『シー・ハルク』第3話はどうなった?
MCUドラマ『シー・ハルク:ザ・アトーニー』は、弁護士のジェニファー・ウォルターズを主人公に据えた法廷コメディドラマ。全9話が配信されることになっており、これまでのMCU作品とは一風変わった作風で注目を集めている。
今回は、2022年9月1日(木)に配信を開始した第3話の各シーンを解説していこう。MCUドラマは『シー・ハルク』と同じくコメディ要素の強かった『ワンダヴィジョン』(2021) を除き、これまで全6話で制作されてきた。折り返し地点にあたる第3話では大きな事件が起きることが定番になりつつあったが、『シー・ハルク』ではどうだったのだろうか。
なお、以下の内容は『シー・ハルク』第3話のネタバレを含むため、必ず本編をDisney+で視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、ドラマ『シー・ハルク:ザ・アトーニー』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
ドラマ『シー・ハルク:ザ・アトーニー』第3話「エミル・ブロンスキーの仮釈放」ネタバレあらすじ&解説
ブロンスキーの助け方
従兄のブルース・バナーの血が体内に入ったことでハルクの力を手に入れたジェニファー・ウォルターは、世間から“シー・ハルク”と呼ばれるようになっていた。加えて、大手法律事務所のGLK&Hに新設された超人法専門の新部署でトップに就任する。しかし、GLK&Hのホリウェイの目的は、かつて『インクレディブル・ハルク』(2008) でハルクと戦ったアボミネーションことエミル・ブロンスキーの弁護をジェニファーにさせ、世間の注目を集めることだった。
ブルースとも話し、ブロンスキーの弁護を受けることにしたジェニファーだったが、第2話のラストでは映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021) のマカオで地下格闘技に興じるアボミネーションの姿がリークされてしまう。脱獄疑惑の映像流出という不利な状況をジェニファーはどのように乗り越えるのだろうか。
ダメージ・コントロール局 最高警備レベル刑務所に赴くジェニファーは、入口の警備員にカリフォルニア州の運転免許証を提示している。一時的な脱獄行為でも「犯罪行為」だと責めるジェニファーだったが、ブロンスキーは「やむを得ぬ事情」があり、「無理やり脱獄させられ、自分の意志で戻ってきた」と、なかなかスマートな回答を見せる。ブロンスキーは自分を脱獄させた人物を「ソーサラー・スプリーム(至高の魔術師)」だと語り、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019) 以降その座についていたウォンが第3話のキーパーソンになることが示される。
ウォンの意外な過去
ジェニファーはウォンのことを知らなかったようで、LAからニッキが調べた情報を伝えている。ビジネスSNSのLinkedIn風サイトのウォンのプロフィールには、その「職歴」について以下のように書かれている。
ソーサラー・スプリーム
ニューヨーク アメリカ、フルタイム
現在
司書
カマー・タージ ネパール、フルタイム
11年間
ターゲット販売員
カマー・タージ ネパール、フルタイム
9年間
映画『ドクター・ストレンジ』(2016) でカマー・タージの書庫の番人として初登場を果たしたウォンだが、実に11年もの間その仕事を勤め上げていたようだ。長い下積み後にソーサラー・スプリームになったということであり、魔術師になったばかりのドクター・ストレンジがその座を委ねるのも頷ける。
一方で、その前にはカマー・タージのターゲットで販売員を9年も続けていたことが明かされている。ターゲット (Target) というのはアメリカ有数のディスカウントスーパーのチェーンであり、ウォルマートと並んで「どこにでもある」という印象のスーパーだ。ターゲットの店員として働くということは、地元でアルバイトをしたり、地元で就職するというイメージがあり、アメリカの人にとってはかなり親近感が湧く設定となっている。
脚本を担当したジェシカ・ガオは、このシーンについてウォンのポップカルチャー好きが表現されていると語っている。詳しくはこちらから。
ウォンの登場を期待させる展開に、ジェニファーは第四の壁を破り「カメオ出演が毎週あるドラマじゃない」と視聴者に語りかける。しかし、ここまで毎週カメオが続いており、これもフリであることを匂わせて、『シー・ハルク』第3話は幕を開ける。
ミソジニーな言葉たち
ニュース・ロサンゼルス・ナウでは、シー・ハルクがアボミネーションの代理人を務めることになったと報じられている。そのテロップには小さな字で「スーパーパワーを持つインフルエンサーのタイタニア」が第1話で起こしたトラブルについて口を開いたというニュースも報じられている。
ブロンスキーの仮釈放審査に挑むジェニファーについて、THE TATTLEという番組の司会者は英語では「世間のバックラッシュを受けている」と紹介している。YouTube風動画サイトの画面には「シー・ハルク偽物説」「スーパーヒーロー虚偽 (Hoax)」「シー・ハルクと呼ばれるものの真実」といった陰謀論めいたタイトルのサムネが並んでいる。
SNSでは白人男性が「なぜハルクの男らしさを女に与える?」と、「事故でそうなった」という事実を無視した論を展開している。この動画についている9千いいねに対して、その多くが反論コメントと考えられる6万4千のコメントがついていることがせめてもの救いだ。
さらに日本語字幕で「スーパーヒーローを女にする意味は?」となっているコメントは、英語では「スーパーヒーローにもアファーマティブ・アクションか (So we gotta have affirmative action with superhero.)」となっている。アファーマティブ・アクションとは、差別的な社会構造によって就職や就学の機会が得られない人々を積極的に採用して差別の是正を図ることで、これもまたジェニファーがシー・ハルクに「偶然なった」という事実を無視している。
「頼むからもう女のスーパーヒーロー出さないで」「なんで全てのスーパーヒーローを女子にするのか」「どうして全部女なの?」といったコメントは、現実のミソジニスト(女性嫌悪者)の苛立ちを反映したものだ。これまでのアベンジャーズには「どうして男ばかりなのか」という疑問は呈されず、女性がスーパーヒーローになった時だけ騒ぎ出す典型的なパターンである。
また、「シー・ハルクをキャンセルする理由を見つけたね」「#MeToo ムーブメントで男のヒーローはいなくなるのか?」というコメントも。アメリカにおいては、被害を受けた人による正当な告発によって加害者が社会的制裁を受けることを“キャンセル・カルチャー”と呼ぶのは、オルタナ右翼の人々だ。「キャンセルされる」という言い回しをすること自体、“あちら側の人”と捉えられてしまうので、一般の人は使用を避ける傾向にある。
加えて、“キャンセル・カルチャー”というのは、性被害を告発する#MeTooムーブメントを封じ込めるためにオルタナ右翼の人々が使い始めた言葉だ。「キャンセル」と「MeToo」についてのコメントを並べているのには、シー・ハルクを批判しているのがどのような人々なのかということを示す明確な意図があると言える。
ドラマ『ザ・ボーイズ』(2019-) シーズン3でも、「キャンセル・カルチャー」と言いたがる保守層の人々を揶揄する演出は複数回登場した。日本ではまだ浸透しきっていないようだが、「キャンセル・カルチャー」「キャンセルされる」という言葉を使うことはミソジニーを含む様々な文脈が加わるので注意したい。
そのほかにも、「女のヒーローに文句はないがパクるな」と、「女だから叩いてるわけじゃない」という言い訳をつけたミソジニー言説や、「俺ならヤリたい」というセクハラ発言に至るまで、ジェニファーには醜悪な言葉が向けられている。それでも、ジェニファーは世間の喧騒は無視して「適正な手続きを受ける権利はエミルにもある」と、一番冷静に振る舞うのだった。
ウォンの証言
ホリウェイに呼び出されたジェニファーは元同僚のデニスと再会。第2話で女性を「アレ=it」と呼んでいたあいつだ。今回は弁護の依頼にやってきたようだが、ジェニファーを断りアシスタントのパグを指名する。ここにもミソジニーが垣間見られる。さらに超人法律部の弁護士マロリー・ブックも合流。演じているのはレネイ・エリース・ゴールズベリイで、ドラマ『オルタード・カーボン』(2018-2020) のクウェルクリスト・フォークナー役などで知られる。マロリーは原作コミックでは弁護士としてジェニファーのライバルになる。
デニスは、騙された元恋人が「ミーガン・ザ・スタリオンだと思ってた」と言っているが、ミーガン・ザ・スタリオンはアメリカのラッパーのことだ。グラミー賞も受賞したミーガンとデートしたと思っていたデニスを「彼女がパサートに乗ってると思った?」と、アメリカで中古車が広く流通しているセダンの車の名前を挙げてからかっている。
そこに壮大な音楽と共に現れたのはウォン。MCUフェーズ4では『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(2022) に続く登場だ。ウォンは、ブロンスキーの無理やり脱獄させられたという主張を事実だとする証言を始める。「ソーサラー・スプリームの修行には好敵手が必要だった」と、意外とアッサリした理由を明かすのだった。
なお、英語では「ソーサラー・スプリームになるための修行 (as part of my training to become Sorcerer Supreme.)」とあり、『シャン・チー』の時期(2024年4月)にはウォンはまだソーサラー・スプリームではなかった可能性もある。2024年7月を舞台にした『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2022) では、既にソーサラー・スプリームになっていることが明かされている。
さらにウォンは「人々の記憶は二度と消さない」と、『ノー・ウェイ・ホーム』での一件を示唆する。これはおそらくドクター・ストレンジが世界中の人の記憶からピーター・パーカーの存在を消したことではなく、最初にドクター・ストレンジがピーター・パーカー=スパイダーマンという人々の記憶を消そうとしたことを指しているのだろう。しかし、ウォンには既にピーター・パーカーの記憶がないはずで、ドクター・ストレンジが誰のために何の記憶を消そうとしたのかという情報はぽっかりと抜け落ちていると考えられる。
ウォンは魔術を使うのはプランBとして、法廷での証言を受け入れるのだった。
サイバートラックに注目
一方のデニスは17万5,000ドル(約2,000万円)を偽物のミーガン・ザ・スタリオンに貢いだことをパグに明かす。そのパグはミーガン・ザ・スタリオンに化けたシェイプシフターの動画を見ている。シェイプシフターとは自由に姿を変えられる者を指す。これまでマーベルのシェイプシフターといえばスクラル人だったが、今回は違う種族のようだ。ちなみに動画投稿サイトの名前は「YouScreen」となっている。
デニスは戻ってくると訴訟を取り下げたいと言い出す。しかし、パグのもとには本物のデニスから「サイバートラックを障がい者用スペースに停めていたら移動させられた」との電話が入る。サイバートラックとはテスラが発表した未来的なデザインと性能を備えた車で、納車は2023年以降とされている。『シー・ハルク』の舞台は第2話で2024年6月よりも後であることが示唆されているため、デニスは既にサイバートラックを手に入れることができたのだろう。
ちなみにサイバートラックの発表と予約開始は2019年11月と、サノスの指パッチンで人口が半減している時期に当たる。もちろんサイバートラックがその後一般流通したり、転売で購入した可能性も捨てきれないが、デニスは指パッチンを生き延びてサイバートラックを予約していた可能性もある。
刑務所の場所は?
ダメージ・コントロール局 最高警備レベル刑務所では、アボミネーションの審理に注目が集まっている。ジェニファーへの「アベンジャーズは不合格?」という記者の声に、別の局のレポーターが「シー・ハルクはアベンジャーズも不合格だったようです」と言い始める。他のメディアによる噂をソースにするメディアに対する強烈な皮肉だ。
ブロンスキーの房には、第2話で手紙のやり取りをしていたと話していたソウルメイト達の姿が。前回はこの7人をサンダーボルツメンバーでは? と考察したが、ただのスピリチュアルな人々だったようだ。
ブロンスキーは、ウォンが到着するまで、自分が更生したということを証言する。「キャンセル・カルチャー」などと言って被害の告発を揶揄せずとも、制裁を受けた当人の更生によって再チャレンジ可能な社会は作れる。被害者を守りながら加害者の更生の可能性を追求しているという点において、『シー・ハルク』第3話は優れた物語だといえる。
ブロンスキーは囚人たちに読み書きや瞑想、ヨガを教えた、看守の相談に乗ったとの証言を得る。ジェニファーの手元のリストには、この裁判がカリフォルニア州ロサンゼルスの管轄であることが示されている。この刑務所は『ミズ・マーベル』(2022) で収監されそうになったカムランがすぐにジャージーシティに現れたためアメリカ東部に位置していると思われていた。しかし、どうやら刑務所はLAにあり、カムランが西海岸から東地区へ大移動をしただけのようだ……。
脱獄以外の証言が出揃ったところで、ウォンがようやく到着。日本語の「組み手 (Kumite)」を紹介する一方で、デニスとシェイプシフターの裁判が進んでいた。
シェイプシフターの正体
シェイプシフターの正体はルナという名で、ニュー・アスガルドのエルフの外交官の娘だという。英語では「アスガルドとニュー・アスガルドのエルフの外交官」となっており、ラグナロクを生き延びた人物のようだ。外交問題に発展しかねない展開に、ルナの弁護士は外交特権を主張する。裁判官が「ここはニュー・アスガルドではない」と嗜めると、ルナは「アスガルドは場所ではなく民だ」というソーが『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017) でオーディンから受け継いだ言葉を引用する。
法律的に言えば、属地法主義と属人法主義という枠組みの違いが存在する。前者はその場所を基準にして適用される法律で、後者はそのコミュニティに属する人物がどこに行っても適用される法律のことだ。例えば韓国は属人法主義も採用されているため、その市民は海外で合法のカジノで遊んでも帰国後にそれが明らかになった場合は罰せられることになる。この場面ではそもそもルナはアメリカ人ではなく、裁くのもアメリカの司法であるため、ニュー・アズガルドの法律がどうなっていようと関係はない。
ルナの弁護士は手強く、「合意の上のロールプレイ」「まともな大人ならミーガン・ザ・スタリオンとは信じない」と主張。パグも「疑いなく信じていたのです」と弁護するが、言えば言うほどデニスがかっこ悪くなっていく。デニスは「ハリウッド・フックアップスは解約する」と言っているが、これはマッチングアプリのことだろう。フックアップ (Hookup) には「交際する」「性行為をする」といった意味がある。『シー・ハルク』の字幕は割と説明が必要なカタカナ言葉が多いように思える。
判決が重要である理由
ウォンは、ブロンスキーの無実を証言。カマー・タージに亡命しないかという提案を行ったことも明かす。しかし、ブロンスキーは「刑期を務めあげて社会に償う」と房に戻ったというのだ。最後に残った、アボミネーションを制御できるのかという疑念に対し、ブロンスキーはアボミネーションに変身。室内はパニックになるが、刑務所内での振る舞いや脱獄できても自ら房に戻ったこと、アボミネーションをコントロールできるようになったという十分な証拠を示して審理委員会は閉会となる。
だが、案の定矛先が向けられたのはウォンだ。脱獄に手を貸した罪を問われるが、スリングリングを使って足早にその場を去るのだった。予告編ではウォンの別シーンも登場していたため、カットになっていなければ、今後も登場があるだろう。
車に「怪物が怪物を守る」と落書きされるなど、幾重ものヘイトを受けている。ニッキは取材を受けるよう勧める中で、メディアとして「Good Day L.A.」を挙げているが、これは実在するニュース番組である。ここにパグが合流し、ジェニファーは第四の壁を破って視聴者に「二つの物語がつながった」と語りかけるのだった。
ジェニファーは、デニスの裁判で元同僚としてデニスが自惚れ屋で自信屋であると証言。これが功を奏し、17万5,000ドルの損害賠償請求が認められることに。さらにルナには、おふざけで裁判官になりすましたことを理由に60日の禁錮刑という厳しい判決が下る。最後に傍聴席に本物のミーガン・ザ・スタリオンがいたことが明らかに。ハンディファンを持ちながら、曲でお馴染みの「Ah!」の掛け声を披露してくれている。
このシーンで重要なのは、スーパーパワーを使った“なりすまし”についてハッキリと司法の判決がくだったということだ。相手が本物だと信じうる状況であれば、騙されたことによって生じた損害は賠償請求が認められるということである。今後、MCUでは変身能力を持つスクラル人とニック・フューリーのドラマ『シークレット・インベージョン(原題)』が2023年春に配信される。時系列はまだ不明だが、この判決がくだったことは画期的であると言える。
なぜなら、アメリカは一度くだった判例に則ることを原則とする判例法主義の国だからだ。判例が最も重要な法源であり、判例を参考にはするが法律の文章を法源とする制定法主義とは異なる。筆者の個人的な経験では、米国の大学では、初歩の法律の授業でも過去の裁判の判例を徹底的に覚えることをやらされる。シー・ハルクでくだっていく一つ一つの判決が、今後のMCUのスーパーヒーローに関する法律を定めていくと言っても過言ではないのだ。
デニスの言葉にヒントを得たジェニファーは、ブロンスキーに抑制装置を付けることを提案したようだ。ブロンスキーはアボミネーションに変身しないことを条件に仮釈放が認められることに。抑制装置はおそらく第1話でブルース・バナーが付けていたものだろう。
「どうせ記事になるから自分で発信するべき」というブロンスキーの言葉に、ジェニファーはニュースに登場して語り始める。「シー・ハルク」「アボミネーション」ではなく名前で呼ぶようキャスターに呼びかけ、序盤で「パクるな」と言われていた「シー・ハルク」という名前についても、勝手に付けられたと証言するのだった。
レッキングクルー登場
ジェニファーは帰り道で暴漢たちから襲われるが、これは原作コミックに登場するヴィランチームのレッキングクルーだ。メンバーの一人の名前はサンダーボールで、原作と同じく鉄球を武器にしている。ヘルメットを使っているのはブルドーザーで、手に武器をはめているのはパイルドライバー。リーダー格のレッカーも原作と同じくバールを武器にしている。なお、レッカーとサンダーボールについてはクレジットでその名前が表記されている。
『シー・ハルク』のレッキングクルーは、アスガルドの建設業者から奪ったという道具を武器にしているが、原作におけるレッカーは元々肉体労働者で、最初の敵はソーである。それにしても、MCUではニュー・アスガルドからアメリカに建設業者が派遣されているようだ。ヴァルキリーもしっかり外貨を稼ぐ政策をとっているように思える。
シー・ハルクは圧倒的な強さを見せてレッキングクルーを退治。レッキングクルーはどうやらシー・ハルクのDNAを奪おうとしたようだが、「ボス」の存在を示唆して第3話はお役御免となる。シー・ハルクだからという理由で批判されるだけでなく襲われるようにまでなってしまったジェニファーが、車の窓に映る暗い表情を見せて第3話は幕を閉じる。
エンディングで流れる曲はYONAKAの「Seize the Power」(2021)。YONAKAはイギリス出身のバンドだ。「Seize the Power」では、「朝起きて鏡を見て、いつもと違ってた、ついに決断を下した」と歌われ、最後には「私はパワーを手に入れた」と歌い上げる。
『シー・ハルク』ではお馴染みとなった御ッドクレジットシーンでは、今回の本人役でゲスト出演したミーガン・ザ・スタリオンが再登場。ジェニファーと契約を交わし、オフィスで踊る様子が映し出される。そして、ミーガン・ザ・スタリオン「Body」(2020) がもう一つのエンディング曲として流れている。自分の体=bodyの良さを強調するダンスソングだ。劇中でも披露した「Ah」の掛け声が存分に聴ける。
ドラマ『シー・ハルク』第3話ネタバレ感想&考察
どうなるブロンスキー
『シー・ハルク』第3話では、シー・ハルクになったジェニファーにぶつけられるミソジニーも扱いながら、スーパーヒューマンが絡む二つの事件が解決に至った。まず、条件付きとはいえブロンスキーの仮釈放が認められたということは、大きな事件である。一つの映画のメインヴィランであっても罪を償って更生すればセカンドチャンスが与えられるということは、その他の多くのヴィランにも今後の再登場の余地を与えることになる。
第2話の考察では、ブロンスキーはヴィランチームで映画化が決定しているサンダーボルツに加わるのではないかと予想した。しかし、第3話では弁護をしてくれたジェニファーに心から感謝しているように見える。その恩を仇で返すということはないのではないだろうか。
一方で、『シー・ハルク』のシリーズ中にジェニファーを助けるためにアボミネーションの姿で現れ、再収監されるというシナリオもあり得るだろう。そこに『インクレディブル・ハルク』でアボミネーションを生み出したサディアス・サンダーボルト・ロス将軍がリクルートに現れるなら胸アツな展開だ。だが、ウォンに誘われても脱獄しないという道を選び続けたブロンスキーは、簡単に悪の道には進まないだろう。
追記:この点について、ブロンスキーを演じたティム・ロスが意味深な発言をしている。アボミネーション再登場の可能性も示唆したその発言と今後の考察はこちらから。
判例の重要性
解説中でも触れた通り、『シー・ハルク』ではスーパーヒューマンに関する判決が示されることが明確になったのは第3話の重要ポイントだ。これから第9話までにどれだけの判例が積み重ねられることになるのだろうか。各ヒーローの活動についても、どこまでが合法でどこからが非合法なのか、ニュー・アスガルドの民のようにヒーローでなくても特殊能力を持った人々の行動がどのように規制されるのかという点には注目したい。
また、ウォンがアボミネーションを頼って訓練を積んだ理由は、スプリーム・ソーサラー不在という魔術界の危機を阻止するためだと予想できる。そうしたより大きな善のために一つの国の法律を破るという行為を、司法がどう扱うのかということも気になる。倫理観のレベルが違う相手をいちいち裁いていたら、地球やマルチバースを守る活動に支障をきたさないかという問題である。
これまでもその問題は存在していたが、これまでのMCUはほとんど法律が絡まないことによってその問題を“フワッと”させていたのだ。『シー・ハルク』で法律の観点が導入されることで、判例に従えば有罪、というヒーロー活動も出てくるかもしれない
「ボス」とは誰か
最後に気になったのは、レッキングクルーの狙いである。単独犯ではなく、その背後にいる「ボス」の存在を示唆していたが、一体誰のことなのだろうか。新キャラでないならば、可能性が挙げられるのはキングピンことウィルソン・フィスクだ。ドラマ『ホークアイ』(2021) では既にジャージマフィアという肉体派ヴィランを遣いにやる“ボス”としての姿を見せている。
『シー・ハルク』には、キングピンの宿敵であるデアデビルことマット・マードックが登場することが確定している。しかし、予告編では弁護士としての姿ではなく、コスチューム姿を見せている。キングピンが復活のためにより強いパワーを求めてハルクの血を得ようとし、キングピンが絡む事態にデアデビルが西海岸まで出張してくるとすれば話は繋がる。なお、デアデビルはMCUでの再ドラマ化、キングピンはドラマ『エコー(原題)』への登場が決まっている。
あるいは、ハルクの力を欲しがっていたサディアス・サンダーボルト・ロス将軍が裏で糸を引いている可能性も否めない。これまでMCUでサンダーボルト・ロスを演じていたウィリアム・ハートは2022年3月に71歳で逝去。MCU内でロスが生きているのかどうかは明かされていない。
しかし、原作コミックではロスは“赤いハルク”のレッド・ハルクに変身する。シー・ハルクの血清を使ってロス将軍がレッド・ハルクになり、ロスがリーダーになるヴィランチームのサンダーボルツが結成されるという道もあり得るだろう。映画『サンダーボルツ(原題)』は2024年7月26日(金)の全米公開が予定されている。
さまざまな新ルールと可能性を示唆してくれるドラマ『シー・ハルク』。残りの3分の2の配信も楽しみに待とう。
ドラマ『シー・ハルク:ザ・アトーニー』は2022年8月18日(木) よりDisney+で独占配信中。
シー・ハルクのコミック作品は、『シーハルク:シングル・グリーン・フィメール』ケン・U・クニタによる日本語訳が発売中。
コミコン2022で発表された映画『サンダーボルツ』、ドラマ『デアデビル ボーン・アゲイン』を含むMCUフェーズ5全作品のまとめはこちらから。
『シー・ハルク』第4話の解説はこちらの記事で。
第2話の解説はこちらの記事で。
第1話の解説はこちらの記事で。
第1話のキャプテン・アメリカのくだりについて主演のタチアナ・マスラニーが語った内容はこちらから。
MCU版“超人法”についての解説と考察はこちらの記事で。
ドラマ『ミズ・マーベル』最終話のネタバレ解説はこちらから。
『ムーンナイト』最終話で回収されなかった9つの謎はこちらから。
11月11日公開の映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』特報の解説&考察はこちらから。
9月9日からは『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が追加映像と共に再上映される。詳しくはこちらの記事で。
2025年5月公開が発表された『アベンジャーズ:ザ・カーン・ダイナスティ』についてはこちらから。
2025年11月公開が発表された『アベンジャーズ:シークレット・ウォーズ』についてはこちらから。