ドラマ『ムーンナイト』アーサー・ハロウに注目
ドラマ『ムーンナイト』はイギリス・ロンドンとエジプト・カイロを舞台にしたMCUの異色作。これまでのマーベル作品とはほとんど絡みを見せない形で新たな物語が展開されていく。
複数の人格を宿す主人公を演じたのは「スター・ウォーズ」シリーズのポー・ダメロン役や『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021) のレト・アトレイデス役などで知られるオスカー・アイザック。ヴィランのアーサー・ハロウを『トレーニング デイ』(2001) と『6才のボクが、大人になるまで。』(2014) でアカデミー助演男優賞ノミネートの名優イーサン・ホークが演じる豪華キャスト陣となっている。
そして、マーベル・スタジオではイーサン・ホークという大物をドラマ『ムーンナイト』に迎えるにあたって、それなりの準備が必要だったようだ。
出演の経緯は?
米マーベル公式は、ドラマ『ムーンナイト』でイーサン・ホークがアーサー・ハロウを演じることになった経緯を紹介している。既に広く知られている話だが、本作の製作総指揮も務めるオスカー・アイザックが、“ご近所さん”であるイーサン・ホークとコーヒーショップで出会った時に出演をオファーしたのが最初のきっかけだ。
イーサン・ホークはその時の様子をこう振り返っている。
(オスカー・アイザックが)「あの、今度マーベルのドラマをやるんです。あなたがヴィランを演じるべきです」って言ってきたんです。私は「監督は誰?」って。
この返事を受けたオスカー・アイザックは、『ムーンナイト』の監督を務めるモハメド・ディアブに「すごいよ、これはやらなきゃ」と連絡し、実際にイーサン・ホークはエージェントから「マーベルからオファーが来てるんだけど」と連絡を受けたという。
元の設定は「すぐ捨てた」
つまり、イーサン・ホークの『ムーンナイト』出演は最初から決まっていたわけではなかったのだ。影響を受けるのは脚本家である。本作の脚本を手掛けたジェレミー・スレイターは、既にドラフトを仕上げており、アーサー・ハロウはイーサン・ホークが演じることを前提としていないキャラクター造形になっていたという。ジェレミー・スレイターはこう話している。
ドラフトでピッチして書き出したのは、もっと年老いたバージョンでした。自分の死期、旅の終わりに直面し、それに怯え、必死になってそれを乗り越えようとする人物だったんです。
だがそこにオスカー・アイザックからの意外なニュースが飛び込む。
オスカー(・アイザック)が皆のところに来て、「イーサン・ホークに出てもらえるかもしれない」って言ったんです。私たちはすぐに年老いたアーサー・ハロウのアイデアを捨てましたよ。だってイーサン・ホークが手に入るチャンスがあるんなら、逃す手はありません。
イーサン・ホークは『ムーンナイト』配信開始時点でまだ51歳。死期に直面する老人という設定は確かに合わないが、変更されたのは年齢だけではない。脚本家としても『ビフォア・サンセット』(2004) と『ビフォア・ミッドナイト』(2013) でアカデミー脚色賞にノミネートされたイーサン・ホークは、自ら多くのアイデアを共有し、アーサー・ハロウのキャラクターを構築していったという。
脚本家のスレイターは「キャリアの中で自分がまだやったことのないことや、このキャラクターにもたらすことのできる要素について、多くのアイデアを持っていました」と、イーサン・ホークの積極的な姿勢について語っている。
アーサー・ハロウは悪なのか
製作総指揮の一人で、過去にはサム・ライミ監督と共に「スパイダーマン」シリーズなどを手掛けてきたグラント・カーティスは、アーサー・ハロウについてイーサン・ホークと交わした会話をこう振り返っている。
先日、イーサンに話を聞いたのですが、彼(アーサー・ハロウ)はカッコ付きの「ヴィラン」なんです。イーサンは、「実はハロウがこのドラマの主人公であるとうまく説明することができる。彼は善人です」と話していました。アーサー・ハロウが言っていることは、実はそれはほど極悪非道なものではないという見方もあります。彼の教義には実に興味深いものがあるのです。
最初からアーサー・ハロウと敵対しているマークと、事情を知らないスティーヴンの両方の人格を演じる主演のオスカー・アイザックは、以下のように話している。
(スティーヴンは)ハロウが信頼できる人物かどうかが分からないんです。極悪非道なことをしているようにも見えるけれど、同時に良いこともたくさんしているからです。そこには幸せそうな人がいて、彼の周りにはコミュニティが形成されています。
スティーヴンにとっては、彼の目的が善いものなのか、それとも本当に悪なのか、見極めなければなりません。一方、マークはアーサー・ハロウはヴィランであり、どんな手を使ってでも止めなければならないと考えているんです。
確かに、ドラマ版のアーサー・ハロウはカリスマ性があり、人々に信頼される人物でもある。コミック版ではマッドサイエンティストで、わずかに登場したキャラクターにすぎない。アーサー・ハロウがこうした魅力ある人物へと生まれ変わった背景には、イーサン・ホークの起用があったことは確かだろう。
イーサン・ホークは、アーサー・ハロウのことを「正気のヴィラン」とも表現している。その演技のこだわりはこちらの記事から。
ドラマ『ムーンナイト』は2022年3月30日(水)よりDisney+で独占配信。
『ムーンナイト』の原作コミックは堺三保による日本語訳全2巻が発売中。
Source
Marvel.com
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