『ムーンナイト』第4話はどうなった?
MCUドラマ最新作『ムーンナイト』はオスカー・アイザック演じるムーンナイトを主人公に据え、ロンドンとエジプトを舞台にしたMCUの異色作。複数の人格を宿すスティーヴン/マークと、月の神コンスがある目的のために奔走する。
これまでDisney+のMCUシリーズでは、必ずと言っていいほど第4話が転換点になっていた。全6話で構成されることが多いMCUドラマでは、物語が起承転結の“転”の部分にあたることが多いのだろう。加えて、『ムーンナイト』で共同監督を務めるアーロン・ムーアヘッドとジャスティン・ベンソンは、揃って本作でも第4話が重要な回になることを明かしている。
「大きなサプライズがある」と事前にハードルを上げ切った状態で公開された『ムーンナイト』第4話。一体どんな待っていたのだろうか。今回も各シーンをネタバレありで解説していく。
以下の内容は、ドラマ『ムーンナイト』第4話の内容に関するネタバレを含みます。
第4話「アメミットの墓」のネタバレあらすじ&解説
発煙筒のレイラ
『ムーンナイト』第3話のラストでは、エネアドの警告に反して空を操作したことが理由で、コンスは石に封印されてしまう。それと引き換えにマーク&スティーヴンとレイラはアメミットの墓の座標を手に入れたのだった。コンスは最後にマークに自分を解放させるようスティーヴンに告げている。また、第3話ではスティーヴンとマークに続く第三の人格の存在も示唆されていた。
ドラマ『ムーンナイト』第4話の冒頭は、前回登場したオシリスのアバターがコンスを封印した石=ウシャブティ(神像)を石棚に並べるシーンから幕を開ける。他にもウシャブティが並んでいることから、これまでにもいくつもの神々が封印されてきたことが分かる。
そしてマーベル・スタジオのタイトルロゴは、これまでにない壮大な音楽で幕を開ける。重要回になることが示唆され、前回コンスの封印と共に意識を失ったスティーヴンを起こそうとするレイラが登場する。レイラは何者かに発砲されるが、これはアーサー・ハロウの一味によるものだろう。
気を失ったままのスティーヴンを庇ったレイラは発煙筒を使って相手の車の引火を誘い、敵の撃退に成功する。意識を取り戻したものの、スティーヴンはコンスの言いつけを破り、マークに制御権を譲らない。コンスが消えたらマークと取引をしたと話しているが、これは第2話のラストでマークが「コンスがいなければ生きていけない」、仕事を果たせば消えると言っていたことを指しているのだろう。
マークに対して不満があるレイラはスティーヴンと共に行動することに。ヤギのいる丘を抜けて、アメミットの墓に辿り着く。アーサー・ハロウの一団が作った拠点はもぬけの殻。ここでマークは制御権を渡さないスティーヴンと口論になり、レイラに手を出さないよう忠告する。そして、レイラの近くには血のついた棒状の金属の物体が落ちていた。何者かがいることをホラー風に示す演出になっている。
遺跡へ
スティーヴンはレイラにキスされそうになると、マークがコンスからレイラを守ろうとしていたことを明かす。それでも、レイラは「守ってほしくない。ほしいのは誠実さ」と言い返す。確かにレイラは、これまでも自分で戦ってきた。第2話ではスティーヴンを助け、第3話ではアントン・モガートの用心棒であるベックも自分で撃退した。第4話でも発煙筒でスティーヴンを守っている。
レイラと口づけを交わしたスティーヴンは、レイラの「ビレイする」という言葉を理解できないようだが、これはクライミング用語で、器具を使って安全を確保することを指す。スティーヴンは発掘現場での経験はないのだろう。インドア派なのだ。マークは制御権を一部行使し、スティーヴンを墓の中に落とす。レイラに手を出したら「身を投げるぞ」と言っていたのは、マーク自身ではなくスティーヴンのことだったようだ。
初めて見る遺跡にスティーヴンは興奮しっぱなし。ライオンのような彫像に「もし動き出して僕に謎かけしてきたら、感動だろうな」と話しているが、これは「アラジン」のオマージュだろう。アニメ映画『アラジン』(1992) では虎の、実写映画版『アラジン』(2019) では雄ライオンの顔の形をした洞窟が「この中に入れるのはダイヤの原石のみ」と脅かしてくる。スフィンクスがなぞなぞを出すお伽話もあるが、これはギリシャ神話である。
レイラは父は熱心な歴史学者だったという父に向けたメッセージを残している。この記号は逆さまにすると「31」という数字にも見える。エジプトの第31王朝は、ペルシア人の支配で生まれた最後の古代エジプト王朝だ。アレキサンダー3世に滅ぼされ、その後、アレキサンダー大王による統治が始まる。レイラが書いた文字にはどのような意味があるのだろうか。
レイラの父は発掘に命をかけて死んだという。レイラの父については第3話の冒頭でも触れられていた。レイラはその中で「過去の亡霊には近づかないで」と忠告を受けていたが、レイラの父は一体何を発掘しようとしていたのだろうか。そしてレイラは「悪い死に方じゃないかも」と、その亡霊に近づこうとしている。
ヘカの司祭
スティーヴンは遺跡の中で“ホルスの目”を見出す。ホルスの目は古代エジプトのシンボルであり、天空の神ホルスの両目は月と太陽と考えられていた。そして、ファラオ(古代エジプトの王の称号)は天空神ホルスの化身とされている。『ムーンナイト』では、アメミットの墓にファラオを示唆する紋章があったことで、アメミットのアバターはかつてのエジプトの王だったということが示されている。
そしてこのホルスの目は地図になっているといい、スティーヴンは、このホルスの目が思考、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、舌の6つの感覚を示していると解説する。アバターはアメミットの声を司っていたという。
二人がさらに遺跡を進んでいくと、そこには“ヘカの司祭たち”の壁画が。ヘカとは魔術のことで、魔術を司る神の名前もヘカである。レイラはヘカのことを「魔術師」と説明している。この時、英語では「Sorcerers of their time.(この人たちの時代の魔術師)」となっている。MCUでは“魔法の使い手”のことを、ワンダのような「ウィザード=魔法使い」とドクター・ストレンジのような「ソーサラー=魔術師」で呼び分けているが、この場面では、ドクター・ストレンジと同じ魔術師=ソーサラーという表現を用いている。
一方で捕まった侵入者たちが縛り付けられている石像も建てられている。先ほどは銃弾が落ちており、ここでは鮮血も見られる。地上には血のついた武器が落ちていたし、何者かがいることは確かだ。スティーヴンは壁の古文書を見つけ、アメミットがヴシャブティ(副葬品、石の神像)に閉じ込められてることを知る。
さらに臓器を詰め込んだカノプス壺も発見。カノプス壺は、古代エジプトでミイラを作る際に死体の臓器を保存していた壺である。鮮血が移る場面でレイラが足元で見つけた血のついた神像がカノプス壺であり、これらはホルスの息子たちを模した神像になっている。そして、スティーヴンはヘビの皮と、それが人の手の形に加工されたものも見つける。
そこに銃声が響くと、現れたのは青い肌の謎の人影。生きた人間を連れてきて、臓器を取り出してはカノプス壺に入れている。ミイラを作っているようだ。ここからはMCU随一のホラー展開に。遺跡に行くというから「インディ・ジョーンズ」かと思っていたが、パニックホラー映画『ディセント』(2005) のオマージュと思われる演出が続く。
スティーヴンは敵の一体を倒すが、相手はもう一体いたようだ。俊敏に動く怪物は、深い闇へとレイラを引き込むが、ここはレイラが持ち前の戦闘力を発揮。ミイラのような相手の右腕を引き抜くと、やはり発煙筒を武器にして見事に退治してみせる。
この怪物は、クレジットでは「Heka Priest(ヘカの司祭)」と表記されている。「Heka Priest #1」「Heka Priest #2」を別の役者が演じており、やはり二体いたようだ。スティーヴンが見つけたヘビの皮を加工した手はこの司祭のものだったのだろう。この司祭達は、マーベルキャラというよりは、ファラオを守る司祭が生き続けているという超自然的なキャラだと思われる。
ファラオの正体
一方のスティーヴンはレイラとはぐれたが潜入を続ける。スティーヴンは第4代ファラオのトトメス2世、女性ファラオになったという説があるネフェルティティの名前を挙げ、どのファラオの墓なのかということを楽しみにしている。
水面に映ったマークとキスの件について会話を交わしながらも、スティーヴンはマケドニア語を発見。この墓は、アレキサンダー大王の墓だったのだ。古代ギリシャからアジアまでを征服したアレキサンダー大王は先述の通り、マケドニア人ながら第31エジプト王朝を滅ぼしてファラオの座についた。
ここにきて、エターナルズと距離が近いギリシャの歴史と繋がったのだ。なお、映画『ソー:ラブ&サンダー』にはギリシャ神話の最高神であるゼウスが登場する。ソーやロキは北欧神話の神なので、そちらでは北欧神話とギリシャ神話が繋がることになる。エジプト神話を中心に展開している『ムーンナイト』もこの輪に加わるのだろうか。
所在不明だったアレキサンダー大王のミイラを発見したスティーヴンは、棺を開けることを躊躇っている。だが、意を決して大王のミイラからアメミットが封印されているウシャブティ(石の神像)を取り出す。大王はアメミットの声だったため、口の奥にそのウシャブティは隠されていた。
父の真実
アーサー・ハロウと出会ったレイラは、ハロウが他人を見下していることに辟易しながらも、父から「小さなスカラベ」と呼ばれていたこと、父が有数の歴史学者のアブドゥラ・エル=フーリーだったことを指摘され、耳を傾ける。レイラの父は、エジプトの神々は存在するという説を信じていたという。
人心掌握に長けているアーサー・ハロウに「語ればいい」と喋らせてしまったレイラは、父を殺した正体不明の団体の中にマークがいたことを知らされる。確かにマークは傭兵だった。ハロウは、父がレイラ手作りのスカラベの柄の赤紫のスカーフをつけていたことも知っており、「目を覚ませ」と呼びかけるが、レイラはその場を立ち去る。
気になるのは、アーサー・ハロウが第1話でチェックしたマーク/スティーヴンの天秤について触れている点だ。この時、マーク/スティーヴンが罪人と表示されていれば、その場で殺すことができたはずだ。罪人と表示されなかったからその場では殺せず、ハロウはこうして間接的にマークを追い込んでいるのではないだろうか。
怒ったレイラはマークに詰め寄ると、スティーヴンはあっさりマークに制御権を譲る。父を殺したのかと詰め寄るレイラに、マークは「殺すわけない」と答えるが、自身の相棒が皆殺しにしたことを明かす。マークも撃たれたというが、殺し屋を連れて行ったマークに責任がないこともない。
だが、レイラにとって辛いのは、マークがずっとその事実を黙っていたことと、レイラに近づいた理由が罪悪感からと考えられることだった。レイラがマークに失望する中、そこにアーサー・ハロウの一団が現れる。アーサー・ハロウはコンスから自由になったマークに選択を迫るが、傭兵マークは三人を撃破。しかしハロウに胸を銃で撃たれ、アレクサンダー大王の墓の水場に倒れ込む。「自らを救わぬ者は救えない」と語るアーサー・ハロウ。MCUで単独主人公を殺したヴィランが、かつていただろうか。
怒涛のラスト15分
そして始まるのが、怒涛のラスト15分である。『ムーンナイト』共同監督のアーロン・ムーアヘッドが「最後の15分を再生するのが大好き」と語り、レイラ役のメイ・カラマウィが「贈り物のあとの贈り物」と例えたラストだ。
マークの身体は、シーンが移り変わると水の底へと沈んでいく。先ほどのシーンではマークの背中は水場の床に接地していたが、これは現実ではないのだろうか。マークの身体が見えなくなると、場面はドラマ『ワンダヴィジョン』(2021) を思わせるレトロな映像に。
ロッサーという少年は落ちてきた骸骨を指して「哀れなモンタルバン」と話し、もう一人の人物は「そうだ、欲に目が眩むとこうなる」と話している。モンタルバンとは人の苗字だが、この世界の二人の敵/ライバルのことを指しているのだろう。二人はアステカ神話の月の女神コヨルシャウキの像を見つける。
そしてロッサー少年が呼んだその人物の名は、「スティーヴン・グラント博士」だった。このアドベンチャーものの映像は、真っ白な精神病棟のような施設の広間で流れている映画の映像。なんだか雲行きが怪しくなる。ビンゴの抽選をしている老人は、「Bの22です」と番号を発表している。この老人はスティーヴンが第1話で話しかけていた全身金色のパフォーマー、バートランド・クロウリーである。
なお、米マーベル公式は第4話配信に先駆けてビンゴカードのポスターを投稿し、「B 22」とツイートしていた。
🅱️ 2️⃣2️⃣ pic.twitter.com/Z7MiDGdInq
— Marvel Studios (@MarvelStudios) April 19, 2022
ビンゴは全く盛り上がっていないが、「Oが出ない」と話す患者は、スティーヴンが働いていた博物館の上司のドナではないか。話しかけている職員の方は第2話で登場した刑事のボビー・ケネディだ。
別の患者は第1話でスティーヴンがいじっていたルービックキューブを持っている。そして職員の一人が配っているのはチェリーの乗ったカップケーキ。第1話でマークはカップケーキトラックを運転する羽目になっていた。カップケーキを配る職員は第3話でレイラが対峙したベックだ。カップケーキをもらった患者が描いている絵の鳥はコンスに似ている。あるいはアーサー・ハロウのコミュニティでスクリーンに映写されていた鳥か。
そしてマークが座らされている場所にはスティーヴンの部屋にいた金魚が。「好きな場所だろ?」と笑いかけてくる職員は、第2話の刑事ビリー・フィッツジェラルドだ。今週5回目だから映画を変えたと話しかけてくるのは、すっかり様子が違うレイラ。マークが持っていたビンゴカードを取り上げると「You won. We won. I won!」と自分の手柄にしてしまう。「今回は賞品を分ける」と横取りの常習犯であることが示唆されている。
さっきまでホラー&アドベンチャーだったのに、いきなりSFの世界へと連れ込まれたかのようだ。一体何が起きているのか。マークはガラスに映る自分に「スティーヴン」と話しかけるが、応答はない。第1話でベッドにくくりつけていたように、車椅子に足を縛られたマークは、その手からムーンナイトの人形を落とす。すべては夢だったのか……?
最後に登場したのは…
「大きなサプライズ」の意味がまさかの夢オチの可能性が出てきたところで、「現実と頭の中にあるものの区別がつかないんだね」とアーサー・ハロウと同じ顔の医者が語りかける。この医者はマークがスティーヴン・グラントが主人公の『トゥーム・バスター(墓荒らし)』というタイトルの映画を見続けていることを示唆し、「悪役が好きだ(I like the villain.)」と語る。なお、アーサー・ハロウを演じたイーサン・ホークは、ハロウのことを「正気のヴィラン」と語っていた。
映画の中では月の神が称賛されているという。鎮静剤を打たれた影響でマークは意識が朦朧としているが、第1話でスティーヴンが飛ばされた場所であるアルプスの絵や、ハロウが持っていた杖を目にする。医者のサンダルは第1話冒頭でアーサー・ハロウがガラスの破片を入れて履いていたものだ。
それにしても、ここまでのオスカー・アイザックの演技も見事だったが、アーサー・ハロウを演じるイーサン・ホークの演じ分けも流石である。医者は「我々が生きているのは物質界ではなく精神界」、ペンは物を書く道具であり犬のおもちゃでもあるとなんだか小難しいことを言っている。ここは精神世界なのだろうか?
そして、医者が「思い出すのは君の過去か? スティーヴンか?」と問いかけると、マークは徐々に記憶を取り戻す。「自らを救わぬ者は救えない」という一言で、ハロウに撃たれたことを思い出したマークは、ピラミッド型のオブジェやカノプス壺の置物、アメミットを思わせるワニの頭が並ぶこのカウンセリングルームを逃げ出す。医者は「分かるよ」「私にも経験がある」とありがちな言葉をかけるが、マークは職員を振り切って病院の廊下を逃げる。
予告で登場していた廊下を走るシーンだ。真っ白な病院といい、“信頼できぬ語り手”といい、映画『ジョーカー』(2019) を思わせる展開だ。そして、逃げ込んだ部屋には棺があり、それを開けると出てきたのはスティーヴン。初の物理的な対面で、二人は思わず抱きしめ合う。
二人は“変異体”だったのか? 二人はハロウが撃った時の記憶を共有している。別の部屋には別の棺があるが、二人はこれをスルー。おそらく第3話で敵を刺殺したもう一人の人格が入っているのだろう。やはりマークとスティーヴンの身体にはもう一人の人格が宿っているようだ。
そして、ラストシーンで扉が開いて現れたのは……カバだった。第1話でのカバの登場シーンを覚えているだろうか。序盤でスティーヴンが上司のドナに「カバのぬいぐるみを持ってきて」と言われた際に、「カバの女神タウエレトだよ」と説明している。タウエレトは子どもや母親の守護者であり、出産や生を司る神だ。マークとスティーヴンの復活を示唆しているのだろうか。
エンドロールのクレジット表記では、この“カバ”はやはり「タウエレト (Taweret)」と表記されている。演じているのはエジプト系俳優のアントニア・サリブ。自身のInstagramで『ムーンナイト』のプレミアに参加したことを報告しており、チョイ役ではないことがうかがえる。
また、米マーベル公式には、まだ情報は空白だがタウエレトのキャラクターページが作られている。
第4話にして謎を極大化したドラマ『ムーンナイト』。頭と心を整理する時間が必要だが、とりあえずの考察を並べていこう。
ドラマ『ムーンナイト』第4話考察
ドラマ『ムーンナイト』第4話は、監督と出演者がハードルを上げに上げた結果、“夢オチ”とも取れるラストが待っていた。だが、この展開には明確なロジックが存在しているはずだ。なぜなら、共同監督のジャスティン・ベンソンは「エクスカリバー」を与えられて、それを第4話の脚本に取り入れたと話していたからだ。
エクスカリバーを与えられたということは、スタジオ側から何かをやってよいという許可がおりたということを意味しているのではないだろうか。ベンソン監督は「私たちがこれをやれるということ自体がギフト」であり、「自分達に嫉妬するような感覚」と話しており、相当な背景があることを匂わせている。
注目したいのは、『ムーンナイト』を手掛けたアーロン・ムーアヘッドとジャスティン・ベンソンは、共にドラマ『ロキ』シーズン2の監督を務めることが決まっているということだ。『ムーンナイト』第4話のマークがもう一人の自分であるスティーヴンに出会うという展開は、ロキの変異体との出会いを描いたドラマ『ロキ』に通じる。
となれば、マークとスティーヴンは互いの変異体であったという展開は十分にありうるだろう。『ロキ』における変異体とは、神聖時間軸の歴史を変えるような行動をとって枝分かれした存在だ。『ロキ』のラストで枝分かれした時間軸が剪定されなくなった状態にあるMCUでは、変異体同士が出会うことが容易になったのではないだろうか。
一方、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021) では、マルチバース要素が取り入れられ、時間軸の枝分かれとは別に、違うユニバースに存在する別の自分という設定も取り入れられた。いずれにせよ、マークとスティーヴンは、異なる人格を持ちながら一つの世界で身体を共有することができるという特殊能力を持っている可能性も考えられる。人格(精神)だけが世界間を移動できるのだとすれば、ワンダのようなマルチバース同士をつなぐ力を持つ存在、“ネクサス・ビーイング”の簡易版といったところか。
この仮説が合っていたとしても、ラスト15分でスティーヴンが棺から出てきたことや、タウエレト(カバ)が登場したこと、病院の廊下が不気味に傾いていたことなどに説明をつけるのは難しい。やはり医者の言うようにあそこは精神世界なのだろうか。タウエレトが登場したことを考えれば、施設の中のものがマークの世界に反映されていたというよりも、マークとスティーヴンが見てきたものが、この白い世界に反映されていると考える方が理にかなっているからだ。
ところが、米マーベル公式では、この施設は「Putnam Psychiatric Ward(パットナム精神病棟)」と表記されている。2017年に刊行された原作コミック版には、Putnam Psychiatric Hospitalという病院が登場する。マークの父が解離性同一性障がいになったマークをこの病院に入れるのだ。やはりマークの精神状態に原因があり、この病院は現実に存在しているのか……?
見ているこちらまで混乱するドラマ『ムーンナイト』も、残りたったの二話となってしまった。本当に収束に向かっていくのだろうか。語り尽くせない第4話は、もう少し考察記事を出す予定なのでそちらもチェックしていただきたい。
追記:このラストについて、『ムーンナイト』の監督と製作総指揮が演出や元ネタについて明かした。詳細はこちらから。
また、第1話の二つのシーンとの繋がりから、タウエレトがエネアドの一員であるという説をこちらの記事で詳しく考察した。
第4話で登場したアレキサンダー大王と『ソー:ラブ&サンダー』との繋がりはこちらの考察記事で。
ドラマ『ムーンナイト』は2022年3月30日(水)よりDisney+で独占配信。
『ムーンナイト』の原作コミックは堺三保による日本語訳全2巻が発売中。
『ムーンナイト』第5話のネタバレ解説はこちらから。
第3話のネタバレ解説はこちらから。
第三の人格については、原作コミックの設定も踏まえてこちらの記事で考察している。
『ムーンナイト』に征服者カーンが絡んでいる可能性についての考察はこちらから。
第2話のネタバレ解説はこちらから。
第2話のMr.ナイト登場シーンの裏側はこちらの記事で。
『ムーンナイト』第1話のネタバレ解説はこちらから。
アーサー・ハロウを演じたイーサン・ホークのこだわりはこちらの記事で。
アーサー・ハロウの設定変更について製作陣が語ったエピソードはこちらから。
『ムーンナイト』シーズン2についての情報はこちらから。
遂に公開された映画『ソー:ラブ&サンダー』特報映像の解説&考察はこちらから。
映画『ドクター・ストレンジ:マルチバース・オブ・マッドネス』の見所をサム・ライミ監督とキャストが語る新映像の解説&考察はこちらから。
6月8日配信開始のドラマ『ミズ・マーベル』の予告解説&考察はこちらの記事で。
ネタバレ注意! 『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』ラストのネタバレ解説はこちらから。