・ケイプル・Jr監督も長編映画監督の経歴は浅いものの、長編デビュー作『ザ・ランド(The Land)』は貧困から抜け出そうとプロスケートボーダーを目指す少年たちが主人公であり、無実の罪でリンチに遭い亡くなったエメット・ティルという実在の少年のミニシリーズの脚本と監督を務めるなど、アフリカ系アメリカ人の当事者が抱える問題を描くことに長けている。

また、スティーヴン・ケイプル・Jr監督が映画業界に入った理由もマイケル・ベイ監督の長編デビュー作『バッドボーイズ』(1995)で、マイケル・ベイ監督が描き、ウィル・スミスとマーティン・ローレンスが演じたかっこいい有色人種のヒーロー像に憧れたからである。このように製作者たちの中に人種的マイノリティゆえの苦悩を抱え、それを描いてきた映画人が多い実写映画「トランスフォーマー」シリーズ。本記事では『トランスフォーマー/ビースト覚醒』の中で描かれるマイノリティの移民・難民問題について解説と考察をしていこう。なお、本記事は『トランスフォーマー/ビースト覚醒』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『トランスフォーマー/ビースト覚醒』の内容に関するネタバレを含みます。

3つのマイノリティ

戦争難民としてのマクシマル

予告映像などでは宇宙を救うビースト戦士として描かれるマクシマルたちだが、映画を通して観るとオプティマス・プライマル率いるマクシマルは母星と故郷の銀河を追われた難民であることがわかる。彼らは地球に来た最初の地球外からの亡命者なのだ。そして多くが命を落としたが、リーダーであるオプティマス・プライマル、チーター、ライノックスらはペルーの原住民と共存することで数百年間生き延びてきた。

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(2022)などで天然痘やインフルエンザの蔓延や強制的なキリスト教への改宗が描かれるなど、現在では、かつて起きたスペインによる南米大陸に対する侵略行為「コンキスタドール」が問題視されている。これは『トランスフォーマー/ビースト覚醒』の中でも断片的に見受けられ、かつてオプティマス・プライマルたちが物語の文字通りの“鍵”となるトランスワープキーを隠した神殿の上には、文化を塗りつぶすようにカトリックの教会が建設されている。

そのこともあってか、オプティマス・プライマルはかつての神殿を既に安全な場所ではなくなったと判断し、トランスワープキーの隠し場所を変更している。もともと『クリード 炎の宿敵』(2018)でもアフリカ系アメリカ人の抱える当事者ならではの視点を巧く活かしていたスティーヴン・ケイプル・Jr監督の作風から考えるに、安全ではなくなったという言葉に深い意味を感じる。また、マクシマルがジャングルに隠れ、原住民の一部の人々のみとしか交流しなくなった点も侵略行為コンキスタドールの影響を感じさせる。

また、当初の案では地下神殿にはディセプティコンの航空参謀スタースクリームの不死身のスパーク(一種の魂)を模して生み出されたプロトフォームXであり、植民地惑星Oを壊滅させたカニに変形するプレダコン(デストロン)の戦将ランページの亡骸が放置されている予定であった。その案は没になってしまったものの、もし実現していれば文化を塗りつぶされ、その地下に最強とまで言われたビースト戦士が眠っているという非常に皮肉的なものになったことだろう。

戦争難民としてのオートボット

『トランスフォーマー/ビースト覚醒』では、オプティマス・プライムは仲間たちと共に故郷である母星サイバトロンへの帰還を夢に見ており、母星サイバトロンへの帰還とオートボットの仲間を守ることに固執し、人間を含めた部外者に不信感を抱き、ワープ航法に必須なトランスワープキーに執着している。そこが『トランスフォーマー/ビースト覚醒』の1994年のオートボット総司令官オプティマス・プライムが持つ司令官としての未熟さなのだが、映画『バンブルビー』の舞台設定である1987年に地球に飛来して以降、7年間地球に足止めを食らっているオートボットたちにとっては故郷への帰還はそれほどまでに重い想いが込められている。

これまでの実写映画「トランスフォーマー」シリーズ全体に共通していることだが、地球におけるオートボットの置かれた立場は難民や移民の人々が置かれている立場に近い。オートボットは戦争で退廃した母星サイバトロンから安住の地を求めて地球に飛来してきており、人類と共存するために、人類を守るために戦うこともあれば人類間の問題解決に協力するなど命がけの労働を惜しまない。それは古くスイスが輸出する資源が無かったため傭兵を輸出したという「血の輸出」にも近い。

しかし、人類はオートボットを完全に受け入れることはない。人類は何かと理由をつけてオートボットを追い出そうとし、オートボットを完全に自分たちの代わりに汚れ仕事や危険な仕事を行なってくれる労働力としか見ていない。それどころか、かつてのオートボット総司令官センチネル・プライムの裏切りがあったとはいえ、『トランスフォーマー/ロストエイジ』(2014)ではオートボット排斥運動まで起きている。

そこでは無抵抗なオートボットは惨殺され、危険視されるディセプティコンは投獄されるという事態にまで至っており、人類はトランスフォーマーの亡骸で自分たちは人造トランスフォーマーを生産できるようになったからオートボットはいらないとまで言い放っている。

これはアメリカだけではない世界の移民・難民問題や人種などのマイノリティ問題にも通じるものであり、移民や難民、人種的マイノリティの人々を便利な労働力として利用しながら、実際には共存を考えてはいない姿勢を想起させる。それどころか「国へ帰れ」「この国から出ていけ」といった心無い言葉も飛び交う。『トランスフォーマー/ビースト覚醒』はそのような移民・難民問題を視聴後に少し心に残し、考えさせる映画になっている。

それらの点を踏まえると、これまでの正義の軍団オートボットの総司令官や映画『バンブルビー』での反ディセプティコンレジスタンスのリーダーのオプティマス・プライム像とは異なる「オートボットという家族を守ろうと必死になる長兄」としてのオプティマス・プライム像が『トランスフォーマー/ビースト覚醒』では描く対象として選ばれたのではないかと考察できる。

有色人種として生きるノア・ディアスとエレーナ・ウォレス

人種的マイノリティとしての生きづらさを抱えるのはトランスフォーマーたちだけではない。1994年に実際に青春を過ごしたスティーヴン・ケイプル・Jr監督の視点から描かれる90年代のアメリカでの有色人種の生きづらさも『トランスフォーマー/ビースト覚醒』では描かれている。ノア・ディアスを演じるアンソニー・ラモスはプエルトリコ系、エレーナ・ウォレスを演じるドミニク・フィッシュバックはアフリカ系であり、2人は実際に幼少期をニューヨーク州ニューヨーク市ブルックリン区で過ごし、同じ野球チームに所属していた幼馴染でその時代の生きづらさを経験した当事者である。

アンソニー・ラモス演じるノア・ディアスは電子工学で優秀な成績を収める元陸軍二等兵だが、お古の背広を着て職探しをしている。血液の病気を持つ弟の高額な医療費を稼ぐためにどのような努力を重ねても、弟のことばかりで国に忠誠を尽くしていないという理由で面接まで漕ぎつくことができない。家族のことを重視するのは至極当然のことだが、プエルトリコ系のノア・ディアス青年にはそれよりも国への忠誠を求められるなど、どこか閉塞感のある人生を送っており、それがアフリカ系の悪友リークに誘われて車泥棒をするきっかけにもなる。

また、ラストシーンで海外での仕事をしたという話をする際に「スペイン語を使ったことを母が喜んでいた」と話しており、この点は『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023)や『ブルービートル(原題:Blue Beetle)』(2023)に共通したプエルトリコ系やエクアドル系のスペイン語圏人々にとってのあるあるなのかもしれない。だが、そのような彼らを形作るはずのアイデンティティが閉塞感を招いてしまっているような描写を匂わせるのがなんとも生々しいところだ。

ドミニク・フィッシュバック演じるエレーナ・ウォレスもそのような有色人種ゆえの生きづらさを直接的に明言はしなくとも吐露しており、父親は優秀だったが大学には行けず、タクシー運転手で家族を養ったことや、研究員以上の審美眼を持ちながら白人研究員の小間使いのようなインターンにしかつけず、博物館の資金集めパーティーにも参加できないというのが差別の生々しさを感じさせる。

差別が露骨だった60年代や70年代とは異なり、どこかじっとりと表向きこそ差別はないかのように振る舞い、実際は有色人種やマイノリティの人々を体の良い労働力としている社会構造による差別を感じさせるのがスティーヴン・ケイプル・Jr監督の手腕の光るところだろう。それを考えるとスティーヴン・ケイプル・Jr監督が映画『バッドボーイズ』をはじめて観てカッコいい有色人種のヒーローを自分も撮りたいと考えたことも容易に想像がつき、実写映画版「トランスフォーマー」シリーズでどうしても軽視されがちな人間たちのドラマに深みが出ている。

ド派手なアクション満載の娯楽映画として完成されながらも、本編視聴後に心のどこかに今も残る社会問題へのメッセージを残してくれる『トランスフォーマー/ビースト覚醒』。それはマイケル・ベイ監督やスティーブン・スピルバーグ監督らが、これまで娯楽大作としての実写映画版「トランスフォーマー」シリーズの中で10年以上かけてつくりあげてきたものの一つの集大成だと言える。

2024年には若き青年オライオン・パックスとD-16という知識人と労働者階級の2人が腐敗した政治に立ち向かうべく手を取り、そしてオライオン・パックスはオプティマス・プライムへ、D-16はメガトロンへと成長して袂を分かつまでを描いた長編アニメーション映画『トランスフォーマー ワン(原題:Transformers One)』の公開が決定している。アクション満載の娯楽映画でありながら社会的なメッセージも発信してきた実写映画版「トランスフォーマー」シリーズ。その今後の展開にも期待していきたい。

『トランスフォーマー/ビースト覚醒』は2023年8月4日(金)より全国公開。

映画『トランスフォーマー /ビースト覚醒』公式サイト

『トランスフォーマー /ビースト覚醒』のラストシーンの解説&考察記事はこちらから。

オプティマス・プライムのカットされた場面解説はこちらから。

『トランスフォーマー /ビースト覚醒』予告映像の第2弾はこちらから。

中島健人と仲里依紗による吹替声優決定に関する記事はこちらから。

オリエンタルラジオ藤森慎吾ら追加の吹替声優決定に関する記事はこちらから。

『トランスフォーマー/ビースト覚醒』の解禁された本編映像に関する記事はこちらから。

『トランスフォーマー/ビースト覚醒』の解禁されたインタビュー映像に関する記事はこちらから。

『トランスフォーマー /ビースト覚醒』の下敷きとなった『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』のキャラクター紹介記事はこちらから。

『バンブルビー』振り返り記事はこちらから。

 

 

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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