ドラマ『ムーンナイト』がMCUに新要素
ドラマ『ムーンナイト』は、MCUでは初めて新キャラを単独主人公に据えたドラマ作品。これまでのMCU作品を見ていなくても楽しめるストーリーが魅力の一つだ。一方で、作中にはこれまでのMCU作品と繋がる小ネタも用意されている。今回は、衝撃の展開を交えながらも、本作がMCUに新たな可能性をもたらしたある要素について考察していきたい。
以下の内容は、ドラマ『ムーンナイト』第4話まで、映画『エターナルズ』、ドラマ『ロキ』の内容に関するネタバレを含みます。
神話に注目
ドラマ『ムーンナイト』がMCUにもたらした新たな要素とは、エジプト神話である。『ムーンナイト』で主演を務めたオスカー・アイザックは、旧20世紀フォックスの映画『X-MEN:アポカリプス』(2016) で古代エジプトを支配したヴィランのアポカリプス役を演じた。だが、マーベル・スタジオ主導のMCU作品ではまだエジプト神話の要素は取り入れられていなかった。
『ムーンナイト』ではエジプト神話の月の神であるコンスが主人公マーク・スペクターにムーンナイトとしての力をもたらす。第3話では、エジプトの9柱神エネアドが登場し、それぞれがアバターを持っていること、遠巻きに人類を見守っていることが明かされた。
第4話では多くのエジプトの神々がエネアドによって封印されていることも示唆された。また、アメミットのかつてのアバターがファラオだったことも語られている。さらにラストでは出産や生を司るカバの姿の神タウエレトも登場。MCUの物語にエジプト神話が食いこんでいく可能性が生まれている。
ギリシャ神話
MCUと神話といえば、直近では映画『エターナルズ』(2021) で太古から人類を見守ってきたエターナルズの面々がギリシャ神話の神々をモデルとしていた。劇中では、ギリシャ神話の神々はエターナルズのメンバーがモデルということになっている。また、“サノスの弟”として登場したスターフォックスことエロスもギリシャ神話の神の名前を冠している。
サノスとギリシャ神話の繋がりさえ示した一方で、より上位の存在であるセレスティアルズも本格的にMCUの物語に絡んできた。地球上の神々より上位に位置するユニバースの神々が紹介されたことで、エターナルズ以外の地球の神々も連帯してそれに立ち向かうという展開も考えられるだろう。
なお、エターナルズのメンバーには、バビロニア神話の神のモデルになったキンゴなど、ギリシャ神話以外の神話体系からのキャラクターも存在する。
始まりは北欧神話から
MCUと神話といえば、その歴史が始まったのは『マイティ・ソー』(2011) からだ。ソーは北欧神話の神であるトールをモデルとしたキャラクターで、父オーディンや弟のロキに加え、シフやヘイムダルといった戦士達も北欧神話の神がモデルになっている。『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017) で登場した炎の巨人スルトも北欧神話に登場する。
一方、予告編が公開されたばかりのシリーズ第4作目『ソー:ラブ&サンダー』(2022年7月8日(金)公開) では、ギリシャ神話の最高神であるゼウスをラッセル・クロウが演じることが判明している。予告編でもその姿を見せたゼウスは、繁栄したオリンピアの街に住んでいると予測される。
北欧神話の最高神オーディンを父に持つソーが、ギリシャ神話の最高神ゼウスとどのような絡みを見せるのか、MCUで描かれる神話に新たな楽しみが生まれている。
エジプト神話が繋がるか
そして、『ムーンナイト』第4話の展開は、MCUで語られる神話の物語に新たな展開が加わることを期待させてくれる。なぜなら、アメミットのアバターだったと思われるファラオの正体が、アレキサンダー大王(アレクサンドロス3世)だったからだ。
アレキサンダー大王は、古代ギリシャのマケドニア王国の国王であったが、勢力を拡大し続けて小アジアを征服した後、エジプト侵略してマケドニア人ながらエジプトでもファラオの座に就いた。現在でもカイロに次ぐエジプト第2の都市として知られるアレクサンドリアの街を建設したことでも知られる。
アレクサンドリアもギリシャ風の街並みになっているのだが、アレキサンダー大王は、勢力拡大と共にギリシャ文明を世界に広めた。そして、アレキサンダー大王はギリシャ神話の英雄であるヘラクレスとアキレスを祖先に持つとされていたが、エジプト侵略後にエジプトの太陽神アメンの聖地を訪れた際には、自らがゼウスの子であるという神託を得ている。そう、『ソー:ラブ&サンダー』に登場するゼウスである。
お気づきの通り、アレキサンダー大王の存在は、ギリシャ神話とエジプト神話を繋ぐ重要なキーになり得るのだ。MCUのように複数の神話が同時に存在している世界設定ならば尚更である。そして『ムーンナイト』で9柱神のエネアドが閉塞的な態度を見せていることも、解放されたエジプト神話の神々が外の世界と繋がる方向に向かう前フリであるとも考えられる。
征服者カーン登場の可能性も
ここで重要になるのが、アレキサンダー大王の“正体”である。こちらの記事では、第3話配信時点でアメミットのアバターが征服者カーンだった可能性を考察した。
征服者カーンはドラマ『ロキ』(2021-) で“在り続ける者”として登場。31世紀の科学者だったカーンがマルチバースを発見し、変異体同士で交流を始めたが、他のユニバースを征服しようとする変異体が現れたと説明する。複数の宇宙にまたがる戦争=マルチバース・ウォーが起きた結果、在り続ける者が戦争を終わらせるために一つの時間軸を切り離して“神聖時間軸”とし、分岐を阻止することでその時間軸を管理していた。
そして、その征服を試みた個体=“征服者カーン”が、エジプトを侵略していたのでは、というのが前回までの考察だった。原作コミックでは、カーンはタイムスリップして古代エジプトを征服し、ラマ・タトという名でファラオになるからだ。
また、時間軸を支配する“在り続ける者”と、これから罪を犯すかどうかを見極めるアメミットの力は、共に“未来の罪を裁く”という点で一致している。アメミットのアバターがファラオだったという第3話での情報は、かつてアメミットを裏切ったアバター=征服者カーンという仮説を導き出すには十分なヒントだった。
アレキサンダー大王が征服者カーンだった?
しかし、第4話では、アメミットのアバターだったファラオはアレキサンダー大王であることが発覚。つまり、現実の歴史における“征服者”だったのだ。未来からマケドニア王国にタイムスリップしたカーンが、未来を読む力を駆使したのか、マケドニアを征服し、次にエジプトをも手中におさめたのだとしたら……。
ドラマ『ロキ』で他のユニバースを征服しようとするカーンの存在を示したのは、文明を跨って勢力を拡大したファラオであるアレキサンダー大王と征服者カーンを同一人物として描く布石だったのではないだろうか。なお、ドラマ『ムーンナイト』で共同監督を務めたアーロン・ムーアヘッドとジャスティン・ベンソンは、ドラマ『ロキ』シーズン2の監督も務める。
しかし、MCU世界のギリシャ神話とエジプト神話を繋ぐ存在が征服者カーンだとすれば、それはそれでとてもややこしくなる。カーンの登場か、神話世界の更なるクロスオーバーか、せめてどちらかの実現に期待しよう。
2022年7月8日(金) 公開の映画『ソー:ラブ&サンダー』では、ヴィランはクリスチャン・ベール演じるゴア・ザ・ゴッド・ブッチャーになる。ゴアはユニバースを超えてあらゆる神々を処刑しようとするヴィランだ。複数の神話の神々と、神々を“狩る”ヴィランの登場で、MCUの物語は更に広がりを見せることになりそうだ。
ドラマ『ムーンナイト』は2022年3月30日(水)よりDisney+で独占配信。
『ムーンナイト』の原作コミックは堺三保による日本語訳全2巻が発売中。
『ムーンナイト』第4話のネタバレ解説はこちらから。
監督らが語った第4話ラスト15分の演出の意図はこちらの記事で。
第4話ラストに登場したタウエレトについての考察はこちらから。
『ムーンナイト』に征服者カーンが絡んでいる可能性についての考察はこちらから。
在り続ける者/カーンについて、『ロキ』の監督・脚本家・俳優が語った内容はこちらの記事で。
ドラマ『ロキ』第6話のあらすじ&ネタバレ解説はこちらの記事で。
映画『ソー:ラブ&サンダー』特報映像の解説&考察はこちらから。
6月8日配信開始のドラマ『ミズ・マーベル』の予告解説&考察はこちらの記事で。
ネタバレ注意! 『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』ラストのネタバレ解説はこちらから。