『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』シュリに注目
MCU映画第30弾『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が2022年11月11日(金) に公開。前作『ブラックパンサー』(2018) に続く本作は、ブラックパンサーことティ・チャラを演じてきたチャドウィック・ボーズマンが2020年8月に大腸癌で逝去して以降、初めて制作されるシリーズ最新作になる。
チャドウィック・ボーズマンとティ・チャラ不在の中で、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の中心に立ったのはレティーシャ・ライト演じるシュリだ。米マーベル公式では、本作でのあの展開について、製作陣がその意図を語っている。以下の内容は、本編の内容に関する重大なネタバレを含むため、必ず本編を劇場で観てから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
新しいブラックパンサーはシュリに
シュリの出会い
映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』で注目されていた「次のブラックパンサー」はシュリになった。ティ・チャラは病に倒れ、シュリは科学の力でこれを乗り越えようとしたが救うことはできず。ティ・チャラの最後を看取ることもできず、シュリはラボにこもってしまう。ティ・チャラの一周忌に区切りをつけようとする女王ラモンダに対し、シュリはティ・チャラの死を受け入れることができないでいる。
オコエに連れられ、アメリカにいるヴィブラニウム探知機の開発者を探す任務に同行したシュリは、そこで自分と同じように若い黒人女性の天才科学者であるリリ・ウィリアムズとの出会いを果たす。プロデューサーのネイト・ムーアは、シュリとリリには「親和性がある」とし、「シュリが憧れるくらい野心的な人を見つけられたら本当に面白くなる」と話している。
王位やブラックパンサーを継ぐことには関心がなかったシュリだが、ネイモアにタロカンの雄大な王国を見せられ、更に知られざる歴史を聞かされる。約450年に渡って民のために尽くしてきたネイモア、白人による侵略の結果、世界から隠れて生きざるを得なかったタロカン王国との出会いを経験するのだ。
しかし、シュリは母ラモンダを失い、国を率いる立場に立たされる。兄ティ・チャラのDNAにネイモアから貰ったブレスレットの海草(ヴィブラニウムの影響を受けている)を掛け合わせて人工のハート型のハーブを作り出すと、ついにブラックパンサーとしての力を手に入れる。
ここで重要なのは、シュリが先祖の平野でキルモンガーことウンジャダカとの再会を果たすことだ。キルモンガーはここでシュリの中にも自分と同じく世界を燃やしたいという復讐心があることを見抜き、ティ・チャラのように気高く生きるか、自分のように仕事を果たすか、という選択を迫る。
シュリが選んだ色
目を覚ましたシュリは、自分自身のブラックパンサースーツにゴールドの装飾がついたものを選ぶ。前作『ブラックパンサー』では、シュリは金色の装飾のスーツをティ・チャラに薦めていたが、ティ・チャラは「目立ちたくない」と王らしい気品を重視して紫色のスーツを選んだ。シュリの推しだったがティ・チャラが選ばなかった金色のスーツは、後にキルモンガーが身に着けることになる。
キルモンガーのスーツの装飾がゴールドであったことには理由がある。紫色は、かつてはその色を出すために多大なコストがかかったため伝統的な王族のカラーとなっているのに対し、ゴールドはヒップホップカルチャーを象徴する色だ。ヒップホップにおいてセルフボースティング(自画自賛)と共に象徴的な文化になっているゴールドの装飾は、差別を受け苦境に立たされているアメリカ黒人も金銭的に成功できるということの証明であり、奪われた自尊心を取り戻す運動の一部でもあった。
シュリは伝統的なロイヤルファミリーの色ではなく、現代社会の中で意味を獲得した色を選んだ。これは伝統よりも科学やガジェットに価値を見出すシュリらしい選択だと言える。だがそれは、シュリがキルモンガーを選んだということを意味しない。科学の力で生み出された人工のハート型のハーブには、ティ・チャラのDNAも、ネイモアから貰った海草の成分も含まれている。シュリはあくまで前作で兄に勧めた自分の好みの色を選択したに過ぎず、本当の選択はこの後のネイモア戦で行われることになる。
シュリの最後の選択
シュリは母ラモンダの死に対する復讐として、タロカンとネイモアに戦争を仕掛ける。ネイモアに追い込まれたシュリは、キルモンガーから言われた「兄のように気高く生きるか、俺のように仕事を果たすか」という言葉を思い出して覚醒する。逆にネイモアを追い詰めると、今度はラモンダの「あなたが何者か示しなさい」という言葉を思い出し、ティ・チャラのように復讐ではなく民のために生きることを選んでワカンダとタロカンを和平へと導く。
シュリはキルモンガーの言葉から力を得たが、ラモンダの言葉を聞き、ティ・チャラの道を選んだ。それでも、伝統たる女王/王になる儀式には出ないのがシュリの道だ。シュリはナキアのもとを訪れて、以前はできなかったティ・チャラへの追悼の儀式をひとりで執り行う。ワカンダの新たな王座にはエムバクが挑戦すると名乗り出て、シュリは王家のプレッシャーから逃れたティ・チャラの息子と出会って『ワカンダ・フォーエバー』は幕を閉じる。
シュリはブラックパンサーになったが、「ブラックパンサーはワカンダの王でなければならない」という伝統を踏襲したわけではなかった。王家であることが先にあるのではなく、亡き兄の思いを継いでブラックパンサーになる。しかし、それは同時に民を守ることでもある。シュリは様々な出会いからヒントを得て、新たなブラックパンサーとして独自の道を生きていくことになる。
なぜシュリなのか、どう前に進むのか
プロデューサーが語る依頼の経緯
新たなブラックパンサーがシュリというのは、順当な人選のように思えるが、その背景にはどんな経緯があったのだろうか。『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』において新たなブラックパンサーを選ぶということは、フィクションの世界に留まる話ではない。チャドウィック・ボーズマンの死を受けて、その役割を引き継ぐという現実の側面も存在しているからだ。
一方で、『ワカンダ・フォーエバー』では、チャドウィック・ボーズマンの死を追悼はしても、消費はせず、象徴として神格化したり絶対視したりすることもしないよう注意深く物語が編まれていた。そのために重要だったのは、新しいブラックパンサーがその人自身の物語を持っていることだった。
その役割がレティーシャ・ライト演じるシュリに託されることになった過程について、米マーベル公式で製作陣が明らかにしている。プロデューサーのネイト・ムーアは、クリエイティブ・チームが最初期には様々なキャラクターについてブラックパンサーになる可能性を考慮したが、どれも「不自然」に思えたとしている。
(シュリがブラックパンサーになること)は最も自然なストーリーテリング上の選択だと感じました。同意さえしてくれればそれを担える演者(レティーシャ・ライト)もいました。それが正しいことのように感じたので、私たちは他の選択肢を追求することはしませんでした。
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』でシュリがブラックパンサーになるという展開は、ほとんど既定路線で進められていたということである。しかし、ムーアが「同意さえしてくれれば」と語ったように、その重圧を担うのは演じるレティーシャ・ライトだ。
レティーシャ・ライトは次のブラックパンサーになるという話を聞いた時には当惑していたという。一方で、ムーアは「レティーシャは、このフランチャイズに対して正しいことをしたかったし、正しいことをしたいと考えています」とした上で、こう語っている。
彼女は、A. 一般的に人々にとってどのような意味を持つか、B. アーティストとして/俳優としてのチャドウィックにとってこのフランチャイズがどのような意味を持つか、それを理解していました。彼女が(ブラックパンサーの)役割を引き継ぐことを思い描いていたかどうかは分かりませんが、100%やる気になっていましたよ。それは、彼女自身と彼女の精神の賜物だと思います。
彼女のもとへ行き、このフランチャイズを継続したい、あなたがその中心に立つに相応しい人物だと思うと伝えることは、重大なお願いでした。しかし、彼女はやる気で、ストーリーテラーとしての責務に怯むことは決してありませんでした。
ライアン・クーグラー監督の思い
2作連続で「ブラックパンサー」の指揮をとったライアン・クーグラー監督もまた、チャドウィック・ボーズマンの突然の死という状況の中で、レティーシャ・ライトが正しい後継者だと考えていたという。
チャドの死があまりにも予期せぬことだったため、明確には言いづらいのですが、非常に理に適った選択だったと思います。(テーマは)何なのかということを考え、ティ・チャラの死について語るとき、その影響を最も受けるのは誰なのか、ということが分かりました。シュリが私たちの映画の中心にいるべきだということがクリアになったのです。
加えてライアン・クーグラー監督は、シュリはこれまでブラックパンサーになるなんて考えたこともなかったと紹介している。シュリはワカンダのテクノロジーを発展させることに注力しており、守護者になろうとは思っていなかったという。
本編中では、人工のハーブはティ・チャラを救うために作ろうとしたが、死後にラモンダ女王から開発の進捗を聞かれると、シュリはそれを軽蔑する態度を見せている。マーベル公式は、シュリは科学とスピリチュアルな儀式の狭間でもがいており、“ブラックパンサーの役割”もその一端であると紹介している。
ライアン・クーグラー監督はこう付け加えている。
彼女(シュリ)はいつも、兄がブラックパンサーになり、兄が歳をとってブラックパンサーになれなくなった時には、自分も歳をとっていてブラックパンサーにはなれないだろうと想像していました。彼女が考えなければいけないことではなかったのです。その事実が、ブラックパンサーになるにあたって彼女を最も興味深いキャラクターにしてくれるとも考えました。
レティーシャ・ライトの決意
シュリ役を演じたレティーシャ・ライトは、1993年生まれで『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の公開時点で29歳。前作の公開時点では24歳だったが、そこからスター街道を駆け上がって行った。2022年には『ワカンダ・フォーエバー』を含む4作の映画に出演するスター俳優になったレティーシャ・ライトだが、ブラックパンサーを引き継ぐという大役を依頼された時のことをこう語っている。
人々をインスパイアし続けなければいけないし、前に進まなければいけません。ライアンが私に電話をかけてきた時は大変でした。彼はゆっくりと、丁寧に、この映画でどのようにチャドに敬意を表し、ファミリーとして私たちが作り上げてきたものをどのように称えるかということを説明してくれました。
しかし、レティーシャ・ライトにとって辛かったのは、道を示してくれるはずのチャドウィック・ボーズマンがいなかったことだという。キャプテン・アメリカもホークアイもシー・ハルクも次代にたすきを渡す先代の存在があったが、「私にトーチを渡してくれる兄はいませんでした」と振り返っている。
私はそれを処理しなければいけませんでした。そして祈り、彼に尋ねたのです。私がこの役割をやってもいいのかと。それでいいのだと確信できた時、私はこれを受け入れることができました。ライアンに「ベストを尽くす」と言って、約束したんです。『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』でシュリを演じて神を称え、チャドを称えるという気持ちでした。それが今回の件を乗り越える過程で、今は彼の誇りになれるように祈っています。
製作陣、そして演じたレティーシャ・ライトがそれぞれの思いを持って生み出した新たなブラックパンサー。それは先代の焼き直しでも代役でもなく、ティ・チャラとの思い出やキルモンガーへの共感を含むシュリ自身の物語で彩られている。大きな喪失を経験しながらも、新しい一歩を踏み出した「ブラックパンサー」に今後も注目していこう。
映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は2022年11月11日(金)より劇場公開。
シュリがブラックパンサーになる原作コミック『ブラックパンサー:黒豹を継ぐ者』は中沢俊介による翻訳が発売中。
Source
Marvel.com
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のサントラは配信中。CDは11月18日発売で予約受付中。
アナログレコード版は2023年2月3日(金)発売予定で予約受付中。
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