『キャシアン・アンドー』第10話はどうなった?
ドラマ『キャシアン・アンドー』はいよいよクライマックスへ。映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016) に登場した反乱同盟軍のキャシアン・アンドーを主人公に据えた本作のシーズン1は、全12話で構成されている。あっという間に全体の4分の3を終え、残すはラスト3話となった。
第10話では、ナーキーナ・ファイブ編が始まった第8話から引き続き、監督をトビー・ヘインズ、脚本をポー・ウィリモンが手がける。第11話と第12話は監督をベンジャミン・キャロン、脚本をトニー・ギルロイが手がけることになっており、第10話で大きく話の流れが変わる展開が予想される。第10話では一体どんな展開が待っていたのだろうか。今回もネタバレありで各シーンを解説していく。
以下の内容は、ドラマ『キャシアン・アンドー』第10話の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『キャシアン・アンドー』第10話「道はひとつ」ネタバレ解説
キャシアンの扇動
ナーキーナ・ファイブに収監されたキャシアン・アンドーは、班の監督を務めるキノ・ロイと衝突しながらも、老いたウラフの死をきっかけに医務員からある事実を突き止めた。それは囚人たちの釈放がなくなり、それを知って騒動になった2階の囚人が焼き殺されたという話だった。釈放の日が近いと思い日和っていたキノ・ロイもついに脱獄に向けて動き出す。
なお、第9話の配信後、キノ・ロイ役を演じたアンディ・サーキスはキノのバックグラウンドについて米メディアに話している。かつては労働組合のリーダーであり、労働者の権利を守ろうとして投獄されたというのがアンディ・サーキスの見立てだ。また、外には家族がいるため静かにナーキーナ・ファイブの刑期を終えたいと考えていることも明かされている。
キャシアンは警備が強化される前に明日逃げることをキノに提案するが、すっかり牙を抜かれているキノは当初はそれに反対する。これを説得する時のキャシアンは「権力はパニックを起こさない」「5,000人が出られないことを知る」と、見事な扇動の話術を使いこなしている。パニックになるキノに具体的なプランを明かし、「服従するより戦って死ぬ」と覚悟を見せるまで、完璧な手順を踏んでいる。キャシアンは金を借りるにしても、人を説得し続けてきた人生だったのだろう。
加えて、慌てて“所定姿勢”をとり、殻にこもろうとするキノを演じるアンディ・サーキスの演技もすごい。誰も見ていないのに権力に怯えて姿勢を取り、他人にも姿勢を取ることを強要しようとする姿は、ナーキーナ・ファイブでのキノの生き方そのものだと言える。
キャシアンは房の一同にここで起きていることを知らせ、誰もが信頼するキノの口から希望が失われたことを宣言させる。キノの「奴らはここから永遠に出す気はない。俺たちはここで死ぬ」という説明は、他でもないキノ自身がその事実を認めるプロセスになったはずだ。
「道はひとつ」
一方、ISB(帝国保安部)は、アント・クリーガー派の反乱分子のパイロットを事故死を装って葬ることに成功していた。ISBは、前回このパイロットからアント・クリーガーによる発電所の襲撃計画の情報を得ている。監査官のロニ・ヤングは、ハイパースペース突入時の凍死に見せかけた現場に踏み込むことを提案し、パータガス少佐から許可を得る。
ナーキーナ・ファイブでは朝を迎え、キノ・ロイの「逃れる道は一つしかない (There is only one way out.)」という宣言と共に脱走劇が幕を開ける。第10話の「道はひとつ (One Way Out)」というタイトルは、この宣言が元になっている。
覚悟を決めたキノ・ロイは強い。キャシアンと歩調を合わせて隣を歩く様は、キャシアンをもう一人のリーダーと認めたように見える。キノはこうしたボス猿的な、動物的な動きで意思を示すキャラクターであり、モーションキャプチャーの名手であるアンディ・サーキスの技能が遺憾無く発揮されている。
モン・モスマが天秤にかけるもの
静かだが過酷な闘いに挑むモン・モスマは、第9話でテイ・コルマが融資を受ける相手として提案したダヴォ・スカルダンと会っていた。モスマが「悪党」と話す人間だが、背に腹は変えられぬと会うことを決めたようだ。
ダヴォ・スカルダンはモン・モスマの結婚について触れ、「境界線は自由をもたらす」と話す。第8話では、モン・モスマは出身惑星のシャンドリラの伝統で16歳で結婚したことに触れられている。ダヴォ・スカルダンは階級的に定められた婚姻によって富や地位が守られるということを意味したのだろうか。
モン・モスマ役を演じたジェネヴィーヴ・オーライリーは、『キャシアン・アンドー』では、周囲に仲間がおらず、家庭の中で孤立するモン・モスマの姿が描かれていると話している。家父長的な態度を見せ、家庭に帰りたいと願うキノ・ロイとは対照的なキャラクターである。
モン・モスマは、ダヴォ・スカルダンと意見が一致することを装い、融資の話を進めていく。しかし、スカルダンが対価として求めたのは、息子と共に毎月首都惑星コルサントを訪れることだった。スカルダンの14歳の息子と、モスマの13歳の娘を政略結婚させようとしているのだ。自分が歩まされた、同郷のものによる若年結婚というシャンドリラの伝統を娘に歩ませることをモスマは拒否し、この会談は幕を閉じる。
第9話ではモスマを訪ねたヴェルが「反乱が最優先」と、家族よりも反乱を優先することを宣言したばかり。モスマはどんな決断を下すのだろうか。
大脱走
ナーキーナ・ファイブには新人が到着。これを合図に囚人たちは部品を武器として手に取り、キャシアンはトイレの水道管を破裂させる。「スター・ウォーズ」の宇宙のトイレも水洗なのだろうか。この作戦は、キャシアンがびしょ濡れになりながら単独行動を取らなければならない作戦であり、現場監督であるキノ・ロイの協力が必要不可欠であったことが分かる。
工場内に水が浸水すると、一同はキノの号令で反乱を開始。新人が犠牲になりながらも、部品を投げてブラスターを持つ看守に対抗し、キャシアンはリフトを登っていく。焦った看守は床に電気を流すが、床が浸水していたことで装置がショートし、囚人たちは遂に“足枷”からの自由を得る。
キノの再度の号令で一斉攻撃を開始すると、キャシアンがブラスターを持った看守たちを退けて工場を脱出。“水漏れ”は他のフロアにも波及していく。キャシアンとキノが昇っていく、手すりがパイプで組まれた螺旋階段が作業所として妙にリアルで印象的だ。
キャシアンとキノは司令室に乗り込んでナーキーア・ファイブの全電源を切らせる。海に囲まれたこの収容所は、水力発電で稼働していたらしい。キャシアンは今まで取らされていた“所定姿勢”を士官に取らせ、キノに全館に向けてスピーチをさせる。キノは今まで権力者の代弁者として囚人たちに指示を出してきたが、ここで求められているのはキノ自身の言葉。そして、何より人を服従させる言葉ではなく、人々を解放するための言葉だ。
自らの心の殻にこもってきたキノは何とか言葉を振り絞るが、キャシアンは「それで精一杯か?」と扇動する。ナチュラルボーンの扇動家だ。そしてキノが語ったのは、看守たちの人手が足りていないこと、増員されれば手遅れになること、今日以上のチャンスはないこと、服従するより戦死を選ぶこと——全て昨日キャシアンから伝えられたことだ。
だが、キノはこのキャシアンの言葉を足がかりにして自らの言葉で語り始める。これまで通り、キャシアンは“火付け役”。キャシアンはルーク・スカイウォーカーのように救世主になるのではない。キャシアンに火をつけられた一人一人の普通の人々が立ち上がり、反乱を起こしていくのだ。
ナーキーナ・ファイブの反乱の標語は、キノが放った「道はひとつ (One Way Out.)」に。この辺りのシンプルかつインパクトの強い標語の作り方は、「マンダロリアン」シリーズの「我らの道 (This is the Way.)」と合わせて「スター・ウォーズ」フランチャイズの強いところである。
出口にたどり着いた囚人たちは、先は見えないと分かっていても海へと飛び込んでいく。一方で、「泳げない」と衝撃の告白をしたキノ・ロイは不安げな表情を浮かべるが、囚人たちに押されてキャシアンは海へと落ちていくのだった。
最後のあれは誰?
第10話のラストシーンはおそらくカフリーン。『ローグ・ワン』の序盤に登場した小惑星帯で、キャシアンがソウ・ゲレラの情報員と接触していた場所である。ここに現れたのはロニ・ヤング。第10話の序盤で、パータガス少佐に現場に踏み込むことを提案した人物だ。
第4話ではスカリフへの建材輸送増加を理由にアブリオンへの航路に警備を増強することを要請しており、デス・スター建設が進められていることを示唆していた。そして、帝国保安局の人間であるはずのロニ・ヤングがコンタクトを取ったのは、なんとルーセンだった。
クレヤにある人物からの直接会談の合図を受けたと言われていたルーセンだが、その相手はISBでスパイとして活動していたロニ・ヤングだったようだ。一年ぶりにルーセンにコンタクトを取ったロニ・ヤングは、デドラ・ミーロの動きについて報告。ルーセンを指す”アクシス”を探っていること、フェリックスにたどり着いていることを知らせる。しかし、ルーセンは「好都合だ、もっと煽れ」と告げると、アルダーニの強盗についてもしらを切る。徹底している。
ロニ・ヤングからのメインの情報は、デドラがアント・クリーガーのパイロットを捕らえて発電所襲撃の情報を得たということ。だが、ルーセンはこの情報をも泳がせて、失敗すると分かっている反乱分子の襲撃をそのまま敢行させようとする。ここで裏をかけばISBにスパイがいることがバレてしまうため、クリーガー一派50人の犠牲は仕方ないというのだ。むしろ、クリーガーの犠牲で帝国側を油断させられるとまで言い放つ。
ルーセンが犠牲にしたもの
そんなルーセンのやり方を前に、ヤングは娘ができたことを理由に反乱活動とISBから抜けようとする。反乱のブレーキになるのは、またも家族だ。6年かけて信頼を築いたというヤングを、ルーセンは手放すわけにはいかないと話す。ヤングは“孤独”を理解してほしがっているが、ここでのやり取りもモン・モスマが孤独の中で闘っているという話を想起させる。
「君こそ我々の英雄だ」と話すルーセンに対し、ヤングは「あなたの犠牲は?」と、現場に出てこないルーセンに問いかける。するとルーセンは、「平常心、親切心、親族、愛」と挙げていき、「亡霊と夢を分かち合っている」「15年前から呪われた人生」と語り出す。
闘争心に突き動かされ、敵を倒すために敵の方策を使い、未来のために良識を捨て、自分は見ない夜明けのために命を燃やす……脚光を浴びることのない闘いに身を投じたルーセンが犠牲にしたものは「すべてだ」と語るのだ。恐ろしいのは、ルーセンが自覚なく正義を振りかざしているのではなく、全て自覚した上で帝国側の理論に倣ったやり方を貫いているということだ。
勝利を目にすることのない汚れ役として生きることを選び、自分がなれない“英雄”が必要だとヤングを引き留めるルーセン。ルーク・スカイウォーカーの英雄譚として描かれる『エピソード4』へと繋がるこの物語には、ルーセンの“呪い”とも呼べる執念が存在していたことが明らかになっている。
第10話のラストは、三つの月の下、荒野を駆け抜けるキャシアンとメルシの姿。泳げないキノは生き延びることができたのだろうか……。ナーキーナ・ファイブからの脱獄編から、『キャシアン・アンドー』シーズン1はラスト2話を残して新たなステージへと入っていく。
『キャシアン・アンドー』第10話ネタバレ感想
『キャシアン・アンドー』第10話は、予想通りナーキーナ・ファイブ編のクライマックスを迎えることに。5,000人の囚人が帝国の施設から脱獄したというのは、帝国にとっても大事件だろう。強盗に脱獄と、キャシアンが関わった“反乱”は一見すれば無法者の所業だが、圧政の割を食っている人々からすれば体制に挑む事件が次々と起きていることになる。
保安局はスペルハウスの発電所襲撃に対して罠を敷いているが、ナーキーナ・ファイブの脱走への対応が帝国の戦力を分散させる可能性もある。各地で触発された人々による小競り合いが起これば、帝国も対応が難しくなる。一方で、キャシアンは今回は偽名を使っているためルーセンらもキャシアンの仕業と知るまでには時間がかかるだろう。どのタイミングでキャシアンとルーセンが再合流を果たすのかにも注目だ。
思えばキャシアンはアルダーニでもナーキーナ・ファイブでも違う名前を使っているため、世間にはその来歴がほとんど知られていない。『ローグ・ワン』ではスカリフでのデス・スターの設計図奪取にも成功しているが、キャシアン・アンドーの名前は「スター・ウォーズ」の宇宙の歴史に刻まれることはなかった。『キャシアン・アンドー』では、これだけの活躍をしていながら”英雄”としてキャシアンの名前が挙がらない理由づけがしっかり行われているように思える。
心配なのはモン・モスマだ。反乱と家族を天秤にかける状況に追い込まれたモスマは、どんな決断を下すのだろうか。ここにきて直前にヴェルが言い放った「Rebellion comes first.(反乱が最優先)」という言葉が効いてくる。15年前に「すべて」を犠牲にして闇の道を歩み出したルーセンの姿を見ると、それが正解だとは言えなくなってくる……。
気になるのはキノ・ロイのその後。「泳げない」という「スター・ウォーズ」史に残る告白が第10話最後のセリフとなったが、無事に逃げ切ったことを願うばかりだ。また、今回はシリル・カーンの登場はなし。もはやクセになってしまっているのでちょっと消化不良感があるが、大脱走事件がシリルの召喚につながることを願おう。
そして、短い描写ではあったがキャシアンの故郷フェリックスではマルモイ先生という人物がマーヴァの元を訪れるシーンが挿入されていた。それを見守るシンタの姿もあり、マーヴァとシンタの物語はまだ続いていることが分かる。
薬を飲むことを拒否したというマーヴァは、アルダーニの一件で革命の魂に火がついたが、ナーキーナ・ファイブの事件で更に背中を突き動かされることになるのではないだろうか。とすれば、その時、キャシアンはどのような道を選ぶのか……。残り2話、『キャシアン・アンドー』から目が離せない。
ドラマ『キャシアン・アンドー』はDisney+で独占配信中。
『ローグ・ワン』はBlu-rayセットが発売中。
俳優のジェネヴィーヴ・オーライリーが語ったモン・モスマの孤独についてはこちらから。
最高指導者スノークに続いてキノ・ロイ役で「スター・ウォーズ」に再出演したアンディ・サーキスが語る再出演の理由とキノ・ロイのバックグラウンドについてはこちらの記事で。
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